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第一章:キハラ トキアキ
第十話
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「何度話しても同じことだ。我々に交渉の余地はない。」
「ですが、此方の国に滞在している彼女は元はと言えば私共の国で活躍する者でした。それを不当に囲い込むなど許されることではありませんぞ。」
「その彼女たちを追補したのはあなた方だった筈ですが。更にお言葉を返す様だが、何も囲い込むつもりなど毛頭ない。」
「では何故、未だに面会の一つも取り次いで頂けないのでしょうな?」
「アレらは人智を超えた存在の末裔だ。我々が所有しようなど驕っているとは思わないのか。」
議論が、果てしなく進まない議論が。
かれこれ2時間以上、俺の前で繰り広げられている。もうそろそろ3時間になるんじゃなかろうか。
俺の目の前で明らかに不機嫌そうに悪態付いているのが、隣国のお偉いさんだ。
それをどこ吹く風と、涼やかに受け流しているのがうちの国の、現・大統領補佐官だ。
おじいちゃん先生のお茶目さに、足して有り余るほどの無情さを足したのがこの人だ。
名前は、デルモント・クイレ。
因みにおじいちゃん先生は、ベルモント・クイレ。なんと一文字違い。なんとまあ紛らわしい。
そこで区別するために、皆はチーフと呼んでいるそうな。俺もその通り呼ぼうとしたら。
「お前は私のチームメンバーでは無いだろう。」
釘を刺されたのだろうか。
それから。俺だけが’‘デルモントさん’‘と呼び続けている。
かれこれ5日。デルモントさんに張り付いて、ひたすらに耳と目を働かせている。
とにかく知らないことだらけで、気を抜くと頭からボロボロと、情報が転げ落ちていく。
初めはメモを取って、仕事を覚えようとしたのだが。デルモントさんに止められた。
「お前の仕事は、私に着いて回る事だ。ここでそんな物は役に立たない。」
新人の第一歩、メモを取る。
それを無くした俺は、次何をすれば良いんだ。
だが、5日も着いて回ればその意味が分かった。
大統領補佐官というものは、メモを取っている暇さえないのだ。更に、補佐官室に戻れば様々な思考実験が行われた。
会合、会議、思考実験、会議、会議、会議。
毎日がそんな事の繰り返しで、新しい情報日毎飛び込んでくる。
明日は休みを貰った俺は、這々の体で家へと帰り着いた。
「もう、無理で…す。」
お手伝いさんに励まされ、何とか夕飯を摂った後、俺はゴトンッと寝落ちした。
‘’デコが痛い…‘
ん。? 話し声?
デルモントさんの声が、する?
「大丈夫だ、良く寝ている。」
「私にこき使われて疲れてるんだろう。」
「そうだろうな。」
笑い声。二人とも仲良かったんだな。
俺は抱き上げられたのだろうか、急にふわっとした浮遊感に襲われたかと思うと、心地よい柔らかな場所に降ろされた。
多分、ソファだ。
ここにソファ、柔らかいんだよなぁ…。
ゆらりと続く微睡の中、俺の耳は二人の声を聞いていた。誰かがいる空間で眠る。それは俺にとっては心地良い。
今までそれは、一方通行のラジオや音楽だったりしたが。今は違う。
好きな奴の声を聞きながら眠ることが、こんなに安らぎを覚えるなんて。
俺は知らなかったよ。
二人の会話は良くわからない、けど。
エルがこんな甘い声を出すってことは、俺のことに違いないや。
「ふふん…」
俺は夢見心地で、そのまま眠りへと着いた。
「ですが、此方の国に滞在している彼女は元はと言えば私共の国で活躍する者でした。それを不当に囲い込むなど許されることではありませんぞ。」
「その彼女たちを追補したのはあなた方だった筈ですが。更にお言葉を返す様だが、何も囲い込むつもりなど毛頭ない。」
「では何故、未だに面会の一つも取り次いで頂けないのでしょうな?」
「アレらは人智を超えた存在の末裔だ。我々が所有しようなど驕っているとは思わないのか。」
議論が、果てしなく進まない議論が。
かれこれ2時間以上、俺の前で繰り広げられている。もうそろそろ3時間になるんじゃなかろうか。
俺の目の前で明らかに不機嫌そうに悪態付いているのが、隣国のお偉いさんだ。
それをどこ吹く風と、涼やかに受け流しているのがうちの国の、現・大統領補佐官だ。
おじいちゃん先生のお茶目さに、足して有り余るほどの無情さを足したのがこの人だ。
名前は、デルモント・クイレ。
因みにおじいちゃん先生は、ベルモント・クイレ。なんと一文字違い。なんとまあ紛らわしい。
そこで区別するために、皆はチーフと呼んでいるそうな。俺もその通り呼ぼうとしたら。
「お前は私のチームメンバーでは無いだろう。」
釘を刺されたのだろうか。
それから。俺だけが’‘デルモントさん’‘と呼び続けている。
かれこれ5日。デルモントさんに張り付いて、ひたすらに耳と目を働かせている。
とにかく知らないことだらけで、気を抜くと頭からボロボロと、情報が転げ落ちていく。
初めはメモを取って、仕事を覚えようとしたのだが。デルモントさんに止められた。
「お前の仕事は、私に着いて回る事だ。ここでそんな物は役に立たない。」
新人の第一歩、メモを取る。
それを無くした俺は、次何をすれば良いんだ。
だが、5日も着いて回ればその意味が分かった。
大統領補佐官というものは、メモを取っている暇さえないのだ。更に、補佐官室に戻れば様々な思考実験が行われた。
会合、会議、思考実験、会議、会議、会議。
毎日がそんな事の繰り返しで、新しい情報日毎飛び込んでくる。
明日は休みを貰った俺は、這々の体で家へと帰り着いた。
「もう、無理で…す。」
お手伝いさんに励まされ、何とか夕飯を摂った後、俺はゴトンッと寝落ちした。
‘’デコが痛い…‘
ん。? 話し声?
デルモントさんの声が、する?
「大丈夫だ、良く寝ている。」
「私にこき使われて疲れてるんだろう。」
「そうだろうな。」
笑い声。二人とも仲良かったんだな。
俺は抱き上げられたのだろうか、急にふわっとした浮遊感に襲われたかと思うと、心地よい柔らかな場所に降ろされた。
多分、ソファだ。
ここにソファ、柔らかいんだよなぁ…。
ゆらりと続く微睡の中、俺の耳は二人の声を聞いていた。誰かがいる空間で眠る。それは俺にとっては心地良い。
今までそれは、一方通行のラジオや音楽だったりしたが。今は違う。
好きな奴の声を聞きながら眠ることが、こんなに安らぎを覚えるなんて。
俺は知らなかったよ。
二人の会話は良くわからない、けど。
エルがこんな甘い声を出すってことは、俺のことに違いないや。
「ふふん…」
俺は夢見心地で、そのまま眠りへと着いた。
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