王弟カズンの冒険前夜(全年齢向けファンタジー版)

真義あさひ

文字の大きさ
39 / 172
ピンク頭の生徒再び

ドマ伯爵令息包囲網

しおりを挟む
 事態は急を要する。
 グレンはひとまずホーライル侯爵のもとで身の安全を保証されたが、また別の生徒がドマ伯爵令息ナイサーの被害に遭わないとも限らない。

 翌日、グレンは父母のブルー男爵夫妻を連れて、朝イチで王都の騎士団本部、副団長の執務室を訪れた。
 事情を知る王弟カズンとホーライル侯爵令息のライル、リースト伯爵のヨシュアも学園を休んで集合した。

 執務室には意外な人物たちの姿もあった。
 ライルの元婚約者だったシルドット侯爵令嬢ロザマリアと、その父シルドット侯爵の二人も集まっていたのだ。

 ひとまず、上位の貴族から最も深刻な被害を受けているグレンのブルー男爵家を、ホーライル侯爵家が寄り親となることで保護することを決め、双方の同意の上で契約書を交わした。

 これに関しては、事態が片付いた後もそのまま寄り親・寄り子のままでいるか、もしくはヨシュアのリースト伯爵家がブルー男爵家の支援者にスライドするか、後日また話し合うこととした。



 さて、ではブルー男爵家、ホーライル侯爵家、シルドット侯爵家の三家を巻き込んだドマ伯爵家の四男ナイサーについては、どのように対処するべきか。

 現状では、ナイサーがグレンに対して行った恫喝や、ホーライル侯爵家のライルへの詐欺教唆に関して証拠がない。グレン本人の供述のみだ。
 つまり騎士団がいきなりナイサーを訪れて「お前が犯人だな!」と逮捕はできないということだ。

 そこで騎士団の副団長として、貴族の犯罪に詳しいホーライル侯爵は一計を案じた。

「まずはシルドット家のロザマリア嬢に協力を願いたい。ドマ伯爵令息ナイサーはロザマリア嬢に言い寄っているのだよな?」
「はい。最近では身の危険を感じるほど強く圧力をかけて来られます」

 ペリドットグリーンの瞳を伏せて、だが事実をしっかりと告げるロザマリア。

「ならば、君には少し怖い思いをさせてしまうが、そのまま婦女暴行を働くよう誘導しよう。すぐ近くに騎士たちが隠れて潜んでいるから、その場で逮捕、拘束する」

 そうして、ナイサーへの余罪追及の中で、グレンへの恐喝が発覚したとの流れに持っていくという。



「次に、リースト伯爵」
「はい」
「貴殿の父は魔力から作る樹脂の扱いに長けていた。息子の貴殿も同じだろうか?」
「はい。物品を封入するだけの“魔術”樹脂も、多彩な機能を持たせることのできる“魔法”樹脂も、どちらも可能です」

 魔法樹脂は特殊な性質を持つ、術者の魔力を素材として創る樹脂で、術者の意図によって多種多様な機能を持たせることができる。

「魔法樹脂に、音の記録機能を付与できるか?」

 ホーライル侯爵の依頼に、ヨシュアは驚いたようにアースアイの瞳を瞬かせた。

「それは秘伝の一つですよ、ホーライル侯爵閣下。よくご存じでしたね。もちろん可能です」

 完成品に魔力を通すと、音声記録装置として、短時間だけ音声記録が可能な仕様で創ることができる。
 これが、物品を封入する機能しか持たせられない“魔術”樹脂との大きな違いだ。

「ならば、適当な形状でロザマリア嬢が身に付けやすい物を創ってくれるか」
「なるほど、ドマ伯爵令息との会話を証拠となるよう保存したいのですね」

 不躾にならない程度にロザマリアを見る。
 失礼、と言ってヨシュアはロザマリアの左手を手に取った。

「魔法樹脂でロザマリア様の爪に樹脂ネイルを施しましょう。一番大きな親指の爪がいいかな」

 ほんの数十秒ほどで、ロザマリアの爪に魔法樹脂をコーティングする。
 元々の彼女の爪色と同じピンク色に染められており、一見すると何もしていない他の爪とほとんど変わらない。

「ロザマリア様がご自分の魔力を魔法樹脂に流したときだけ、周囲の音声を記録するよう設定しました。……ロザマリア様、試しに魔力を魔法樹脂に流してから、何か話してみてもらえますか」
「はい。ええと、それでは……『私はロザマリア・シルドットです。今日は父と一緒に、ホーライル侯爵閣下のもとを訪れました』」
「はい、それで結構です。魔力を止めて大丈夫ですよ」

 ロザマリアが魔力を止めても、ネイルの魔法樹脂に特に外見上の変化はない。

「音声の再生方法はどうやるんだ?」

 まるで前世の世界にあったレコーダーのようだ。始めて見る魔法の使い方にカズンが興味津々で訊ねた。
 だがカズンの質問に答えたのは術者のヨシュアではなく、ホーライル侯爵だった。

「通常は、音声を記録するときに流した以上の魔力を作用させれば再生できる」

 試しに、ホーライル侯爵がロザマリアの左手の親指に軽く触れる。
 が、音声は再生されなかった。

「俺では魔力が足りないようだ」
「では、私が」

 とロザマリアの父、シルドット侯爵が同じようにロザマリアの爪の魔法樹脂に指先を軽く触れさせ、魔力を流す。


『私はロザマリア・シルドットです。今日は父と一緒に、ホーライル侯爵閣下のもとを訪れました』


 非常に鮮明な音声が再生される。
 期待していた機能は充分だろう。

「オレの魔力量で作ったこれだと、記録時間はギリギリ3分といったところです。ロザマリア様は3分の間にできるだけナイサーを挑発して、相手を怒らせて沢山の発言を引き出して下さい」
「わ、わかりましたわ。頑張ってみます」

 荒事に慣れない貴族令嬢には辛いだろうが、実際の現場には騎士たちがいる。
 もちろん、同じクラスのカズンやヨシュア、クラスは違うが当事者の一人であるライルも当日は変装してロザマリアの周囲を固めるつもりだった。


しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...