24 / 53
百年後に届いた“声”
しおりを挟む
王女殿下は百年前、オデットを失ってからリースト伯爵家の者に魔法樹脂の作り方を習い、より簡単な“魔術”樹脂に音声記録機能を付与したものを遺していた。
魔法は術者のオリジナリティに飛んだ創造的な術だが、魔術はプログラムさえ覚えて必要な魔力量があれば誰にでも使いこなせる。
魔法樹脂を使いやすくアレンジしたものが、魔術樹脂だった。
オデットの頭ぐらいのサイズの、大きめのオルゴールの宝石入れ部分の中に、小さなボタンサイズの魔術樹脂をたくさん。
ひとつひとつは、最大で3分ほどの声が記録されている。
リースト伯爵家には、王女殿下から下賜されたそのオルゴールと魔術樹脂が、いつかオデットが解凍されたときのためにと保存されていた。
これはヨシュアがオデット関連の物品を彼女の解凍後に確認したとき見つけて、すぐ手渡してくれたものだった。
『オデット。君はいったいどこにいるのだろう? あのとき君に口づけてしまった私が嫌になって逃げてしまったのかい? そんなことをずっと考えて眠れぬ夜を過ごした』
『オデット。フォーセット侯爵家の令嬢たちが白状したよ。よりにもよって君を奴隷商に売ったと。……引き裂いてやりたい』
『彼女たちには王家が厳然たる対処をし、罰を与えることになった。だが惜しいな。君よりフォーセット侯爵令嬢のほうが家の爵位が上だから、少し減刑されてしまう。本人たちは修道院行きということで決着がついた』
そんなことを中心に、40手前で亡くなるまでの雑感が記録され続けていた。
そして最後の音声は。
『オデット。君が私の声を聴くのはいつになるのだろう?』
『病を得た。少し無理が祟ったようだ。もう少しぐらい頑張れると思ったのだけど。はは、不甲斐ないな。まだ四十にもならぬのに』
『兄王には、「だから結婚して子供ぐらい産んでおけばよかったのだ!」と怒られてしまった。「そうすれば子供にオデット嬢の行方を託せただろうに」と。ああ……そういう考えもあったのだと初めて気づいたよ』
『でも無理じゃないか? 私が愛してるのはオデットだけだし、この腕に抱きたいのも君だけ』
『私ばかりが重くてごめん。でも愛してる。いつか私のこの声を聴くときが来たら、この重さごと私を背負って生きてほしい。ほんと、ごめんな』
「ちょっとかすれた、このお声は変わらないのね。……大人になった先輩も見てみたかったわ」
オデットの口調は明るかったが、どこか寂しさを滲ませる。
彼女が王女殿下の口づけを受けてから、本人の体感ではまだ何ヶ月も経っていないのだ。
リースト伯爵家のサロンでお茶を飲みながら、当主のヨシュアやその叔父で後見人のルシウスが魔術樹脂の再生に付き合ってくれていた。
「むうう……同じ王族でも、王姉グレイシアは何という積極派」
ルシウスが感心して唸っている。
「どういうこと?」
「今のユーグレン王太子も、リースト伯爵家の者を熱愛していてな。だが相手と深い仲になるまでは至らなかった」
「へえ」
そうなんだ、とちらりとオデットは兄クレオンの子孫である現当主のヨシュアを見た。
同じ屋敷の中で暮らしているのだから、噂ぐらいはオデットの耳にも入っている。
オデットと王女殿下が思春期特有の熱病に浮かされて互いを思い合ったように、この男も同性の誰かさんから想いを寄せられていたらしい。
やはり思春期には、そういうことがあるものだ。
--
この国の王族、基本すごい長生きなのに苦労したせいで早死にしてしまった王女殿下( ´•̥ω•̥`)
魔法は術者のオリジナリティに飛んだ創造的な術だが、魔術はプログラムさえ覚えて必要な魔力量があれば誰にでも使いこなせる。
魔法樹脂を使いやすくアレンジしたものが、魔術樹脂だった。
オデットの頭ぐらいのサイズの、大きめのオルゴールの宝石入れ部分の中に、小さなボタンサイズの魔術樹脂をたくさん。
ひとつひとつは、最大で3分ほどの声が記録されている。
リースト伯爵家には、王女殿下から下賜されたそのオルゴールと魔術樹脂が、いつかオデットが解凍されたときのためにと保存されていた。
これはヨシュアがオデット関連の物品を彼女の解凍後に確認したとき見つけて、すぐ手渡してくれたものだった。
『オデット。君はいったいどこにいるのだろう? あのとき君に口づけてしまった私が嫌になって逃げてしまったのかい? そんなことをずっと考えて眠れぬ夜を過ごした』
『オデット。フォーセット侯爵家の令嬢たちが白状したよ。よりにもよって君を奴隷商に売ったと。……引き裂いてやりたい』
『彼女たちには王家が厳然たる対処をし、罰を与えることになった。だが惜しいな。君よりフォーセット侯爵令嬢のほうが家の爵位が上だから、少し減刑されてしまう。本人たちは修道院行きということで決着がついた』
そんなことを中心に、40手前で亡くなるまでの雑感が記録され続けていた。
そして最後の音声は。
『オデット。君が私の声を聴くのはいつになるのだろう?』
『病を得た。少し無理が祟ったようだ。もう少しぐらい頑張れると思ったのだけど。はは、不甲斐ないな。まだ四十にもならぬのに』
『兄王には、「だから結婚して子供ぐらい産んでおけばよかったのだ!」と怒られてしまった。「そうすれば子供にオデット嬢の行方を託せただろうに」と。ああ……そういう考えもあったのだと初めて気づいたよ』
『でも無理じゃないか? 私が愛してるのはオデットだけだし、この腕に抱きたいのも君だけ』
『私ばかりが重くてごめん。でも愛してる。いつか私のこの声を聴くときが来たら、この重さごと私を背負って生きてほしい。ほんと、ごめんな』
「ちょっとかすれた、このお声は変わらないのね。……大人になった先輩も見てみたかったわ」
オデットの口調は明るかったが、どこか寂しさを滲ませる。
彼女が王女殿下の口づけを受けてから、本人の体感ではまだ何ヶ月も経っていないのだ。
リースト伯爵家のサロンでお茶を飲みながら、当主のヨシュアやその叔父で後見人のルシウスが魔術樹脂の再生に付き合ってくれていた。
「むうう……同じ王族でも、王姉グレイシアは何という積極派」
ルシウスが感心して唸っている。
「どういうこと?」
「今のユーグレン王太子も、リースト伯爵家の者を熱愛していてな。だが相手と深い仲になるまでは至らなかった」
「へえ」
そうなんだ、とちらりとオデットは兄クレオンの子孫である現当主のヨシュアを見た。
同じ屋敷の中で暮らしているのだから、噂ぐらいはオデットの耳にも入っている。
オデットと王女殿下が思春期特有の熱病に浮かされて互いを思い合ったように、この男も同性の誰かさんから想いを寄せられていたらしい。
やはり思春期には、そういうことがあるものだ。
--
この国の王族、基本すごい長生きなのに苦労したせいで早死にしてしまった王女殿下( ´•̥ω•̥`)
14
あなたにおすすめの小説
『めでたしめでたし』の、その後で
ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。
手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。
まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。
しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。
ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。
そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。
しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。
継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。
それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。
シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。
そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。
彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。
彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。
2人の間の障害はそればかりではなかった。
なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。
彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
退屈令嬢のフィクサーな日々
ユウキ
恋愛
完璧と評される公爵令嬢のエレノアは、順風満帆な学園生活を送っていたのだが、自身の婚約者がどこぞの女生徒に夢中で有るなどと、宜しくない噂話を耳にする。
直接関わりがなければと放置していたのだが、ある日件の女生徒と遭遇することになる。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる