【完結】腹が据わった愛し子は自己満を押し通す!

mimimi456/都古

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第八話

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それからマリア一行は南の森を目指した。
道中は、民家や田畑が立ち並びもしたが。
それも森の手前までだ。

ここから先は、魔獣の森。

この森は隣国まで達する程に広い。
それ故に昔、国境線を引こうとして入った兵士が数多森へと侵攻した。
しかし、森の入り口から中腹までは行けたとして。そこが人間の辿り着ける限界地点であった。

命からがら、帰ってこれるギリギリの境界線。
そこから奥に立ち入った猛者も居たが、帰らなかった者の方が圧倒的に多かった。
どんな勇者もどんな魔術師も、魔法使いも獣人だって入ることは叶わない。

何故なら、そこが人類未踏の地。
【精霊の庭】なのだから。

「セト、アル。私から離れないでね。」

いくらマリアが愛し子であっても、彼女たちの加護なしにこの森は進めない。
緑色の加護はまだ効いてる。
可能な限り早く、目的地まで辿り着かないと。

マリアは黙々と歩いた。
太い木の根に足を取られたり、魔獣に出くわしそうになりながらも何とか切り抜けてきた。

慎重に進むうちに、やがて昼時の様だ。

「そろそろ休む場所を見つけよう。」

先は長い。危険な森を急いで逃げたくなる気持ちは分かるが駄目だ。疲弊してまで進むのは危険すぎる。
まだ明るいうちに、落ち着く場所を見つけなくては。

「もう少し行けば湖があった。」

「そこで休もう!」

「決まりね。」

アルは此処までの道を覚えていたらしい。
さすが狼。

「あそこなら他にも人間が居るかも。」

森の中腹に入る前の、最後の安全圏。
鬱蒼とした木々は大きく開け、碧く澄んだな湖が鎮座する。あそこなら、一晩凌げる。

「見つかると面倒だから。少し離れたところに野宿しよう。」

女子供だけで中腹へ進むなんて、何を言われるか分からない。普通のひとなら危険だからやめろと言うだろう。
だが、マリアたちの目的地はその奥。
【精霊の庭】への秘密の入り口へ向かう。

人目につく事も、誰かに追われる事も避けなくては。人間に見つけかるのを彼女たちは嫌う。

ーーー慎重に行こう。


でも、お腹が空いた。
漸く湖に着いた時、人は誰も居ない様だった。

「疲れたぁあ~!」

一行は取り敢えず持ち寄った食料を分け合った。
これだけが、この旅唯一の憩いかも知れない。

ただの丸いライ麦パンにナイフで切れ込みを入れる。その隙間にチーズと干し肉を挟んだ。
勿論、マリアはそこにハーブを入れる。
此処ぞとばかりにリュックを開けて、乾燥させたローズマリー。それからガーリックをふりかける。

「ぁあ~美味し過ぎる。幸せだわ。」

なんて贅沢なお昼ご飯なんだ。
ライ麦ぱんは噛みごたえのある硬さになっていて、それが貧相だなんて言わせない程、具材が美味しい。

それもこれも、食に貪欲なこだわりを見せたマリアの努力の賜物だ。
冬になるなり庭の小物を乾燥させるついでと言って。せっせと魔獣の肉を仕入れ、ひたすらに乾燥と熟成をした。それからはハーブや塩胡椒の配合量を事細かに調節して。
漬け込む間に暇だからと、買ってきたチーズまで燻製させた。

そのうち燻製屋でも始めるのかと言う程に、作り込んで。保管に困った挙句、ガゼルや教会に持っていった代物たちだ。

「無駄なものなんて、何一つ無いな。」

「でも、煙かった。」

「僕もー。胡椒、鼻がムズムズして大変だった。」

「えへへ。ごめんね。」

備蓄は大変喜ばれたし、マリアの趣味の実用にもなって大変よかったのだが。
いかんせん、彼らの優秀な鼻を鈍らせてしまったので少しして辞めてしまった。

胡椒を振る度に、くしゃみをする彼らは本当に可愛かった。

ーーーなんであんなに頭を振るんだろうね。凄く可愛いけど、首痛く無いのかな?

ふふ、と思い出して笑うマリアに二人が意を決した様に告げて来た。

「夜は、俺とセトが見張りをする。」

「マリアは休んでて。」

「…え、駄目よ。」

二人の決意はあっという間に霧散した。

「なんで、?」

「僕ら耳良いから、寝てても起きれるよ!」

「だから良いんじゃない!また皆で寝よう!」

「ぇええーっ、!?」

二人は驚きすぎて大きな声を上げてしまった。
確かに。何年か前までは一緒に寝た。
同じ布団で、子犬と子狼と人間とで眠りに付いた。

亜人の子供達ではよくある話なのだが、何故か眠りに付いた時だけは獣の姿になるのだという。
それも一時的で、成長するにつれて、その現象は無くなるそうだ。

前に森で二人を拾った時も、そうして眠ったのだ。それまでこの子達は眠らずに森を駆け抜けていた。こんな小さな子供たちが眠れる訳が無かった。

「ちゃんと、敷物も持ってきたからね。」

勿論、熟睡出来るとは思っていない。
火も絶やさずに燃やし続ける。
それに、寝床は木の上だ。

今のうちに木の枝に縄を沢山掛けて、上に敷き布を張る。前は穴から足が出るのが怖いと困らせてしまったから。マリアは万全を期してきたのだ。

また子犬と子狼を抱きしめられるのなら、このくらい。何と言うことは無かった。
実に、自己都合満載で。

優しい二人が断れる訳もなく。
結局三人は一緒に寝ることになった。

少しだけ昔の話をして。これから先の話もして。もしかしたら本当に燻製屋さんになるかもね、と笑って。

深夜、生き物の気配が静まった頃にアルとセトは眠った。

「二人とも、もふもふね。」

二人とも伏せがちで眠っているのは、宣言通り周囲を警戒している証拠だろう。
だが、その姿は愛らしい子犬と子狼の姿だった。

「これが見られるのも、もうすぐ終わりかしら。」
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