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第三章 晴天のち暗転
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――●●●――
――日曜日。
美優は今日一日リビングで何をするでもなく、ただただ天井を向いてボーっと意識をどこか違う世界に飛ばしていた。
今日は元々バイトのシフトも入っておらず、友人達とも出かける約束も無かった。学校も新学期が始まったばかりでそれほど課題も多くなく、さっさと済ませてしまった。
……それに昨日のトラブルのショックから完全には抜け出せておらず、外に出るのにやはり恐怖心が若干残っていたのもある。
母の美晴は夕食の準備を始めており、妹の美香は同じくリビングで膝に黒猫のミッチーを乗せながら大人しく読書をしている。
美香は顔にこそ出さないもの、美優が一日中家に居るというのが嬉しいらしく、特に話し掛けたりはしないが美優がいるリビングに一緒に居たいがため、読書やらテレビゲームやらで時間を費やし、今この一瞬の時間を共有してることに喜びを感じている。
元々内気で人見知りの激しいため、友達と積極的に仲良くするのが苦手な方である。 そして美優自身も学校やバイトが忙しく、友達との付き合いも多い為なかなか家に居る時間が持てない。母の美晴も娘二人を養うためフルタイムで勤めに出ているので、家族全員が顔を合わせるのは朝食と夕食の時間くらいしかない。
しかも美晴が残業だったり美優がバイトに行ってたりすると、本当に夜遅くまで美香一人きりで過ごさないとならない日も有り、小学四年の美香にとっては毎日が孤独という怪物との戦いなのである。
その心細さと言ったら計り知れない。
だからこそ美優も妹のそんな寂しく健気な思いをくみ取り、でも特別何をするでも無く只そこに一緒に居ると云う事を選んでいる。
家族として無理に互いの距離を埋めるべく特別何かをしてあげるのではなく、自然体でそこに居れば、家族の絆はしっかり保たれると美優は思っている。
そんなことをぼんやり思いながら、見るでもないテレビの画面に目を向ける。
丁度どこのチャンネルもニュースの時間帯らしく、数年前に新興宗教団体の起こしたテロ事件の裁判の様子だったり、ゴールデンウィークの初日となる天皇誕生日に向けてのお祝いの特集だったりと、特に興味も関心も引かないニュースがテレビの画面から無造作に放たれ、そのまま美優の中を通り過ぎていく。
あまりに無関心な情報ばかりが溢れかえり、心に何も残らない。
いや、残らないというより今の美優の心には別の事で一杯に埋め尽くされている。
(……赤羽隼、ねぇ……)
昨日栗林家に越してきた隣人。彼に興味を持ったというより、どうにも彼の声が気になっていた。
ウチに挨拶に来た時は、なんだか人と接する事に慣れてないような、話してて所々言葉に詰まったりどもったりして、『ああ、この人は面と向かって話すのが苦手なタイプなんだな』なんて勝手なプロファイリングで最初は思ったりしたが、今はそれよりも彼の声色の方がどうにも心の中で繰り返し何度も響いていた。
(赤羽君の声、あの変なお面の彼とそっくり……?)
前日にヤクザの事務所に単身乗り込み、美優と梓を助けた人物。
彼が発した声はお面越しでしかも一言二言だけの聞こえずらい声音だったが、それが隣の家の隼の声に重なるようなという思いがぐるぐると頭の中を回っていた。
確かに声と背格好だけ見れば、隼と彼はどこか重なるものがあるかもしれない。
……でもやっぱありえないっ。
あのヤクザ達相手に一人で大立ち回りするだけの度胸のある人物と、こう言っては何だがどこか野暮ったく鈍くさい感じの隼が同じ人物だとは、そんな事を思った当の美優本人が笑いを堪え切れず、噴き出しながらそんな突飛な想像を打ち消す。
本当に正直なところ、昨日挨拶に来た隼は誰が見ても『にっちもさっちも冴えない君』の典型的な風貌だった。
美容室じゃなく理髪店でオヤッさんにお任せでカットしてもらったまま無造作にしてるような黒髪に、黒縁でやや大きめの眼鏡。喉元までボタンを留めたネルシャツをデニムのベルトの中に入れて直立するその姿は、今時化石的なファッション感覚の持主だ。
街の中を探しても小学生ですらそこまでダサい格好をしてる子はいない。
それに隼の喋り方もどこか特徴的で、彼の声はもちろんだがその喋り方も美優の印象に強く残っていた。
『スス、すみませんっ。あの、ボク、ずっと外国暮らしてパパママが家でも英語で話す決まり、だったので、その、ボクあまり日本語しゃべるのうまくないです。聴くのはイイですけど』
どこかビクビクしながら、それでも 不得意ながら一生懸命に話そうとする隼の姿に、ちょっと面倒な、でも思わず『がんばれ!』と声を掛けたくなるような心境になる。
実際玄関先でお互い声を交わしたのはほんの数十秒程度だったのだが、それでも美優の印象に鮮明に残った少年だった。
それが土曜の夜の事。
今日は件のお隣さんは朝から出掛けてるようで、隣家からは人の気配がない。母の美晴の話だと、美優の通う高校に予め編入届けを出していて、今日は一応そのための簡単な編入試験があるような事を話し出した。
外国から一人で異国の地にいきなり飛ばされて、引っ越しの挨拶やら学校の手続きやらを全部自分一人でこなさなきゃならないなんて、ホント大変だなぁなんて思わず同情してしまう。
――日曜日。
美優は今日一日リビングで何をするでもなく、ただただ天井を向いてボーっと意識をどこか違う世界に飛ばしていた。
今日は元々バイトのシフトも入っておらず、友人達とも出かける約束も無かった。学校も新学期が始まったばかりでそれほど課題も多くなく、さっさと済ませてしまった。
……それに昨日のトラブルのショックから完全には抜け出せておらず、外に出るのにやはり恐怖心が若干残っていたのもある。
母の美晴は夕食の準備を始めており、妹の美香は同じくリビングで膝に黒猫のミッチーを乗せながら大人しく読書をしている。
美香は顔にこそ出さないもの、美優が一日中家に居るというのが嬉しいらしく、特に話し掛けたりはしないが美優がいるリビングに一緒に居たいがため、読書やらテレビゲームやらで時間を費やし、今この一瞬の時間を共有してることに喜びを感じている。
元々内気で人見知りの激しいため、友達と積極的に仲良くするのが苦手な方である。 そして美優自身も学校やバイトが忙しく、友達との付き合いも多い為なかなか家に居る時間が持てない。母の美晴も娘二人を養うためフルタイムで勤めに出ているので、家族全員が顔を合わせるのは朝食と夕食の時間くらいしかない。
しかも美晴が残業だったり美優がバイトに行ってたりすると、本当に夜遅くまで美香一人きりで過ごさないとならない日も有り、小学四年の美香にとっては毎日が孤独という怪物との戦いなのである。
その心細さと言ったら計り知れない。
だからこそ美優も妹のそんな寂しく健気な思いをくみ取り、でも特別何をするでも無く只そこに一緒に居ると云う事を選んでいる。
家族として無理に互いの距離を埋めるべく特別何かをしてあげるのではなく、自然体でそこに居れば、家族の絆はしっかり保たれると美優は思っている。
そんなことをぼんやり思いながら、見るでもないテレビの画面に目を向ける。
丁度どこのチャンネルもニュースの時間帯らしく、数年前に新興宗教団体の起こしたテロ事件の裁判の様子だったり、ゴールデンウィークの初日となる天皇誕生日に向けてのお祝いの特集だったりと、特に興味も関心も引かないニュースがテレビの画面から無造作に放たれ、そのまま美優の中を通り過ぎていく。
あまりに無関心な情報ばかりが溢れかえり、心に何も残らない。
いや、残らないというより今の美優の心には別の事で一杯に埋め尽くされている。
(……赤羽隼、ねぇ……)
昨日栗林家に越してきた隣人。彼に興味を持ったというより、どうにも彼の声が気になっていた。
ウチに挨拶に来た時は、なんだか人と接する事に慣れてないような、話してて所々言葉に詰まったりどもったりして、『ああ、この人は面と向かって話すのが苦手なタイプなんだな』なんて勝手なプロファイリングで最初は思ったりしたが、今はそれよりも彼の声色の方がどうにも心の中で繰り返し何度も響いていた。
(赤羽君の声、あの変なお面の彼とそっくり……?)
前日にヤクザの事務所に単身乗り込み、美優と梓を助けた人物。
彼が発した声はお面越しでしかも一言二言だけの聞こえずらい声音だったが、それが隣の家の隼の声に重なるようなという思いがぐるぐると頭の中を回っていた。
確かに声と背格好だけ見れば、隼と彼はどこか重なるものがあるかもしれない。
……でもやっぱありえないっ。
あのヤクザ達相手に一人で大立ち回りするだけの度胸のある人物と、こう言っては何だがどこか野暮ったく鈍くさい感じの隼が同じ人物だとは、そんな事を思った当の美優本人が笑いを堪え切れず、噴き出しながらそんな突飛な想像を打ち消す。
本当に正直なところ、昨日挨拶に来た隼は誰が見ても『にっちもさっちも冴えない君』の典型的な風貌だった。
美容室じゃなく理髪店でオヤッさんにお任せでカットしてもらったまま無造作にしてるような黒髪に、黒縁でやや大きめの眼鏡。喉元までボタンを留めたネルシャツをデニムのベルトの中に入れて直立するその姿は、今時化石的なファッション感覚の持主だ。
街の中を探しても小学生ですらそこまでダサい格好をしてる子はいない。
それに隼の喋り方もどこか特徴的で、彼の声はもちろんだがその喋り方も美優の印象に強く残っていた。
『スス、すみませんっ。あの、ボク、ずっと外国暮らしてパパママが家でも英語で話す決まり、だったので、その、ボクあまり日本語しゃべるのうまくないです。聴くのはイイですけど』
どこかビクビクしながら、それでも 不得意ながら一生懸命に話そうとする隼の姿に、ちょっと面倒な、でも思わず『がんばれ!』と声を掛けたくなるような心境になる。
実際玄関先でお互い声を交わしたのはほんの数十秒程度だったのだが、それでも美優の印象に鮮明に残った少年だった。
それが土曜の夜の事。
今日は件のお隣さんは朝から出掛けてるようで、隣家からは人の気配がない。母の美晴の話だと、美優の通う高校に予め編入届けを出していて、今日は一応そのための簡単な編入試験があるような事を話し出した。
外国から一人で異国の地にいきなり飛ばされて、引っ越しの挨拶やら学校の手続きやらを全部自分一人でこなさなきゃならないなんて、ホント大変だなぁなんて思わず同情してしまう。
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