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第三十三話 黄龍
しおりを挟む「みっ!」
目が覚め真っ先に見たのは、しましまの尻尾だった。
もふもふが目の前で揺れている。
「俺が起きないか、確かめてたのか?」
「みっ!」
何時からそうしていたのか、ベッドボードに座って桃李が起きるのを待っていたらしい。
"虎徹にまで気を遣わせたなぁ。"
ストンとベッドへ降りてきた虎徹をじっと見る。
やはり何処か痛めた様子もなく目立った傷も見当たらない。
「ケガしたとこ無いか虎徹?」
それどころかまん丸の瞳が近付いてきて、顔をチロッと舐められた。
「俺も全然ケガしてないよ。」
親思いの小さな子虎はこうして我が身まで案じてくれている。
大切な可愛い俺の子虎。
それに不意打ちで矢を飛ばされたら理性を欠いた行動をしてしまうのも無理は無いだろ。
ただ、あの時義栄が飛び込んで来なければ桃李のチカラであの矢は確実に常秋を傷つけていただろう。
「起きた?」
尋ねられたので答えようとしたその声の主は紛れもなくバカヤローの声。
「お前なんでいるの。」
「呆れた妹の代わりさ。まぁ...僕に出来ることなんか大して無いんだけどね。」
食うかい、と聞かれて差し出された林檎はウサギの形に切り分けられている。
不器用で靴紐も結べない男が出来る芸当では無い。
「お詫びに、鈴が置いて行った。」
「...そっか。」
「そうだね。」
桃李の覚えている限りの一番古い記憶に、このウサギのリンゴが入っている。
それは、朧げでありながらとても胸が痛く、悲しく、辛い苦しい記憶。
「あの頃、お前はこれしか食べられなかったね。」
介護士の母と、営業マンの父を一度に失うと、米もパンもおやつも喉を通らなかったが。
唯一、食欲を思い出させたのがこのウサギの形の林檎だった。
「あんま憶えて無いんだけどな。」
幼心にショックだったのだろう。
只リンゴだけを食べていた記憶がある。
「僕は憶えてる。」
「なぁ、お前麒麟なんだろ。本当は歳いくつだよ。」
「知りたいの?」
「あぁ。」
「本当に、聞きたい...の?」
まるで怖い秘密でも打ち明けるかの様に言われ、
そうまで言われると何だか腰が引けてしまう。
好奇心は身を滅ぼすと言う。
知らない方が良いこともあるらしい。
口は災いの元だって聞いたこともあるし。
「や、めとくわ...他の話にしねーか?」
「賢いヤツは好きだよ。」
「それ、バカにしてるだろ!」
ふとした時に滲み出て来る過去の記憶は、今もこの身に潜んでいて。この親友は敢えて言わずとも緩く宥めようとしてくれている。
わざわざ口に出さなくとも良い、バカ言って笑いあう友がたった一人でも居る。
辛い時、理不尽な時、今は居ない父と母を思う時もある。
だが、恨む事は出来ない。
こうしてここまで歳を経て、生きていられるのは
誰かに愛され誰かに守られてきたからなのだ。
それが只の気休めなんかでは無いと、知っている。
事実、知らない所で誰かが桃李の為に心を砕いてくれていた。
ここは日本だ。
面と向かって"アイラブユー"を子や孫やその他の大切な人に伝える習慣は薄い。
それでも、知っているのだ。
この身体が誰かにとっては何よりも大切であるという事を。
その誰かに、友康も入っている。
「知ってたら。こんな事はさせなかった...桃李すまな、」
「うるせぇよ。」
「けど、流石に」
「うるせぇ、クソヤス。」
「... 桃野郎、」
「缶ビール野郎、」
「じゃ無い方の桃李」
「じゃ無い方のクソ康」
「どんぶらこ」
「どんぶらこ、は悪口じゃねぇだろっ、!?」
「そっちだって今のは変だろう!?」
祖母が聞いたら呆れ返りそうな悪口大会は、呆気なく終了したが、どんぶらこが悪口に当たるかどうか確認したい。
けれど、来客を告げる鈴が鳴り何時もなら出迎える鈴の代わりに友康が出た。
「義栄っ、!」
「起きたか。」
ベッドの側まで来ると、サリッと頬を撫でる。
「見張りご苦労だったな虎徹。」
「みぅ!」
虎徹まで頭を撫でられに行く、と空気を察した友康が腰を上げる。
「僕はそろそろお暇しようかなぁー。」
ベッド脇に1つしかない席を立とうとしたが、義栄に止められた。
「もう少し付き合え、麒。」
「友康、でいいですよ義栄さん。」
「呼びずらい。」
「あなただって、白虎さんより正義と栄光の義栄さんって、呼ばれたいでしょ?」
桃李の目の前には鼻先であしらう義栄と、気安い様に話す親友の姿がある。
妙な感覚だ。
「二人は、仲良いのか?」
「腐れ縁だ。」
「ひどいな。同じ"龍"の仲間じゃ無いですか、仲良くしてくれないと。」
「ぇ。」
桃李は、耳を疑った。
友康は今、自分を龍の仲間だと言わなかったか。
と言う事は、もしかしなくても。まさか。
「あの、あれ...っ、?俺、もしかして友康にも抱かれるの、か?」
「ア?」
「ナニソレ、あり得ないよ!」
義栄が馬鹿を見る様な目で桃李を見て、
友康は阿呆を見る様に笑う。
「いや、お前が言ったんだろ龍の仲間だって。」
「ぁあ!成程!」
グーとパーでポンと手を叩いた友康。
その仕草は古臭いが、何か思い至ったのか。
頼むから説明してくれ。
「桃李、五行を知ってるだろ?」
「木火土金水?」
「そう。それで君の旦那様達は?」
「仁嶺が木、騰礼が火、義栄は金、耽淵が水。」
「へぇ。よく覚えてるじゃないか。」
「まぁな、!」
何気なく流したが。
何で小難しい属性が覚えられたのかと言うと、乱行大会で散々に味わった愛撫のお陰だった。
桃李に触れ与えてくる刺激が、指や舌がそれぞれの性質を纏っていることに気付いた。
その心地よさにも。
「コイツは元々知ってるんだよ、なぁ姫。」
意識しなくても分かる。
義栄が側に居るだけでリンと打つ鉄風鈴の音が聞こえて来そうな感じ。
「四つの宝珠は四龍の"気"をたっぷり吸っている。何千年も何世紀もな。見分けられない筈がないだろう。」
「うん。」
熱い瞳でこんなに近くで見つめられ
思わず素直に返事をする。
「いい子だ。」
「話を戻しても宜しいかな、お二人さん。」
このまま手を握り合って、
淫らな行為が始まりそうな雰囲気を悪友が寸前で止めた。
「五行と四龍で、残る土は誰でしょうか?」
「お前?」
「駄目だね、正確には僕と鈴。もしくは麒麟が正解。」
「ほぉ。」
「麒麟は昔、黄龍と呼ばれていたんだ時があってね。ほら、麒麟は黄色くて龍の鱗も纏ってるからね。」
「へぇ。」
「ある時から、あらゆる万物は五行であり、五色によって平安はもたらされると言う考えが大きく広まって来て。最初は四方だけを護っていた四龍では足りなくなったんだよ。そこで似ている僕達麒麟を入れて無理矢理五行にした。まぁ数合わせだねぇ。」
ふーん、と気の抜けた相槌を打つ。
「一応数だけは"龍"の仲間って事。僕達は他にも属してる所が有ってね。兼任なんだ。」
そりゃ大変だ、と相槌を打つ。
「じゃあ、俺は尻の心配しなくてOK?俺の"気"は要らないってことだよな。」
「どうだろう、試してみるかい?」
「ちょっ、友康、」
ギシッとベッドが鳴る。
ニヤリと笑う顔が近付いて来て、友康の身体がベッドに乗る。
その瞳は、息を呑むほど真剣で真っ直ぐだった。
「手伝ってくれませんか、義栄さん?」
「勿論だ。」
揶揄うような空気は一切感じさせない。
桃李の元へにじり寄って来る親友は、義栄の手伝いもあり、あっという間にはだけだ胸元へ掌を当てる。
ヒタリ。
「友康」
身を捩って躱そうにも後ろから義栄に肩を掴まれている。
「桃李は分からないと思うけど、お前の"気"は凄く澄んでいて僕らからすれば極上に美味そうなんだ。桃の匂いがしてね。」
「そうだ。特に、ここを弄ってやると匂いが濃くなる。」
「ひ...んっ」
義栄が布団の中から手を滑らせ、隠れた桃李の下肢を刺激してきた。
スリスリ、サリサリ、弱い部分を友康が見ている前で撫でられる。
「ぁ、ぁ...見るな、よ」
義栄の指で布越しに弄ばれる欲望が、次第に熱を持ち始める。
ドコドコと逸る心臓とは裏腹に、快感が桃李の中で"気"を作り甘い桃の匂いを二人の男へ向けて撒き散らしていく。
「桃李とは友達でいたいんだけどなぁ、僕。」
「だったら、その手を離せよクソヤス。」
「口が悪いのは昔からだけど、とうとう僕が塞いでやろうか桃李?」
胸に当てられていた動く。
自分より弱そうな手が桃李の顎を捕らえた。
グッと羞恥を堪えながら友康を睨むがかち合った視線は外れもしない。
それどころか何故か絡み合い、熱を帯びて。
「ぁ、」
この瞳を桃李は知っている。
友康、呼びかけようとして先を越された。
「桃李、お前はひとりじゃないよ。」
酷く優しい声だった。
欲情した身体に甘く垂らされる粘度の高い蜜のような声は。
引っ掛けた古傷にじわっと滲みた。
喉を労る時にスプーンで舐めた蜂蜜みたいな。
いつまでも甘くて
しつこいくらい側にいる見慣れた男の瞳だった。
「ふっ、ぅ...っ、」
「泣くなよ。お前が優しいのも賢いのも知っているつもりだけど。今回は謝るよ。お前の傷をえぐるような事をしたのは事実だから。鈴も僕も。お前に嫌われたくない。」
ごめん、と桃李の頬を指先が撫でる。
「二度とあんな事はさせない。お前をひとりにさせない。」
ああ、バレてた。
謝らなくても良い、そんな事で気不味くなって、たったひとりの親友を失いたくは無かった。
だって俺にも非は有った。
けど、謝ってくれたなら。
他にもう言いたい事も言えなかった事ももう何も無いや。
許すよ、と一言告げて友康に身なりを整えて貰った。
と言っても、襟を寄せて布団を胸まで持たされただけだ。
そしたら、酒とつまみとりんごでも食べて飲んで。
この話はもう終わり。
あとは各々がなんとかするだろう。
今は別件に行っているらしい鈴の事も、勿論常秋の事も。
ーーー
「桃李は寝ましたかね?」
「ああ、持ってきた酒が効いたな。」
義栄のベッドで、桃李を間に挟みじゃれつくのは友康としても楽しいものがあった。
なんと言っても、仙桃妃の"気"は特別なのだ。
髪も瞳も黒のまま地上で過ごしていた時は、封印のお陰でその香りを隠していたが。腕一本にも満たない距離で香る桃の香りはとても甘く、とても魅惑的だった。
「ここで話します?」
「いや、隣の部屋を用意してある。まだこいつの耳には入れたくない話だからな。」
「過保護ですね、義栄さん。」
「お前も相当だろ。」
はは、と笑って見せる。
ベッドで健やかな寝顔を見せる可愛い友を見つめる。
「少し、惜しい事をしたかも知れません。」
「難儀だなお前達も。」
それでも、自分にしか出来ない立ち位置というものがある。
この天界で唯一、変わらない付き合いを保つ事にこそ意味があると友康自身、そう思っているのだ。
だが、愛おしい事も事実だ。
僕達は
気に入った人間に直ぐ手を伸ばしてしまう。
可愛い子。可愛い愛しい友。
僕達は天塚桃李が可愛い。
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