Soldaten! (ゾルダーテン!)

柴崎きりを

文字の大きさ
26 / 58
第三章 晴天のち暗転

07

しおりを挟む
――●●●――

―― 一時限目終了後。

 転校生のまず初日の試練は、周りからの質問攻めを上手くあしらう事である。
 見た目も名前も明らかに日本人なのに、なぜそんなに片言っぽい喋り方なのかとか、外国のなんていう国から来たのかとか、洋物無修正ようものむしゅうせいエロ本とか持っているのかと(?)ありとあらゆる時々意味不明な質問にも一生懸命応えようとする隼。
 質問攻めする輪の中には、ちゃっかり三上も混ざってしまっている。
というか大抵の下衆な質問は、三上の口から飛び出しているのである。

(やれやれ)

 クラス全員の男子から囲まれている隼をちらりと横目に、深々と溜息をつく美優。

 まだ夕べの事で気まずさは残っているのだが、いつまでもグジグジとくすぶっているのは隼に対して申し訳ないし、美優自身もはっきり言ってウンザリしているのだ。
 (いい加減、気持ち入れ替えないとね。赤羽君に非は有ってもに悪意が有ったわけじゃないし)
 
 心中で自分にそう言い聞かせ、いつもの元気が取り柄の自分らしさを取り戻そうと気持ちを入れ替えようとすると、不意に教室の前方から、女子たちの「あ、おはよー」という声があちこちから飛び出しているのに気付く。
 
 入口の方に目を向けると、やや疲れている表情ではあるが、梓が遅刻する形で登校してきたのである。
 周りの女子生徒らに小声ながらも「おはよう」と返す梓へ、迷いなく歩み寄る美優。

「アズ……おはよう」 

 梓の前に立つも、第一声の言葉に迷う。
 そんな逡巡してる美優をクスリとしながら、優しい笑顔で答える。
 
「美優ちゃん、せっかく連絡してくれてたのに、出なくてゴメンね…。でももう大丈夫だから。うん」
 両腕で力こぶを作るようなガッツポーズをして、笑顔を見せる梓。それはまだまだ力無い笑顔だったが、こうして人前に出て来れるだけ梓の心が落ち着いてることに、美優は安堵した。

 「もうちょっと休むのかと思ったけど、顔見れて良かったよ、アズ」
「うん。明後日の身体測定と健康診断の手伝いの打ち合せを保体委員会でやらなきゃいけないから。あまり休むと他の人に迷惑かけちゃうし」
そう言いながら、教室後方の人だかりが出来てる席に、興味深く視線を向ける梓。

「……ところで、あの席の人だかり、何かあったの?」
「ん?ああ、あれね。今日から転入生がウチのクラスに入ってね、恒例の質問責めにあってんのよ。しかも家はウチの隣」
「え?転入生?まだ新学年始まったばかりで?」
「んん~~。その辺の事情はよく分かんない。外国帰りの男の子なのと、喋り方がちょっと独特だから、皆物珍しくて殺到してるけど」
「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ、ちょっと挨拶してこないとね。一応クラスメートってことで」
珍しく男子に興味を持った梓に軽い驚きをした美優。それほど積極的に男子と仲良くするタイプではないのだが。

 梓と美優は人の壁にぐるりと囲まれている席に向かっていくと、それを成している男子たちに「ちょっとゴメン」と声をかけ間を掻き分けていくと、人だかりの中心になっている隼の前に向き合う形になった。
「初めまして。同じクラスの山川梓です。よろしくお願いします」
 丁寧にお辞儀をして、梓。この辺りは親のしつけの賜物たまものか、礼儀正しく隼に礼をする。

「は、ハい、ハジメマシテ。ぼく赤羽隼イイマス。ヨロシクおねがいしまス」
突然挨拶に来られて一瞬面食らったようだが、たどたどしい日本語で丁寧に返す隼。

(……あれ…?…この声…)
隼の声を聴いた途端、一瞬顔がこわばる梓。
 
「アズ?」
 その様子を見て不審そうに隣の梓に美優が声をかける。
梓は美優の方を見て何か確かめるような表情を浮かべるが、美優は一向に梓の心中を汲み取ることなく、ただ不思議そうにその顔を見つめ返す。
 
「……何でもないっ。ごめんなさい、赤羽君。急にボーっとしちゃって。うん、よろしくお願いします!」
ハッと慌てて隼に向き直り言葉を返すと、二人は人だかりから離れ窓際の方に移動していく。
 
「ねぇ、美優ちゃん。赤羽君って……」
探るような声音で、梓。
「ん?赤羽くんがどうかした??」
美優の方は梓のそんな仕草に相変わらず気づかず、のほほんと声を返す。

「……ううん、やっぱり何でもない」

(赤羽君の声、この前わたし達を助けてくれたあの変な人の声に似てると思ったんだけど、美優ちゃんは特に何も意識してないみたいだし。……そっか、やっぱり思い違いだったのかな)

 梓の胸の中で膨らんだもやのような疑問は、いまいち消化不良のまま胸の内に押し込むことにする。
仮に彼が二人を助けてくれた本人だとしても、そのことに触れることはつまりあの時の忌まわしい出来事を思い出す事にもなる。
それは出来る限り二人にとって避けたい事だ。
 
「それにしても赤羽君の話し方、なんか面白いね」
「ああ、あのね、この前ウチに引っ越しの挨拶に来た時に言ってたんだけど…」
 気を取り直して、隼の話題に興じ出す二人。

隼は相変わらず男子たちのバカな質問に答えつつ、視界の端に二人をおさめながら声無く呟く。

(……カンの鋭い娘だ)

始業のチャイムが鳴りだすまで、眼鏡の奥の瞳は冷たい光を携えたまま、誰に気付かれる事なく二人を見据えていた。

(続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...