『ユキレラ』義妹に結婚寸前の彼氏を寝取られたど田舎者のオレが、泣きながら王都に出てきて運命を見つけたかもな話

真義あさひ

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ご主人様、まだ秘密があったんですか?

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 しばらくして、ユキレラはリースト伯爵家の末端ながら、この伯爵家の秘密やルシウスの出自を教えられる栄誉を得た。

 ただの一族なら知らない者も多いそうなのだが、ユキレラは本家筋の次男ルシウスの側使えや秘書で側にいることが多いので、特例として教えてくれることになったそうだ。

 忠犬ユキレラはもうそれだけで身に余る光栄。

 ご主人様たちと同じ、湖面の水色の瞳の麗しき顔をキリッと引き締めて。

 さあどんな秘密でもどんと来いだっぺ、と構えていたら予想よりはるかに重い事実が来た。



 何とご主人様ルシウスは人間じゃなかった。

 聖者様だから? でもなく、現在ではほとんど滅んでしまった人類の上位種、ハイヒューマンの数少ない生き残りだと教えられた。

 その説明の上で、リースト伯爵家の本邸、地下室へ連れて行かれたわけだ。
 ルシウスと兄伯爵のカイルに。

 地下室には、ずらーりと魔法樹脂という、魔力で作られた透明な樹脂の中に封入された“ご親戚”が数十体。
 そう、リースト一族に特有の、青みがかった銀髪と湖面の水色の瞳を持った老若男女が透明な柱の中に納められていた。
 他にも、竜だか魚だかよくわからない半魚人みたいな者や、両手が鳥の翼のようになった者、エルフに似た者などが若干。

「我らに似た者たちは、先祖筋にあたる。特殊な魔法の術式を保持していたり、……彼らが生きていた時代の医術では治癒できない病を患った者たちを保存していると伝わっている」
「あとは、偶発的に魔法樹脂を発動して封入されちゃった人たちだね。術が解けるまで保存してある感じ」

 ほええ……とユキレラは間抜けな感嘆の声をあげてしまった。

「他種族の者たちは、今は絶滅してしまった種族だな。彼らが自ら出てくるまでは、やはり我が一族で保存していくことになる」

 それで一体一体、リースト一族に伝わる由来を簡単に教えてもらうのだった。

「僕もね、この中の一体だったんだよ。もうずっと前に滅んじゃった魔王の一族の赤ん坊だったんだー」
「魔王って」

 勇者に聖剣でぬっころされちゃうアレですか。

「あれ、でも、それだとこの国の王族様は勇者の子孫だから……」

 そう、あのヨシュア坊ちゃんの大好きな王弟カズンや、そのご両親のアケロニア王族の祖先には勇者がいる。
 それが現王朝の始祖だ。

 魔王と勇者の子孫同士なのに仲良しなの? と素朴な疑問に首を傾げたユキレラに、ルシウスとカイル兄弟は苦笑していた。

「まあ、その辺はおいおい、ね」



 何かすごいもの見た。聞かされた。

 興奮冷めやらぬユキレラを、リースト伯爵家からの帰り道、既に夕方だったこともあってご主人様が飲みに連れて行ってくれた。

 たくさんお喋りしたかったので、声が周囲に紛れるような大衆酒場だ。
 壁際の端っこの席を押さえて、内緒話も準備オーケー。

 とりあえず、キンキンに冷えたラガービールで乾杯!

「ユキレラ、今日はビックリさせたね。うちの一族はああいう秘密が多いんだ。わかってると思うけど、他言無用にね。裏切ったら潰すからね」

 にっこり笑って、後半怖いことを言うご主人様だった。

 ユキレラはぷるぷると震えながら必死で否定した。
 裏切りません、忠犬なので!
 でもたまには何か良い感じのご褒美貰えたら嬉しいワン。



 だが、そんなことよりユキレラにとって衝撃的なことが、今日明かされていたのである。

 ハイヒューマンで、赤ん坊の頃に魔法樹脂から解凍されたリースト一族の先祖(魔族、魔王様の一族)がルシウスの正体だという。

 だから、リースト伯爵家の本家筋出身とはいっても。

「ルシウス様。カイル様とは義理のご兄弟なんじゃないですか。お兄様が結婚される前に告白とかはしなかったんですか?」
「兄さんへの想いはね、恋とかそういう感じではなかったんだよ」

 恋人同士や伴侶となって、身体を繋げたいとまでは思ったことがないという。

 ただ、ずっと一緒にいたい。

 それだけがルシウスの願いだった。

「え。でもルシウス様、絶対最初の夢精とかはカイル様がきっかけでしょ?」
「う。な、なんでわかるの」

 気づけば開けっぴろげに、そんなことまで気軽に話せる仲になっていた。
 恥ずかしそうに俯く姿が、何とも可愛らしい。

「そりゃあ、わかりますよ。ルシウス様が兄伯爵様を見てるお顔、可愛かったですもん~」

 夜会や社交サロンで、挨拶の後は遠くからルシウスを眺めるだけのセフレたちが、よく似た顔をしていたもので。
 本当はもっと近い距離で親しく交わりたいのに、いろいろ余計なことを考えてしまって結局できないまま終わる。

 そんな悲しくも切ない男たちの顔と同じ。

「今の距離ぐらいが、ちょうどいいんだよ」
「ふうん。そういうもんですかあ」

 わりと適当なユキレラでも、さすがに既に妻子のいる兄伯爵様を「奪っちまえばええべ☆」などと発破をかけることはできなかった。


(報われぬ想いに身を焦がすルシウス様を肴に飲む酒……うんめえなあ~)


 ビールを樽でもいける。

 ちなみにユキレラは酒に強い。
 伊達に宴会好きのど田舎村で育っていない。



 義妹に結婚寸前の彼氏を寝取られ、泣きながらど田舎村から王都に出て来たけど、ユキレラは最愛を見つけて己の居場所を定めた。

 ただひとりしか見ていないルシウスを、恋人や伴侶として手に入れることはできないだろうけど、代わりに側近の座だけは何がなんでも固守してやると誓ったユキレラだ。

 自分だけの『たったひとり』は得られなかったけれど、代わりに自分が生涯かけて尽くしたい主人を見つけた。最高である。

 そうして幸せを掴んだユキレラだが、後にリースト伯爵家の主だった一族が集まった会合後の飲み会の席でそれをうっかり口にしたところ。

「うん。間違いなくリースト一族」
「間違いない。うちの血筋ですわ」
「顔だけじゃなかったですねえ」

「「「この重い情念こそ我が一族」」」

 これ、と己の大事なものを定めたら一直線で揺るがない。
 それこそが、リースト一族の特徴なのだそう。



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