夫ガチャが失敗だったので壊れたふりをしたら、私フィーバーが勃発しました

こじまき

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夫ガチャに失敗しました

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私こと、シンクレア伯爵令嬢アイリスは、父に言われるがままに、ハミルトン男爵フィリップ様と結婚した。

いわゆる政略結婚であり、結婚するまでフィリップ様の顔も知らない状態。

まさに「政略結婚ガチャ」「夫ガチャ」状態である。

そしてその夫ガチャに失敗したと悟ったのは、結婚式を終えて、ハミルトン男爵家が王都に所有する豪華なタウンハウスに戻った瞬間だった。

私たち夫婦を出迎えたのは、フィリップ様の愛人であるキンバリーだったのだから。

彼女は私のウエディングドレスよりもずっと質の高いドレスを着て、執事やメイドたちにテキパキと指示を出す。この屋敷の女主人が彼女であることは、やって来たばかりの私にも明白だった。

フィリップ様が彼女に腕を差し出し、彼女が私のほうを見てふっと笑ってから、その腕に自分の腕を通す。これでキンバリーが女主人の座を譲る気がないことも、フィリップ様にもそうさせる気がないことも、確定。

富豪だが新興貴族で血統にコンプレックスのあるフィリップ様にとって、私は「名門伯爵家の娘を妻にした」という看板であって、お飾りの妻に過ぎないのだ。お決まりの「結婚したが君を愛するつもりはない」という説明すらない。

私はただただ、フィリップ様の秘書のローレンスに促されて、腕を組んで歩く二人の後ろからついていくだけ。

楽しそうに会話するフィリップ様とキンバリー。キンバリーはちらちらと振り返って、私を確認している。左後方からは、ローレンスの視線も感じる。

「私が打ちひしがれている様子を見て楽しみたいのだろうか」と思って、私は表情を引き締めた。

「お母様もこんな気持ちだったのかしら」と思う。

父には、結婚前から愛する女性がいた。身分の問題で母と結婚したものの、結婚後もその女性を愛し続けた。

そして母は父の愛を得られないことに悩み抜いたすえ、正気を手放した。私を父の浮気相手だと思い込んで暴力を振るったり、弟を父だと思い込んでキスをせがんだり。

私は自分が我が子を鞭で打つ様子をイメージして、体を震わせる。そんなの、嫌だ。母みたいになりたくない。

結局母を扱いきれなくなった父は、母を本邸から別邸に移した。母は死ぬまで別邸にいたが、穏やかな環境で暮らして、死ぬ間際にはほんの少し顔色が良くなっていた気がする。

だったら。

正気を手放さないといけなくなる前に、正気ではないふりをすればいいのではないか。「扱いきれない妻」になればいい。

そうすれば、離婚は難しくても、愛人が女主人を務めているこのタウンハウスから出て、男爵領にある本邸か、どこかにひとつくらいはあるだろう別荘で暮らせるはず。

私はきゅっと唇を引き結んだ。
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