炎上乙女ゲー聖杯伝説~結婚当日に友人王女が婚約者を寝取って婚約破棄なので諦めてた初恋の隣国王弟の攻略に戻ります

真義あさひ

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「乙女☆プリズム夢の王国」特典ストーリーの世界

確変魔法、そして究極の移動手段現る

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 ついに、セドリックの元に隣国カルダーナから帰還命令が来てしまった。

「さすがに長期間、留守にしすぎたようだ」

 来たのは迎えの馬車ではなく手紙だけだったので、セドリックはもう一日だけエスティアとの名残を惜しんでパラディオ伯爵家で厄介になることにした。



 その日の午後、エスティアからティータイムに誘われてサロンに向かおうとしていたセドリックは、突然、途中にある部屋に引っ張り込まれた。

「……むっ?」

 強引に引っ張ってきたのは、濃いミルクティ色の癖毛と緑の瞳の美しい男、エスティアの父の。

「テレンス様?」
「今朝の、お前とあの竜殺しの魔法剣士との話。私も聞いていたのだ」

 ふんす、と腕組みして偉そうにセドリックを睨んできた。

「私に話でも?」

 いい機会だ。この男とは一度二人だけで話してみたいと思っていた。

「……あなたはずっと、婿入り先のパラディオ伯爵家で魔法薬の開発をしていたそうですね」
「どこでそれを知った?」
「カーティスが教えてくれましたよ。あなたの研究所は彼のザックス辺境伯領に近い。辺境伯には事情を話していたのでしょう?」

 伯爵家に近寄らなかったのではない。別の場所に作った研究所に入り浸りだっただけだ。

 それにカーティスが、エスティアの幼馴染みというだけでなく、エスティアとその父テレンスのことをずっと気にしていたのも、多少事情を知っていたからならば、辻褄が合う。

「あなたの妻だったカタリナ様は四属性持ちだがその分だけ常に激しい魔力消耗を強いられていた。あなたが開発したかったのは、速やかに魔力を回復させる安全な魔法薬、万能薬エリクシル

 そこまで妻のために動いていながら、なぜ夫婦仲が悪い芝居や、娘を冷遇すること茶番を演じたのか。

「あなたの実家はあの大魔道士マーリンの家で、あなたはその実の息子だ。実家はエリクシルの素材になる賢者の石を持っている。王家の正統問題……でしたか? その解決に協力し、パラディオ伯爵家にあなたに続くモリスン子爵家のアルフォートを婿養子として引き取ってくれるなら、賢者の石を分ける。そんな感じの打診があったのではありませんか?」
「……完敗だ。よくそこまで看破したな」

 つまらなさそうに、テレンスが認めた。

「あなたの愛人と庶子とやらはどうなったんです?」
「あれは部下とその連れ子なだけだ。カタリナと不仲に見せるため偽装を頼んでいた」
「それ、エスティアにちゃんと説明したほうがいいですよ」
「わかってる!」

 この後、テレンスは娘と対峙する覚悟を決めているのだ。多分、エスティア側も話し合うタイミングをはかっている。

「でも、なぜこれまで、娘のエスティアとあんなに不仲を演じていたのです? ポーション開発もいいが、彼女の負担を減らすには父のあなたが魔物退治に出て戦えば良かっただけなのに」
「………………」

 これがどうもテレンスの一番の泣きどころだったらしい。
 美しい顔を悲壮に、いや情けない顔に歪めて、眉が下がってしまっている。
 まるで雨の日に捨てられた犬が惨めにしょんぼりしているような、そんな風情だ。

「それもエスティアには話すつもりだ。お前にも言っておく。私は、………………」

 それはほんの一言に過ぎなかったが、セドリックは思わず「あっ!?」と驚きの声をあげてしまった。



 話は終わった。
 セドリックはそのまま当初の予定通りエスティアの待つサロンへ向かおうとしたのだが、テレンスに引き止められた。

「まだ何か?」
「子供の頃、よく遊んでやっただろう。一つ選んでいけ。確率変動魔法、エニアオーブ!」

 部屋を出て行こうとしたセドリックがテレンスを振り向くと、彼との間の空間に九つの色とりどりの光るオーブが浮かんでいる。

(昔からこの人はこればかりだ。……まあ、付き合ってやるか)

 この九つのオーブは最初の一個を選んだ段階で、内訳は当たり三つ、ハズレ三つ、スカ三つだ。
 当たりを選ぶと、次以降に当たりが出る確率が爆上がりする。
 その繰り返しで次々と幸運を引き寄せていく、運気操作型なる大変珍しい魔法だ。

 逆に最初の一個でハズレを引いてしまうと、残りのほとんどがハズレ化してしまう。

 選べる個数は最大九つ。ただし九つ全部順番に選んでも良いし、一つだけで止めても良い。

 選んだオーブの効果は、そのときのテレンスの気分次第。
 子供の頃のエスティアやセドリック、それにもう一人の幼馴染みカーティスは、当たりが出れば菓子を、ハズレになると泥団子などを出すこの魔法に随分と翻弄されたものだった。

 本来は、攻撃力や防御力などステータスアップあるいはダウン効果をもたらす運任せの魔法である。

「………………」

 セドリックは迷わなかった。選んだのは緑色のオーブだ。
 この大魔道士マーリンの息子テレンスと、娘のエスティアと同じ緑色の。

「チッ、運の良い男だ。効果は幸運上昇三十日間。まあせいぜい頑張るといい。……今から三十日間は娘の次の婚約者探しを阻止してやる。ありがたく思えよ」

 いくら何でも他国の王族に対する態度ではない。
 だがセドリックは無言でテレンスに頭を下げた。



「では、私はこれで」

 もう用はないだろうと今度こそ部屋を出て行こうとしたら、二度あることは三度ある。またテレンスが引き止めてきた。

「まだ何か?」
「あの竜殺しから何か渡されてただろう。見せてみろ」
「? これのことですか」

 ジャケットの内ポケットに入れていた魔法樹脂製のネックレスを取り出して渡した。
 ウインドチャイム付きのネックレスがチリンチリンと澄んだ音を立てる。

「あの男。こんなものを即興で創り上げるとは。只者じゃないな」
「魔王の縁者のようです」

 チリンチリン。
 テレンスがネックレスを軽く鳴らす。

「ハッ、魔王なんて伝説の存在だ。せいぜいそれっぽい者の子孫ってとこだろ」

 チリンチリン。
 更に鳴らす。

「あの、テレンス様? 何をそんなに」

 鳴らしているのか、と続けることはできなかった。

 バターン、と勢いよく部屋のバルコニーへの窓が開いて、風が室内に吹き込んできたからだ。

「ピュイッ(友よ、よんだ?)」
「お前、羽竜!?」

 窓の外に巨大な、灰色の羽毛を持つ羽竜がいた。
 ふわふわの毛に覆われた大きな頭を伸ばして、窓から部屋の中を覗き込んでいる。
 山頂では気にする暇もなかったが、つぶらで澄んだ赤い目だった。なかなか愛らしい。

 その首元にはヨシュアがかけた魔法樹脂のネックレスがチリンチリンと音を立てている。
 羽竜のサイズが変わっても千切れないよう、自動で長さ調整されているらしいところはさすがだ。

「アヴァロン山脈の守護竜よ。この男を西の魔王の元へ連れて行ってやってくれ」
「ピュアー?(まおう? にしの?)」

 不思議そうに羽竜が首を傾げている。
 そんなのいたっけ? という顔だ。

「ま、待てテレンス様、それに羽竜も!」
「ピューイッ(うん、いいよ! あそこはじゅーしーなきのみがたくさんあるってきいたことがある!)」

「ほら、早く行け!」

 強引にバルコニーに追い立てられて、羽竜のふわふわの翼の生えた背に乗らされた。いや突き飛ばされた。
 セドリックより細身の癖に力が強い。こんなときばかり自分の風の魔力を使っているのだろう。

「荷物だ。残りは保管しておくようエスティアに伝えておく」
「ちょっと待ってください、テレンス様!」

 いつの間にまとめたのか、客間にあったはずの自分の荷物が旅行カバン一つにまとめられて放られた。

「えっ、羽竜!? セドリック? お父様まで!? いったい何があったの!?」

 そこへ、突如屋敷に現れた巨大な竜の報告を聞いて、慌ててエスティアが駆けつけてきた。

「エスティア」
「セドリック」

 羽竜の背とバルコニー、それぞれの場所から見つめ合うふたりを、父テレンスが苦々しげに見ている。

「ピュイッ(いくよー)」
「エスティア。次に会ったときは、お前に……!」

 続きを聞く前に羽竜が急上昇して、灰色ふわふわの翼を広げて飛んでいってしまった。

 後に残ったのは抜けた羽毛が数枚。
 ふんわり柔らかそうな羽毛がひらひらとバルコニーに舞っていた。



「さて、お父様」

 羽竜の巨体が見えなくなってもしばらく空を見つめていたエスティアが、くるりと後ろを振り返った。
 ビクッと父テレンスが小さく震える。

「そろそろ改めて、お互いに話をしましょうか?」






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