姉が私の聖魔法を借りパクしていたので、そろそろ返してもらいます

こじまき

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2 姉が私の聖魔法を借りパクしていた

次の日も、レイヴンはやってきた。

裸の状態から急いで服を着ているとわかるから、前よりもどきどきしながら「いいぞ」と言われるのを待つ。

合図されて振り返ると、彼は手にガラス玉のようなものを持っていた。

「それは…?」
「記憶の水晶だ。手を当ててみろ」

恐る恐る手を当てると、遠い記憶の底に沈んでいたものが、水晶の中にゆっくりと浮かび上がる。

「これを見たら、君も納得するはずだ」

私とルミナが、言葉にもなっていない言葉で会話して、笑い合っている。

と、私が鉢植えの花に小さな手を伸ばすと、まだまだ硬かったつぼみがぽんと花を咲かせた。ルミナが目を丸くし、手を叩いてきゃっきゃと喜ぶ。

それが嬉しかったのだろう。私は花を満開にした。ルミナがまたきゃあきゃあ大喜びして、私も笑顔になってしまう。

私たちは本当に仲が良かったんだと、思い出して。

…微笑んでいる私にレイヴンが優しくて悲しそうな視線を向けているなんて、気づきもしない。

そして水晶の中では、ルミナが私の手を不思議そうに触って…その瞬間、私の中から「何か」が引き抜かれた。

「見たか」
「…うん」
「聖魔法を引き抜かれたんだ」

つまりは、盗られた?

だけど…

「わざとじゃないはずよ。だってこんな小さな…子どものときのことだもの。ルミナ自身も気づいていないのよ」
「…そうだろうか」

「見ろ」という言葉で目をやると、もう少し大きくなった私たちが水晶の中にいた。

ルミナが私に手の小さなすり傷を見せて、「痛い」とわざとらしく泣いている。

彼女がかわいそうになって、傷に手を当てて、傷を消す。その様子をルミナは凝視していた。

そしてルミナが私の手に触れ、力が引き抜かれて…ルミナがにやりと笑った。

「最初は本当に偶然だったのだろう。けれどこれは…」

そう、意図的だ。

能力を見て、触れて、力を引き抜く。

ルミナは自分の力の使い方に気付いている。そして、本物の聖魔法の使い手が私だということにも。

すべて思い出したら、疑いようがない。ルミナが私から聖魔法を奪って、聖女のふりをして、みんなを騙して私を閉じ込めていたのだ。

呪いの浄化と結界を張る能力が奪われなかったのは、ルミナの前で使ったことがないから。

「聖女によって使える能力には個人差があるから、疑われることもなかったようだな」

目の周りが熱くなってくる。

「どうして…」
「泣くな」

気づけば、レイヴンの指がそっと私の涙を拭っていた。

「だって…ルミナが私から聖魔法を盗んだなんて…」
「借りる、だ。正確には」

私を落ち着かせてから、レイヴンは淡々と説明する。

「魔法というものは、周囲に与える影響が大きいほど、自分に返ってくる反動も大きい」

他人の魔法を盗んで使うのはリスクが高く、盗んだルミナ自身も「強い疲労」「寿命を削る」など大きな影響を受けてしまう。

だから能力を「借りて」、いつでも元の状態に戻せるようにしておくことでリスクを減らしている、というのがレイヴンの見立てだった。

「正直言って賢いよ。日常生活でも、買うより借りるほうが懐は痛まないからな。まあ、彼女に返す気はないようだが」

けれど、借りているのであれば…

「…返してもらえるってこと?」
「ああ」
「どうやって…?」
「その方法を、昨日から今日まで、寝ずに魔法式を解析して探してたんだよ」

「思ったより単純だった」とレイヴンは微笑み、私の頬に手を伸ばしかけてやめたのだった。



一週間後、私は雷鳴のような祝砲の音の中を飛んでいた。眼下には王都の灯りと、鳴り響く音楽。

「すごい…」

今日は王都最大の祭典である「聖女祝福授与祭」だ。その名の通り、聖女が国と国民に祝福を授ける日であり、主だった王侯貴族や神官のほか、市民も大勢が王都に集まってくる。

景色に見惚れていると、ふざけてレイヴンが私を揺するので、「きゃっ」と彼にしがみつく。魔塔主ともなると、人の姿のままでも空を飛べるらしい。

「一張羅が皺になるぞ?高かったんだからな、ノクシアのドレス」
「だ、だって…レイヴンのせいでしょ…っ!」
「はは、表情豊かになったな」

レイヴンは笑いながら、ふわりと王宮の大広間からつながるテラスに降り立った。

空から登場した二人。漆黒の正装に身を包んだ魔塔主と、白銀のドレスを纏った聖女の妹。

会場がざわめき、動揺が波のように広がっていく。

「聖女様に仇なす、双子の妹御だ」
「招待されていないはずでは?」
「しかもあのドレス…聖女様にしか許されない白銀の…」
「何様のつもり?本当に性格に問題があるみたいね」

誰もが囁きながらこちらを見ている。

大広間の一番高いところで祝福を授けていた、ルミナも。

「…ノクシア?」

目が見開かれ、顔に恐怖が浮かぶ。

今ならわかる。彼女が怖がっているのは…ずっと怖がっていたのは…私ではなく「自分が犯した罪」と向き合うことなのだと。

ゆっくりとルミナに近づく。

と、父が私たちの前に立ちはだかった。

「ノクシア、招待もされていないというのに…!しかもそんな…ルミナのみに許される姿で…!!どういうつもりだっ!?」

レイヴンがふっと笑う。

「どういうつもりもなにも…聖女祝福授与祭に真の聖女が不在では、話にならないでしょう」

その一言で、会場の空気が変わった。ざわざわと声が揺れ始める。

「真の聖女?」
「ノクシア嬢が聖女だとでも?無能だという話だが…」
「しかしレイヴン卿は不確かなことを言うような方では…」

会場中の視線が、ルミナと私の間を行ったり来たりする。

「聞き捨てならんな、レイヴン」と国王陛下が声をかけた。

「王家の嫁が、聖女ではないと言いたいのか?」
「いかにも」
「しかしルミナは確かに聖魔法の使い手だ。幾度も枯れた大地を実らせ、怪我人を癒してきたことは知っておろう」

王太子殿下がルミナを守るようにぎゅっと抱き寄せて、「大丈夫だ。君の妹御がまた低俗な嫌がらせをしているだけだ」と囁いたのが聞こえた。

彼女は「そうね」と必死に笑おうとして…けれど笑えていない。

「ルミナ」

呼びかけると、彼女の肩がピクリと跳ねた。王太子殿下が私を睨んでくるけど、今あなたは関係ない。これは私と姉の問題だから。

「自分で言わなくて、いいの?」

ルミナはちらりと私を見て、しばらく逡巡して、目を逸らした。

チャンスをあげたつもり。けれどそれがあなたの答えなら…

私は陛下の前に跪いた。

「発言をお許しください。我が姉ルミナは、”他人の能力を借り受ける魔法”をもって私の聖魔法を借り受け、それを返さないまま己のものと偽り続けております」

「なっ…んて馬鹿げたことを言うんだ!」という、父の怒声が大広間に響く。

「お前はそんな荒唐無稽な嘘をついてまで、ルミナを貶めたいのか!昔からお前は、無能のくせに本当に嫉妬深くて嘘つきで…っ」
「違います、お父様」

自分でも驚くほど、静かな声が出た。

「ずっと嘘をつき続けていたのは、ルミナです。私は嘘はついていませんし、ルミナを傷つけたことも一度だってありません」

みんなの視線が、私に集まる。

怖くて足が震える。

もし…レイヴンに教えてもらった方法で失敗したら…?あんな単純な方法で、本当にできるの…?

思わず隣にいるレイヴンを見上げる。

赤い目が「大丈夫だ」と無言で頷いてくれて、私はルミナを見た。

「ルミナ」

その呼びかけに、ルミナの肩がまた大きく跳ねた。

私にそっくりの彼女の顔が、恐怖に歪む。

…真実が暴かれ、「元の自分」に戻ることへの恐怖に。
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