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第四話 桃李
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天塚桃李 齢二十歳。
家族は、神社の神主をしている祖父母のみ。
両親は祖父母曰く、
『とても温厚で誰からも愛され、よく人助けをしていた』という。
しかし、桃李自身にあまり両親の記憶はない。
彼が物心つく頃には祖父母が彼を育てていたからだ。
桃李は一度だけ、祖母に尋ねたことがある。
「ねぇ、ばあちゃん。とうりのパパとママは?」
初夏の昼下がり、祖母と二人で縁側に腰掛けていた。
ぷらぷら裸足を揺らして風と遊ぶその横で、祖母はひどく切なそうに表情を曇らせた。
しかし、それはほんの一瞬で。
桃李の瞬きの間に祖母は何時ものように優しく桃李に微笑みかけてた。
「まだ桃李が、小さな赤ん坊の時にね。桃李のパパとママはお仕事で遠くに行かなきゃいけなくてね。」
「とおくって、ほっかいどー?」
「あら、北海道を知ってるの桃李。すごいじゃない。」
祖母は両手を叩いて、小さな桃李を誉めた。
「でも、そうね。北海道ほどではないけれど、泊まり掛けでお仕事に行ったんだけど。仕事場に着く前に、車の事故に遭ってしまったの。とても、驚いたし。とても、信じられなくて。とても、悲しかった。」
「うん。」
「でもね、桃李。あなたをしっかり一人前の男の子にするまで、ばーちゃんしっかり、見張ってるからね!」
「うん!」
難しい話だったが祖母の為ならこの話はしないと幼心に決めた。
だから、それ以降。
桃李が両親について尋ねたことは無かった。
〇〇〇〇〇〇
なん懐かしい夢見たな。
「ば…ちゃん」
「桃李?」
「んん?ばーちゃん?」
「桃李!?」
「うわっ、ばーちゃん!?」
夢だとばかり思っていた祖母が、目を開けたら実際にこっちを見ていた。
ちょっとびっくりするからやめて。
心配性な祖母は心底嬉しそうに良かった、と繰り返すからへへ、っと笑って見せる。
「ばーちゃん。何処も痛くないしマジで平気だって。」
「とにかく今日はお休みするように。」
「わかってるよ。」
祖母は、タオルや桶や何か色々を抱えて部屋をでて行った。
"あぁーーーーー夢で良かったぁあーーーッ‼︎"
天塚桃李は、結構モテる。
女の子のアドレスは、スマホいっぱいに登録されているし、合コンではよく「釣り役」で呼び出される。
桃李目当てで来た女の子を合コン仲間が頑張ってかっ浚おうとするのを、何時も横目で見ては美味い唐揚げと酒を楽しんでいる。
ーーーにも関わらず彼女が途切れたことはない。
女の子には優しく、紳士で時には小悪魔になったりも出来る男で、彼の友人達曰く、"ひとたらし"
そんな桃李の彼女は何時も長続きしなかった。
彼女たち曰く、
"桃李は私の彼氏じゃないの?"
これが、天塚桃李、モテる男の何時もの破局フレーズ。
モテる男を独り占めしたい彼女たちには残年な事に、天塚桃李彼は年の頃にしては珍しく、深い懐を持った男だった。
つまり、好意を持ってくれた人物皆に対しどこまでも愛しく想い、愛してしまう。
大学のとある昼下がり。
午後の授業は無く、これから帰ろうという桃李に一人の学生が声を掛けた。
「あの、天塚さん!と、突然ですが!わたし、と付き合ってください!」
「え。」
見知らぬ彼女に、桃李は少し困った表情を見せる。
「ありがとう。君、名前は?というか、俺なんかでいいの?」
「はい!桃李さんのこと、ずっと見てたんです。こうして、告白なんてするのも、恥ずかしいし。ドキドキして、いまもっ、心臓が痛いです。」
「俺のことを考えると、心臓が痛くなっちゃうの?それだと、俺が君の心を独り占めしてるみたい。」
桃李がくすっと微笑めむと、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
そんな彼女に耳元で、甘く囁いた。
「すげー嬉しい。気持ち伝えてくれて、ありがと。」
彼女がバッと顔を上げると、桃李と視線が絡んだ。
本当に嬉しくて愛おしくて、蕩ける瞳で微笑む男が居た。
そんな顔で微笑まれるものだから、桃李の彼女はトントン拍子に増えていく。
勿論、桃李は本当に嬉しく思っているし、この彼女を心から愛しく思っていた。
怒らせてしまうと、胸が締め付けられ、
落ち込む姿を見れば、励まそうと知恵を尽くした。
桃李を慕う「彼女」たち皆に。
そして、遂に限界が来た順に振られるのだ。
「桃李は私の彼氏じゃないの?」
最早定番となっている破局フレーズに、桃李の友人で、合コン仲間は口を揃えて言う。
「女なんて一人いれば、充分だろ。」
「デ〇ズニーランドに連れてけだの、ケーキが食べたいだの。俺は財布か、ってなあ。」
「そーだよ。俺なんかルックスだけ好み、とか言われたんだぞ。」
「「「それなのに、なんでお前には、女が次から次へと寄ってくるんだ」」」
好意を持たれれば、その相手全てを愛おしいと思う。
一人でも二人でもそれは変わらない。
もちろん、思春期になるとこの感性は特殊であることにも気が付いた。
一人だけを愛そうと、桃李も努力した日々がある。
しかし、どうしても。
好意を寄せてくれる相手を無下には出来なかったのだ。
桃李の感性は、本来生まれ持ったものであり、
個性であり、
桃李が桃李として在るためには
必要な感性だと自ずと悟ることとなった。
遊び人と言うには、優しく、紳士で、
ベッドでは柔らかな愛を囁く桃李は、
正しく本物の愛を以て、彼氏であった。
しかし、激しく、貪欲な同年代の女性たちが抱く理想とは、どこか大きく外れてしまっていた。
誰かの王子様にはなれない男なのだ。
まるで、この世界で自分だけが愛し方を間違えている様で。
別れを告げられる度、桃李はチクリと傷付いていた。
そして、
このもて余す程の愛情の行き場をどこかに探していた。
そんなモテる男が苦悩する最中。
霧に巻き込まれ、コスプレの男に襲われて、
あまつさえ"気持ち良かった"等、
悪い夢だったんだ、と桃李は結論付けた。
酒の飲み過ぎに決まってる。
でもあそこのレモンサワー美味いんだよな。
しかし、夢にしてははっきりと覚えている。
熱い舌が口の中を蠢くあの感触を。
「そういえば、アイツの名前何だっけ。」
んーー思い出せないと言う事は、
あぁ、やっぱり夢だったんだ。
家族は、神社の神主をしている祖父母のみ。
両親は祖父母曰く、
『とても温厚で誰からも愛され、よく人助けをしていた』という。
しかし、桃李自身にあまり両親の記憶はない。
彼が物心つく頃には祖父母が彼を育てていたからだ。
桃李は一度だけ、祖母に尋ねたことがある。
「ねぇ、ばあちゃん。とうりのパパとママは?」
初夏の昼下がり、祖母と二人で縁側に腰掛けていた。
ぷらぷら裸足を揺らして風と遊ぶその横で、祖母はひどく切なそうに表情を曇らせた。
しかし、それはほんの一瞬で。
桃李の瞬きの間に祖母は何時ものように優しく桃李に微笑みかけてた。
「まだ桃李が、小さな赤ん坊の時にね。桃李のパパとママはお仕事で遠くに行かなきゃいけなくてね。」
「とおくって、ほっかいどー?」
「あら、北海道を知ってるの桃李。すごいじゃない。」
祖母は両手を叩いて、小さな桃李を誉めた。
「でも、そうね。北海道ほどではないけれど、泊まり掛けでお仕事に行ったんだけど。仕事場に着く前に、車の事故に遭ってしまったの。とても、驚いたし。とても、信じられなくて。とても、悲しかった。」
「うん。」
「でもね、桃李。あなたをしっかり一人前の男の子にするまで、ばーちゃんしっかり、見張ってるからね!」
「うん!」
難しい話だったが祖母の為ならこの話はしないと幼心に決めた。
だから、それ以降。
桃李が両親について尋ねたことは無かった。
〇〇〇〇〇〇
なん懐かしい夢見たな。
「ば…ちゃん」
「桃李?」
「んん?ばーちゃん?」
「桃李!?」
「うわっ、ばーちゃん!?」
夢だとばかり思っていた祖母が、目を開けたら実際にこっちを見ていた。
ちょっとびっくりするからやめて。
心配性な祖母は心底嬉しそうに良かった、と繰り返すからへへ、っと笑って見せる。
「ばーちゃん。何処も痛くないしマジで平気だって。」
「とにかく今日はお休みするように。」
「わかってるよ。」
祖母は、タオルや桶や何か色々を抱えて部屋をでて行った。
"あぁーーーーー夢で良かったぁあーーーッ‼︎"
天塚桃李は、結構モテる。
女の子のアドレスは、スマホいっぱいに登録されているし、合コンではよく「釣り役」で呼び出される。
桃李目当てで来た女の子を合コン仲間が頑張ってかっ浚おうとするのを、何時も横目で見ては美味い唐揚げと酒を楽しんでいる。
ーーーにも関わらず彼女が途切れたことはない。
女の子には優しく、紳士で時には小悪魔になったりも出来る男で、彼の友人達曰く、"ひとたらし"
そんな桃李の彼女は何時も長続きしなかった。
彼女たち曰く、
"桃李は私の彼氏じゃないの?"
これが、天塚桃李、モテる男の何時もの破局フレーズ。
モテる男を独り占めしたい彼女たちには残年な事に、天塚桃李彼は年の頃にしては珍しく、深い懐を持った男だった。
つまり、好意を持ってくれた人物皆に対しどこまでも愛しく想い、愛してしまう。
大学のとある昼下がり。
午後の授業は無く、これから帰ろうという桃李に一人の学生が声を掛けた。
「あの、天塚さん!と、突然ですが!わたし、と付き合ってください!」
「え。」
見知らぬ彼女に、桃李は少し困った表情を見せる。
「ありがとう。君、名前は?というか、俺なんかでいいの?」
「はい!桃李さんのこと、ずっと見てたんです。こうして、告白なんてするのも、恥ずかしいし。ドキドキして、いまもっ、心臓が痛いです。」
「俺のことを考えると、心臓が痛くなっちゃうの?それだと、俺が君の心を独り占めしてるみたい。」
桃李がくすっと微笑めむと、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
そんな彼女に耳元で、甘く囁いた。
「すげー嬉しい。気持ち伝えてくれて、ありがと。」
彼女がバッと顔を上げると、桃李と視線が絡んだ。
本当に嬉しくて愛おしくて、蕩ける瞳で微笑む男が居た。
そんな顔で微笑まれるものだから、桃李の彼女はトントン拍子に増えていく。
勿論、桃李は本当に嬉しく思っているし、この彼女を心から愛しく思っていた。
怒らせてしまうと、胸が締め付けられ、
落ち込む姿を見れば、励まそうと知恵を尽くした。
桃李を慕う「彼女」たち皆に。
そして、遂に限界が来た順に振られるのだ。
「桃李は私の彼氏じゃないの?」
最早定番となっている破局フレーズに、桃李の友人で、合コン仲間は口を揃えて言う。
「女なんて一人いれば、充分だろ。」
「デ〇ズニーランドに連れてけだの、ケーキが食べたいだの。俺は財布か、ってなあ。」
「そーだよ。俺なんかルックスだけ好み、とか言われたんだぞ。」
「「「それなのに、なんでお前には、女が次から次へと寄ってくるんだ」」」
好意を持たれれば、その相手全てを愛おしいと思う。
一人でも二人でもそれは変わらない。
もちろん、思春期になるとこの感性は特殊であることにも気が付いた。
一人だけを愛そうと、桃李も努力した日々がある。
しかし、どうしても。
好意を寄せてくれる相手を無下には出来なかったのだ。
桃李の感性は、本来生まれ持ったものであり、
個性であり、
桃李が桃李として在るためには
必要な感性だと自ずと悟ることとなった。
遊び人と言うには、優しく、紳士で、
ベッドでは柔らかな愛を囁く桃李は、
正しく本物の愛を以て、彼氏であった。
しかし、激しく、貪欲な同年代の女性たちが抱く理想とは、どこか大きく外れてしまっていた。
誰かの王子様にはなれない男なのだ。
まるで、この世界で自分だけが愛し方を間違えている様で。
別れを告げられる度、桃李はチクリと傷付いていた。
そして、
このもて余す程の愛情の行き場をどこかに探していた。
そんなモテる男が苦悩する最中。
霧に巻き込まれ、コスプレの男に襲われて、
あまつさえ"気持ち良かった"等、
悪い夢だったんだ、と桃李は結論付けた。
酒の飲み過ぎに決まってる。
でもあそこのレモンサワー美味いんだよな。
しかし、夢にしてははっきりと覚えている。
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