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第二章 ある少女の非日常
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昭和99年4月××日
「…えっ?隣の家に新しい人引っ越してくるの?」
フライパンの卵焼きを要領良く巻きながら、栗林美優は隣でレタスをちぎる母親に聞き返した。
土曜日の朝、高校二年生の美優は学校も休みなので、普段母親に任せっきりの朝食作りを手伝っている。
本当ならもっと遅くまでベッドの中で微睡んでいたいものだが、女手一つで自分と小学生の妹の美香を育ててくれているのだ。そんな罰当たりなことはできないと思い、土日くらいはと二人で狭いキッチンに並んで、忙しなく手を動かしている。
「そうなの。昨日、というか今朝かな?お父さんからメールが来ててね。今の赴任先で知り合ったご一家が今度日本の、しかもこの町にある支社に転勤になったらしくてね。それでお父さんがウチの隣が空き家だったの思い出してその事話したらしいの」
ガラスのサラダボウルにちぎったサニーレタスをふわりと盛り、その上にササッと千切りに刻んだ人参とゆで卵の輪切りを散りばめた簡単なサラダをこしらえ、美優の母親の栗林美晴は答える。
美晴は娘の美優から見ても、とても高校生と小学生の娘がいるとは思えない肌の艶とプロポーションだった。長いストレートの髪とやや垂れ気味の穏やかな瞳、そしてスラッと手足の長くくびれのある肢体。街中で並んで歩くとまず姉妹と間違われる。
「ふーん。そうなんだ。あ、そういえばお父さん今度いつ帰ってくるか何か言ってた?」
「ううん。とにかくメールでは『今度オレが現地でお世話になったご家族がソッチに引越すことになったから、ヨロシク頼む!』だって」
半ば苦笑交じりで美晴が返す。
美晴が美優の父親の事を話す度、いつも不思議に思う事がある。
二人は美優が幼い時に既に離婚している。美晴から聞いた話では、父親とは美優が生まれてから直ぐ離婚の意思をお互い確認したらしい。
ただ何が原因でとは二人とも語らないし、父親も定期的に会いに来ては妻と娘達と仲睦まじく時間を過ごす。
小さい頃はなぜ父は皆と離れて暮らしているのか理解できなかったが、成長するにしたがって、まぁ夫婦の関係というのは必ずしも型にはまったものが全てではないんだなと、自分に納得させるよう言い聞かせている。
ドレッシングを最後にサッとかけ仕上げたサラダを食卓に運びながら、美晴は話を続ける。
「それでね、本当は今日の昼にでもこちらに引っ越される予定だったらしいんだけど、相手方の会社の方でギリギリになって色々とあったらしくて、ご主人が日本に来るのが遅れることになってしまったそうなの。それで息子さんだけ先にこちらに送ってご主人と奥様は遅れて引っ越されるそうよ」
「ふーん、そうなんだ。大変そうだね。……美香ーーっ!起きなさーい!もうすぐ朝ご飯できるよーっ!」
母親の話に半ば空返事気味に返し卵焼きを皿に盛りつけると、二階への階段に向けて美優は大声で叫ぶ。
数分すると、上の階でゴトゴト音がしてすぐに階段からパジャマ姿の少女がことん、ことんと下りてくる。胸には赤い三角のネッカチーフを巻いた黒猫が、きょとん顔でおとなしく抱かれている。
「……おはよう」
「おはよう、美香。休みだからってあんまりお寝坊してたら駄目だよ。月曜日学校行くのが大変になるんだから」
「……うん」
パジャマ姿のまだ寝ぼけた顔をこすっているのは美優の妹の美香。小学四年生。美優に比べて随分とおとなしく口数の少ない性格だ。
人見知りも激しいので、姉の美優としては時々心配に思うほどだ。
美香が抱いてる黒猫、ミッチーにも「おはよう、ミッチー♪」と声をかけ喉を撫でると、すぐに気持ちよさそうにグルグル唸りだす。
それを見た美優は満足そうにうなずくと美香に優しく声をかける。
「さぁ、先に顔を洗ってパジャマを着替えてきなさい。さっぱりしてから朝ご飯にしようね」
そう声をかけると美優は再びキッチンに戻って朝食の準備を再開した。
「…えっ?隣の家に新しい人引っ越してくるの?」
フライパンの卵焼きを要領良く巻きながら、栗林美優は隣でレタスをちぎる母親に聞き返した。
土曜日の朝、高校二年生の美優は学校も休みなので、普段母親に任せっきりの朝食作りを手伝っている。
本当ならもっと遅くまでベッドの中で微睡んでいたいものだが、女手一つで自分と小学生の妹の美香を育ててくれているのだ。そんな罰当たりなことはできないと思い、土日くらいはと二人で狭いキッチンに並んで、忙しなく手を動かしている。
「そうなの。昨日、というか今朝かな?お父さんからメールが来ててね。今の赴任先で知り合ったご一家が今度日本の、しかもこの町にある支社に転勤になったらしくてね。それでお父さんがウチの隣が空き家だったの思い出してその事話したらしいの」
ガラスのサラダボウルにちぎったサニーレタスをふわりと盛り、その上にササッと千切りに刻んだ人参とゆで卵の輪切りを散りばめた簡単なサラダをこしらえ、美優の母親の栗林美晴は答える。
美晴は娘の美優から見ても、とても高校生と小学生の娘がいるとは思えない肌の艶とプロポーションだった。長いストレートの髪とやや垂れ気味の穏やかな瞳、そしてスラッと手足の長くくびれのある肢体。街中で並んで歩くとまず姉妹と間違われる。
「ふーん。そうなんだ。あ、そういえばお父さん今度いつ帰ってくるか何か言ってた?」
「ううん。とにかくメールでは『今度オレが現地でお世話になったご家族がソッチに引越すことになったから、ヨロシク頼む!』だって」
半ば苦笑交じりで美晴が返す。
美晴が美優の父親の事を話す度、いつも不思議に思う事がある。
二人は美優が幼い時に既に離婚している。美晴から聞いた話では、父親とは美優が生まれてから直ぐ離婚の意思をお互い確認したらしい。
ただ何が原因でとは二人とも語らないし、父親も定期的に会いに来ては妻と娘達と仲睦まじく時間を過ごす。
小さい頃はなぜ父は皆と離れて暮らしているのか理解できなかったが、成長するにしたがって、まぁ夫婦の関係というのは必ずしも型にはまったものが全てではないんだなと、自分に納得させるよう言い聞かせている。
ドレッシングを最後にサッとかけ仕上げたサラダを食卓に運びながら、美晴は話を続ける。
「それでね、本当は今日の昼にでもこちらに引っ越される予定だったらしいんだけど、相手方の会社の方でギリギリになって色々とあったらしくて、ご主人が日本に来るのが遅れることになってしまったそうなの。それで息子さんだけ先にこちらに送ってご主人と奥様は遅れて引っ越されるそうよ」
「ふーん、そうなんだ。大変そうだね。……美香ーーっ!起きなさーい!もうすぐ朝ご飯できるよーっ!」
母親の話に半ば空返事気味に返し卵焼きを皿に盛りつけると、二階への階段に向けて美優は大声で叫ぶ。
数分すると、上の階でゴトゴト音がしてすぐに階段からパジャマ姿の少女がことん、ことんと下りてくる。胸には赤い三角のネッカチーフを巻いた黒猫が、きょとん顔でおとなしく抱かれている。
「……おはよう」
「おはよう、美香。休みだからってあんまりお寝坊してたら駄目だよ。月曜日学校行くのが大変になるんだから」
「……うん」
パジャマ姿のまだ寝ぼけた顔をこすっているのは美優の妹の美香。小学四年生。美優に比べて随分とおとなしく口数の少ない性格だ。
人見知りも激しいので、姉の美優としては時々心配に思うほどだ。
美香が抱いてる黒猫、ミッチーにも「おはよう、ミッチー♪」と声をかけ喉を撫でると、すぐに気持ちよさそうにグルグル唸りだす。
それを見た美優は満足そうにうなずくと美香に優しく声をかける。
「さぁ、先に顔を洗ってパジャマを着替えてきなさい。さっぱりしてから朝ご飯にしようね」
そう声をかけると美優は再びキッチンに戻って朝食の準備を再開した。
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