炎上乙女ゲー聖杯伝説~結婚当日に友人王女が婚約者を寝取って婚約破棄なので諦めてた初恋の隣国王弟の攻略に戻ります

真義あさひ

文字の大きさ
63 / 66
「乙女☆プリズム夢の王国」特典ストーリーの世界

確変魔法、そして究極の移動手段現る

しおりを挟む
 ついに、セドリックの元に隣国カルダーナから帰還命令が来てしまった。

「さすがに長期間、留守にしすぎたようだ」

 来たのは迎えの馬車ではなく手紙だけだったので、セドリックはもう一日だけエスティアとの名残を惜しんでパラディオ伯爵家で厄介になることにした。



 その日の午後、エスティアからティータイムに誘われてサロンに向かおうとしていたセドリックは、突然、途中にある部屋に引っ張り込まれた。

「……むっ?」

 強引に引っ張ってきたのは、濃いミルクティ色の癖毛と緑の瞳の美しい男、エスティアの父の。

「テレンス様?」
「今朝の、お前とあの竜殺しの魔法剣士との話。私も聞いていたのだ」

 ふんす、と腕組みして偉そうにセドリックを睨んできた。

「私に話でも?」

 いい機会だ。この男とは一度二人だけで話してみたいと思っていた。

「……あなたはずっと、婿入り先のパラディオ伯爵家で魔法薬の開発をしていたそうですね」
「どこでそれを知った?」
「カーティスが教えてくれましたよ。あなたの研究所は彼のザックス辺境伯領に近い。辺境伯には事情を話していたのでしょう?」

 伯爵家に近寄らなかったのではない。別の場所に作った研究所に入り浸りだっただけだ。

 それにカーティスが、エスティアの幼馴染みというだけでなく、エスティアとその父テレンスのことをずっと気にしていたのも、多少事情を知っていたからならば、辻褄が合う。

「あなたの妻だったカタリナ様は四属性持ちだがその分だけ常に激しい魔力消耗を強いられていた。あなたが開発したかったのは、速やかに魔力を回復させる安全な魔法薬、万能薬エリクシル

 そこまで妻のために動いていながら、なぜ夫婦仲が悪い芝居や、娘を冷遇すること茶番を演じたのか。

「あなたの実家はあの大魔道士マーリンの家で、あなたはその実の息子だ。実家はエリクシルの素材になる賢者の石を持っている。王家の正統問題……でしたか? その解決に協力し、パラディオ伯爵家にあなたに続くモリスン子爵家のアルフォートを婿養子として引き取ってくれるなら、賢者の石を分ける。そんな感じの打診があったのではありませんか?」
「……完敗だ。よくそこまで看破したな」

 つまらなさそうに、テレンスが認めた。

「あなたの愛人と庶子とやらはどうなったんです?」
「あれは部下とその連れ子なだけだ。カタリナと不仲に見せるため偽装を頼んでいた」
「それ、エスティアにちゃんと説明したほうがいいですよ」
「わかってる!」

 この後、テレンスは娘と対峙する覚悟を決めているのだ。多分、エスティア側も話し合うタイミングをはかっている。

「でも、なぜこれまで、娘のエスティアとあんなに不仲を演じていたのです? ポーション開発もいいが、彼女の負担を減らすには父のあなたが魔物退治に出て戦えば良かっただけなのに」
「………………」

 これがどうもテレンスの一番の泣きどころだったらしい。
 美しい顔を悲壮に、いや情けない顔に歪めて、眉が下がってしまっている。
 まるで雨の日に捨てられた犬が惨めにしょんぼりしているような、そんな風情だ。

「それもエスティアには話すつもりだ。お前にも言っておく。私は、………………」

 それはほんの一言に過ぎなかったが、セドリックは思わず「あっ!?」と驚きの声をあげてしまった。



 話は終わった。
 セドリックはそのまま当初の予定通りエスティアの待つサロンへ向かおうとしたのだが、テレンスに引き止められた。

「まだ何か?」
「子供の頃、よく遊んでやっただろう。一つ選んでいけ。確率変動魔法、エニアオーブ!」

 部屋を出て行こうとしたセドリックがテレンスを振り向くと、彼との間の空間に九つの色とりどりの光るオーブが浮かんでいる。

(昔からこの人はこればかりだ。……まあ、付き合ってやるか)

 この九つのオーブは最初の一個を選んだ段階で、内訳は当たり三つ、ハズレ三つ、スカ三つだ。
 当たりを選ぶと、次以降に当たりが出る確率が爆上がりする。
 その繰り返しで次々と幸運を引き寄せていく、運気操作型なる大変珍しい魔法だ。

 逆に最初の一個でハズレを引いてしまうと、残りのほとんどがハズレ化してしまう。

 選べる個数は最大九つ。ただし九つ全部順番に選んでも良いし、一つだけで止めても良い。

 選んだオーブの効果は、そのときのテレンスの気分次第。
 子供の頃のエスティアやセドリック、それにもう一人の幼馴染みカーティスは、当たりが出れば菓子を、ハズレになると泥団子などを出すこの魔法に随分と翻弄されたものだった。

 本来は、攻撃力や防御力などステータスアップあるいはダウン効果をもたらす運任せの魔法である。

「………………」

 セドリックは迷わなかった。選んだのは緑色のオーブだ。
 この大魔道士マーリンの息子テレンスと、娘のエスティアと同じ緑色の。

「チッ、運の良い男だ。効果は幸運上昇三十日間。まあせいぜい頑張るといい。……今から三十日間は娘の次の婚約者探しを阻止してやる。ありがたく思えよ」

 いくら何でも他国の王族に対する態度ではない。
 だがセドリックは無言でテレンスに頭を下げた。



「では、私はこれで」

 もう用はないだろうと今度こそ部屋を出て行こうとしたら、二度あることは三度ある。またテレンスが引き止めてきた。

「まだ何か?」
「あの竜殺しから何か渡されてただろう。見せてみろ」
「? これのことですか」

 ジャケットの内ポケットに入れていた魔法樹脂製のネックレスを取り出して渡した。
 ウインドチャイム付きのネックレスがチリンチリンと澄んだ音を立てる。

「あの男。こんなものを即興で創り上げるとは。只者じゃないな」
「魔王の縁者のようです」

 チリンチリン。
 テレンスがネックレスを軽く鳴らす。

「ハッ、魔王なんて伝説の存在だ。せいぜいそれっぽい者の子孫ってとこだろ」

 チリンチリン。
 更に鳴らす。

「あの、テレンス様? 何をそんなに」

 鳴らしているのか、と続けることはできなかった。

 バターン、と勢いよく部屋のバルコニーへの窓が開いて、風が室内に吹き込んできたからだ。

「ピュイッ(友よ、よんだ?)」
「お前、羽竜!?」

 窓の外に巨大な、灰色の羽毛を持つ羽竜がいた。
 ふわふわの毛に覆われた大きな頭を伸ばして、窓から部屋の中を覗き込んでいる。
 山頂では気にする暇もなかったが、つぶらで澄んだ赤い目だった。なかなか愛らしい。

 その首元にはヨシュアがかけた魔法樹脂のネックレスがチリンチリンと音を立てている。
 羽竜のサイズが変わっても千切れないよう、自動で長さ調整されているらしいところはさすがだ。

「アヴァロン山脈の守護竜よ。この男を西の魔王の元へ連れて行ってやってくれ」
「ピュアー?(まおう? にしの?)」

 不思議そうに羽竜が首を傾げている。
 そんなのいたっけ? という顔だ。

「ま、待てテレンス様、それに羽竜も!」
「ピューイッ(うん、いいよ! あそこはじゅーしーなきのみがたくさんあるってきいたことがある!)」

「ほら、早く行け!」

 強引にバルコニーに追い立てられて、羽竜のふわふわの翼の生えた背に乗らされた。いや突き飛ばされた。
 セドリックより細身の癖に力が強い。こんなときばかり自分の風の魔力を使っているのだろう。

「荷物だ。残りは保管しておくようエスティアに伝えておく」
「ちょっと待ってください、テレンス様!」

 いつの間にまとめたのか、客間にあったはずの自分の荷物が旅行カバン一つにまとめられて放られた。

「えっ、羽竜!? セドリック? お父様まで!? いったい何があったの!?」

 そこへ、突如屋敷に現れた巨大な竜の報告を聞いて、慌ててエスティアが駆けつけてきた。

「エスティア」
「セドリック」

 羽竜の背とバルコニー、それぞれの場所から見つめ合うふたりを、父テレンスが苦々しげに見ている。

「ピュイッ(いくよー)」
「エスティア。次に会ったときは、お前に……!」

 続きを聞く前に羽竜が急上昇して、灰色ふわふわの翼を広げて飛んでいってしまった。

 後に残ったのは抜けた羽毛が数枚。
 ふんわり柔らかそうな羽毛がひらひらとバルコニーに舞っていた。



「さて、お父様」

 羽竜の巨体が見えなくなってもしばらく空を見つめていたエスティアが、くるりと後ろを振り返った。
 ビクッと父テレンスが小さく震える。

「そろそろ改めて、お互いに話をしましょうか?」






しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

国一番の美少女だけど、婚約者は“嫌われ者のブサイク王子”でした

玖坂
ファンタジー
気がつけば、乙女ゲームの“悪役令嬢”ポジションに転生してました。 しかも婚約者は、誰もがドン引きする“ブサイクで嫌われ者の王子様” だけど――あれ? この王子、見た目はともかく中身は、想像以上に優しすぎる……!? 国一番の美少女に転生した令嬢と、誰にも愛されなかった王子が、少しずつ成長していく物語。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜+おまけSS

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! アルファポリス恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 *他サイトでも公開中 なろう日間総合ランキング2位に入りました!

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!

藤野ひま
ファンタジー
 わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。  初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!  夫や、かの女性は王城でお元気かしら?   わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!  〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

攻略なんてしませんから!

梛桜
恋愛
乙女ゲームの二人のヒロインのうちの一人として異世界の侯爵令嬢として転生したけれど、攻略難度設定が難しい方のヒロインだった!しかも、攻略相手には特に興味もない主人公。目的はゲームの中でのモフモフです! 【閑話】は此方→http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/808099598/ 閑話は最初本編の一番下に置き、その後閑話集へと移動しますので、ご注意ください。 此方はベリーズカフェ様でも掲載しております。 *攻略なんてしませんから!別ルート始めました。 【別ルート】は『攻略より楽しみたい!』の題名に変更いたしました

悪役令息の婚約者になりまして

どくりんご
恋愛
 婚約者に出逢って一秒。  前世の記憶を思い出した。それと同時にこの世界が小説の中だということに気づいた。  その中で、目の前のこの人は悪役、つまり悪役令息だということも同時にわかった。  彼がヒロインに恋をしてしまうことを知っていても思いは止められない。  この思い、どうすれば良いの?

処理中です...