Soldaten! (ゾルダーテン!)

柴崎きりを

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第二章 ある少女の非日常

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 大東亜猿木会。
 
 関東を中心に多く拠点を持つ広域指定暴力団の一つで、暴力団対策法・組織犯罪処罰法・破壊活動防止法など様々な法律、条令が施行され全国の暴力団が弱体・壊滅に追い込まれていく中でも、未だに構成員とそれの関わる犯罪は増加傾向にある団体の一つだ。
  関東以北の道県には必ずと言っていい程各地にその支部を置いており、枝葉の様に別れる分家の上納金を吸い上げ、平穏という名の社会の陰でぶくぶくと肥え続けている。
 北野上市にも当然の様に支部がいくつか在り、その中の一つ〔安本興業〕は支部の中でも分家もいいとこ、所属する構成員も八人程のいわゆる〈パシリ〉的位置付けの団体で、麻薬密売、売春、違法DVDの取引などで金をかき集め、本家へなんとか貢いでいるような小さい集団である。
  しかし小さくとも暴力団は暴力団。一般人にとっては十分な恐怖の対象であり、社会の眩しい日向の道から外れたものにとっては、なんとも居心地のいい場所でもある。

 美優達を乗せた黒のワンボックスカーは裏通りを突き抜け、やがて妖しい色のネオンと客引きが跋扈する風俗街に入り、その中の一角にある雑居ビルの前で美優と梓は車から吐き出された。
 どこかで逃げ出すチャンスをと伺っていた美優だったが、勅使河原の持つバタフライナイフが梓にピタリと食い込んでいるのを見ると、どうしても迂闊な動きをすることが出来なく、歯軋りをする思いだった。 

 そのまま勅使河原達にエレベーターでビルの五階まで連れていかれると、フロアの突き辺りに「有限会社 安本興業」という看板が掲げられている扉の奥へそのまま押し込まれていった。
 玄関を抜けると部屋の中央に接客用のテーブルとそれを挟むようにソファが置かれ、そして部屋の奥の方には事務処理を行うための机が一つ、隣にビルの各フロアとこの事務所の入り口を監視するためのモニターとコンピューターが設置されている。 壁際にはファイルをぎっしり陳列した戸棚が並び、そして部屋の一番隅の所に、隣の部屋へ続く扉が一つ、口を開けていた。
  
 美優と梓は勅使河原に強引に部屋に引きずりこまれると、中央のソファに座っている四人の男達の視線を一斉に浴びた。
 部屋の中は煙草の煙と男たちの饐えた体臭に安物の香水の匂いが混ざり、何とも気分の悪くなる淀んだ空気が部屋一杯に満ち満ちていた。
  
 「勅使河原、ただいま戻りやした。お仕事ご苦労さんです、兄さん方」
 やや緊張を含んだ声で、勅使河原が部屋の男たちに頭を下げながら挨拶をする。
 「おう。勅使河原オマエビール買いに行くのにどんだけ時間かけてんだよっ?…って言うところだけどよぉ、まぁいいわ。それよりそのかわいいオジョーチャン達はどっから拾ってきたのよ?」
 四人の男たちがねっとり舐め回すように美優と梓を視姦し、下卑た笑いを顔に張り付かせる。
 「いやぁ、そこのオレの舎弟どもが近くでこの子らと仲良くしてたみたいだったもんで、オレとも仲良くしてくれよって。紹介してもらったんスよ~。そんでせっかくだから、兄貴たちともオトモダチになってもらおうとお茶にご招待した訳っスよ」
 あれのどこが仲良く見えるのよっ、苦虫をかみつぶすような顔で勅使河原を睨みつけながら、内心毒を吐く美優。梓は車に強引に乗せられてからずっと恐怖で顔が真青になり小刻みに震えている。
 一緒についてきた少年達もどちらかというとあまりここには足を踏み入れたくなかったらしく、先程ファミレスで見せていた横柄な態度はどこへやら、三人そろって縮こまっている。
  
 「へへへっ、そーかそーか。勅使河原オマエよく気が利くねぇ。気が利く後輩を持てて、オレたちゃホント嬉しいぜぇ。感涙もんだねぇ」
 四人の内、角刈りで趣味の悪い紫のスーツを着崩している男がソファから立ち上がり、美優と梓にゆっくり近づいてくる。
 男は美優の目の前に立つと、敢然と男たちを睨みつける美優の顎を指で引き上げながら、息がかかるくらいに顔を近づけて声をかける。
 「…ヒヒヒ、いい面構えしてんな、ネーチャン。そんな顔されるとオジサン、ぐちゃぐちゃに汚してヤリたくなっちゃうよ」
 腰をクイクイ前後に振りながら、角刈り。
後ろで三人の男がゲラゲラ下品な笑いを飛ばす。 勅使河原がここで介するように男たちに声をかける。
 「せっかくスから、お茶よりも隣で楽しい事でもしようじゃありませんかね?ほら、男も女も仲良くなるには裸の付き合い、って昔から言うじゃないスか」
 その言葉に美優と梓は更に緊張と恐怖で身体が固まり、四人の男たちは一層だらしない笑みを浮かべる。
「おお、そうだそうだ。善は急げ、時は金なりってな」
 「うへ、ヨネさん難しい言葉使って気取っちゃってさぁー」
 角刈りの男――ヨネが顔に似合わぬ言葉を吐き、それを他の男たちがゲラゲラ笑いながら茶化す。 
「…おい、ヤス、カズキ、リューヘイ、いつもの準備しろ。…んでそこのガキども、オメーらはここで留守番してろ。何かあったらすぐに知らせろ。それ以外は入ってくんな。わかったか?」
 ヨネは美優の後ろに回り軽く腕を捻り上げながら、他の男たちを伴い美優と梓を隣の部屋と連れ込んでいった。
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