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第一章:キハラ トキアキ
第七話_前篇
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勿論、意思のすり合わせは出来ていた。
熱が出て眠りこけても、毎晩様子を見に来てくれたエルに言ったんだ。
「俺は、ちゃんとここでやって行くよ。」
だって、俺はあんたの為に此処に来たんだから。
俺はあんたの片割れだから、大統領の片割れとかびっくり過ぎて怖いけど。俺に帰る手段はないから安心して良い。あんたを置いて行ったりはしない。
そう言ったんだ。
「ありがとう、トキ。」
エルだって了承した。
この通り、小難しい書類も何とか読める様になったし、大統領の秘書室で働けるまでになった。
俺のロードマップは順調だ。
ただ、ひとつを除けば。
一応、俺たちは番という風になっているらしい。
勿論、結婚も出来る。しかも妊娠出来る。
男の俺でも、だ。
そこで一つの問題が生じた。
そう。俺は男に抱かれた事が無い。
というか、女の子の方が良くないか。
柔らかくて、良い匂いがして、小さくて可愛いだろ?
俺なんか、ゴツくは無いけど柔くも無いし可愛くもないし。
良い匂いかどうかは知らんが毎日、シャワーは浴びてる。
「番は良いよ、トキ君。」
秘書仲間のユディール君は言う。
彼は人間だが、この国に住む人間だ。
神話を子供の時から聞いて、自分にも鳥がやって来る日を心待ちにしていたそうだ。
代わりにやってきたのは、猫の亜人だった。
しかも御遣いの鳥を連れて。
成程。迎えに来られた側だった訳だ。
それでポンとお嫁に行ったユディール君は、相手が男でも女でも関係ないでしょ、と言う。
「この国で、人と獣が愛し合うのに必要なのは、それが自分の‘‘右腕’‘か’‘左腕’‘かだけだよ。」
神話で孤独な獣で人型を持った神様は、
自分の腕を裂いてその血と魂を二つに分けた。
右腕を裂いて人間を、左腕を裂いて獣を。
元々一つの血と肉を割くのはどれだけ痛かっただろう。それでも孤独という永遠の前には、何れ出逢うという可能性はとても眩しい希望に見えたのだろう。
だから、この国で獣人や亜人は自分の大切な人間を敬意を込めてこう言う。
ーーー私の’‘右腕’‘と。
だが。
俺はまだきちんと言ってもらっていない。
一度だけ、ユディール君と遊んでいたのを咎められて。
その時に聞いたくらいだ。
それでも、俺はまだ満足出来ずにいる。
俺に、‘’右腕‘’だと言わせる何かが足りないのか。
ーーー誰か、教えて欲しい。
そんな俺の心中を察したのは、やはりユディール君だった。
「これ、あげるよトキ君。」
「ん?何これ?」
「マ・タ・タ・ビ」
「はああ!?」
そうか。ユディール君の旦那さん、猫だったな。
俺は見た事ないけど警察官らしい。
多分。パトロールに余念が無いのだろうか。
「それ、すっごい効くんだから。」
「何に効くんだよっ、!」
「決まってるじゃん。夜にだよ。」
掌ほどの大きさの茶色い瓶に、またたびの枝が3本入っていた。
「これの蓋を開けて、ベットボードとかに置いておくと良いよ。」
物凄く良い笑顔で言い放ったユディール。
お前これを大統領に盛れってか。
「違うよトキ君。トキ君は‘’旦那さん‘’に元気になって欲しいだけだよ?」
「いやいや、その相手が大統領だって言ってるの!?」
「じゃあ、秘書の旦那だったら使う?」
俺は無言を貫いた。
けど、ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、騙される事にした。
確かに。俺は、肩書きに拘り過ぎていたのかも知れない。もし、相手が同期だったなら。普通のサラリーマンだったら、もっと。
踏み込めるのかも、知れない。
いや、そうか?
いいや、そうだ。
じゃなけりゃ俺に魅力が無いんだ。
それは申し訳ないけど、俺にはどうしようもない。
でも。未だに清い付き合いを行なっている。
あまり大きな声で言えたことではないが、所謂、本番行為の様なものがまだだ。
「本番、本番... 」
俺が思考のループを止められない間。
ユディールはこっそり俺の鞄にマタタビを滑り込ませていた。
熱が出て眠りこけても、毎晩様子を見に来てくれたエルに言ったんだ。
「俺は、ちゃんとここでやって行くよ。」
だって、俺はあんたの為に此処に来たんだから。
俺はあんたの片割れだから、大統領の片割れとかびっくり過ぎて怖いけど。俺に帰る手段はないから安心して良い。あんたを置いて行ったりはしない。
そう言ったんだ。
「ありがとう、トキ。」
エルだって了承した。
この通り、小難しい書類も何とか読める様になったし、大統領の秘書室で働けるまでになった。
俺のロードマップは順調だ。
ただ、ひとつを除けば。
一応、俺たちは番という風になっているらしい。
勿論、結婚も出来る。しかも妊娠出来る。
男の俺でも、だ。
そこで一つの問題が生じた。
そう。俺は男に抱かれた事が無い。
というか、女の子の方が良くないか。
柔らかくて、良い匂いがして、小さくて可愛いだろ?
俺なんか、ゴツくは無いけど柔くも無いし可愛くもないし。
良い匂いかどうかは知らんが毎日、シャワーは浴びてる。
「番は良いよ、トキ君。」
秘書仲間のユディール君は言う。
彼は人間だが、この国に住む人間だ。
神話を子供の時から聞いて、自分にも鳥がやって来る日を心待ちにしていたそうだ。
代わりにやってきたのは、猫の亜人だった。
しかも御遣いの鳥を連れて。
成程。迎えに来られた側だった訳だ。
それでポンとお嫁に行ったユディール君は、相手が男でも女でも関係ないでしょ、と言う。
「この国で、人と獣が愛し合うのに必要なのは、それが自分の‘‘右腕’‘か’‘左腕’‘かだけだよ。」
神話で孤独な獣で人型を持った神様は、
自分の腕を裂いてその血と魂を二つに分けた。
右腕を裂いて人間を、左腕を裂いて獣を。
元々一つの血と肉を割くのはどれだけ痛かっただろう。それでも孤独という永遠の前には、何れ出逢うという可能性はとても眩しい希望に見えたのだろう。
だから、この国で獣人や亜人は自分の大切な人間を敬意を込めてこう言う。
ーーー私の’‘右腕’‘と。
だが。
俺はまだきちんと言ってもらっていない。
一度だけ、ユディール君と遊んでいたのを咎められて。
その時に聞いたくらいだ。
それでも、俺はまだ満足出来ずにいる。
俺に、‘’右腕‘’だと言わせる何かが足りないのか。
ーーー誰か、教えて欲しい。
そんな俺の心中を察したのは、やはりユディール君だった。
「これ、あげるよトキ君。」
「ん?何これ?」
「マ・タ・タ・ビ」
「はああ!?」
そうか。ユディール君の旦那さん、猫だったな。
俺は見た事ないけど警察官らしい。
多分。パトロールに余念が無いのだろうか。
「それ、すっごい効くんだから。」
「何に効くんだよっ、!」
「決まってるじゃん。夜にだよ。」
掌ほどの大きさの茶色い瓶に、またたびの枝が3本入っていた。
「これの蓋を開けて、ベットボードとかに置いておくと良いよ。」
物凄く良い笑顔で言い放ったユディール。
お前これを大統領に盛れってか。
「違うよトキ君。トキ君は‘’旦那さん‘’に元気になって欲しいだけだよ?」
「いやいや、その相手が大統領だって言ってるの!?」
「じゃあ、秘書の旦那だったら使う?」
俺は無言を貫いた。
けど、ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、騙される事にした。
確かに。俺は、肩書きに拘り過ぎていたのかも知れない。もし、相手が同期だったなら。普通のサラリーマンだったら、もっと。
踏み込めるのかも、知れない。
いや、そうか?
いいや、そうだ。
じゃなけりゃ俺に魅力が無いんだ。
それは申し訳ないけど、俺にはどうしようもない。
でも。未だに清い付き合いを行なっている。
あまり大きな声で言えたことではないが、所謂、本番行為の様なものがまだだ。
「本番、本番... 」
俺が思考のループを止められない間。
ユディールはこっそり俺の鞄にマタタビを滑り込ませていた。
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