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第一章:キハラ トキアキ

第十三話

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さて、今日が約束の1週間だが。
やっぱり俺の気持ちは変わらない。

「来たか。」

俺は大統領室の扉をノックする。そこにはエルともう一人。
デルモントさんまでいた。

「まぁ、座れ。」
「失礼します。」

俺は促されてソファに座った。
向かいには大統領とその補佐官。

なんだ。面接みたいになってるぞ。
この国のツートップが並んで俺を見ている。
こんなん圧が凄すぎて窒息するわ。

「それで、お前の意見を聞こうトキアキ。」

俺は背筋を伸ばして答えた。

「俺の気持ちは変わりません。」
「理由を聞こう。」
「正直言います。俺には荷が重すぎます。一つ一つに考慮すべき件が多すぎて、それを全て思慮できるほど俺はまだこの国に詳しくない。今から学んで覚えるには時間が掛かり過ぎます。それと、経験が足りないと思います。あと…若過ぎます。俺みたいな若輩者では、逆に舐められるかも知れません。」

俺は、膝に置いた拳を強く握り締める。こんなに情けないプレゼンが有るもんか。
だがこれは、俺がこの七日で学んだ俺の弱点であり、欠点だ。
言ってて悲しくなるが、国の大事な柱に不安要素は要らない。
そう思うだろ。

「他には。」
「いえ、有りません。以上です。」
「分かった。少し待っていろ。」
「分かりました。」
「茶はそこにあるものを好きに飲みなさい。」
「へ、ぁ、ありがとうございます。」

そう言って、大統領とデルモントさんは隣の部屋へと移って行った。
俺の今後の対応を話し合っているのかな。
俺はエルが言っていたようにお茶を淹れることにした。
ぼうっとしてても仕方ないし、何かしてないと落ち着いていられない。

琥珀の綺麗な紅茶は、いい匂いがする。
俺、どうなるのかなぁ。出来れば秘書室に戻してくれると良いんだけど。
何なら妊活…だっけか。とか何とか言って辞めてもいいかなぁ。
せっかく俺を選んでくれたのに。期待に応えられなくて申し訳ないと思う。
でも、池から落ちたら、大統領の恋人が出来て、結婚して仕事も落ち着いてきたと思ったら。
今度は大統領補佐官だって。夢みたいだ。

いや、夢じゃないな。マグが熱いから間違いないぞ。
でも。妊活は良いかも知れん。だってライオンのアレは凄そうだ。色々覚悟が要りそうだし。
って、俺は何を考えてるんだ、!
ここは大統領執務室だぞ。

頭をブンブン振って、煩悩をマッハで追い出していると丁度。ドアが開いた。
見られた。見られたぞ。絶対見たな、!?

「どうかしたか?」
「う、ううん!大丈夫!」
「そうか。では、お前の今後について話していた。」

横でデルモントさんが腕を組んで神妙な顔で俯いている。
何か嫌な感じがする。

「お前は今後、大統領補佐官の補佐として職務に就いてもらう。」
「はい、分かりま…し、え。」

なんて?

「あの、秘書ではないんですか?」
「違う。お前は私の補佐として側に着いてもらう。」

今日初めてデルモントさんが口を開いた。

「いや、それじゃ昨日までと一緒なんじゃ…」
「そうだ。」
「何故ですか?」
「見込みがある。以上だ。」
「以上、ですか。」
「そうだ。これ以上の語論が必要か?」

デルモントさんは至極面倒くさそうに天井を見つめて言うが、説明は必要です。

「まず、俺はこの国に詳しくありません、それはどうするつもりですか、?」
「だから私に着けと言っている。」
「では、時間は。デルモントさんは早期に引退される予定ですよね。」
「予定は変わる。お前が一人前になるまでは私が着く。完全に引退を予定いていたが、お前ばかりに無理を押し付けるのはよくないとコイツが言うからな。私はその後、相談役という立場に居よう。」

それは、俺のためにわざわざ役職をひとつ作ってくれるという事だろうか。
大統領も凄いけど、デルモントさんも凄いな。

「じゃあ、俺が若過ぎるというのはどうするんですか。」
「だから如何だというのだ。そんなものねじ伏せてしまえ。」
「いやいや、そんな強引な手で通じますかね。」
「お前はあのラッパ小僧を黙らせたのだろう。その手腕を発揮する時だ。」

それは以前、白紙の手紙で脅した何とか君の事だろうか。

「あ、あのっ、!これ…断れるんですかね。」
「何故だ。」
「何故?」

二人が意味がわからないという顔をして、こっちを見た。

「やっぱり、?」
「トキ、これは最後の手段にと取っておいたんだが。私は切り札を使うべきか悩んでいる。」
「うむ。」

デルモントさんまでが深く頷いている。

なるほど。
エルムディン・メ・エリタ最後の切り札とはつまり。

「大統領命令、ですか。」

大統領は無言で頷いた。YESとは言わなかった。

「あくまで私はお前の意志を尊重したい。」

これはつまり、そういう事である。
大人の掟は何処も一緒だ。
俺は一瞬向こうの会社を思い出した。

「まさか、大統領補佐官に就任するなんて。」
「だが、受けるしかあるまい。」
「そうだぞ。」
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