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第三章 晴天のち暗転
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――●●●――
「ん?んんん??」
朝、教室の席に着いた美優が何気なく見た左手首の時計。それが二十分ほど前を差したまま、ピクリとも動かなくなっている。
「むーー。また壊れちゃったかぁ。」
美優は腕から時計を外し、ネジを回したり振ってみたりするが、そんなささやかな抵抗もむなしく、腕時計はウンともスンとも言わない。
「おはよー。って美優ちゃん、何してるの?」
そんな無駄なあがきをしている美優の元に、登校してきた#山川梓__
やまかわあずさ__#が声をかける。
「あ。おはよう、アズ。見ての通り、時計が壊れました」
「ええーーっ?また?今年入ってからそれで何個目なの?」
「……四個目です……」
「…相変わらずだねぇ、美優ちゃん。やっぱり美優ちゃんから変な毒電波が出まくってるんじゃないの?」
「うううううう(泣)」
冷めた口調でバッサリと切る梓に、返す言葉も無く机に突っ伏す美優。
実際、美優は昔から電化製品などの傍に長時間いると、機械が不具合を起こしたり故障したりすることが多々あった。
そしてその現象は年を追うごとに強くなる傾向にあり、今年に入ってからは梓が言ったように既に腕時計を四個も壊してしまっている。
そんな調子だからスマホは使う時以外は自分の身からなるべく遠い位置に置くようにしている。パソコンもまた然り。
スマホやパソコンまで壊してしまうと、さすがに母親の美晴から大目玉を喰らってしまう。
いくらバイトをしているといっても、そうホイホイと買い替えることの出来るものでもない。
取り敢えず腕時計の事は諦めて、美優は梓と昨夜のバイトでの出来事やテレビの話などで花を咲かす。
二人でひとしきり笑いの弾ける時間を過ごすと、廊下の遠くから聞き覚えのあるリズムの足音が全速力で近づいてきて、そして教室に飛び込んでくる。
「おい!美優!来てるか!?」
朝のHR前、まだ生徒もまばらで閑散とした教室に、三上春樹のけたたましい声と走る音が《2―3》の教室に響き渡る。
「……おはよ。何よ。朝からうるっさいわね」
文字通りウンザリしながら、美優。
隣の梓もびっくりしながら三上に顔を向けていると、三上が唾をまき散らしながらまくし立てる。
「いぐちっ、井口がなっ、昨日の部活の練習中に足の骨折っちゃったんだよっ!」
「えっ!井口君が!?」
「ああ。あいつ、昨日の紅白戦の最中に相手ともつれ転んで、そん時にポッキリやっちゃったんだよ」
三人とも気の毒そうな顔で溜息をつく。が、その後すぐに三上が真剣な顔で話を続け出す。
「井口さ、確か来週出発の〈希望のオール〉に選ばれてたろ?お前と山川と一緒に」
〈希望のオール〉。
北野上市が昨年度から始めた、将来世界的に活躍できるような人材を育成するために企画された市が主催の研修旅行だ。
若いうち、それも十代から様々な体験を通して仕事への関心、そして世界への興味を持ってもらおうと市内で十二歳以上から二十歳未満の青少年を学校ごとで公募し、市で選考・抽選した少年少女達のみで船旅に出、数日かけて南国ハワイへ向かい、現地の同年代の青少年たちと国際交流をするという企画だ。
航行についてはもちろん航海士を始め最低限航海に必要な人員の大人はいるが、それ以外は全て少年少女たち全員で船の仕事をする。
航海士や船のスタッフの指導の下、可能な限り出来る仕事は子供たちに任せる。乗員全員分の食事の準備や洗濯なども当然乗組員の子供たちで分担して行うのである。
ただのお客様旅行、というものではない。
見知らぬ者同士が集まり数日間、それも外界と隔離された海上で共同生活を強いられる。そして子供たちだけで国際交流の企画や実施をするという北野上市の企画は、参加後の少年少女たちに精神的に大きな成長が見られたと保護者や参加者本人から肯定的な多く声が上がり、次年度も引き続き開催することにしたのである。
そして今年、七星学園からは栗林美優と山川梓、そして話に上がった同じクラスの井口という少年が選ばれたのである。その当の井口が骨折してしまった。
つまり〈希望のオール〉に急きょ参加出来なくなってしまったということである。
「アイツさ、けっこう英語のリスニングとオーラル得意だったから、向こうで国際交流のイベントの時にスピーチ担当するとか言ってなかったっけ?」
「うん、そうなんだよね。それにハワイで自由行動するとき一緒の班だから、井口君いてくれると心強かったんだけどなぁ…」
三上と美優は互いに深く溜息をつく。
そこへ思いついたように梓が口を挟む。
「…ねぇ、誰か代わりに行ける人っていないかなぁ?」
梓の問いに美優と三上の二人は揃って「うーん」と渋い顔で唸りだす。
「でもさぁ、アズ。〈希望のオール〉って一応目的地はハワイだから、パスポート必要でしょ?でもあれって申請してから発給されるまで最低でも一か月は掛かるよ?来週のゴールデンウィーク出発なのにとてもじゃないけど間に合わないよ。既にパスポート持ってるような人じゃないと…」
「だよなぁ。それにウチのクラスで井口以外に英語の得意な奴っていっても、他に思い浮かぶようなのは…」
そういってまた三人で腕組みして唸りだすと、登校してきた赤羽隼がみんなに挨拶しながら、のほほんと自分の席へ向かっていく。
帰国子女の英語ペラペラ、赤羽隼。
その様子を眺めてた三人は一斉に顔を見合わせ、口を開く。
「………いた!」
「ん?んんん??」
朝、教室の席に着いた美優が何気なく見た左手首の時計。それが二十分ほど前を差したまま、ピクリとも動かなくなっている。
「むーー。また壊れちゃったかぁ。」
美優は腕から時計を外し、ネジを回したり振ってみたりするが、そんなささやかな抵抗もむなしく、腕時計はウンともスンとも言わない。
「おはよー。って美優ちゃん、何してるの?」
そんな無駄なあがきをしている美優の元に、登校してきた#山川梓__
やまかわあずさ__#が声をかける。
「あ。おはよう、アズ。見ての通り、時計が壊れました」
「ええーーっ?また?今年入ってからそれで何個目なの?」
「……四個目です……」
「…相変わらずだねぇ、美優ちゃん。やっぱり美優ちゃんから変な毒電波が出まくってるんじゃないの?」
「うううううう(泣)」
冷めた口調でバッサリと切る梓に、返す言葉も無く机に突っ伏す美優。
実際、美優は昔から電化製品などの傍に長時間いると、機械が不具合を起こしたり故障したりすることが多々あった。
そしてその現象は年を追うごとに強くなる傾向にあり、今年に入ってからは梓が言ったように既に腕時計を四個も壊してしまっている。
そんな調子だからスマホは使う時以外は自分の身からなるべく遠い位置に置くようにしている。パソコンもまた然り。
スマホやパソコンまで壊してしまうと、さすがに母親の美晴から大目玉を喰らってしまう。
いくらバイトをしているといっても、そうホイホイと買い替えることの出来るものでもない。
取り敢えず腕時計の事は諦めて、美優は梓と昨夜のバイトでの出来事やテレビの話などで花を咲かす。
二人でひとしきり笑いの弾ける時間を過ごすと、廊下の遠くから聞き覚えのあるリズムの足音が全速力で近づいてきて、そして教室に飛び込んでくる。
「おい!美優!来てるか!?」
朝のHR前、まだ生徒もまばらで閑散とした教室に、三上春樹のけたたましい声と走る音が《2―3》の教室に響き渡る。
「……おはよ。何よ。朝からうるっさいわね」
文字通りウンザリしながら、美優。
隣の梓もびっくりしながら三上に顔を向けていると、三上が唾をまき散らしながらまくし立てる。
「いぐちっ、井口がなっ、昨日の部活の練習中に足の骨折っちゃったんだよっ!」
「えっ!井口君が!?」
「ああ。あいつ、昨日の紅白戦の最中に相手ともつれ転んで、そん時にポッキリやっちゃったんだよ」
三人とも気の毒そうな顔で溜息をつく。が、その後すぐに三上が真剣な顔で話を続け出す。
「井口さ、確か来週出発の〈希望のオール〉に選ばれてたろ?お前と山川と一緒に」
〈希望のオール〉。
北野上市が昨年度から始めた、将来世界的に活躍できるような人材を育成するために企画された市が主催の研修旅行だ。
若いうち、それも十代から様々な体験を通して仕事への関心、そして世界への興味を持ってもらおうと市内で十二歳以上から二十歳未満の青少年を学校ごとで公募し、市で選考・抽選した少年少女達のみで船旅に出、数日かけて南国ハワイへ向かい、現地の同年代の青少年たちと国際交流をするという企画だ。
航行についてはもちろん航海士を始め最低限航海に必要な人員の大人はいるが、それ以外は全て少年少女たち全員で船の仕事をする。
航海士や船のスタッフの指導の下、可能な限り出来る仕事は子供たちに任せる。乗員全員分の食事の準備や洗濯なども当然乗組員の子供たちで分担して行うのである。
ただのお客様旅行、というものではない。
見知らぬ者同士が集まり数日間、それも外界と隔離された海上で共同生活を強いられる。そして子供たちだけで国際交流の企画や実施をするという北野上市の企画は、参加後の少年少女たちに精神的に大きな成長が見られたと保護者や参加者本人から肯定的な多く声が上がり、次年度も引き続き開催することにしたのである。
そして今年、七星学園からは栗林美優と山川梓、そして話に上がった同じクラスの井口という少年が選ばれたのである。その当の井口が骨折してしまった。
つまり〈希望のオール〉に急きょ参加出来なくなってしまったということである。
「アイツさ、けっこう英語のリスニングとオーラル得意だったから、向こうで国際交流のイベントの時にスピーチ担当するとか言ってなかったっけ?」
「うん、そうなんだよね。それにハワイで自由行動するとき一緒の班だから、井口君いてくれると心強かったんだけどなぁ…」
三上と美優は互いに深く溜息をつく。
そこへ思いついたように梓が口を挟む。
「…ねぇ、誰か代わりに行ける人っていないかなぁ?」
梓の問いに美優と三上の二人は揃って「うーん」と渋い顔で唸りだす。
「でもさぁ、アズ。〈希望のオール〉って一応目的地はハワイだから、パスポート必要でしょ?でもあれって申請してから発給されるまで最低でも一か月は掛かるよ?来週のゴールデンウィーク出発なのにとてもじゃないけど間に合わないよ。既にパスポート持ってるような人じゃないと…」
「だよなぁ。それにウチのクラスで井口以外に英語の得意な奴っていっても、他に思い浮かぶようなのは…」
そういってまた三人で腕組みして唸りだすと、登校してきた赤羽隼がみんなに挨拶しながら、のほほんと自分の席へ向かっていく。
帰国子女の英語ペラペラ、赤羽隼。
その様子を眺めてた三人は一斉に顔を見合わせ、口を開く。
「………いた!」
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