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第三章 晴天のち暗転
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――●●●――
―― 一時限目終了後。
転校生のまず初日の試練は、周りからの質問攻めを上手くあしらう事である。
見た目も名前も明らかに日本人なのに、なぜそんなに片言っぽい喋り方なのかとか、外国のなんていう国から来たのかとか、洋物無修正エロ本とか持っているのかと(?)ありとあらゆる時々意味不明な質問にも一生懸命応えようとする隼。
質問攻めする輪の中には、ちゃっかり三上も混ざってしまっている。
というか大抵の下衆な質問は、三上の口から飛び出しているのである。
(やれやれ)
クラス全員の男子から囲まれている隼をちらりと横目に、深々と溜息をつく美優。
まだ夕べの事で気まずさは残っているのだが、いつまでもグジグジと燻っているのは隼に対して申し訳ないし、美優自身もはっきり言ってウンザリしているのだ。
(いい加減、気持ち入れ替えないとね。赤羽君に非は有ってもに悪意が有ったわけじゃないし)
心中で自分にそう言い聞かせ、いつもの元気が取り柄の自分らしさを取り戻そうと気持ちを入れ替えようとすると、不意に教室の前方から、女子たちの「あ、おはよー」という声があちこちから飛び出しているのに気付く。
入口の方に目を向けると、やや疲れている表情ではあるが、梓が遅刻する形で登校してきたのである。
周りの女子生徒らに小声ながらも「おはよう」と返す梓へ、迷いなく歩み寄る美優。
「アズ……おはよう」
梓の前に立つも、第一声の言葉に迷う。
そんな逡巡してる美優をクスリとしながら、優しい笑顔で答える。
「美優ちゃん、せっかく連絡してくれてたのに、出なくてゴメンね…。でももう大丈夫だから。うん」
両腕で力こぶを作るようなガッツポーズをして、笑顔を見せる梓。それはまだまだ力無い笑顔だったが、こうして人前に出て来れるだけ梓の心が落ち着いてることに、美優は安堵した。
「もうちょっと休むのかと思ったけど、顔見れて良かったよ、アズ」
「うん。明後日の身体測定と健康診断の手伝いの打ち合せを保体委員会でやらなきゃいけないから。あまり休むと他の人に迷惑かけちゃうし」
そう言いながら、教室後方の人だかりが出来てる席に、興味深く視線を向ける梓。
「……ところで、あの席の人だかり、何かあったの?」
「ん?ああ、あれね。今日から転入生がウチのクラスに入ってね、恒例の質問責めにあってんのよ。しかも家はウチの隣」
「え?転入生?まだ新学年始まったばかりで?」
「んん~~。その辺の事情はよく分かんない。外国帰りの男の子なのと、喋り方がちょっと独特だから、皆物珍しくて殺到してるけど」
「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ、ちょっと挨拶してこないとね。一応クラスメートってことで」
珍しく男子に興味を持った梓に軽い驚きをした美優。それほど積極的に男子と仲良くするタイプではないのだが。
梓と美優は人の壁にぐるりと囲まれている席に向かっていくと、それを成している男子たちに「ちょっとゴメン」と声をかけ間を掻き分けていくと、人だかりの中心になっている隼の前に向き合う形になった。
「初めまして。同じクラスの山川梓です。よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をして、梓。この辺りは親の躾けの賜物か、礼儀正しく隼に礼をする。
「は、ハい、ハジメマシテ。ぼく赤羽隼イイマス。ヨロシクおねがいしまス」
突然挨拶に来られて一瞬面食らったようだが、たどたどしい日本語で丁寧に返す隼。
(……あれ…?…この声…)
隼の声を聴いた途端、一瞬顔がこわばる梓。
「アズ?」
その様子を見て不審そうに隣の梓に美優が声をかける。
梓は美優の方を見て何か確かめるような表情を浮かべるが、美優は一向に梓の心中を汲み取ることなく、ただ不思議そうにその顔を見つめ返す。
「……何でもないっ。ごめんなさい、赤羽君。急にボーっとしちゃって。うん、よろしくお願いします!」
ハッと慌てて隼に向き直り言葉を返すと、二人は人だかりから離れ窓際の方に移動していく。
「ねぇ、美優ちゃん。赤羽君って……」
探るような声音で、梓。
「ん?赤羽くんがどうかした??」
美優の方は梓のそんな仕草に相変わらず気づかず、のほほんと声を返す。
「……ううん、やっぱり何でもない」
(赤羽君の声、この前わたし達を助けてくれたあの変な人の声に似てると思ったんだけど、美優ちゃんは特に何も意識してないみたいだし。……そっか、やっぱり思い違いだったのかな)
梓の胸の中で膨らんだ靄のような疑問は、いまいち消化不良のまま胸の内に押し込むことにする。
仮に彼が二人を助けてくれた本人だとしても、そのことに触れることはつまりあの時の忌まわしい出来事を思い出す事にもなる。
それは出来る限り二人にとって避けたい事だ。
「それにしても赤羽君の話し方、なんか面白いね」
「ああ、あのね、この前ウチに引っ越しの挨拶に来た時に言ってたんだけど…」
気を取り直して、隼の話題に興じ出す二人。
隼は相変わらず男子たちのバカな質問に答えつつ、視界の端に二人をおさめながら声無く呟く。
(……カンの鋭い娘だ)
始業のチャイムが鳴りだすまで、眼鏡の奥の瞳は冷たい光を携えたまま、誰に気付かれる事なく二人を見据えていた。
(続く)
―― 一時限目終了後。
転校生のまず初日の試練は、周りからの質問攻めを上手くあしらう事である。
見た目も名前も明らかに日本人なのに、なぜそんなに片言っぽい喋り方なのかとか、外国のなんていう国から来たのかとか、洋物無修正エロ本とか持っているのかと(?)ありとあらゆる時々意味不明な質問にも一生懸命応えようとする隼。
質問攻めする輪の中には、ちゃっかり三上も混ざってしまっている。
というか大抵の下衆な質問は、三上の口から飛び出しているのである。
(やれやれ)
クラス全員の男子から囲まれている隼をちらりと横目に、深々と溜息をつく美優。
まだ夕べの事で気まずさは残っているのだが、いつまでもグジグジと燻っているのは隼に対して申し訳ないし、美優自身もはっきり言ってウンザリしているのだ。
(いい加減、気持ち入れ替えないとね。赤羽君に非は有ってもに悪意が有ったわけじゃないし)
心中で自分にそう言い聞かせ、いつもの元気が取り柄の自分らしさを取り戻そうと気持ちを入れ替えようとすると、不意に教室の前方から、女子たちの「あ、おはよー」という声があちこちから飛び出しているのに気付く。
入口の方に目を向けると、やや疲れている表情ではあるが、梓が遅刻する形で登校してきたのである。
周りの女子生徒らに小声ながらも「おはよう」と返す梓へ、迷いなく歩み寄る美優。
「アズ……おはよう」
梓の前に立つも、第一声の言葉に迷う。
そんな逡巡してる美優をクスリとしながら、優しい笑顔で答える。
「美優ちゃん、せっかく連絡してくれてたのに、出なくてゴメンね…。でももう大丈夫だから。うん」
両腕で力こぶを作るようなガッツポーズをして、笑顔を見せる梓。それはまだまだ力無い笑顔だったが、こうして人前に出て来れるだけ梓の心が落ち着いてることに、美優は安堵した。
「もうちょっと休むのかと思ったけど、顔見れて良かったよ、アズ」
「うん。明後日の身体測定と健康診断の手伝いの打ち合せを保体委員会でやらなきゃいけないから。あまり休むと他の人に迷惑かけちゃうし」
そう言いながら、教室後方の人だかりが出来てる席に、興味深く視線を向ける梓。
「……ところで、あの席の人だかり、何かあったの?」
「ん?ああ、あれね。今日から転入生がウチのクラスに入ってね、恒例の質問責めにあってんのよ。しかも家はウチの隣」
「え?転入生?まだ新学年始まったばかりで?」
「んん~~。その辺の事情はよく分かんない。外国帰りの男の子なのと、喋り方がちょっと独特だから、皆物珍しくて殺到してるけど」
「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ、ちょっと挨拶してこないとね。一応クラスメートってことで」
珍しく男子に興味を持った梓に軽い驚きをした美優。それほど積極的に男子と仲良くするタイプではないのだが。
梓と美優は人の壁にぐるりと囲まれている席に向かっていくと、それを成している男子たちに「ちょっとゴメン」と声をかけ間を掻き分けていくと、人だかりの中心になっている隼の前に向き合う形になった。
「初めまして。同じクラスの山川梓です。よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀をして、梓。この辺りは親の躾けの賜物か、礼儀正しく隼に礼をする。
「は、ハい、ハジメマシテ。ぼく赤羽隼イイマス。ヨロシクおねがいしまス」
突然挨拶に来られて一瞬面食らったようだが、たどたどしい日本語で丁寧に返す隼。
(……あれ…?…この声…)
隼の声を聴いた途端、一瞬顔がこわばる梓。
「アズ?」
その様子を見て不審そうに隣の梓に美優が声をかける。
梓は美優の方を見て何か確かめるような表情を浮かべるが、美優は一向に梓の心中を汲み取ることなく、ただ不思議そうにその顔を見つめ返す。
「……何でもないっ。ごめんなさい、赤羽君。急にボーっとしちゃって。うん、よろしくお願いします!」
ハッと慌てて隼に向き直り言葉を返すと、二人は人だかりから離れ窓際の方に移動していく。
「ねぇ、美優ちゃん。赤羽君って……」
探るような声音で、梓。
「ん?赤羽くんがどうかした??」
美優の方は梓のそんな仕草に相変わらず気づかず、のほほんと声を返す。
「……ううん、やっぱり何でもない」
(赤羽君の声、この前わたし達を助けてくれたあの変な人の声に似てると思ったんだけど、美優ちゃんは特に何も意識してないみたいだし。……そっか、やっぱり思い違いだったのかな)
梓の胸の中で膨らんだ靄のような疑問は、いまいち消化不良のまま胸の内に押し込むことにする。
仮に彼が二人を助けてくれた本人だとしても、そのことに触れることはつまりあの時の忌まわしい出来事を思い出す事にもなる。
それは出来る限り二人にとって避けたい事だ。
「それにしても赤羽君の話し方、なんか面白いね」
「ああ、あのね、この前ウチに引っ越しの挨拶に来た時に言ってたんだけど…」
気を取り直して、隼の話題に興じ出す二人。
隼は相変わらず男子たちのバカな質問に答えつつ、視界の端に二人をおさめながら声無く呟く。
(……カンの鋭い娘だ)
始業のチャイムが鳴りだすまで、眼鏡の奥の瞳は冷たい光を携えたまま、誰に気付かれる事なく二人を見据えていた。
(続く)
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