異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~

こじまき

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48 三角関係

ご令嬢ママとのママ友会の日がやって来た。

参加しているのはシルヴァーナ公爵令嬢ロゼマリアちゃん(アドリアンくんの妹)、バルツァー侯爵令嬢アウレリアちゃん、ザイデルベルグ伯爵令嬢エステルちゃん、そして我らがベルント伯爵令嬢クリスタちゃん。

「男の子たちもそうだったんですが、お嬢様たちにはここで自由に遊んでいただきたいです。自然に仲良くなれる機会にしたいので。もちろん遊びたくない子は、テーブルでお茶をしていただいても構いません」

お気に入りのポンポンヘアで決めたクリスタちゃんが「今日は完璧な泥だんごを作る!」と秒で砂場に駆けだし、ベルント伯爵夫人が「元気だこと」と目を細める。

「平民出身なのに王太子の遊び相手で、かつ婚約者候補にも加えられた魔法使い少女」を警戒していた貴婦人たちは、必死に泥をこねるクリスタちゃんに戸惑ったすえ、「彼女はライバルにはならない」と判断したようだ。

彼女たちの基準からすれば、見たこともない奇天烈な髪型をして泥団子を作るのは、どう考えても「王太子妃を目指している令嬢の行動」ではないから。

それはそれでいい。クリスタちゃんを貴族令嬢の型に押し込めてしまうつもりは、私にもベルント伯爵夫人にもない。

私は笑顔を浮かべて、女の子たちに遊具の使い方を紹介した。だけど幼くても貴族令嬢は砂に触りたがらないし、ドレスを気にして滑り台や鉄棒でも遊ばない。必然的にブランコに列ができる。

レオくんはご令嬢たちにせがまれて、クリスタちゃんを気にしながらも、ひたすらご令嬢たちの背中を押してあげている。

「サティ様、ロゼマリアの紹介をさせていただいても?」
「あ、はい!お願いします」

シルヴァーナ公爵夫人とベルント伯爵夫人が上手く会話をコントロールしてくれるので、私に対する敵意は見られない。むしろバルツァー侯爵夫人の肩に止まったカナブンを手でつまんで離してやったら、尊敬の眼差しで見られた。

「一応成功…なのかな?」

ーーー

翌週から、ママ友会に参加した貴婦人と子どもたちは、週に一回、王城の庭で遊ぶようになった。

表向き、ママ友会にバチバチした雰囲気はない。

シルヴァーナ公爵夫人とベルント伯爵夫人が私には手も足も出ないような社交術で上手く会話を回してくれるのもあるし、みんなの前で「他の子どもを誹謗中傷するような親子は今後集まりに呼ばない」とアロイスさんが宣言してくれたおかげでもある。虎の威を借りると、やりやすいのは確かだ。

子どもたちが遊んでいるのを眺めながら、お茶と「パウロスさんが私の無茶振りに応えて作る異世界由来のスイーツ」を楽しみ、子育ての悩みや愚痴を吐き出している。まさにママ友会。

ニ十回交代厳守を掲げるブランコの番人・ルカスくんの様子を微笑ましく見守っていると、グリムフェルト伯爵夫人が「書いて行う授業に変えたら、今まで苦手だった分野も爆発的に伸びた」と嬉しそうに教えてくれた。

試しにレイデンバーン大学の入試問題を解かせてみたら、全問正解したらしい。七歳でしょ?そんなことってある?

「でも身体の動きが少しぎこちなくて」
「目隠しして簡単な運動をしてみるといいですよ。ケンケンとか」
「ケンケン…?」

私が夫人にケンケンを教えている横を、一陣の風が通り抜ける。

「クリスタ!」

七色の滑り方を駆使する滑り台の魔術師・ユリウスくん。

「この世で一番でっかいダンゴムシ見つけたから、あげる!」
「いいの?」
「うん、だってクリスタのこと大好きだから!」

ちょっと待て、聞き捨てならない。

レオくんに恋のライバルが登場した。

いやでもちゃんと考えてみたら、クリスタちゃんは雪の妖精みたいな女の子。私もベルント伯爵夫人も初見で心を撃ち抜かれた。だったらレオくん以外の男の子からだって、好意を寄せられて当然だ。

ベルント伯爵夫人は「クリスタを選ぶなんて、ユリウス様はお目が高いわねぇ」とにこにこしている。私だってレオくんの気持ちを知らなければにこにこできただろうけど、今はどうしてもはらはらしてしまう。

固唾を飲んで見守る私の前で、クリスタちゃんの顔がぱあっと明るくなった。

「ありがとう、大切に育てるね!」

クリスタちゃんがだんごむしをそうっと受け取り、私は思わずレオくんを見る。彼はブランコに乗るロゼマリアちゃんの背中を押しながら、口元をきゅっと引き結んでいた。

ああああああ、三角関係。しかも自己主張強めのユリウスくんがライバル。前世の保育園で数々の三角関係を見てきた経験から言うと、ちょっと恥ずかしがり屋で慎重派なレオくんにとっては、分が悪い相手だ。もじもじしている間に圧倒的な差をつけられかねない。

「レオくんもクリスタちゃんに好きって言おうよ」と口を出したい気持ちは山々だけど、「それはやるべきじゃない」とぎゅっと堪える。

それでも、完全にレオくんに肩入れしてしまっている私にとっては、「ユリウスくんと仲良くなっていくクリスタちゃんを、ただ遠くから見ているだけのレオくん」がもどかしくてたまらない。

私はついに思い余って、アロイスさんの執務室を訪ねた。

「かくかくしかじかで…どうしてあげたらいいでしょうか」
「私に聞かれても」
「考えてくださいよぉ。ユリウスくんはクリスタちゃんに会うたびに、虫とか手紙とか渡して愛情表現してるんです。クリスタちゃんもまんざらじゃないし、こないだなんて手までつないでて!いやそれはそれで超絶可愛かったんですけどね!でも、このままじゃ、レオくんは何も言えないまま失恋しちゃいます!」

「何も言えないまま夏が終わる」とか、お母さんが好きだった昔のJ-POPじゃん。

だけどアロイスさんは「周囲が急かして無理に思いを伝えさせるようなものでもないだろう」なんて、めっちゃまともなことを言う。

「それはっ、そうですけどっ…正しそうなことを言って引き延ばして、内心ではレオくんがこのまま失恋して、順当に高位貴族の令嬢とくっついてくれればいいとか思っているんじゃないですか?」

アロイスさんはぎくっとして、「昼食の時間だな。今日は一緒に食べよう」と執務机から離れる。

「こら、逃げないでください!」
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