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陰キャ侯爵令嬢の奮闘編
3 初めての実践
トバイアス様にアドバイスをもらい、証拠まで見せてもらった私だが、いきなりクレイト王太子殿下をはじめとするクラスメイト相手に「笑顔で挨拶」「相手を観察して一言添える」を実践するのは、ハードルが高すぎる。
「クラスメイトにはちょっと…」と尻込みする私に、トバイアス様は「それでしたら、まずは侯爵邸の使用人たちに試してみては」と提案してくれた。使用人たちに試してみて自信がついたら、クラスメイトに試せばいいという話だ。
いつも通り起床して、愛猫のマルタにモフモフさせてもらってから餌をやり、メイドのモーディに朝の支度をしてもらう。モーディを観察してみたら、いつもより元気がなさそうなのがちょっと気になった。その気持ちを言葉にして、朝の挨拶に添えてみる。
「おはようモーディ。いつもより元気がないようね。体調が悪いの?」
「え?いいえ。私は元気なのですが…」
「どうしたの?」
「実は、実家の父の具合が良くないようです。昨日手紙が参りまして」
心配なら休みをもらって実家に帰ればいいというと、モーディは首を振る。
「体の弱い人ですからこんなことはしょっしゅうですし、命に関わるような状態ではないようですので」
「でも最近、ずっと実家に帰っていないでしょう?モーディの顔を見れば、お父様だって元気がでるのではないの?」
「それは…そうですが…」
きっと、使用人から「休みが欲しい」とはいいにくいのだろう。
「モーディが言いにくければ、私からお母様にお話ししてみるわ。私付きのメイドは、しばらくタリに代わってもらえばいいし」
「お嬢様、よろしいのですか?ありがとうございます」
結局モーディは1週間の休暇を取ることになった。挨拶に一言加えただけで、こんなことになるとは。でも、モーディが実家に帰れて良かった。お父様も元気が出るといいけれど。
我が家には他にも、執事、庭師、御者、厩舎係、厨房係などの使用人がいる。家の中を歩いていると彼らとすれ違い、当然挨拶をする。
「おはようございます、イベリスお嬢様」
普段ならここでちらりと相手に目をやり、「おはよう」だけだ。「髪の毛を切ったな」とか「声が枯れているな」とか「昨日の夕食美味しかったな」と思うことがあっても、あえて口にすることはない。けれど今日は、気になったことを一言添えてみることにした。
「おはよう、アンガス。新しい花を植えたのね。きれいだわ」
「はい、お嬢様。お気に召していただけてよかったです。またお嬢様の好きな花を取り寄せますね。そういえば新しいカタログが届いたので、よろしければご覧になりますか」
「見たいわ、部屋に届けてちょうだい」
「おはよう、リエッタ。この匂い、今日はキッシュね。私、あなたの作るキッシュが大好きよ」
「光栄ですわ、お嬢様!今度はお嬢様の好きなほうれん草とトマトを入れて作りますね」
「楽しみだわ」
「おはよう、ディーベン。風邪は治ったのね?無理はしないでね」
「はい、お嬢様!お気遣い感謝いたします。風邪が流行っているようですので、お嬢様もお気をつけて」
「ええ、気を付けるわね」
「おはよう、タリ。あなたの髪型、今日もとっても可愛いわね」
「まあ、ありがとうございます!今度モーディにも教えておきますね」
「そしたら学校にいくときにやってもらえるわね、嬉しいわ。あ、あとモーディ今日の午後から休むから、タリがしばらく私付きになってね」
「かしこまりました。頑張ります!」
ああ、みんなの反応が楽しくなってきた。だって、軒並みとてもいい笑顔と会話がついてくるのだ。笑顔を向けられると、こちらも気分がいい。ウキウキしながら食卓につくと、お父様が不思議そうにお母様に聞く。
「今日は何だか使用人たちが楽しそうじゃないか?」
「ええ、言われてみればそうですわね」
「今日は何かあったか?」
「さあ…何もなかったと思いますけれど」
二人の会話を聞きながら、私はますます楽しくなってきた。これならきっと、クラスメイト相手でも効果があるに違いない。
みんなと話せるようになって…そしていつかクレイト王太子殿下とも話せるようになって…そして…王太子殿下と婚約!?
いやまさか。それは、まさか。まさかまさか。
王宮の大聖堂での結婚式を想像してしまい、ブンブン首を振る。
そうなったら本当に素晴らしいけれど、そこまでは望まない。私を好きになってくれる人が現れて、私もその人を好きになって、人並みに婚約できたら、それで満足だ。
「クラスメイトにはちょっと…」と尻込みする私に、トバイアス様は「それでしたら、まずは侯爵邸の使用人たちに試してみては」と提案してくれた。使用人たちに試してみて自信がついたら、クラスメイトに試せばいいという話だ。
いつも通り起床して、愛猫のマルタにモフモフさせてもらってから餌をやり、メイドのモーディに朝の支度をしてもらう。モーディを観察してみたら、いつもより元気がなさそうなのがちょっと気になった。その気持ちを言葉にして、朝の挨拶に添えてみる。
「おはようモーディ。いつもより元気がないようね。体調が悪いの?」
「え?いいえ。私は元気なのですが…」
「どうしたの?」
「実は、実家の父の具合が良くないようです。昨日手紙が参りまして」
心配なら休みをもらって実家に帰ればいいというと、モーディは首を振る。
「体の弱い人ですからこんなことはしょっしゅうですし、命に関わるような状態ではないようですので」
「でも最近、ずっと実家に帰っていないでしょう?モーディの顔を見れば、お父様だって元気がでるのではないの?」
「それは…そうですが…」
きっと、使用人から「休みが欲しい」とはいいにくいのだろう。
「モーディが言いにくければ、私からお母様にお話ししてみるわ。私付きのメイドは、しばらくタリに代わってもらえばいいし」
「お嬢様、よろしいのですか?ありがとうございます」
結局モーディは1週間の休暇を取ることになった。挨拶に一言加えただけで、こんなことになるとは。でも、モーディが実家に帰れて良かった。お父様も元気が出るといいけれど。
我が家には他にも、執事、庭師、御者、厩舎係、厨房係などの使用人がいる。家の中を歩いていると彼らとすれ違い、当然挨拶をする。
「おはようございます、イベリスお嬢様」
普段ならここでちらりと相手に目をやり、「おはよう」だけだ。「髪の毛を切ったな」とか「声が枯れているな」とか「昨日の夕食美味しかったな」と思うことがあっても、あえて口にすることはない。けれど今日は、気になったことを一言添えてみることにした。
「おはよう、アンガス。新しい花を植えたのね。きれいだわ」
「はい、お嬢様。お気に召していただけてよかったです。またお嬢様の好きな花を取り寄せますね。そういえば新しいカタログが届いたので、よろしければご覧になりますか」
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「おはよう、リエッタ。この匂い、今日はキッシュね。私、あなたの作るキッシュが大好きよ」
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「はい、お嬢様!お気遣い感謝いたします。風邪が流行っているようですので、お嬢様もお気をつけて」
「ええ、気を付けるわね」
「おはよう、タリ。あなたの髪型、今日もとっても可愛いわね」
「まあ、ありがとうございます!今度モーディにも教えておきますね」
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ああ、みんなの反応が楽しくなってきた。だって、軒並みとてもいい笑顔と会話がついてくるのだ。笑顔を向けられると、こちらも気分がいい。ウキウキしながら食卓につくと、お父様が不思議そうにお母様に聞く。
「今日は何だか使用人たちが楽しそうじゃないか?」
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「今日は何かあったか?」
「さあ…何もなかったと思いますけれど」
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いやまさか。それは、まさか。まさかまさか。
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