ドレス愛が止まりませんっ!〜ドレス大好き令嬢のデザイナー生活〜

浦藤はるか

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本編

#10 仮面舞踏会〜後編〜

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「「・・・・・・ 」」

ふと、話の切れ目で静寂が訪れた。
扉からは小さくオーケストラの演奏が聞こえてくる。そんな中で冷静になるというか、急に気恥ずかしさを感じてくる。きっとウィンも同じなのでしょうね。なんだかタイミングを逃しちゃって、なかなか話を切り出せない。あれ、さっきまでどんな風に話しかけていたっけ。なにも言葉が出てこない。話したいことはまだあるのに⋯⋯。


「っ⋯⋯」


声が喉につっかえて出てこない。ふぅっと息がもれるだけ。私が一人押し問答している間に、ウィンが静寂を打ち破った。


「あー⋯⋯っっとリリー、すまない。だいぶ話していたよな。時間はその、貴重だ。君も令嬢、貴族令嬢だろう。今日は相手を見つけないといけないのでは? 」

「そう、ですね」

「では名残惜しいがここで終わりにしようか」


くるりとターンし、テラスから会場に向かおうとするウィン。

えっ?

 私や、やだっ。まだお別れしたくないわ! まだまだドレスについて一緒に語り合いたいのに。
ここまで思ったところで気付いた。
手、みみみぎ手がっ、ウィンの上着の裾を握りしめていることに。気づいた途端身体中があつくなって、へんな汗をかきはじめる。なっ、どうしたの、私。もう子供じゃないんだからっ! とても恥ずかしい。
そっとうつむいていた顔をあげるとウィンと目が合う。きっと驚いていらっしゃるわよね。あぁ無かったことに......いや、ダメだ。どうせ今夜限りの関係。今この仮面をつけてる間私は、令嬢じゃなくて身分なんか関係なくて、ただのドレス大好きな人。今日ぐらい自分に正直にならなくちゃ。勇気を振り絞ってゆっくり声を出す。


「あの! 私はまだお話したい、です」


よくやった私、言ってしまったわ。あぁもうやだ。じっとウィンをみつめながら、自己嫌悪に陥る。息を吸って吐く、その1秒1秒がとても長く思えた。


「⋯⋯っ! そんなに見ないでくれ。リリーは本当にいいのか? 」

「はい。ウィンのご迷惑でなければですけれど」

「迷惑になんか思っていない。だが、このままテラスに居ても身体が冷えるだろうから、続きは中にしよう。折角のチャンスだ、実際のドレスを見ながら話したい」

「いいですね。ぜひそうしましょう! ドレスをこんなに見れる機会そうそうないですもんね」


やったぁ~! 勇気をだして良かった。まだまだ話せるのね。緊張して張りつめていた糸が緩んでいくのを感じる。自然と頬が緩んでいくのを感じつつ、彼にエスコートされながら会場に戻った。


☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆


豪快に響き渡るオーケストラの演奏の中、壁際にたたずむ私達。落ち着いた照明に照らされる。端って何となく過ごしやすい。片手にジュースの入ったグラスを持ちながらゆっくり話し出す。


「リリーあそこの右から2人目のドレスどう思う? 」

「そうですね、色の染め方が何よりも丁寧で綺麗だわ。多分ですがあの色はツール地方のものかと」

「あぁ、色が強く出ているな。ツール産のライヤの実を使って染め上げたのだろう。独特の色合いだ」

「なるほど、ライヤの実ですか。私ライヤの実という名前は見たことありますが、見たことはまだないんです。ウィンは見たことありますか? 」

「あぁ、ある。とは言ってもガラス越しだったが。思っているよりも周りがトゲトゲしてて触ると痛そうだった。染める時はそのトゲトゲした部分を使うらしい」

「そうなんですね、色はどんな感じなんですか? 」


ライヤの実がそんなにトゲトゲしているなんて知らなかった。もっと染料とかも図鑑とかみて勉強しよう。ライヤの実、いつか生で見てみたいな。
ウィンはとても物知りだ。先程から話していると色々な豆知識とか興味深い話をしてくれてどれも私のドレス心に突き刺さりまくっている。


どれほど時間が経ったのか、ずっと話し続けて気づけばもう仮面舞踏会に終わりの時間が迫ってきていた。2人の間に少し物悲しい雰囲気が漂う。そっと流れる沈黙の時間も初めに比べると苦にならない。すっかり同じ趣味の相手として意気投合していた。


「あぁもう次の曲で、終わるな」


突然そう言うとウィンは少し笑って、私の前でかしこまった。あら? 今更どうしたのかしら? 


「リリー、どうか私と本日の思い出に踊っていただけませんか」

「⋯⋯! よろこんでお受けしますわ」


ダンスに誘われるなんて。これまでは妹ばっかりで、端の方で見ていただけの私が。お父様や親戚以外では初めてね。なんだかとても嬉しくて、微笑みながら彼の右手をとった。

ゆったりとした静かな曲の中、ウィンに体をあずける。
ふふふっ、なんて楽しいんだろう。オーケストラの見事な演奏にあわせてくるくるとまわり、ステップをふんでいく。あたりがライトに照らされていつも以上にキラキラ輝いている気がした。
ゆっくりと流れに身を任せつつ、ウィンと話し出す。


「そのドレス、やっぱり回るとふわりとスカート部分が広がって綺麗だな」

「まぁありがとう」

「リリー・・・・・・またドレスについて話したい。よければこの紙に書いてある場所に10日昼の鐘がなった頃に来てくれないか。こんなに話の会う分かり合える人はいなくてここで終わるには惜しい」


そっと器用に踊りながら私の袖口に折りたたまれた紙をしのばせる彼。驚きが隠せない。私と同じ気持ちだったんだ。


「正直こんな仮面での誘いで怪しいだろうし、来たくなかったら来なくていいから」

「行くわ、約束する」


絶対行こうと心に決めて、少し不安げな表情をうかべた彼に笑いかける。ドレス好きな人に悪い人はいない。ウィンは怪しい人じゃないってじゅうぶん話していて伝わってきているし信用していいと思う。
そこからは、ゆったりとたわいもない話をしてダンスを楽しんだ。

最後のキレのいい一音が会場に砕け落ちると、それぞれの秒針は動き始めて会場から次々と去っていく。もっとゆっくりでいいのに。先程までと同じ1秒だとは思えない。名残惜しいけど帰らないと。


「とても楽しい時間でしたわ。ありがとう、ウィン」


そう挨拶すると、私はきらびやかに飾られた会場を去ったのだった。
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