ゲームランカーのスパダリ彼氏

真義あさひ

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第一章「最強ランカーのリアル彼氏はスパダリ覚醒する」二条泰然編

恋人を追い詰める

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「迷わないで。僕以外を見ないで。君のステータスも、ギルドの未来も、全部僕が背負ってあげる。……背負わせてほしい」

 泰然は目を伏せたまま、何も言わない。
 怜司の手は喉元に触れたまま、ぴたりと止まった。

「……ねえ、泰然」

 低く落とされた声に、心臓が跳ねる。

「僕、ひとつだけ、聞きたかったんだ」
「……なにを」
「どうして、ゲーム恋人を作ったの?」
「………………」

 ああ、やっぱり誤魔化されてくれない。
 泰然は答えない。いや——答えられない、が正しい。

 ステータスが上がるから?
 ギルド運営が大変だから?
 自分がいなくても、メンバーたちがやっていけるように?

 泰然は、喉の奥が焼けるような思いで唇を噛んだ。言葉が出なかった。
 誤魔化すしか、なかった。

「……そ、うだな。まあ、そういう理由も、ある……」
「……あるんだ」

 怜司の声がすっと引いた。

「ゲーム恋人たち。まだ切れない?」
「……………」

 怜司が静かに身体を起こした。
 泰然の上に覆い被さるように、ぐっと手を突き、シーツが乱れる。

「そういう答えなんだね、君は」
「待っ——!」

 逃げようとした瞬間、怜司に両手を押さえつけられた。
 本気だ。力が強い。

「僕、今すごく気持ち悪いんだよ。君のこと、ずっと大好きなのに……」
「れ、怜司……!」
「大好きだったのに……!」

 怜司の指は、泰然を絡め取る鎖のようだった。

「……っ」

 喉が、ごくりと鳴る。
 怜司の指が喉元をなぞるたび、全身がじわじわ熱を持つ。

「ごめんね。僕のこと、怖い?」

 耳元で囁かれ、心臓が跳ねた。

「怖くなんか、ない」
「そう?」

 ふっと、怜司が笑った気配がする。
 だが、それは優しい笑みじゃない。もっと冷たく、残酷なものだった。
 喉元を撫でていた指が、頬をなぞる。じれったく、逃げ場を塞ぐように。

「でもさ、君。さっきから、ずっと僕から目を逸らしてるよね」
「おまえ、そういうこと……!」

 怜司はいつもこうだ。泰然の気持ちを先回りして絡め取ってしまう。

(だって。怜司の目、……今、まともに見れない)

 いつもの怜司じゃない。泰然の知っている怜司は、こんなふうに自分を追い詰めたりしない。

 怜司の指が、震える泰然の顎を軽く持ち上げる。

「怖いのに、逃げないの?」

 耳元で囁かれた瞬間、全身がビクリと震えた。

(違う、俺は……!)

「君は、さ」

 怜司の声が、更に低く落ちる。

「僕以外の選択肢なんて、最初からないだろ?」
「………………っ!」

 完全に言葉を奪われた。

「僕がこうして捕まえてる時点で、もう君は〝逃げられない〟」
「れ、怜司……」

 心臓の音が、やけに大きく聞こえる。

(俺は、もう……)

 喉がひどく渇いていた。
 息を飲み込むたび、全身が熱を持っていく。

「……結局、俺はお前の手の上で転がされてるんだな」
「泰然?」

 自嘲げに呟いた。
 どれだけ足掻いても、どれだけ抵抗しても、怜司の言葉は泰然の意識の奥に忍び込んでくる。
 それが心地よかった。けれどこんな一方的な怜司に抗いたい気持ちもまた強かった。

「余計なこと、考えないで。……君は、どこまで追い詰めたら僕に堕ちてくれるのかな」

 怜司の声は穏やかだった。
 でも――それが余計に、泰然の心を揺さぶる。

(もう、堕ちてるよ)

 だが、そこまでが泰然の限界だった。
 ぎゅ、とかたく目を瞑って、これ以上の醜態を晒す前に覚悟を決めた。



「……お前なんか、嫌いだ」

 怜司の指が、ピタリと止まった。

「……え?」

 怜司が、想定外の事態に直面したような、間の抜けた声を上げた。

「お前なんか、大っ嫌いだ!」

 叫んだ瞬間、泰然の感情が堰を切ったように溢れ出した。
 涙を流すつもりなどなかったのに、目尻から熱い滴がこぼれ落ちる。
 気づけば、怜司の胸を叩いていた。

「もういやだ……おまえといると、惨めな気持ちにばっか、なる!」

 いつも冷静そうな顔して、泰然のことなど全部見透かしてるみたいな態度で……
 推定億を費やしてLOIにまで来てくれた。圧倒的な力で、ランカーのはずの自分より上のランクになって……

「ま、待って泰然」
「うるさい! どっか行け! どけ!」
「……っ!?」

 怜司の顔色が、一瞬にして変わった。緑の瞳の視線が揺れ、額にじっとりと汗が浮かんだ。
 唇がかすかに震え、言葉を失ったように泰然を見つめている。

「泰然? 君、まさか……僕が、嫌い……?」

 その声はひどく掠れていた。
 まるで世界が崩壊する音を聞いたかのように、怜司が目を見開いて動揺を見せる。

「僕が……嫌い?」

 怜司の声は、蝋燭の炎が燃え尽きる寸前のように弱々しかった。
 いつも泰然を優しく見つめる澄んでいた緑の目が、焦点を失ったように虚ろに彷徨う。

(しまった。言い過ぎた)

 だが後悔先に立たずだ。すっかり怜司の目が死んだ魚のように澱んでいる。

「どうしよう。僕の人生には君しかいないのに。君に嫌われたら、僕は……」
「お、おい。そんなこと真顔で言うな」
「嘘だよね? 今のは冗談だね?」

 怜司の様子に、泰然は背筋が冷えた。
 明らかに尋常ではない動揺ぶりだ。
 シーツの上で後ずさろうとしたが、足を掴まれた。
 痛い。顔をしかめたが、怜司の手は泰然の足首をがっちり掴んで離さない。

「僕はどうすればいい? どうすれば許してくれる?」
「い、いや、許すとかそういうんじゃ」
「お金か? あるよ。LOIに課金したってまだ半分残ってる。欲しいものは全部買ってあげる。車でも家でも新しいVRマシンでも何でも買うから!」
「いや、俺そういうの興味ない……」
「じゃあ何がいい!? 君のためなら銀行なんて今すぐ辞めてくる!」
「えっ!?」

(待て、待て! 俺のために仕事を捨てる気か!?)

 だが、怜司の暴走は止まらない。

「君に嫌われたら僕は生きていけない! 君がすべてだ。人生の喜びも楽しさも癒しも快楽も君にしかない!」

 怜司は余裕をかなぐり捨てて、そのまま泰然の手に自分の長い指を絡めて、強くシーツの上に押しつけた。

「お、落ち着け!」
「落ち着いていられるか!」
「お、おまえ……」
「君のためなら何でもする! だから……僕を捨てないでくれ!」

 悲鳴のように叫ぶと、怜司は自分の下でシーツに磔になった泰然を見下ろして、ハッとなって上から飛び退いた。
 そして泰然が身体を起こす前に、足元に跪いて必死の表情で顔を寄せた。

「許してもらえるまで、奉仕するから」


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