【完結】【R18】 二人の主人と三人の家族

mimimi456/都古

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本編'24

2月14日 (1

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プレイを禁止されて4日目
半年で落ち込みを退け、魔改造に成功した二人の手腕にジリジリと痛感していた。

「おはよう良悟。」

「おはよう。」

ハグをして、それがとても離れ難い。
和己の匂いがする。
首と胸元が一番良い匂いがするんだ。

「遅刻するよ甘えん坊さん。」

「分かってる。あと30秒だけ。」

この家の時計は秒針の音がしない。
俺が怖がって眠れないからだ。
デジタル時計は陸也が好きだけど、俺と和己はアナログの方がいい。
視覚的に情報が拾えるから楽だ。

つまり、算数は嫌いだ。

高校では和己と頭を抱えて、数学を解いた。
大学では陸也が横に並んで教えてくれた。

「いい事思いついた。」

「うん?」

「顔洗ってくる。仕事行かないと。」

因みに今日行けば明日は休みだ。
だから本当ならプレイがしたい。

けど、再来週まで禁止だ。
でも、和己のアレが欲しい。
欲し過ぎてお腹がジクジクする。

「昼、遅くなるかも。晩御飯のリクエストあればメッセージ送って。」

「了解。気を付けてね。」

「行ってきます。」

たった三時間働いて、そろそろもう一つ増やそうかとも思っている。
側に丁度良さそうな時間帯で募集している所があるんだ。
今日はそこに行って、その後隣にあるアウトレットで晩御飯を考える。

高校時代の思い出は、和己の事以外あまり覚えてない。
ソレ以前の記憶もかなり曖昧で、何をして過ごして来たのか自分でもよく分からない。

ネットで得た知識で言うと。

俺の話を聞く人が周りに居なかったんだろう、と言う事だった。
どうりで和己の事ばかり覚えてる筈だ。
しつこかったし。
ピアス開いてたし、ギャルみたいだった。
俺は只のモブだ。顔だけは良いから、優秀なモブだったかも。

「これ、着て帰っても良いですか。」

勿論です、とレジのお姉さんが畳んだ服のタグを切って渡してくれた。
ビニール袋に着替えを入れて良いですよって持たせて、試着室を教えてくれる。

多分、バレてる。偶に和己と来るんだよここ。
撮影衣装を買いに。
お姉さんの目がチリチリと燃えてる気がする。
参ったなぁ、仕方ないなぁ、と思いながら俺は人差し指を立てた。
へにゃっとマスク越しに笑って、誤魔化しとこ。

じゃないと、今度来づらいじゃん。

ズボンは仕事着にしてるこのスラックスで良い。
だから買ったのはワイシャツと、あの頃と良く似た形のカーディガンがまた流行ってるんだな。


「おぉ...」

我ながら脳みそがバグりそうだ。

当時と変わらない見た目になった。
童顔って危険物なんだな。可哀想に。
俺はスタスタ歩いて店を出る。

その時、通り掛かったレジでお姉さんと別のお姉さんとおばさんが。
黄色い悲鳴上げてた。
俺なんかを眺めて喜んでくれるなら、ちょっと嬉しい。

けど、これ運転して大丈夫か。止められたら嫌だな。

「はやく、帰ろ。」

あとはアウトレットに行って、晩御飯の材料を買うだけだ。

ーーーーー

「和己。和己、頼むから...ねぇってば。」

和己が玄関を開けた時から動かなくなった。
膝を付いて、俺を見上げたまま呆けてる人間ってどうしたら良い。
声を掛けても、肩を叩いても、俺をガン見したまま全然動かないんだ。

「陸也に電話する、か」

けど。
電話しても困るだろ。

完全に宇宙猫だ。
トリップ現象。
分かる。
俺も試着室でちょっと混乱した。

脳みそバグったんだな。俺が悪かったよ。
けど。
返事してほしいな。

「え、っと... ... シロナガ、?」

「何、良悟」

「バグ取れた?」

「いや、まだだね。まだだよ」

ローディング中ってイライラするけど、本人はこんな風に頑張ってデータ読み込んでるのかも知れない。
とりあえず、俺はもう少し加減した方が良いな。
サプライズにしても、事前告知とかした方が良いか。
でも、サプライズだしなぁ。

どうしよう。

仕方ないから二人して玄関に並んで座る。
座って暫くぼーっとしてたら、やっと和己が口を開いた。

「良悟、」

「あ。喋った。」

「おれ、死んだかと思ったわ。」

「それは、ごめんっ」


そんなに言われると恥ずかしい。
けど、俺はこの格好、気に入ってしまった。

高校は、近いからと言う理由で、ちょっとした不良っぽい所に行った。
しっかり名前を書けば、丁寧に書けば尚良い。
それだけで受かる、と豪語されるような高校だった。

入試は本当に、心配になる様な問題ばかりだった。
けど、意外と難しいのも突っ込んであって、舐めたらキチンと痛い目に遭う事を教えてくれる所だった。

学ランをちゃんと着るのは式典と服装検査の日だけで良いし、忘れても隣のクラスの奴から借りて来いと言ってくれる先生も居た。
因みに、その隣のクラスと言うのは、ほんの5分前まで服装検査を受けていて、俺達の右側に並んでいた。

その生徒はダッシュで右隣の奴から学ランを引っぺがしていた。
覚えたばかりの言葉で、追い剥ぎが出たぞと言い返され笑いが起きた。

そんなだから、ピアスをしても髪を染めても良かった。
但し、ベルトとピアス以外の金属を身に付けるのは禁止。

メリケンサックとか、金属バットとか、チェーンとか。
龍と剣が合わさった様なキーホルダーもな。

「とりあえず立ったら?ここ玄関だし。」

「... ... 。」

「ふっ、やば。めっちゃ効くじゃん。」

思わず、軽口が出た。
そう言えば昔はこんな喋り方だったな。
今は、少し喋るのが苦手になったけど、それはそれで結構気に入ってる。


「シロナガ。」

「え?」

「ここ玄関だからリビング行こう。ごはん食べたい。」

脳みそバグってる和己、面白過ぎる。
なんで名字呼ばれて返事するんだよ。

「行こう」

「おーけー」

「まだバグってんのっ?」

「けっこうやばいよ、全然りかいできねぇ。」

「ごめんってばっ。」

和己がお腹空かせてると思ってパスタにしたんだ。
鍋を二つ出して、片方でパスタ、片方でソースを温めるだけ。

「あーー・・・」

「何で唸ってるっ、?」

「まぁーじで脳みそがやばいよぉー。」

ローディングって最初無音だよな。
それで、軽めのデータが読み終わると音楽が鳴ったりTipsが出たりする。
多分和己は今、そこだな。
さっきからうるさくなって来た。


「あーー・・・かっわいぃ、あの子なんで俺の家で飯作ってんの?」

「家族だからじゃない?」

「まぁじ?俺やったの?最高じゃん?待って、今やばい記憶がどんどん練り上がってる。」

「冷凍唐揚げ食べるひとー?」

「俺の飯、準備してんのヤバ...っ、」

「要らないひとー。」

「俺の黒柴ちゃんが元気に喋ってんじゃん。はぁ良い。」

そうだった。
和己はうるさいんだ。
人の話を全然聞かないし、ずっとひとりで喋ってる。

こう言う時は無視して良い。
大丈夫、あいつは気にしない。まじで大丈夫だ。
パスタを引き上げ、ソースを流す。

唐揚げも丁度解凍出来た。

「リョーゴ」

「ん?」

「好き♡」

あの頃より少し落ち着いた髪色のギャルが屈託なく笑って俺を見てる。

ズルい...っ、
高校の時、馬鹿みたいに繰り返したやり取りだ。

ーーーーー

「あぁっ、だいぶマシになって来たっ、」

「俺は疲れた。やり過ぎた。これはもうしない。」

本当はやりたい事が有ったんだけど、もう着替えた方がお互いの為に良い気がしてならない。

「え、駄目だよ、陸也が帰ってくるまで待ってよ?ね?」

「シロナガがシロナガって呼ばなくても反応出来るようになったら、考えとく。」

「それはー…難しいね。」

俺だって10年前は高校生だったなんて、信じられない。
と言うか、名字で呼んでたのは高校の3年間の筈だ。
あとの7年の方が名前で呼んでるのに、何で名字じゃないと反応しないんだ。

なんか、微妙に不便だ。

「それはそうと、何で急に高校の時の格好してんの?」

「そんなの、決まってる。」

「なぁに。」

皿を洗い終わった和己は、リビングに座る俺の背中を抱いて来た。

「俺が欲しい良悟?」

「欲しいけど、それとは別のあげたいものがある。」

実はずっとカーディガンの深いポケットに詰め込んでた。
だって今日はバレンタインだろ。

ガサッと手を突っ込んで、掌いっぱいの四角いチョコを押し付ける。

「マジ?俺、こんなん泣きそうなんだけど...っ、」

「高校の時、毎日食ってたじゃん、今朝...それ思い出したから、」

白と黒と牛の絵の書いてある一口サイズのチョコ。
こいつらは沢山のシリーズが有って、それを何時からか和己がくじ引きみたいに毎日くれるようになった。

偶に強奪するようにポケットに手を突っ込んだ事もある。

それを、今朝時計とか数学とかと一緒に思い出したんだ。
あと、今日がバレンタインだって事も。

「黒柴の恩返し...っ、」

「変な話作るな。」

別に毎年渡さなかった訳じゃない。
なんとなくこの時期に出る高めのチョコを買ったり、自分で溶かして酒を混ぜたり、生クリームを混ぜたりした時も有ったけど。

これは、やった事なかったから。

「サプライズ?」

「ん。ちょっと効き過ぎた」

「大成功だよ、まだ効いてる。」

「けど、」

「ん?」

「下心も...結構、ある。プレイじゃなくて、いちゃいちゃしたい。多分、和己は今の俺には逆らえないと思うっ。」

向き合って座る俺の目の前の男は、俺の事がだいぶ好き過ぎるから。
高校生の俺がおねだりすればイチコロに決まってる。
その為の、デカいカーディガンだ。

ひとつ、萌え袖はゴリラじゃなくても効く。
ふたつ、紺色デカめのカーディガンは俺の見た目と相性抜群。
みっつ、強気で待機。

「し、ごとが有るんだ良悟。」

「知ってる。」

「しかも今、手を出すと妙なプレイをやりかねないよ俺。」

「知ってる。」

「だから、駄目。」

「嫌だ。シロナガ。」

和己が心臓を握り潰しそうな勢いで、胸を押さえてる。
効果抜群だ。

「... ... 陸也が帰ってきたら、考えるよ」

「分かったっ」

「俺、チョロ過ぎる、」

しおしおになった和己はまだ両手にチョコを抱えてた。
俺は今気分が良い。
試合に負けて勝負に勝った気分だ。

だから、一粒摘んでフィルムを剥いでシロナガの口に突っ込んだ。
突っ込んだ自分の人差し指をちゅっ、と吸い付くと記憶通りのチョコの味がした。

「ゴチソーサマ♡」

ニィッと笑ってやる。

10年越しの逆襲が今、果たされた。

「リョーゴっ、」

「仕事して来いよ、俺はビーズ持ってくる。」


10年前、大学受験で必死になってた俺に和己が同じ事をした。
鮮やかに笑ってひらっ、と手を振って応援してくれた俺を支えてくれた恋人だった奴。

今は
茹で上がってるな。

「こんなん、ずるぃってぇ、」

両手を挙げたままローテーブルに突っ伏してる。

「ふっ、変な奴っ。」
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