王弟カズンの冒険前夜(全年齢向けファンタジー版)

真義あさひ

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魔術師カズン、子供時代の終わり

ユーグレンは推しの負担になりたくない

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 ユーグレンは毎朝、朝食を済ませひと休みしてから、王宮内の自室から執務室へと向かう。
 王太女の母親やその伴侶の父がユーグレン用に仕分けした、王族の裁可を必要とする書類を処理するのが仕事になっている。

「今日も暑いな……」

 室内に入れば氷の魔石を使った冷房用の魔導具があるので涼しいのだが、さすがに建物の回廊までは冷やしていない。

 護衛兼側近のウェイザー公爵令息ローレンツを伴って、執務室へ向かう回廊を歩いていると、曲がり角の先から自分の名前が聞こえてくる。
 そこでユーグレンはぴたりと足を止めた。
 聞き耳を立てるまでもなく、数人の文官たちがそこで立ち話をしているようだった。



「ユーグレン殿下、本当にリースト伯爵を傘下に入れるらしいな」

「へえ、あのリースト伯爵家の澄ましたお綺麗な顔が殿下に侍るのか。側近にするのか、違う意図があるのか勘繰ってしまうよな」

「おい、不敬だぞ」

「何言ってるんだ。ユーグレン殿下がヨシュア殿に懸想してたのは有名な話じゃないか」



「ちょっと行って注意してきますね」

 ローレンツが出て行こうとするのを、ユーグレンは首を振ってやめろと引き止めた。

「……私がヨシュアを望んだことで、彼まで侮辱を受けてしまうとは」
「殿下」
「私が、そんな、彼を……」

 その先はさすがに青臭すぎて言葉には出せなかったが、付き合いの長いローレンツには、ユーグレンの葛藤が何となくわかったようだ。
 心配そうな顔でユーグレンの様子を窺っている。
 また変な方向に拗らせなければよいのだが。



 三人で親しく付き合うようになってからというもの。

 ユーグレンはヨシュアとふつうに軽口を叩けるぐらいまで親しくなれた。
 彼もまた、ユーグレンと学園でのことや政治や領地経営、カズンの話などをするのは案外楽しそうで。

(これなら本当に、彼を私の側に置けるかもしれない)

 とユーグレンは期待に胸を高鳴らせていた。
 特に夏休みに入って、カズンたちを追って避暑地の別荘まで行って現地滞在している間はそれはもう朝から晩まで共にいられたわけで。



 ところが。
 そんなヨシュアだったが、ユーグレンがカズンと集中して話し込んだり、スキンシップで肩や背中、腕などに触れたりすると途端に機嫌が悪くなる。
 ましてや、カズンからユーグレンの頬に親愛のキスなどしようものなら、それこそ親の仇を見るような鋭い目つきで睨みつけてくる。
 あの、ユーグレンを蕩かせる、銀の花咲く湖面の水色の瞳で。

「参ったなあ。私はいったい、どうすればいいのだ」

 と悩んでいたところに、今朝耳にした、あの噂話だ。
 ユーグレンは王族で王子という公人のため、人から好き勝手なことを言われるのは有名税のようなもので慣れている。
 だが、自分たちの関係やその行方が人々の注目の的だと認識させられて、さすがのユーグレンも戸惑っていた。
 自分はいい。だがヨシュアやカズンはどうだろうか。



 執務に没頭しているようでいて、一日ずーっと同じことでユーグレンは堂々巡りなことを考えていた。

 すると夕方の少し前ごろになってカズンから、明日よりヴァシレウスも連れてリースト伯爵領に行くがお前はどうする? との手紙が届いた。

「………………」

 先月の七月、ほとんどを自分もカズンたちと別荘地で過ごして遊んでしまったユーグレンだ。
 さすがにもうこの夏休み中、遊びに行く許可は下りないだろうなと、半ば諦め気分で母親の王太女グレイシアの執務室まで行くと。

「うむ、良いぞ。いつもというわけにはいかぬが、まあこの夏休みの間ぐらいは好きにするといい」
「もしかすると、リンクを発現させたカズン様は本当に国を出て行ってしまわれるかもしれませんしね。今のうちにたくさん思い出を作っておくといいでしょう」

 両親それぞれから激励の言葉まで頂戴して、許可が取れてしまった。

 執務室に戻り、カズン宛の返事を書いて、待っていた彼の家の家人に渡して帰してやる。
 その後、速攻で残っていた執務を片付けて、自分の部屋に戻り旅行の準備を侍女たちに頼んだ。

「何日ぐらいなら滞在できるだろう。二日、いや三日かな?」
「必要があれば連絡が入るでしょうから。ゆっくり楽しんでいらしてくださいね」

 リースト伯爵領へ行くなら、ヨシュアや彼の叔父ルシウスといった手練れが常に側にいるため、ユーグレンにも多人数の護衛は必要ない。

 明日は集合場所のリースト伯爵家までユーグレンを送り届けた後、ローレンツも短い休暇を取ることになる。


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