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第一章:キハラ トキアキ

第七話_後篇

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その夜。
俺はちょろかった。ユディール君に言われてその気になっていた。
カコッとマタタビの蓋を開けてベットに置いた。

怖かったから、少しだけ。
瓶の蓋を緩めるくらいにしておいた。

ドキドキしながらも手帳を開いて、明日の予定を確認する。特に急ぎの案件は無さそうだが、一日のシミュレーションをするのが向こうにいる間からの習慣だ。

パタンと閉じて、いそいそとベットに潜り込む。

いけないことをした子供のように、心臓が跳ねている。これでエルの帰りが遅かったら、自分で笑ってやればいい。

そんな物に頼ろうとしたのが間違いだったんだ。

でも、期待は止められない。
身体は念入りに磨いたし、歯磨きもバッチリだ。
期待と、興奮で動悸がしそうになったその時。

ガチャリ、とドアが開いた。

真っ白な扉を開けて現れたのは、俺の’‘左腕’‘のひと。


「トキ、起きていたか。」

「あ、ああ。もう寝るとこだったんだ。」

ギシッとベットのスプリングが鳴る。
いつものようにエルが手を伸ばして、俺の頬を撫でようとした時。

その指が宙で止まった。

「ほう、意外だったな。これはトキが買い求めたのか?」

そう言って目線に釣られた先には、ユディールのマタタビ瓶。

じっと。
甘さを含む金色の瞳が俺を見つめて答えを待っている。

微かに微笑んでいるのが分かって、俺の羞恥心は耐えられなかった。
もうバレてる。絶対バレてるっ。


「誰かに貰ったのか?」

「… … 同僚に。」

「ユディールだな。」

あ、とか。いや、とかを繰り返す俺をエルは許さなかった。

「彼の夫も猫だったな。」

面白そうに笑うその顔に、シワが刻まれてもイケメンだった。

「私の番に何か吹き込んだのなら。それなりの罰が必要だな。」

左の眉をひゅと上げるのが様になっている。

「いや、あのっ、俺がいけないんだっ!」

「ほう。」

俺は、羞恥の断頭台に立たされた気分で。
突っかえ、どもりながら事の顛末を1から10まで話す事になった。

これは、悪巧みをした俺への罰だ。
だが、ただの罰じゃない。
甘さを含み、逃げ道を塞ぐ、百獣の王の罰。

その爪でギロチンの縄を押さえてはいるが、やろうと思えばいつでも、俺を狩れる。

「お前がこの国に慣れるまではと、思っていたのだがな。」

さり、とようやく髪を撫でてくれた手はいつも通り少し冷たい。
なのに、金色の瞳だけが熱い。

「お前は私の為に、この世界に落とされた。」

初めから決まっていたのだと、エルが言う。
初めから。
あの日、池に落ちた時から。

俺はエルのものになる事は決まっていた。

「お前が熱にうなされながら、私に言っていただろう。」

ーーーちゃんと、ここでやって行くよ。

「その通り、お前はこちらに来てからよく努めていた。お前が、私と並ぼうとする為に努力しているのに、言えると思うか?

スリ、とエルの手が不意に俺の頬と、唇を撫でた。

「泣き顔が美しくてな。」

「なっ、にを言ってるんだよっ、!」

「嘘だと思うか?」

だって、あ。
なんだその目は。

それじゃまるでキスだけじゃ、
触れ合うだけじゃ足りないみたいじゃないか。

そんな俺にフッと笑った。

「そんな生温いことを言うのは人間だけだな。」

エルは俺の悩みを一蹴した。

「ライオンというのは、百獣の王と言われるように研鑽を怠らない生き物だ。何処から敵が来るかわからない。更に、警戒心の強さから戦況を読む力に長けている。そして、愛する者にはよく尽くす。」

エルは俺の頭をわしゃっと撫でたかと思うと、マタタビの瓶を取って固く閉めた。
多分、俺じゃ開けられないな。

「それから、ライオンの私にこんな物は要らない。」

何故か。
だって猫科にマタタビは酒の様な物だろう?
いや、待てよ。俺は某動物番組を思い出した。

「若くはないが。お前相手に惜しむ気は無いな。」

ん?俺相手に惜しむ気は無い、って事は。
本当はスゴイってこと?
いやでも、エルはイケメンとはいえオジサンだ。
まさかそんな。

「試して見たいだろ、トキアキ。」

「へ?」

ドサっと音がしたのは俺の背中だった。
ぼさっとしている間に、おれは押し倒されたのか。こんな、こんな瞳で見られていたのか。

熱くて、ジッと肌が焼けそうな瞳で。

「はあ… …っ」

俺は拒まなかった。
降ってくる唇を、息を吐いて受け止めた。


端的に言うと、俺は意外と奥手ではなかった。
真綿の愛なんてどの口が言ったんだと思う程の大胆さを発揮した。

いや、正確には口の代わりに身体が示してくれた。


「トキアキ。」

「んん…なにっ、?」

おかしいほどに、この身体はエルを受け止めた。いくら潤滑剤を使っても流石に、最初は痛いと聞いたことがある。

それなのに。
これはなんだ。

「私をよく求めている。大胆で良い子だ。」

くしゃ、とまた頭を撫でてくれる。
それだけで、俺の身体はエルの欲望の為に尽くした。きゅむ、と腹が疼いて快感が止まられない。

嬉しい。
きもちいい。

頭をすっぽり抱え込まれて、尻が浮くほどにエルの腰が深く入り込んでいる。

初めは浅く。小刻みに愛してくれた。
俺は。それだけじゃ足りなかった。

恥じらいは愛情と快感の中で溶けた。
だからもっと奥へ。
奥へとエルを誘い込んだ。

「エ…ル、エル…」

「どうした?」

ぐっと腰を入れたまま、エルが止まった。
額と、鼻先にキスをして聞いてくれた。

「もうやめるか?」

優しい甘やかす声が心地よかった。
だから俺ももっとエルを甘やかしたいと思う。

「もっと… …ひどくしたい。」

ぎゅっと逞しい首にしがみついてお願いすると。
エルは低く唸った。
それは人の声ではない。獣の本能から出る唸り声。

「grrr… 」

あっと思った時には、三度目の熱が俺の中に流れ込んできた。熱い白濁を腹の中に受けて、愛しいと思う日が来るとは思わなかったな。

ぬるっと尻から抜けたエルの熱はまだ大きかった。俺は、自分からうつ伏せになって、白く濡れた尻を突き出して足を開いて見せ付けた。

ここにはやく。
はやくエルが欲しい。

腹一杯あんたが欲しい。

「ぁあーーーんぅく、イクッ」

ずぷりと最奥まで入ってきたエルは、容赦なく俺を責め立てた。
今イッたばっかの俺の背中を、上から体重をかけて抑え込んだ。
重くて堅い身体がずしっと乗って、なのにエルの右腕が俺の腹を抱えて離さないから。

俺の身体は完璧におかしくなった。
下肢がたらたら、ずっと白濁を吐いている。


俺はこれまでに無く幸せだと思った。


ーーー私の為によく来てくれた。

「お前は私の"右腕"だ。トキアキ。」

これが俺の初夜だった。
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