異世界でも保育士やってます~転生先に希望条件が反映されてないんですが!?~

こじまき

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57 貴族のアレは桁違い

「サティ、あのね…」

いつものように絵本を読んでおやすみのハグをしようと思ったら、クリスタちゃんがおずおずっと上目遣いで話し出した。

「欲しいものがあるの」
「ん?何がほしいの?」
「…アクセサリー」

あ、察し。

王城に遊びに来る女子ズの間で最近流行っているのが、「シール交換」ならぬ「アクセサリー交換」なのだ。

真珠やらルビーやらのついたアクセサリーを、これまた宝石が散りばめられたケースに入れて持ち寄り、「ひとつ対ひとつ」とか「ひとつ対ふたつ」とかで交換して遊んでいる。

初めて見たときは顎が外れそうになったけど、ママさんたちはあまりにも優雅だった。

《私たちが子どものときも、流行しておりましたわねぇ》

これだから貴族ってもう。

保育園なら「保育に必要のないものは持参禁止」「トラブル防止のため、園で一旦預かる」なんだけど、ここは園ではない。

クリスタちゃんはアクセサリーよりも虫に興味があるみたいだったから安心していたのだが、ついに彼女もアクセサリーに興味をもってしまったか。食玩のイミテーションで喜んでいた彼女は、もういないのかもしれない。

「…だめ?」

「だめ」って言ってしまったら、クリスタちゃんは輪に入れなくなってしまう。自分の経験を思い返してみたら、それはとっても辛いことだとわかるから。

それに「交換遊び」って悪いことだけじゃない。物の価値を比較して、交渉して、交渉されたら判断して、そうやってコミュニケーション能力をつけていくために役立つ…かもしれない。

私はちょっと硬くなってしまった表情をほぐして、微笑んだ。

「だめじゃないよ」
「ほんとっ!?サティ、ありがと!」

クリスタちゃんはうずうずしながら宝石商さんから子ども用のアクセサリーとアクセサリーケースを買い、私は養育係のお給料で支払った。子ども用とはいえ本物の宝石がついているし地金も金や銀だから、当たり前だけど高い。

このお金があれば、エルドルフ村でニ~三年は仕事せずに余裕で暮らせる。

「クリスタちゃん、約束してくれる?」

私はしゃがんで、クリスタちゃんの手をそっと握った。

「宝石はとても高価なものだから、大切に扱ってね。あと、本当に納得できたときだけ交換してね。交換したくないって思ったら、途中でもやめていいからね」
「わかった」

次の日、クリスタちゃんは嬉々としてアクセサリー交換の輪に加わった。「子どもにウケるデザインを持ってきて」と宝石商さんに頼んだので、「クリスタ様のアクセサリーは、とっても可愛らしいですわ!」と歓迎されている。    

だけどその横で浮かない顔をしている子がひとり。

ザイデルブルク伯爵令嬢のエステルちゃん。

「交換してくださいませ」とみんなに声をかけるのだけど、「エステル様のものは少し古すぎて」なんて断られている。クリスタちゃんも「サティに”納得できるときしか交換しちゃだめ”って言われたから」と、エステルちゃんのお願いを断った。

私は「ぐっ…」と胸を押さえる。

「サティ様、どうなさいました?」
「いや、ちょっと…」

クリスタちゃんに対する自分の発言は教育上正しかったと信じてるけど、それがエステルちゃんを傷つけているのが手に取るようにわかって、いたたまれない。

エステルちゃんは唇を噛みしめてアクセサリーケースをしまい、パッとブランコに向けて駆けだす。思わず後を追うと、後ろから「サティ様、大丈夫ですわ」と声がした。

「ザイデルブルク伯爵夫人…」
「正直に申し上げて、我が家は遊び用のアクセサリーを無尽蔵に買い与えられるほど、財政状況がよくありませんの。エステルに悲しい思いをさせているのはわかりますけれど、それも人生ですわ」

夫人は寂しそうに、諦めたように笑った。

それはきっと、夫人の人生でもある。「名門だが財力のない貴族に嫁いだ女」という人生。歴然とした格差がある世界で、もがいてももがいても這い上がれない人生。

だけど諦めてただ打ちひしがれるなんて、してほしくない。

「少しだけ、エステルちゃんとお話をさせてください」

エステルちゃんのアクセサリーを見せてもらう。石はきれいだけどデザインは古臭くて、保育園~小学生の女子に好まれそうな雰囲気ではない。

「お祖母さまの宝石が、もっと可愛かったら…」
「可愛く変身させれば?」
「どうやってですの?デザインを直すのにもお金がかかるのに」
「例えば、宝石だけ外して、みんなが好きそうなものにつけなおすのはどう?」

しばらく考えていたエステルちゃんの顔が、パッと輝いた。

そして翌週エステルちゃんが持ってきたのは、超絶可愛すぎるアイテムだった。小さなクマのぬいぐるみに、女の子たちの目の色に合わせた宝石がついていたのだ。例えばクリスタちゃんをイメージした銀色のクマには、ピンクアメジストの目がついている。

「あなたの目の色の」ってところが、乙女心を鷲掴みじゃない?

こんなの、欲しくならないわけがない。むしろ私も欲しい。エステルちゃんはみんなから「欲しい欲しい」と交換を迫られ、一躍輪の中心となった。

「熱心に使用人から裁縫を習っていると思ったら…サティ様、本当にありがとうございます」とザイデルブルク伯爵夫人。

「本人の力ですよ」

夫人は輪の中心でとびきりの笑顔を見せているエステルちゃんをじっと見つめて、そっと目をぬぐった。

「諦める必要は、ないのですね」
「はい、きっと」

私の視線に気づいたエステルちゃんは、輪を抜け出して、黒い生地に黒いジェットがはまったクマのぬいぐるみを「これはサティ様のためにつくりました」と差し出してくれた。

「すっごく嬉しい。ありがとう」

エステルちゃんはまたとびきりの笑顔を見せて、輪の中に戻っていく。

のちのこのクマは「サティベア」と名付けられてプレゼントの定番となり、エステルちゃんは「レイデンバーン財界の女帝」と呼ばれることになるのだけど、それはまた、別の話。
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