66 / 172
王家の派閥問題
王家の七光り2
しおりを挟む
「そういえば君に訊いておきたかったんだが。ヨシュアは卒業後はカズンの側近となるのか?」
ヨシュアはじっとユーグレンを見つめた後、「わからない」と俯いた。
自信のなさそうな仕草は、普段マイペースで掴みどころのない雰囲気を持つヨシュアには珍しい。
「オレはもう、能力的に伸びる余地がありません。これから様々なことを経験して成長していかれるカズン様のお側にいて良いものか……」
若年のうちから魔法剣士として完成してしまっているヨシュアの、余人には窺い知れない苦悩だった。
ステータスオープン、と呟いてヨシュアは自分のステータスをユーグレンにも見えるよう空中に表示した。
一定以上の魔力量を持つ者なら、特定のテンプレートに応じた自分のステータスを可視化できる。
今回ヨシュアが利用したステータス・テンプレートは、最も一般的に使われている10段階評価のものだ。
簡易な身分表記と、能力値が数字で出る。
能力値の平均値は5となる。
--
ヨシュア・リースト
リースト伯爵、学生
称号:魔法剣士、竜殺し
体力 6
魔力 8
知力 7
人間性 6
人間関係 3
幸運 1
--
「見てください。オレの今のステータスはほとんど亡き父と同じです。その父も祖父と同じだった。……リースト伯爵家はここ何代もずっと、これ以上のステータスに上がったことがないんです」
リースト伯爵家は家伝の魔法剣を金剛石にするまでが精一杯で、能力的に打ち止めだった。
本来ならレア鉱物のアダマンタイトまで進化させたかったのだが、魔力が足りなかった。
それでもリースト伯爵家出身というだけで、アケロニア王国でも屈指の魔力量を誇る一族のため、周囲に期待され続けている。
悲しげに胸の内を語るヨシュアに対し、ユーグレンの胸の内は燃えていた。
(まさかステータスを見せてくれるとは。そこまで私に心を許してくれたと思って良いのだろうか、ヨシュア……っ!)
自分のステータスを見せるのは、一般的には家族や親しい友人、恋人や職場の上司などだ。
いつか見たいと思っていたヨシュアのステータスを見ることができて、ユーグレンの心は浮き立つ。
さすがの魔法剣士だけあって、魔力値8はトップクラスといえる。
だがこのとき、ユーグレンはもっとヨシュアのステータス内容に注意を払うべきだった。
幸運値1。
魔力量が多く、また名門貴族家の当主として有り得ないこの数値は、異常だった。
何となく話の流れで、互いのカズンとの出会いの話になる。
ヨシュアは幼い頃、魔法魔術騎士団の所属だった実父に連れられて王宮へやってきたとき、同い年だからと当時は離宮住まいだったカズンを紹介されたのが最初である。
「そうですね、ちょうど4歳くらいのときでした」
不思議と馬が合い、以来ずっと現在まで親しい遊び友達だ。
対してユーグレンは、やはり4歳のとき先王ヴァシレウスを交えて、カズンの母セシリアと一緒に紹介されたのが最初である。
このとき、カズンとセシリアは正式に王族の一員として王統譜に名前が記されることになった。
「自分とよく似た、ふくふくとして可愛らしい子が、まさか年下の大叔父殿だったとはなあ」
「カズン様、幼い頃はふっくらした体型でしたよね。食いしん坊だったし。よく動くから肥満というほどではなかったですが」
「はは。初めて会ったとき、もしやこの子が自分の婚約者なのだろうかと胸が高鳴ったのを覚えている。ヴァシレウス様に抱かれて、フリルやレースの多い子供服を着ていたから女の子に間違えたんだ」
もっとも、ヴァシレウスの膝の上に座り直したとき、カズンの身に付けているのが自分と同じ半ズボンだったことで誤解はすぐに解けたのだが。
一方、カズンは。
「親の七光りでパッとしない、か……言ってくれるな……」
痛いところを突かれた気分だった。
頭を冷やそうと、一階の売店まで飲み物を買いに行こうとした。冷たい飲料を飲んで気分転換しようとしたのだ。
が、途中の下駄箱付近で頭痛を覚え、立ち止まり廊下の壁に腕をついて、身体を支えた。
「……ぐっ」
胸元も痛い。最近よくある、原因不明の痛みだった。
(僕のこれは成長痛じゃない。家にあるポーションを飲んでも解消しなかったし……くそ、考えがまとまらない)
「君、大丈夫?」
ぽん、と軽く背中を叩かれて、ハッと前屈みになっていた身体を起こした。
後ろを振り向くと、見たことのない同年代の青年がいる。
学園の制服は身につけていない。白いワイシャツとネイビーのネクタイ、薄いグレーのスーツの上下に茶の革靴。外部からの来客だろうか。
「え……?」
「あ、ごめん。何だか具合が悪そうに見えたから、つい声をかけてしまった」
初めて見る顔だ。記憶を探っても同じ顔に見覚えはない。
薄い灰色の襟足長めのウルフカットの髪に、ペールブルーのやや奥二重の瞳。
全体的に品の良さを感じさせる顔立ちをしており、カズンより頭半分ほど背が高い。
「見ない顔だが……どちら様で?」
「ああ、ぼくは転校生なんだ。来週から3年A組に転入するんだけど、職員室に挨拶に来たんだ。そしたら君がいてね」
再び、ぽんぽんと、今度は肩を軽く撫でるように叩かれた。
(!? 何だ!?)
叩かれたところから、スーッと体内で荒れ狂っていた感情や、先程まで感じていた偏頭痛や心臓付近の痛みが沈静していくのがわかった。
「勝手に触れてごめんね。見たところ、体内の魔力の流れが乱れてるみたいだったから、少しだけ関与させてもらった。ぼくの魔力は興奮状態を抑えるから。楽になったんじゃないかな」
「あ、ああ……助かった」
彼を職員室に案内がてら、簡単な自己紹介をし合った。
「ぼくはイマージ・ロット。ミルズ王国から留学してきたんだ」
「カズン・アルトレイだ。ちょうど3年A組在籍で学級委員長をしている。転入後はしばらく世話役を任されるだろうから、頼ってくれて構わない」
「へえ。偶然とはいえクラスメイトに会えてよかった」
聞くと、イマージは特に魔法使いや魔術師ではなく、魔力に沈静作用を持つ血筋の家系出身とのこと。
実家のある本国では、沈静作用は上手く使えば元気一杯の幼い子供たちを適切に管理できるため、教師となることが多い一族だそうだ。
とはいえ、イマージはさほど力が強くなく、アケロニア王国のこの学園には純粋に遊学目的の転校ということだった。
ヨシュアはじっとユーグレンを見つめた後、「わからない」と俯いた。
自信のなさそうな仕草は、普段マイペースで掴みどころのない雰囲気を持つヨシュアには珍しい。
「オレはもう、能力的に伸びる余地がありません。これから様々なことを経験して成長していかれるカズン様のお側にいて良いものか……」
若年のうちから魔法剣士として完成してしまっているヨシュアの、余人には窺い知れない苦悩だった。
ステータスオープン、と呟いてヨシュアは自分のステータスをユーグレンにも見えるよう空中に表示した。
一定以上の魔力量を持つ者なら、特定のテンプレートに応じた自分のステータスを可視化できる。
今回ヨシュアが利用したステータス・テンプレートは、最も一般的に使われている10段階評価のものだ。
簡易な身分表記と、能力値が数字で出る。
能力値の平均値は5となる。
--
ヨシュア・リースト
リースト伯爵、学生
称号:魔法剣士、竜殺し
体力 6
魔力 8
知力 7
人間性 6
人間関係 3
幸運 1
--
「見てください。オレの今のステータスはほとんど亡き父と同じです。その父も祖父と同じだった。……リースト伯爵家はここ何代もずっと、これ以上のステータスに上がったことがないんです」
リースト伯爵家は家伝の魔法剣を金剛石にするまでが精一杯で、能力的に打ち止めだった。
本来ならレア鉱物のアダマンタイトまで進化させたかったのだが、魔力が足りなかった。
それでもリースト伯爵家出身というだけで、アケロニア王国でも屈指の魔力量を誇る一族のため、周囲に期待され続けている。
悲しげに胸の内を語るヨシュアに対し、ユーグレンの胸の内は燃えていた。
(まさかステータスを見せてくれるとは。そこまで私に心を許してくれたと思って良いのだろうか、ヨシュア……っ!)
自分のステータスを見せるのは、一般的には家族や親しい友人、恋人や職場の上司などだ。
いつか見たいと思っていたヨシュアのステータスを見ることができて、ユーグレンの心は浮き立つ。
さすがの魔法剣士だけあって、魔力値8はトップクラスといえる。
だがこのとき、ユーグレンはもっとヨシュアのステータス内容に注意を払うべきだった。
幸運値1。
魔力量が多く、また名門貴族家の当主として有り得ないこの数値は、異常だった。
何となく話の流れで、互いのカズンとの出会いの話になる。
ヨシュアは幼い頃、魔法魔術騎士団の所属だった実父に連れられて王宮へやってきたとき、同い年だからと当時は離宮住まいだったカズンを紹介されたのが最初である。
「そうですね、ちょうど4歳くらいのときでした」
不思議と馬が合い、以来ずっと現在まで親しい遊び友達だ。
対してユーグレンは、やはり4歳のとき先王ヴァシレウスを交えて、カズンの母セシリアと一緒に紹介されたのが最初である。
このとき、カズンとセシリアは正式に王族の一員として王統譜に名前が記されることになった。
「自分とよく似た、ふくふくとして可愛らしい子が、まさか年下の大叔父殿だったとはなあ」
「カズン様、幼い頃はふっくらした体型でしたよね。食いしん坊だったし。よく動くから肥満というほどではなかったですが」
「はは。初めて会ったとき、もしやこの子が自分の婚約者なのだろうかと胸が高鳴ったのを覚えている。ヴァシレウス様に抱かれて、フリルやレースの多い子供服を着ていたから女の子に間違えたんだ」
もっとも、ヴァシレウスの膝の上に座り直したとき、カズンの身に付けているのが自分と同じ半ズボンだったことで誤解はすぐに解けたのだが。
一方、カズンは。
「親の七光りでパッとしない、か……言ってくれるな……」
痛いところを突かれた気分だった。
頭を冷やそうと、一階の売店まで飲み物を買いに行こうとした。冷たい飲料を飲んで気分転換しようとしたのだ。
が、途中の下駄箱付近で頭痛を覚え、立ち止まり廊下の壁に腕をついて、身体を支えた。
「……ぐっ」
胸元も痛い。最近よくある、原因不明の痛みだった。
(僕のこれは成長痛じゃない。家にあるポーションを飲んでも解消しなかったし……くそ、考えがまとまらない)
「君、大丈夫?」
ぽん、と軽く背中を叩かれて、ハッと前屈みになっていた身体を起こした。
後ろを振り向くと、見たことのない同年代の青年がいる。
学園の制服は身につけていない。白いワイシャツとネイビーのネクタイ、薄いグレーのスーツの上下に茶の革靴。外部からの来客だろうか。
「え……?」
「あ、ごめん。何だか具合が悪そうに見えたから、つい声をかけてしまった」
初めて見る顔だ。記憶を探っても同じ顔に見覚えはない。
薄い灰色の襟足長めのウルフカットの髪に、ペールブルーのやや奥二重の瞳。
全体的に品の良さを感じさせる顔立ちをしており、カズンより頭半分ほど背が高い。
「見ない顔だが……どちら様で?」
「ああ、ぼくは転校生なんだ。来週から3年A組に転入するんだけど、職員室に挨拶に来たんだ。そしたら君がいてね」
再び、ぽんぽんと、今度は肩を軽く撫でるように叩かれた。
(!? 何だ!?)
叩かれたところから、スーッと体内で荒れ狂っていた感情や、先程まで感じていた偏頭痛や心臓付近の痛みが沈静していくのがわかった。
「勝手に触れてごめんね。見たところ、体内の魔力の流れが乱れてるみたいだったから、少しだけ関与させてもらった。ぼくの魔力は興奮状態を抑えるから。楽になったんじゃないかな」
「あ、ああ……助かった」
彼を職員室に案内がてら、簡単な自己紹介をし合った。
「ぼくはイマージ・ロット。ミルズ王国から留学してきたんだ」
「カズン・アルトレイだ。ちょうど3年A組在籍で学級委員長をしている。転入後はしばらく世話役を任されるだろうから、頼ってくれて構わない」
「へえ。偶然とはいえクラスメイトに会えてよかった」
聞くと、イマージは特に魔法使いや魔術師ではなく、魔力に沈静作用を持つ血筋の家系出身とのこと。
実家のある本国では、沈静作用は上手く使えば元気一杯の幼い子供たちを適切に管理できるため、教師となることが多い一族だそうだ。
とはいえ、イマージはさほど力が強くなく、アケロニア王国のこの学園には純粋に遊学目的の転校ということだった。
22
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる