夫ガチャが失敗だったので壊れたふりをしたら、私フィーバーが勃発しました

こじまき

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壊れたふりをします

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寝室に通された私は、まずはほっとした。

物置小屋のようなところへ通されたらどうしようかと思ったものの、部屋自体は悪くない。むしろ名門だが経済的には困窮していた実家の自室より、豪華なくらいだ。

私は屋敷に慣れるまで側仕えをしてくれるという無表情なローレンスは、無表情なまま私にテキパキと説明する。

フィリップ様が私に望むのは対外的な妻の役割だけであり、私が夫婦の寝室を使う予定はないこと。

タウンハウス内での女主人はやはりキンバリーであり、私はキンバリーから与えられた予算の中で生活すること。

「早速ですが、来月には王妃様主催の舞踏会にご夫婦で出席していただきます。キンバリー様が設定された予算の範囲内で、衣装・宝石を整えてください」

王妃様主催の舞踏会は、フィリップ様の本来の身分であれば参加できない格式高いものだ。名門であるシンクレア伯爵家出身の私を妻に迎えたことで、参加を許されるようになったのだろう。

その意味で、私はフィリップ様に貢献していると言える。なのに愛人の差配の下で暮らせとは…

やはりこのタウンハウスでは生活していけない。フィリップ様のことは好きでもなんでもなくても、ここにいて踏みつけられてばかりいたら、いつか母のようになってしまう。

やるしかない。

「わかりました。早速準備をしたいので、明日仕立て屋を呼んでください。店の格式は問わないので、デザイン性の高いドレスを手掛ける仕立て屋を呼んでもらえますか」

怒りでも絶望でもなく決意を秘めた私の答えに、ローレンスは一瞬目を見開いた。そしてすぐ無表情に戻って「はい」と答える。

翌日早速やって来たマダム・マレーは、有力サロンから独立したばかりの仕立て屋だったが、カタログを見せてもらうと確かにデザイン性は高かった。

ローレンスが私の意図を汲んでくれたことにも、私はほっとする。フィリップ様にないがしろにされても、敵ばかりではないらしい。

私は徹夜で描いた下手なデザイン画をマダムに見せた。

マダムはデザインを見て絶句していたが、「このデザイン画を王妃様の舞踏会で着用できるレベルに昇華できれば、あなたの名声は一層高まる」という私の一言に、瞳の奥に小さな炎を灯して「やってみます」と答えてくれた。

やろう。

最初の一歩を踏み出すのだ。

数日後、出来上がったドレスをおずおずと持ってきたマダム・マレーに、私は予算全額を渡してねぎらった。

「最高よ。心から感謝するわ」
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