【完結】【R18】沼に落ちたら恋人が出来ました。

mimimi456/都古

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第一話

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最近、生きててよかったなって思える事が増えた。
ちょっとそこまで、と思って小雨の中をふらりと歩く。
目的地はすぐそこの神社だ。
家で同然に実家を飛び出して5年。

和解とまではいかないまでも、互いにメッセージを送りあって他愛無い会話が出来るようになった。
これは俺にとっては大きな進歩だった。

あの家にいた頃は、まともに口が利けない程だったのだ。
それがこうして時々は、“普通”の会話ができている。有難い事だ。
今でも胸の支えを感じることはあるが、この5年でお互いに距離感を掴めるようになった。

「ごめんな、母さん。」

そう呟いて、スマホの明かりを消す。
ここから先は、俺の聖域だ。

左端から、礼をして小さな門から入る。
スタスタと歩くと手水舎が現れて、そこで手と口を漱ぐ。
触れた柄杓にも水を流して、垂れていく。

この瞬間が好きだ。

柄杓は良い。
水が滴るだけで綺麗に見えるんだから。

それから更に奥へ行くと大きな本殿が見えてくる。
ここは稲置神社。

この神様には、出来の悪い弟がいて。
左遷された恨みで、なんと死後に偉い人を祟りまくったらしい。
それで犠牲になった人は数知れないという。
この土地を随分と荒れたといわれている。
あまりに恐ろしい祟りで、稲置神社のイナギ様が神様に頼んで弟を何処か遠くの山へとへ封じ込めた。

その弟に代わって、この土地をずっと見守ってくれているのがイナギ様だと、看板に書いてある。

ここは自然が多い。
花や土、今は雨の匂いが鼻をくすぐってくる。
この空気を胸一杯に吸い込む事が、俺の心の安寧を保つきっかけになってくれた。

ここに来て、ここの空気を吸えば、俺も許された気になって。
少しずつだけど、自分と向き合う事ができて行った。

この5年、俺の人生は無駄じゃなかったんだと、実感出来ている。

「やったー!大吉だって!」

境内をぶらついて回るのが日課の俺は、その日
イケイケギャルな姉ちゃんがおみくじを引いて大吉が出たのが聞こえた。

“良かったな。良い事が有りますように”

そう願ってその姉ちゃんを一瞬、チラ見しただけだったのに。
それを横に居た兄ちゃんにバッチリ見られていた。

そこで、俺の運は尽きた。

今時珍しくなくなってきた、散々ないちゃもんを付けられ、神社の裏手に引っ張って行かれた。
そこにはちょっと、落ちたくない沼が有る。
落ちたくは無かったんだが、ガラの悪い兄ちゃんは容赦がなかった。

俺は、複数回殴られ、最後の一発でそのドロドロに汚れた沼に落ちた。

それも頭から。

助けてくれる人は誰もいない。
なんせ稲置神社はひとが無い。
しかも今日は雨で平日の昼前だ。

そんな時間にここへくるのは、俺くらいなモノだった。

最近やっと生きてて楽しいなと思える様になったのになぁ。

俺は必死に足掻いたが、
泥の中じゃ息も出来ないのに、酷い臭いがして身体だけはどんどんと沈んでいく。

最期の最期に、こんな気持ちのままじゃ死ねない、そう思った。
魂は巡るという。
俺の器が終わったら、俺の中の魂は次の誰かに受け継がれるんだ。

それなのに。

こんな後悔ばっかで、ドス黒いモヤを抱え込んだままで。
この魂を還してやるのは可哀想だと思った。

ーーーこのままじゃ俺の魂は浮かばれ無ぇ。


もう頭が真っ白になって
藻搔いていた手も動かなくなった。

もう死ぬのか。死にたくない。
でも死ぬならちゃんとお礼しなきゃな。


祓へ給え、清め給え。
神ながら守り給へ、幸へ給へ。

お祓いください。お清めください。
神様のお力によりお守りください。
幸せをおあたえください。

なぁ。神様。
俺は最近だけど、好き勝手生きれて楽しかった。

だから、俺の他の人たちを助けてやってよ。
その中に、俺の親父とお袋も入れてくれると、嬉しい。

無理なら良いんだ。

ただ、俺は“此処”に来られて良かったよ。

じゃあな。
クソッタレな世の中よ。
ありがとう。




その時、本殿の中では人知れず囁き声がこだましていた。

ーーーイナギ様、

ーーーそうだな。今が好機か。
アレはなかなか“良いもの”を持っている。
紺、着いていくかい?

ーーー御意。

「では行っておいで。お前たち二人の旅路に、幸多からんことを、祈っているよ。」

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