王弟カズンの冒険前夜(全年齢向けファンタジー版)

真義あさひ

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ピンク頭の生徒再び

ピンク頭の男爵令息

 王立高等学園の放課後。
 最高学年の優秀クラス3年A組で学級委員長のカズンが日誌を書いていると、クラスメイトの女生徒たちの声が耳に入ってきた。

 長い金髪とペリドットグリーンの瞳の淑女、シルドット侯爵令嬢ロザマリアが、別のクラスの伯爵令息に言い寄られて困っているという話をしている。

 彼女には、今はカズンの親友となったホーライル侯爵令息ライルからの婚約破棄騒動の解決後、まだ新しい婚約者はできていないようだ。

 それで新たに自分を選んで欲しいとドマ伯爵家の四男に言い寄られているが、差し障りのない程度に断り続けていると友人たちに語っている。



 日誌を職員室の担任に届けた後、兼任している風紀委員長の仕事を片付けにカズンは生徒会室を訪れていた。
 放課後は暇だからと言って、途中で合流してきたライル、ヨシュアも付き合ってくれている。

 この学園内では、建前上は王侯貴族と平民など、庶民との間での身分差別は禁止されている。
 だが、その身分を理由としてカズンが風紀委員になったのは、高等学園に進学した1年からだった。今年はついに委員長まで任されている。

 理由はもちろん、王弟のカズンが現在学内で最も身分の高い生徒のひとりであるためだろう。
 学園には王子のユーグレンもいるが、既に生徒会長をやっていて、学内風紀にまで手が回らない。

 生徒たちの素行を見守り、時に注意や警告を行う役割が風紀委員だ。問題児が高位貴族だった場合、平民や低位貴族の生徒たちでは逆に脅されかねない。

 このような事情から、是非にと学校側から依頼されたため就任しているのだった。



 教師から頼まれた書類を整理していたら、気づくと窓から差し込む陽も傾いてきていた。

 が、まだもう少し終わらせるには時間がかかりそうだ。
 今日は生徒会長のユーグレンや他の役員や風紀委員たちもおらず、手伝いの手が足りない。

 小腹が空いたので、階下の売店で菓子でも買ってこようと三人で階段を降りていたところ、途中の踊り場で下級生の男子生徒とぶつかりそうになった。

「む、すまんな」
「いえ、こちらこそ」

 小柄な下級生の男子のほうが脇に身を寄せ、軽く会釈してカズンたちを見送ろうとした。

 その男子生徒の頭髪の色に見覚えがあった。
 ピンク色がかったブロンドヘアー。
 以前会ったときは肩までのセミショートだったが、今は首筋にかかる程度のショートヘアだ。
 声は変声期を迎え終わった男子生徒のものだが、軽やかに透き通って聞きやすい。
 その声質にも聞き覚えがあった。

「見つけたぞ、アナ・ペイル!」
「えっ。……ああっ、学級委員長さん!?」

 ピンクブロンド頭の男子生徒が、ライルをハニートラップに嵌めたアナ・ペイル嬢の真の姿だった。
 どうやら外部の人間ではなく、本当の学園生だったらしい。
 ブレザーの襟元の学章を見れば、1年生ではないか。

 ライルも気づいたのか、呆然と目の前のピンク頭の男子生徒を凝視している。
 そしてわなわなと拳を握り締めて震えだした。

「ライル……」
「アナ! 畜生……男だったのかよ……俺は野郎のパンツ貰って喜んでたってのかよ!」

 おい、ショックを受けたのはそっちかよ!
 しかもパンツを喜んでたのか!

 その上その口ぶりでは、アナ・ペイル嬢に言い寄られて憎からず思っていただろうことがバレバレである。



 カズンは即座に彼の腕を掴んで逃げられないようにして、空き部屋に下級生を連れ込んで詰問する。
 一緒にいたライルやヨシュアも、慌てて二人の後を追って中に入った。

 ピンクブロンドに明るい水色の瞳を持つ、愛らしい少女のような容貌の後輩少年の本名はグレン・ブルー。
 ブルー男爵の庶子だそうだ。

「僕としても手荒なことはしたくない。素直に吐いて貰おうか」
「い、痛いことはしないって約束してくれますかっ!?」
「……まあ、それはおまえ次第だが」

 逃げないよう壁際に腕で追い詰め、黒縁眼鏡のレンズ越しに、自分より小柄な少年を見下ろす。
 するとブルー男爵令息は、すんなり口を割った。

 彼がライルにハニートラップを仕掛けたのは決して本意ではなく、彼自身が脅されてやらざるを得なかった、と。



「とある伯爵家の四男から、シルドット侯爵令嬢から婚約者の男を引き剥がして婚約破棄させろって命令されてたんだ」

 ちらりと、“婚約者の男”ことライルを見る。
 ライル本人は、アナ・ペイルが男子生徒だったことが衝撃だったようで、先ほどからまったく喋らず黙り込んでいる。
 ヨシュアはグレンが逃げないよう、グレンの後ろに立って退路を塞いでくれている。

「お前は可愛い顔してるから、女装して迫ればイチコロだろうって、その……女生徒の制服を用意されて」

 その伯爵家四男なるもの、まさに今日、カズンの教室でシルドット侯爵令嬢ロザマリアが言い寄られて困っていると言っていた相手ではないか。

 ドマ伯爵令息ナイサー。ドマ伯爵家の四男で、3年E組の生徒だ。
 ここにこう、話が繋がってきたわけだ。

 そんなグレンをカズンは厳しい顔つきで見下ろした。

「ブルー男爵令息。お前がやったことはれっきとした犯罪だぞ。そこまでのリスクを犯して、伯爵家四男からどんな見返りがあったんだ?」

 冷静に突っ込まれて、グレンは悔しそうな顔になった。

「……あいつの家は、ボクの家が経営してる商会のお得意様なんだ。言うことを聞かなければ取引量を減らすぞと脅されているのが、ひとつ」
「あとは?」
「……商会で受付の手伝いをしてる妹が、目をつけられた。母親は違うけど、ボクと似てて可愛いんだ。可愛がってる妹が酷い目に遭うなんて嫌だろう? って……」
「おいおいおい、とんだクソ野郎だな!」

 ブルー男爵令息グレンは既に悪質な犯罪に巻き込まれ、加担してしまっている。
 さすがに王弟とはいえカズンの手にも余る事態だ。
 現状、カズンの人脈の中で頼れる先といえば。
 一応ここには現リースト伯爵のヨシュアもいるが、犯罪事件への対処はまだ不得意だ。
 こういうケースで頼るべきは、むしろ。

「……ホーライル侯爵に助けを求めるのがいいでしょうね」
「親父か。やっぱそうなるかあ」

 このアケロニア王国では、警察組織に相当する部門は騎士団内部にある。
 ライルの父・ホーライル侯爵はその王都騎士団の副団長なのだ。日本でいうなら警察庁の副長官といったところか。



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