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王家の派閥問題
邪悪な前王家ロットハーナ ※残虐描写にご注意回
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それから転校生イマージを職員室に送り届けた後で三階の教室に戻ると、王宮からの使者がカズンを待っていた。
「カズン様、緊急招集です。至急、王宮へお越しくださいませ」
「緊急招集?」
とそこへ、ヨシュアを伴ったユーグレンが生徒会室方向からやって来るのが見えた。
使者の姿を認めると怪訝そうな顔になる。
「何事だ?」
「ユーグレン殿下! リースト伯爵もご一緒でしたか! お三方、王宮から緊急招集がかけられております」
事情は王宮に着いてからということで、急き立てるように三人まとめて馬車に乗せられ、王宮へ向かうのだった。
王宮へ登城すると、すぐに国王の執務室に通された。
そこには兄王テオドロス、父のヴァシレウスと母のセシリアもいる。
執務室内の空気は緊張して張り詰めている。
カズンたちがソファに腰を下ろすなり、厳かに、現国王のテオドロスが口を開く。
「緊急事態だ。前王家のロットハーナ一族が国内に入ったことが確認された」
ロットハーナはカズンたちアケロニア王族の、一つ前の王朝の王族だ。
錬金術系の特殊魔法を受け継ぐ一族で、黄金を錬成する術とノウハウを持っていた。
ところがあるとき、彼らロットハーナが黄金を錬成する材料に、生きた人間を使っていたことが発覚する。
やがて、魔力量の多い貴族や血筋の者たちまで誘拐し、殺害する被害が続出していく。
彼らを糾弾し、国民を被害から救ったのが、今のアケロニア王族の祖先である。
この世界、円環大陸において、魔力の使い方には二種類ある。
ひとつは魔法といい、術者のイメージによって自由自在に現象を創造するもの。
ふたつめは魔術で、これは魔術式というプログラムを組み、それに魔力を流すことで安定して再現性のある現象を作り出す。
たとえば、魔力を通すだけで火が出る魔石などは、魔術によって作られ各家庭の台所で使われている。
作用の仕方に小回りが利くのが魔術の特徴でもある。
ちなみに魔法と魔術では、魔法のほうが作用する力が大きい。
そして、魔法・魔術を問わず、術者としての魔力使いには旧世代と新世代がある。
旧世代の魔力使いは、基本的に自分の肉体が持つ魔力量に応じた術しか使えない。
新世代の魔力使いも、旧世代と同じ自分の肉体の魔力量をベースに術を使う。
ただし旧世代とは、決定的な違いが二つある。
他者や自然界など、外部の魔力を安全に使えるという点が、第一の特徴。
第二は、第一の特徴を踏まえて、“血筋に依存せず魔力が使える”やはりこれが大きな差だろう。
ちなみにアケロニア王国の魔力使いは、王侯貴族から平民に至るまで、すべて旧世代に属す。
基本的に、旧世代は自分の肉体が持つ魔力量の範囲内でだけ、魔法や魔術を使う。
魔力とは生命力の別名でもある。消費し過ぎれば肉体は衰え、寿命が縮むから、魔力持ちは子供の頃から適切な魔力の使い方を家族や指導者から学ぶ。
できるだけ魔力量を増やすため、魔力の多い血筋同士で婚姻を繰り返す。
そうして子孫に繋いでいったのが、ほとんどの国の王族であり貴族たちだった。
魔力使いの実力としては、圧倒的に旧世代へ軍配が上がる。
しかし、円環大陸においては緩やかに、“血筋に依存せず魔力が使える”新世代に在り方が移り変わりつつあった。
例外的に、自分の魔力量の限界を超えて、魔力を使う方法がある。
“代償方式”といって、自分の持つ何かを犠牲にすることで、その分の魔力を獲得する方法だ。
ロットハーナも最初は旧世代魔力使いの一族として、代償方式で自分たちの持つ何かを犠牲にすることで錬金術を行っていた。
まずはステータスを確認した上で不要な能力を少しずつ。目立った害がなければ完全に犠牲にして黄金に変えた。
やがて、自分たちの感情すら黄金に変えたことで、ロットハーナは邪道へと堕ちていくことになる。
代償方式で使える自分たちのリソースが残り少なくなったとき、犠牲にするのは他者でも構わないじゃないか、と考えるようになった。
まず彼らが行ったのは、妊娠中の妊婦の胎内の胎児に魔術を用いて、肉体的に奇形児を作り出すことだった。
産まれた胎児には、手足や指、臓器などが常人より多くなるよう“設定”してある。その余分な肉体の一部を錬金術の素材に使い始めた。
だがすぐに、そのような面倒な手順を踏まずとも、自分の国の国民を誘拐して生け贄にすれば良いと、倫理や道徳の欠けた頭で考えついた。
ロットハーナに業績があるとしたら、人間が生物として、非常に進化した価値の高い“素材”であると解明したことだろう。
黄金を作る錬金術の素材として、動植物や鉱物などより、人間一人を丸々素材にしたほうがはるかに大量の黄金を作り出せたからだ。
最終的に、ロットハーナは錬金術の生贄の素材として、自国の国民の中でも特に魔力量の多い貴族たちにターゲットを定めるようになった。
国内で貴族たちの行方不明事件が頻発する。しかし、なかなか犯人が捕まらず、人々は恐怖に脅える日々を送っていた。
犯人が当時のアケロニア王族のロットハーナ一族だと判明したのは、偶然からだった。
ある伯爵家の当主の、妻と息子、娘の三人が前触れなく行方不明になった事件に端を発する。
三人はあるとき、伯爵家の領地にある森へピクニックに出かけ、そのまま帰って来なかった。
森の中には三人が使った小型の馬車が壊され、護衛や御者、引いていた馬も殺されていた。
近くには多量の血液が残されていた。
馬車の装飾が剥がされていたことから、盗賊による金品目的の殺害と、証拠隠滅のため死体ごと持って逃亡したものと判断された。
ところが、それら警察組織を兼ねる騎士団の判断に疑問を抱いたのが、妻子を失った当の伯爵本人だ。
彼は現在でも珍しい、総合鑑定スキルの持ち主だった。物品、人物、魔力すべての鑑定を可能にする高度なスキルを持っていた。
彼が、妻子が殺害されたとされる現場に残された血痕を鑑定したところ、血液は妻子のものだったが、致死量には足りなかった。
だがそのときは、それ以上のことはわからなかった。
数年後、伯爵が他の貴族の叙勲式に参列するため王都に出て王宮に上がったとき。
王から叙勲された貴族に渡される金塊に、伯爵の鑑定スキルが反応した。
驚愕したなんてものではない。
中身の金塊の素材名に、己の息子の名前があるではないか!
伯爵はその場で騒ぐことはせず、会場を辞した後で、王国内の各地から流通している金塊を無作為に収集した。
そして金塊に総合鑑定スキルを用いると、自分の息子だけでなく、国内で行方不明になっていた貴族や有力者たちの名前が次々に浮かび上がってくる。
息子の名前が見えた金塊を報償金として受け取った貴族は、幸い親しい者だった。
彼には密かに事情を話し、息子が変じた金塊を譲り受けている。
金塊に更に詳細な鑑定スキルを用いると、金に変化させられた後でも魂が残っているらしい。
伯爵が息子の金塊に反応したのは、彼の魂との感応だったのだろう。
幸運だったのは、伯爵の持つ総合鑑定スキルなら、金塊に宿った息子の魂と対話が可能だったことだ。
そうして、妻や息子たちが行方不明になり金塊にされるまでの、詳しくもおぞましい経緯を知ることになる。
まず、ロットハーナは王家として、伯爵の一族が豊富な魔力を持つことをあらかじめ知っていた。
その上で次の“素材”として目を付けた。
伯爵本人が相手では、剣術や魔術の使い手で、手強いと見た。
ならばと、分家出身の夫人と、その間に産まれた子供たちにターゲットを定め、計画的に襲いに行ったという。
王家の影を使い、護衛や馬車の御者、馬をまず始末した。
その上で、馬車の中にいた夫人と子供たちに魔力封じの魔導具を装着させた。
抵抗を削いでから急所を微妙に逸らして刃物で刺し続け、苦しめに苦しめてから、死の直前で生きたまま黄金へと錬金した。
現場に被害者たちの血痕が多量ながら中途半端な量しか残されていなかったのは、血液が流れ切る前に黄金に変えられていたからだろう。
最初に、子供たちを庇う夫人が首に斬りつけられた。
まだ幼かった妹を腕に抱いて守っていた兄は、馬車の外から妹ごと串刺しにされた。
まだ息のあるうちに母親や妹から引き剥がされ、馬車から引き摺り下ろされた。
目の前には、数名の兵士を伴い、堂々と王家の紋章の入った礼装姿の男の貴人が一人いた。
息絶える寸前の自分たち家族に邪悪な魔法をかけたその人こそ、当時のアケロニアの次期国王、王太子であった、と。
金塊の中の息子の魂が伝えてきた事実に、伯爵は王家に見切りをつけ、復讐を決意する。
そしてロットハーナ一族の残虐な行為の証拠を集め始めた。
被害者となった者たちの貴族や有力者たちの協力を得て、ロットハーナ一族を倒すことに成功する。
邪悪な錬金術はロットハーナが一族ぐるみで行っていたと判明していた。
一族全員死罪としたが、寸前で何名かが逃げて消息不明となってしまった。
彼らは他国に逃げて、そこで錬金術で得た黄金を元手にして、現在まで生き延びている。
錬金術で黄金に変えられた者の魂は、金塊の中に保存され続ける。
解放するには、一度、高温で鋳溶かすしかない。
鋳溶かせば、鑑定スキルで見ても、黄金の中に素材となった人物名は消える。
そして、黄金に変えられてしまった人間を元に戻す術はない。
黄金に変えられるときに肉体が崩壊してしまうためだった。
黄金になるのはあくまでも本人の魔力のみのためだ。
伯爵が血眼になって探しても、息子以外の妻と娘を素材とした金塊は見つからなかった。
ということは、既に彼女たちの金塊は鋳溶かされ金貨などに加工されてしまった後ということだろう。
伯爵の手元に唯一残された、息子の魂が宿る金塊をどうするか。
息子の魂に確認したところ、鋳溶かさずこのまま職人に叩いて装飾品に加工してもらい、父伯爵の傍に置いて欲しいと懇願された。
現在のアケロニア王国の王冠と王杖がそれである。
その頃にはロットハーナ一族への断罪も片付いており、伯爵は新たなアケロニア王国の国王となった。
この新王の持っていた家名がアルトレイで、今は先王ヴァシレウスの曾孫にして伴侶となったカズンの母、女大公セシリアが継いだ家名である。
その前王家ロットハーナの末裔が、現在まで他国で続いていることが確認されている。
アケロニア王国を逃げ出した後のロットハーナ一族の者たちは、遠く離れた地で経歴を隠して貸金業を営んでいた。
子孫の中には成功した者も出たようだが、ここ百年ほどは目立つ者はいないはずだった。
だが、現在のアケロニア王国でロットハーナの邪法の痕跡が確認された。
ロットハーナ一族が扱う魔法や魔術には、特徴がある。
まず、人間を黄金に変える錬金術、“黄金錬成”。
黄金錬成するには対象となる人間を死なない程度に傷つけて苦痛を与える必要がある。
そのために、抵抗を防ぐ隷属魔法と、隷属魔法を施した魔導具を扱う。
リースト伯爵家、ドマ伯爵家に関わる事件で、共通してロットハーナが得意とする隷属魔法を込めた魔導具の存在が示唆されていた。
また、以前カズンたちが潜った第4号ダンジョンで発見された、衣服だけを残した痕跡。
黄金錬成を仕掛けられた人間が黄金に変わるのは、本人の肉体だけだ。
だからロットハーナの魔の手にかかった被害者の消えた現場や近くの場所からは、本人たちの衣服や持ち物が見つかるケースがある。
これらの事件や出来事を総合的に判断して、ロットハーナの使う邪法だと断定。
アケロニア王国は即座に、ロットハーナ一族の術者探索に動いた。
既に、王太女とその伴侶が騎士団を率いて国内での調査に動いている。今ここに居ないのはそのためだ。
「カズン様、緊急招集です。至急、王宮へお越しくださいませ」
「緊急招集?」
とそこへ、ヨシュアを伴ったユーグレンが生徒会室方向からやって来るのが見えた。
使者の姿を認めると怪訝そうな顔になる。
「何事だ?」
「ユーグレン殿下! リースト伯爵もご一緒でしたか! お三方、王宮から緊急招集がかけられております」
事情は王宮に着いてからということで、急き立てるように三人まとめて馬車に乗せられ、王宮へ向かうのだった。
王宮へ登城すると、すぐに国王の執務室に通された。
そこには兄王テオドロス、父のヴァシレウスと母のセシリアもいる。
執務室内の空気は緊張して張り詰めている。
カズンたちがソファに腰を下ろすなり、厳かに、現国王のテオドロスが口を開く。
「緊急事態だ。前王家のロットハーナ一族が国内に入ったことが確認された」
ロットハーナはカズンたちアケロニア王族の、一つ前の王朝の王族だ。
錬金術系の特殊魔法を受け継ぐ一族で、黄金を錬成する術とノウハウを持っていた。
ところがあるとき、彼らロットハーナが黄金を錬成する材料に、生きた人間を使っていたことが発覚する。
やがて、魔力量の多い貴族や血筋の者たちまで誘拐し、殺害する被害が続出していく。
彼らを糾弾し、国民を被害から救ったのが、今のアケロニア王族の祖先である。
この世界、円環大陸において、魔力の使い方には二種類ある。
ひとつは魔法といい、術者のイメージによって自由自在に現象を創造するもの。
ふたつめは魔術で、これは魔術式というプログラムを組み、それに魔力を流すことで安定して再現性のある現象を作り出す。
たとえば、魔力を通すだけで火が出る魔石などは、魔術によって作られ各家庭の台所で使われている。
作用の仕方に小回りが利くのが魔術の特徴でもある。
ちなみに魔法と魔術では、魔法のほうが作用する力が大きい。
そして、魔法・魔術を問わず、術者としての魔力使いには旧世代と新世代がある。
旧世代の魔力使いは、基本的に自分の肉体が持つ魔力量に応じた術しか使えない。
新世代の魔力使いも、旧世代と同じ自分の肉体の魔力量をベースに術を使う。
ただし旧世代とは、決定的な違いが二つある。
他者や自然界など、外部の魔力を安全に使えるという点が、第一の特徴。
第二は、第一の特徴を踏まえて、“血筋に依存せず魔力が使える”やはりこれが大きな差だろう。
ちなみにアケロニア王国の魔力使いは、王侯貴族から平民に至るまで、すべて旧世代に属す。
基本的に、旧世代は自分の肉体が持つ魔力量の範囲内でだけ、魔法や魔術を使う。
魔力とは生命力の別名でもある。消費し過ぎれば肉体は衰え、寿命が縮むから、魔力持ちは子供の頃から適切な魔力の使い方を家族や指導者から学ぶ。
できるだけ魔力量を増やすため、魔力の多い血筋同士で婚姻を繰り返す。
そうして子孫に繋いでいったのが、ほとんどの国の王族であり貴族たちだった。
魔力使いの実力としては、圧倒的に旧世代へ軍配が上がる。
しかし、円環大陸においては緩やかに、“血筋に依存せず魔力が使える”新世代に在り方が移り変わりつつあった。
例外的に、自分の魔力量の限界を超えて、魔力を使う方法がある。
“代償方式”といって、自分の持つ何かを犠牲にすることで、その分の魔力を獲得する方法だ。
ロットハーナも最初は旧世代魔力使いの一族として、代償方式で自分たちの持つ何かを犠牲にすることで錬金術を行っていた。
まずはステータスを確認した上で不要な能力を少しずつ。目立った害がなければ完全に犠牲にして黄金に変えた。
やがて、自分たちの感情すら黄金に変えたことで、ロットハーナは邪道へと堕ちていくことになる。
代償方式で使える自分たちのリソースが残り少なくなったとき、犠牲にするのは他者でも構わないじゃないか、と考えるようになった。
まず彼らが行ったのは、妊娠中の妊婦の胎内の胎児に魔術を用いて、肉体的に奇形児を作り出すことだった。
産まれた胎児には、手足や指、臓器などが常人より多くなるよう“設定”してある。その余分な肉体の一部を錬金術の素材に使い始めた。
だがすぐに、そのような面倒な手順を踏まずとも、自分の国の国民を誘拐して生け贄にすれば良いと、倫理や道徳の欠けた頭で考えついた。
ロットハーナに業績があるとしたら、人間が生物として、非常に進化した価値の高い“素材”であると解明したことだろう。
黄金を作る錬金術の素材として、動植物や鉱物などより、人間一人を丸々素材にしたほうがはるかに大量の黄金を作り出せたからだ。
最終的に、ロットハーナは錬金術の生贄の素材として、自国の国民の中でも特に魔力量の多い貴族たちにターゲットを定めるようになった。
国内で貴族たちの行方不明事件が頻発する。しかし、なかなか犯人が捕まらず、人々は恐怖に脅える日々を送っていた。
犯人が当時のアケロニア王族のロットハーナ一族だと判明したのは、偶然からだった。
ある伯爵家の当主の、妻と息子、娘の三人が前触れなく行方不明になった事件に端を発する。
三人はあるとき、伯爵家の領地にある森へピクニックに出かけ、そのまま帰って来なかった。
森の中には三人が使った小型の馬車が壊され、護衛や御者、引いていた馬も殺されていた。
近くには多量の血液が残されていた。
馬車の装飾が剥がされていたことから、盗賊による金品目的の殺害と、証拠隠滅のため死体ごと持って逃亡したものと判断された。
ところが、それら警察組織を兼ねる騎士団の判断に疑問を抱いたのが、妻子を失った当の伯爵本人だ。
彼は現在でも珍しい、総合鑑定スキルの持ち主だった。物品、人物、魔力すべての鑑定を可能にする高度なスキルを持っていた。
彼が、妻子が殺害されたとされる現場に残された血痕を鑑定したところ、血液は妻子のものだったが、致死量には足りなかった。
だがそのときは、それ以上のことはわからなかった。
数年後、伯爵が他の貴族の叙勲式に参列するため王都に出て王宮に上がったとき。
王から叙勲された貴族に渡される金塊に、伯爵の鑑定スキルが反応した。
驚愕したなんてものではない。
中身の金塊の素材名に、己の息子の名前があるではないか!
伯爵はその場で騒ぐことはせず、会場を辞した後で、王国内の各地から流通している金塊を無作為に収集した。
そして金塊に総合鑑定スキルを用いると、自分の息子だけでなく、国内で行方不明になっていた貴族や有力者たちの名前が次々に浮かび上がってくる。
息子の名前が見えた金塊を報償金として受け取った貴族は、幸い親しい者だった。
彼には密かに事情を話し、息子が変じた金塊を譲り受けている。
金塊に更に詳細な鑑定スキルを用いると、金に変化させられた後でも魂が残っているらしい。
伯爵が息子の金塊に反応したのは、彼の魂との感応だったのだろう。
幸運だったのは、伯爵の持つ総合鑑定スキルなら、金塊に宿った息子の魂と対話が可能だったことだ。
そうして、妻や息子たちが行方不明になり金塊にされるまでの、詳しくもおぞましい経緯を知ることになる。
まず、ロットハーナは王家として、伯爵の一族が豊富な魔力を持つことをあらかじめ知っていた。
その上で次の“素材”として目を付けた。
伯爵本人が相手では、剣術や魔術の使い手で、手強いと見た。
ならばと、分家出身の夫人と、その間に産まれた子供たちにターゲットを定め、計画的に襲いに行ったという。
王家の影を使い、護衛や馬車の御者、馬をまず始末した。
その上で、馬車の中にいた夫人と子供たちに魔力封じの魔導具を装着させた。
抵抗を削いでから急所を微妙に逸らして刃物で刺し続け、苦しめに苦しめてから、死の直前で生きたまま黄金へと錬金した。
現場に被害者たちの血痕が多量ながら中途半端な量しか残されていなかったのは、血液が流れ切る前に黄金に変えられていたからだろう。
最初に、子供たちを庇う夫人が首に斬りつけられた。
まだ幼かった妹を腕に抱いて守っていた兄は、馬車の外から妹ごと串刺しにされた。
まだ息のあるうちに母親や妹から引き剥がされ、馬車から引き摺り下ろされた。
目の前には、数名の兵士を伴い、堂々と王家の紋章の入った礼装姿の男の貴人が一人いた。
息絶える寸前の自分たち家族に邪悪な魔法をかけたその人こそ、当時のアケロニアの次期国王、王太子であった、と。
金塊の中の息子の魂が伝えてきた事実に、伯爵は王家に見切りをつけ、復讐を決意する。
そしてロットハーナ一族の残虐な行為の証拠を集め始めた。
被害者となった者たちの貴族や有力者たちの協力を得て、ロットハーナ一族を倒すことに成功する。
邪悪な錬金術はロットハーナが一族ぐるみで行っていたと判明していた。
一族全員死罪としたが、寸前で何名かが逃げて消息不明となってしまった。
彼らは他国に逃げて、そこで錬金術で得た黄金を元手にして、現在まで生き延びている。
錬金術で黄金に変えられた者の魂は、金塊の中に保存され続ける。
解放するには、一度、高温で鋳溶かすしかない。
鋳溶かせば、鑑定スキルで見ても、黄金の中に素材となった人物名は消える。
そして、黄金に変えられてしまった人間を元に戻す術はない。
黄金に変えられるときに肉体が崩壊してしまうためだった。
黄金になるのはあくまでも本人の魔力のみのためだ。
伯爵が血眼になって探しても、息子以外の妻と娘を素材とした金塊は見つからなかった。
ということは、既に彼女たちの金塊は鋳溶かされ金貨などに加工されてしまった後ということだろう。
伯爵の手元に唯一残された、息子の魂が宿る金塊をどうするか。
息子の魂に確認したところ、鋳溶かさずこのまま職人に叩いて装飾品に加工してもらい、父伯爵の傍に置いて欲しいと懇願された。
現在のアケロニア王国の王冠と王杖がそれである。
その頃にはロットハーナ一族への断罪も片付いており、伯爵は新たなアケロニア王国の国王となった。
この新王の持っていた家名がアルトレイで、今は先王ヴァシレウスの曾孫にして伴侶となったカズンの母、女大公セシリアが継いだ家名である。
その前王家ロットハーナの末裔が、現在まで他国で続いていることが確認されている。
アケロニア王国を逃げ出した後のロットハーナ一族の者たちは、遠く離れた地で経歴を隠して貸金業を営んでいた。
子孫の中には成功した者も出たようだが、ここ百年ほどは目立つ者はいないはずだった。
だが、現在のアケロニア王国でロットハーナの邪法の痕跡が確認された。
ロットハーナ一族が扱う魔法や魔術には、特徴がある。
まず、人間を黄金に変える錬金術、“黄金錬成”。
黄金錬成するには対象となる人間を死なない程度に傷つけて苦痛を与える必要がある。
そのために、抵抗を防ぐ隷属魔法と、隷属魔法を施した魔導具を扱う。
リースト伯爵家、ドマ伯爵家に関わる事件で、共通してロットハーナが得意とする隷属魔法を込めた魔導具の存在が示唆されていた。
また、以前カズンたちが潜った第4号ダンジョンで発見された、衣服だけを残した痕跡。
黄金錬成を仕掛けられた人間が黄金に変わるのは、本人の肉体だけだ。
だからロットハーナの魔の手にかかった被害者の消えた現場や近くの場所からは、本人たちの衣服や持ち物が見つかるケースがある。
これらの事件や出来事を総合的に判断して、ロットハーナの使う邪法だと断定。
アケロニア王国は即座に、ロットハーナ一族の術者探索に動いた。
既に、王太女とその伴侶が騎士団を率いて国内での調査に動いている。今ここに居ないのはそのためだ。
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