2 / 10
壊れたふりをします
しおりを挟む
寝室に通された私は、まずはほっとした。
物置小屋のようなところへ通されたらどうしようかと思ったものの、部屋自体は悪くない。むしろ名門だが経済的には困窮していた実家の自室より、豪華なくらいだ。
私は屋敷に慣れるまで側仕えをしてくれるという無表情なローレンスは、無表情なまま私にテキパキと説明する。
フィリップ様が私に望むのは対外的な妻の役割だけであり、私が夫婦の寝室を使う予定はないこと。
タウンハウス内での女主人はやはりキンバリーであり、私はキンバリーから与えられた予算の中で生活すること。
「早速ですが、来月には王妃様主催の舞踏会にご夫婦で出席していただきます。キンバリー様が設定された予算の範囲内で、衣装・宝石を整えてください」
王妃様主催の舞踏会は、フィリップ様の本来の身分であれば参加できない格式高いものだ。名門であるシンクレア伯爵家出身の私を妻に迎えたことで、参加を許されるようになったのだろう。
その意味で、私はフィリップ様に貢献していると言える。なのに愛人の差配の下で暮らせとは…
やはりこのタウンハウスでは生活していけない。フィリップ様のことは好きでもなんでもなくても、ここにいて踏みつけられてばかりいたら、いつか母のようになってしまう。
やるしかない。
「わかりました。早速準備をしたいので、明日仕立て屋を呼んでください。店の格式は問わないので、デザイン性の高いドレスを手掛ける仕立て屋を呼んでもらえますか」
怒りでも絶望でもなく決意を秘めた私の答えに、ローレンスは一瞬目を見開いた。そしてすぐ無表情に戻って「はい」と答える。
翌日早速やって来たマダム・マレーは、有力サロンから独立したばかりの仕立て屋だったが、カタログを見せてもらうと確かにデザイン性は高かった。
ローレンスが私の意図を汲んでくれたことにも、私はほっとする。フィリップ様にないがしろにされても、敵ばかりではないらしい。
私は徹夜で描いた下手なデザイン画をマダムに見せた。
マダムはデザインを見て絶句していたが、「このデザイン画を王妃様の舞踏会で着用できるレベルに昇華できれば、あなたの名声は一層高まる」という私の一言に、瞳の奥に小さな炎を灯して「やってみます」と答えてくれた。
やろう。
最初の一歩を踏み出すのだ。
数日後、出来上がったドレスをおずおずと持ってきたマダム・マレーに、私は予算全額を渡してねぎらった。
「最高よ。心から感謝するわ」
物置小屋のようなところへ通されたらどうしようかと思ったものの、部屋自体は悪くない。むしろ名門だが経済的には困窮していた実家の自室より、豪華なくらいだ。
私は屋敷に慣れるまで側仕えをしてくれるという無表情なローレンスは、無表情なまま私にテキパキと説明する。
フィリップ様が私に望むのは対外的な妻の役割だけであり、私が夫婦の寝室を使う予定はないこと。
タウンハウス内での女主人はやはりキンバリーであり、私はキンバリーから与えられた予算の中で生活すること。
「早速ですが、来月には王妃様主催の舞踏会にご夫婦で出席していただきます。キンバリー様が設定された予算の範囲内で、衣装・宝石を整えてください」
王妃様主催の舞踏会は、フィリップ様の本来の身分であれば参加できない格式高いものだ。名門であるシンクレア伯爵家出身の私を妻に迎えたことで、参加を許されるようになったのだろう。
その意味で、私はフィリップ様に貢献していると言える。なのに愛人の差配の下で暮らせとは…
やはりこのタウンハウスでは生活していけない。フィリップ様のことは好きでもなんでもなくても、ここにいて踏みつけられてばかりいたら、いつか母のようになってしまう。
やるしかない。
「わかりました。早速準備をしたいので、明日仕立て屋を呼んでください。店の格式は問わないので、デザイン性の高いドレスを手掛ける仕立て屋を呼んでもらえますか」
怒りでも絶望でもなく決意を秘めた私の答えに、ローレンスは一瞬目を見開いた。そしてすぐ無表情に戻って「はい」と答える。
翌日早速やって来たマダム・マレーは、有力サロンから独立したばかりの仕立て屋だったが、カタログを見せてもらうと確かにデザイン性は高かった。
ローレンスが私の意図を汲んでくれたことにも、私はほっとする。フィリップ様にないがしろにされても、敵ばかりではないらしい。
私は徹夜で描いた下手なデザイン画をマダムに見せた。
マダムはデザインを見て絶句していたが、「このデザイン画を王妃様の舞踏会で着用できるレベルに昇華できれば、あなたの名声は一層高まる」という私の一言に、瞳の奥に小さな炎を灯して「やってみます」と答えてくれた。
やろう。
最初の一歩を踏み出すのだ。
数日後、出来上がったドレスをおずおずと持ってきたマダム・マレーに、私は予算全額を渡してねぎらった。
「最高よ。心から感謝するわ」
25
あなたにおすすめの小説
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付
唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる