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「乙女☆プリズム夢の王国」特典ストーリーの世界
喧嘩にもならない
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「あたしに文句ぐらいあるでしょ。このアバズレ女って罵ればいいじゃない!」
崩落する洞窟内で閉じ込められた空間の安全を確認した後。
向こうから言われる前に先手必勝、とばかりにサンドローザ王女は切り出した。
だがヒューレットは無事だった荷物の中から魔導具ランプを取り出して灯しながら、いつものように穏やかで品のある顔に少しだけ困った感情を乗せて、サンドローザを宥めるばかり。
「殿下、そのようなことを仰ってはなりません。御身を大切になさってください」
「う。ど、どうしてあんたはいつもそうなのよ!」
お互い幼い頃に結ばれた婚約者だ。付き合いは長い。
我が儘を言って振り回しても、ヒューレットは穏やかに笑うばかり。
とにかく気まずい。エスティアから婚約者のアルフォートを身体で籠絡して寝取った後、二人はここで初めて顔を合わせている。
彼が何度もエスティアのパラディオ伯爵家に婚約者としても、近衛騎士としても来ていることは知っていたが、サンドローザが逃げていたから。
「あんた馬鹿でしょ。あたしなんて庇わないで放っておけば良かったのに。おっ死んだらあんたか、あんたのパパかは知らないけど簡単に次の王位だって手に入ったでしょうに!」
感情的に怒鳴るサンドローザに、ヒューレットは顔つきを引き締めた。
「私は貴女と婚約を解消するつもりはありません。もちろん見捨てるなんて騎士に有るまじき行いもしません」
「……なんでよ」
サンドローザは自分でも、ろくでもないことをしでかした自覚がある。
婚約者がいて、それが自分より濃い王族の血を持つ公爵令息様だ。決してないがしろにして良い相手ではなかった。
なのに、よりによって親友の婚約者を結婚当日に寝取って結婚式を台無しにした。
(今頃、王家は大騒ぎでどう始末をつけようか考えてるでしょうね)
ランプを互いの間に置いて、ヒューレットは明かりに照らされて光る銀の瞳で見つめてきた。
「サンドローザ様。貴女が私との婚約を嫌がっていたことは知っていました。まさか出奔して友人の婚約者を寝取りに行かれるとは。そこまでされる前に相談さえしてくれれば」
口調は責めるものではなかったが、淡々としていてサンドローザの罪悪感を刺激した。
「あんたに相談して、どうにかなったわけ?」
少なくともサンドローザの環境ではそんな期待を持てる空気はなかった。
「私と貴女の結婚はしなければならなかったし、子供も作らなければならなかった。でも、それさえ了解してくれたら、私の実家は貴女がアルフォート君を愛人にする許可を出したと思います」
「そんなの!」
「……勝手ですよね。我が実家ながら人の想いを無視しすぎだと思います。それでもやっぱり婚約者ですから、少しは相談して欲しかったですよ。サンドローザ様」
ここで初めて、ヒューレットはサンドローザをちくりと刺した。本当に僅かだったが。
「今回の件、私は貴女だけを責めるつもりはないんです」
「嘘よ。いくら温厚だからって、あんたそこまでお人好しじゃないでしょ?」
そもそも、元平民のロゼット王妃を母に持つサンドローザより、王家の近い親戚であるノア公爵令息のヒューレットのほうが王族の血が濃かった。
「サンドローザ王女殿下。真実はもっと悪いのです」
「どういうこと?」
「お、おいおいおい……これ俺たちが聞いてて大丈夫なやつか? 不味いんじゃ?」
崩落した岩盤を隔てた隣で、王女たちの話を盗み聞きしているカーティスは焦った。
確かに以前、アルフォートからエスティアやその父テレンスを巻き込んだ茶番の話を聞かされていた。
けれど、実態はもっと面倒くさい可能性がある。
事情を知るらしいテレンスと甥のアルフォートは、じっと聞こえてくる王女とヒューレットの話に集中していた。
部外者のヨシュアは、これまで聞かされたエスティアの周辺の情報と隣から聞こえてくる話を繋ぎ合わせているようで、暇潰しに地面に相関図を描いて関係性を整理していた。
崩落する洞窟内で閉じ込められた空間の安全を確認した後。
向こうから言われる前に先手必勝、とばかりにサンドローザ王女は切り出した。
だがヒューレットは無事だった荷物の中から魔導具ランプを取り出して灯しながら、いつものように穏やかで品のある顔に少しだけ困った感情を乗せて、サンドローザを宥めるばかり。
「殿下、そのようなことを仰ってはなりません。御身を大切になさってください」
「う。ど、どうしてあんたはいつもそうなのよ!」
お互い幼い頃に結ばれた婚約者だ。付き合いは長い。
我が儘を言って振り回しても、ヒューレットは穏やかに笑うばかり。
とにかく気まずい。エスティアから婚約者のアルフォートを身体で籠絡して寝取った後、二人はここで初めて顔を合わせている。
彼が何度もエスティアのパラディオ伯爵家に婚約者としても、近衛騎士としても来ていることは知っていたが、サンドローザが逃げていたから。
「あんた馬鹿でしょ。あたしなんて庇わないで放っておけば良かったのに。おっ死んだらあんたか、あんたのパパかは知らないけど簡単に次の王位だって手に入ったでしょうに!」
感情的に怒鳴るサンドローザに、ヒューレットは顔つきを引き締めた。
「私は貴女と婚約を解消するつもりはありません。もちろん見捨てるなんて騎士に有るまじき行いもしません」
「……なんでよ」
サンドローザは自分でも、ろくでもないことをしでかした自覚がある。
婚約者がいて、それが自分より濃い王族の血を持つ公爵令息様だ。決してないがしろにして良い相手ではなかった。
なのに、よりによって親友の婚約者を結婚当日に寝取って結婚式を台無しにした。
(今頃、王家は大騒ぎでどう始末をつけようか考えてるでしょうね)
ランプを互いの間に置いて、ヒューレットは明かりに照らされて光る銀の瞳で見つめてきた。
「サンドローザ様。貴女が私との婚約を嫌がっていたことは知っていました。まさか出奔して友人の婚約者を寝取りに行かれるとは。そこまでされる前に相談さえしてくれれば」
口調は責めるものではなかったが、淡々としていてサンドローザの罪悪感を刺激した。
「あんたに相談して、どうにかなったわけ?」
少なくともサンドローザの環境ではそんな期待を持てる空気はなかった。
「私と貴女の結婚はしなければならなかったし、子供も作らなければならなかった。でも、それさえ了解してくれたら、私の実家は貴女がアルフォート君を愛人にする許可を出したと思います」
「そんなの!」
「……勝手ですよね。我が実家ながら人の想いを無視しすぎだと思います。それでもやっぱり婚約者ですから、少しは相談して欲しかったですよ。サンドローザ様」
ここで初めて、ヒューレットはサンドローザをちくりと刺した。本当に僅かだったが。
「今回の件、私は貴女だけを責めるつもりはないんです」
「嘘よ。いくら温厚だからって、あんたそこまでお人好しじゃないでしょ?」
そもそも、元平民のロゼット王妃を母に持つサンドローザより、王家の近い親戚であるノア公爵令息のヒューレットのほうが王族の血が濃かった。
「サンドローザ王女殿下。真実はもっと悪いのです」
「どういうこと?」
「お、おいおいおい……これ俺たちが聞いてて大丈夫なやつか? 不味いんじゃ?」
崩落した岩盤を隔てた隣で、王女たちの話を盗み聞きしているカーティスは焦った。
確かに以前、アルフォートからエスティアやその父テレンスを巻き込んだ茶番の話を聞かされていた。
けれど、実態はもっと面倒くさい可能性がある。
事情を知るらしいテレンスと甥のアルフォートは、じっと聞こえてくる王女とヒューレットの話に集中していた。
部外者のヨシュアは、これまで聞かされたエスティアの周辺の情報と隣から聞こえてくる話を繋ぎ合わせているようで、暇潰しに地面に相関図を描いて関係性を整理していた。
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