Soldaten! (ゾルダーテン!)

柴崎きりを

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第一章 黒の少年

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 腐臭と土煙の入り混じる街中を、二人の兵士が歩いていた。

 戦闘服に身を包み、アサルトライフルを胸元で構えながら辺りを警戒して歩き進んでいる。
ヘルメットから覗く顔は酷暑の日差しを受け続けすっかり黒くなり、鼻の頭からは汗がひっきりなしににじみ出している。

 「ここら一帯は特に戦闘が激しかったようですね。原形をとどめてる建物が殆どない。市民も大分犠牲になったようですね」
 兵士の一人、まだ二十代半ばであろうか金髪の蒼い目をした長身の青年、ロバート・パーカーが声を出す。
あちこち無造作に転がっている死体から漂う腐臭にあてられ、ハンサムであろうその顔も幾分蒼い。
 
「俺も今まであちこちで内戦地の様子を見てきたが、ここまで酷くやられてるのは記憶に無いな。徹底的に空爆されたんだろう。・・・大丈夫か、ロブ?」
 「…はい、大丈夫です。サー・ホウジョウ」
 
 ホウジョウと呼ばれた男―― 黒髪アジア系の容貌、年の頃なら四十歳手前か。
ロバートに比べて頭一つ背が低いが、全身からは闘気があふれ、歩くたびにこぼれ落ちてゆく。
 眼前に立たれれば、その闘気に当てられそのままへたり込んでしまいそうになる。
顔に刻まれた皺は死線を一つ潜り抜ける度に付いたのではないかと思うほど、年齢以上に皺が多く刻まれている。

「人間ってのは何時の時代も愚かなもんだ。どんなに科学が発達しても、数千年もの間下らない争いを繰り返しロクに進歩もしない。そして犠牲になるのはいつも女子供たちだ。そして命令を下すのは、デスクでふんぞり返って自分の保身に必死な制服連中たちばかりだ。 奴らの首根っこ掴んで引きずり回して、この光景を見せつけてやりたいぜ」

 ホウジョウの声のトーンは変わらないが、言葉一つ一つに静かな怒りが込められている。彼が今までに戦地を駆け抜けてきた中で脳裏に刻まれてきた凄惨な光景が浮かんだ故か、そんな言葉が飛び出してしまったのだろう。
 「サー・ホウジョウ、これ以上迂闊には…」
 多く言葉に出さずホウジョウを窘めるロバート。
 彼もホウジョウの言う事は十分過ぎるほどよく解る。
 しかし自分たちは一兵士、迂闊に上官批判に当たるような言葉を吐くと、いろいろと面倒なことになる。

 「・・・そうだな。どうも年を取ってくると愚痴が多くなっていかんな。今まで言ったことは忘れてくれ、ロブ」
 ホウジョウが自嘲気味に返すとロバートもまた眼だけで笑みを返す。
 
「周囲一帯見回ってきた中で、取り残された生存者はゼロのようですね。大体が国境付近の難民キャンプまで避難できたか、戦闘に巻き込まれたかですね」
 「そのようだな。次のブロックを回って何もなければベースキャンプに戻り、報告を――」
 
 そう言って瓦礫の山の角を右へ曲がった瞬間、今まで以上に砂塵と強い腐臭が立ち込め、辺りは黒く霞んでしまうほどの蠅の群れが辺りを覆う。万億を超す翅の音のあまりの大きさに耳をふさぎたくなるほどだ。
 
 角を曲がった先は大きく開けた広場で、かつて市場でも開かれていたのだろうか。中央に噴水のような跡があり、そこから放射状にマーケットが出てたと見える。
 当然の事ながら屋台はどれもことごとく破壊され、売り物とされてた農作物や工芸品は戦闘のどさくさに紛れほぼ略奪されたようだ。

 しかし何より異様だったのは、広場一帯が死体に、しかも兵装の者ばかりに埋め尽くされていた事だった。一般市民とみられる死体は殆ど見当たらない。
 文字通り足の置く隙間が無いほどである。黒いヴェールとなるほどの蠅の発生源は、どうやらここら一帯のようである。気温が四十℃前後だから、死体の腐敗も激しく蛆も湧きやすい。
  二人は対砂塵用のマスク越しでも鼻腔に入り込んでくる腐臭を堪えながら、改めて辺りを警戒する。

 …特にホウジョウはどうにも違和感を感じていた。
 確かにここは激しい殺戮の場があったのは伺える。だが横たわる兵士の遺体を注意深く観察すると、銃撃ではなくナイフで首を掻き切られてるものが圧倒的に多い。
 つまりここでは白兵戦が行われていたのだ。そしてその表情はどれも恐怖に満ち満ちたまま事切れている。
 
 ホウジョウの背に冷たいものが流れると、ロバートから「サー・ホウジョウ!!」と低く鋭い声が飛び、それを合図に二人は素早く身近な瓦礫に身を隠す。

 前方から異様な殺気が二人に吹きつけられる。目視すると百数十メートル先で、何か黒いモノがゆっくりと蠢き、大地から起き上がってきている。
明らかにそれは二人の存在を意識しているようだ。

 二人は装備していたアサルトライフルを構え、前方でゆらゆら動く黒いモノに狙いを定めた。一般市民の生存者かもという考えは毛頭無い。
二人にぶつけられた殺気がその答えだ。

 さっきまでの倒れるような熱風と直射日光の熱気は、いまやその強烈な殺気に当てられて汗が引き、鳥肌まで立てているほどだ。
 どくん、どくん、と心臓の鼓動まで聞こえる程に緊張が高まった時、突然黒いモノがこちらに向かって突進してきた!

 アサルトライフルを構えていたのにも関わらず、ほんの一瞬の虚を突かれてしまったため、二人はコンマ数秒ターゲット補足が遅れた。

 狙いをつけたアサルトライフルの銃口から激しい轟音と火線が走る。
にも拘らず、こちらに向かってくる黒いモノの勢いはおおよそ止まる気配はない。
 それ以前に黒いモノの突進してくるスピードが二人の常識の範疇を超えており、二人の放つ火線を猛烈なスピードで躱しながらこちらに向かってくる様子に戦慄が走る。
 
 腹の底にアサルトライフルの連射反動が猛烈に響いてくる。
 ジグザグに蛇行しながらこちらに猛進してくるそれは、黒豹が獲物を狙い追いかけるが如く、脅威がそのまま弾丸となって二人に向かってくる。

 二丁のアサルトライフルの激しい連射を軽々躱しながら眼前三十メートルまで近づいてきた時、絶え間なく銃撃する二人にもはっきりと黒いモノの姿を目視する事ができた。
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