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異国にて
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百合はユウトと別れて家路についた。
二十歳になるなり飲み歩くようになった息子は今日も帰らないだろう、まあでも今が一番楽しい時期だろうから文句はいうまい、女の子もいるのかもしれない。子どもの心配はいつまでも尽きない、と百合は思った。家に灯りはなかった。大きな音を立てる鍵を回して中に入ると暗がりの空気は外よりも冷たく感じた。もちろん寂しさはあった。
母一人子一人の暮らしからあの子がいなくなったらどうなるのだろう、あの人の面影を失ってわたしは大丈夫なのだろうか、といった思いが頭をもたげることは多くなっていた。
ユウトに会うのも息子が自分から離れていく予感や不安を紛らわしたいためだということを百合は分かっていた。一時の気晴らしの後味はよくなかった。ましてやユウトは息子のモデル仲間だったから。
満足がないわけではなかった。ユウトの若いからだは百合をしっかりと喜ばせた。それでも、一人になってしまえば、その記憶がかさぶたのようになるだけだった。
ベッドに入っても眼は冴えていた。百合には眠れない夜にいつもたどりつく場所があった。それは今でもくっきりと眼に浮かぶ遠い国の風景だった。
ゲートで見送りの仲間と別れた百合は、ロワシーの空港の出発デッキでの搭乗までの小一時間で、帰国してからどうするかについてもう一度考えた。ジャンは見送りにこれなかった。忙しいのだからしかたがない、と百合は納得したつもりだったが、哀しみが気まぐれに胸に浮かび上がって彼女を困らせた。
それよりもこの子のことだった。百合はからだのリズムのいい子だったからそのリズムが崩れた時にすぐに気がついた。ドラッグストアで求めた検査薬の結果も間違いようのないものだった。
百合は強かった。誰にもいわずに残り少なくなっていた滞在の日々を過ごした。航空機に乗れなくなるほど日は経っていなかったことはラッキーだった。帰国したら、まず医師に相談して体調を確認する、そして両親に打ち明ける、十五歳の少女にしては驚くべき気丈な振る舞いだった。この逞しさ、独立心は十四歳で娘を一人で留学させることをいとわない家庭に育ったおかげでもあった。
そんな彼女でも搭乗者カードの妊娠しているかどうかを確認する欄にチェックをいれるときは手が震えた。ブランケットを持ってきてくれたアテンダントの女性が百合の耳元で「おめでとうございます、楽な姿勢を取れるようにお隣を空けましょうね」といってにっこりとしてくれて胸が熱くなった。
定刻の離陸直後、機体の旋回にしたがって窓から初春の靄のかかった街が見えた。
「バイバイ、ジャン」
街の景色が少しだけにじんだ。
百合は初めてパリに着いたときからこの街が気に入っていた。地層が積み重なってできたような古めかしく翳りのある街並みは東京よりも暖かみがありどっしりと落ちついていた。急き立てられる暮しに息苦しさを感じていた百合はここでなら自分のペースで呼吸ができるかもしれないと思った。何より言葉があまり分からないおかげで噂話や陰口に耳を奪われないのがよかった。
百合はここでの時間が自分にとって貴重なものになると感じていた。 同級生たちはみんな気立てがよく品のある優等生だった。貴族や富豪の子息が通うような学校ではなく留学や大学を目指す進学校だったのでビジネスマンや官僚、学者の子息が多く通っていた。百合は珍しい日本からの留学生ということ注目されがちだったが、誰もが親切にしてくれて、いじめに遭うようなことはまったくなかった。通学路にあるお店の人々も挨拶から始まって気軽に声をかけてくれるようになった。
二か月ほど経つと百合はまるで昔からここに住んでいたかのように学校と街の暮らしに馴染んでいた。 百合は日本人らしい黒髪のことを友人たちから物珍し気にいわれてもあまりピンとこなかった。さまざまな髪の色の子がいたが、たしかに百合のように真っ黒でつやつやとした髪は珍しかった。百合は髪をふつうに垂らしていたが色が白くて黒目勝ちなせいもあって外人からすると日本人形のイメージそのものに見えるようだった。
毎朝、えんじ色を基調にした制服の少女たちがにぎやかに通学するなか、黒髪をゆらすほっそりとした少女はひときわ目立っていた。百合自身は自分がエキゾティックな魅力をふりまいていることにまるで気づいていなかった。
部屋で日課の復習をしていると誰かが廊下をバタバタと走っていって、寮の前で雑誌か何かの撮影をやっているという声がした。百合の学生寮はパリ北部の郊外にある古びた建物だった。敷地が広く建物を囲んで美しい芝の庭があるのが特徴だった。百合が慌てて昇降口を出ると、寮の建物と門の間の芝生のところに機材を掲げた見慣れない集団がいた。
確かに撮影を行っているようだった。カメラマンとスタッフが白いドレスを着たモデルらしい人物と打ち合わせをしていた。モデルは芝生にすわったかと思えば立ち上がりスタッフと手ぶりを交えて話をしていた。どうやらモデルとスタッフの話が合わないようだった。カメラマンは機材を構えてそっぽを向いていた。
モデルの少女が主に話しているのは背の高いワークシャツを着て眼鏡をかけた青年だった。「トラブルかしらね」いっしょに見物しているクラスメートたちも妙な空気を感じてそういった。
背の高い青年は両手を大きく広げて天を仰ぎ、髪をかきむしって辺りを見渡した。彼の眼は撮影を見物している人々を端からサーチライトのようにスキャンして女学生たちのところで留まった。
彼はおおまたでつかつかと女学生たちのところへやってきた。キャーッというような歓声が上がった。
「ねえ君、君」
百合は初め自分が話しかけられていることが分からなかった。
「たいへん申し訳ないんだけれど、少しだけお手伝いをお願いできないかな」
ワークシャツを着て眼鏡をかけた痩せた青年が百合を見てそういっていた。もう一度ワーだかキャーのような歓声が上がった。
「えっ」
唐突な問いかけに百合がびっくりしていると「じゃあお願いね。準備はこちらで」といわれて、百合はあれよあれよという間にスタッフらしい女性に手を引かれてゲートの脇に停めてあるワゴン車両のところに連れていかれた。そして、車に押し込められて女性スタッフから「衣装はその制服のままがいいわ、お化粧だけちょっと直しますね」といわれてタオルを巻かれて髪をすかれ、眉とマスカラとリップをいじられた。
「色が白いからきれいね」とスタッフがにっこりと微笑むとドアがガラッと開いて丸顔の無精ひげの男が「急いでください、天気が心配で」といって百合をひっぱり出した。そのまま手を引かれてあのワークシャツの青年のところに連れていかれた。
青年は百合を見ると軽くウィンクをして周りを見渡して大音声で「はい再開。新しいモデルさん加わります。ジャンと二人並んで」といった。さっきの丸顔の男が綺音に向かってこっちこっちと手を振り芝生の真ん中あたりに導いた。
そこにいたのが、ジャンだった。
ジャンは真っ白なドレスを着て芝生にぺたんと座っていた。百合と眼が合うとニッコリと微笑み、「ありがとう、突然でごめんなさい」といった。
近くで見ると息を呑むほどきれいな子だった。濃い色の金髪と透き通る肌、エメラルドのような瞳と整った顔立ちは、天使がこの世に現れたようだった。
「あなた、きれいね」
天使がそういって微笑むといい香りの星や花びらがふりまかれたような心地がした。ただ、彼女の眼には哀し気な色があった。繊細で美しいものすべてにはそういった淡い愁いの要素があるのかもしれないが、彼女の眼から広がる表情にあるのはもっとストレートなものだった。彼女はまさに天使そのもので人間の普通の幸せがわからないのかもしれなかった。そんな眼だった。
百合はほぼ一瞬でそれを感じとった。それから百合はスタッフに動かされるままに座って姿勢を決められ、カメラマンが怒鳴るたびに人形のように手足やからだを操られて別の姿勢にさせられた。
天使さんの手を握るようにといわれて握ったが、その手先は容姿とは裏腹に骨太でしっかりとしていた。幻想的で繊細な美しさは彼女がプロの技術を使って醸し出しすもので実際にはタフな仕事をしっかりとやり遂げるからだの持ち主なんだろう、と百合は思った。
百合がただの操り人形となって動かされているうちに撮影は終わりばたばたとあわただしく撤収作業が始まった。
「助かったよ。カメラが気難し屋でね。でも君のことは気に入っていたようだ」
ワークシャツの青年は百合の手を取ってにっこりと笑った。天使がやってきた。
「ほんとうにありがとう。すてきな写真になったと思うわ。お名前は?」
「yuriです」
「yuri、エキゾティックですてきな響きだわ。お礼をさせてくださいね」
天使は優雅に会釈をして車の方に向かった。メークのスタッフらしき女性が寄り添っていった。
「ありがとうございました。失礼します」
そういってワークシャツの青年は自分も車に向かって小走りで去っていった。しばらく待ってくれた天気の神様はそろそろかなと思ったらしく、小雨を落としてきた。小雨はすぐに音を立てて驟雨となった。百合たちも昇降口に戻った。
「すごいじゃない、来月あたりのxxに載るかもよ!」
友人たちが百合を取り囲んで大騒ぎになった。百合は興奮して騒いでいる友人たちといっしょに笑いながらも、この雨はあの子の涙なのかもしれないな、と心の片隅で思っていた。
数日後、百合宛に郵便が届いた。あのモデルからのお礼状だった。フランス語でタイプされたお礼の言葉の後に、ペン書きで大きな字で「ありがとう」と書いてあり、アルファベットの百合の名前の最後に lis と書かれていた。yuri という音の日本語が花の名前であることを調べてそれがフランスの lis であることまで調べたようだ。
そして、一枚のチケットが同封されていた。来週の土曜日に開催されるファッションイベントのチケットだった。えええ、パリのファッションショー!百合はすっかりのぼせ上がってしまった。コレクションほどの規模ではないが小さなイベントは週末ごとに開かれていた。ただ、そういう場所に中学生がひとりで行けるとは思えなかった。
誰かに相談する前に百合はもう一度手紙をよく読んでみた。フランス語を習い始めてまだ三か月の百合は最後の行の je vais vous chercher! の意味を分かっていなかった。辞書と首っ引きでようやくその日の午後に迎えに来てくれることを理解した。
土曜日の午後、午前中で授業を終えていた百合たちは昇降口に陣取って待ち構えていた。何人かのクラスメートには話さないわけにはいかなかった。
三時に寮のゲートの前に黒塗りの車が停まった。ドアを開けて出てきた人がこちらを見て手を振った。濃い黄金色の髪はきっとあの子だった。昇降口で待っていた百合は仲間に別れを告げて小走りでゲートに向かった。
待っていたのはあの時とは打って変わってカジュアルな出で立ちのモデルの子だった。彼女はフレンドリーな笑顔で百合を迎えた。
「こんにちは、ユリ」
百合は唖然とした。あの子が日本語をしゃべったのだ。
「え、どうして」
百合は何が何だか分からなくなった。
「話は車でしましょう」
百合はぽかんとしたまま彼女にうながされるままに車に乗り込んだ。
「わたしはジャンヌ、ジャンでいいわ」
音もなくすべるように車が動き出すと彼女が自己紹介をした。
「わたし、半分日本人なのよ、ママが日本の人だったの」
女優さんのように美しいジャンヌは意外な出自を明らかにした。
昇降口にかたまっていた友人たちは百合の背中を見ながら、ああ、行っちゃったわ、なんだか王子様が迎えに来たみたい、いいなあ、あたしも、などなど姦しかったが、車がゲートから離れていくと残念そうに部屋に引き揚げていった。
ショーのイルミネーションとモデルの迫力に圧倒されていた百合はジャンに連れられてきたカフェでジュースを一口飲んでようやく落ちついた。
「すごくきれいだった」
百合はすっかり雰囲気に魅せられていた。ショーは百合がこれまでに見たことのないパリの姿の一つだった。
「よかった、よろこんでもらえて」
ジャンはうれしそうだった。先日の撮影の時とはメークも違うのか、ぐっと大人っぽかった。
「ジャンは出ないの?」
百合は無邪気に聞いた。
「わたしは少し背が足りないみたい、それにあんなにやせられないわ」
ジャンはそういうと鼻にしわを寄せて笑った。チャーミングな笑顔だった。そして欧州の人とはちょっと違った繊細な感じがあった。百合は短い滞在の間にもこちらの人の表情が日本人とは根本的に違うのを感じていた。喜怒哀楽の表情は同じだが、ふつうにしているときの顔つきがこちらの人は険しかった。見るからに優しそうな人や人懐こさが顔に出ている人はほとんどいなかった。
だから百合は初めの頃は人に話しかけるのが苦手だった。一言話せば笑顔になるのだがそこまではまるで怒られているような気持になったからだ。ジャンの表情はそこが違った。ふつうにしていても彼女の表情には人を寛がせ安心させるものがあった。
日本人の血のせいなのだろうか、百合は思った。 ジャンとの話はいつまでも続くような気がした。他愛もない話が笑顔を誘いその笑顔がまた話を誘った。百合はこんなに楽しい時間はこちらに来て初めてだった。
ジャンは母親が日本人で父親がイタリア人だったが戦争で二人とも亡くなったこと、今は学校の先生の知り合いだったパパとママと同居していること、モデルとしてパパの美術の仕事を手伝っていることなどを話してくれた。
百合はジャンの哀しい眼はご両親と関係があるのかもしれないと思った。そしてあまりに波乱万丈なジャンと比べると自分の人生が平凡でつまらないものに思えるといった。そんなことはないよ、とジャンは反論した。
「だってあなたが勇気を奮って外国にくるという冒険に踏み出したからわたしたちは会えた。あなたは勇者よ」
ジャンは真剣な顔でそういった。こんなすてきなことをちゃんと言葉にできるってすごい、と百合は感動した。
「ありがとう、ジャン」
そういって恥ずかし気に微笑む百合の姿にジャンは胸が躍った。彼女の仕草や表情は百合本人が気づいていないコケットリーにあふれていた。彼女は美しいとジャンは心から思った。
ジャンは百合の腕を取ってひきよせた。百合はジャンの胸に顔をうずめた。それは何度目かの外出の日の夕暮れだった。公園を散歩していた二人に会話の途切れる瞬間が訪れた。神様がすべての恋人たちのために用意している瞬間だった。
「わたし、初めて会った時にあなたの顔に哀しい影があるような気がしたの」
百合はふるえながら打ち明けた。
「ユリ、あなたにはそれが見えたの」
ジャンは百合の髪をなでながら聞いた。
「見えた気がした、あなたは泣いていたわ。かわいそうでしかたなかった」
百合はうなだれてつぶやくようにいった。
「ユリはわたしのことを分かってくれるのね」
ジャンのまなざしは空ろだった。ジャンは百合のおとがいに手をあてて顔を上げさせた。百合は眼を閉じた。二人のくちびるはそっとふれあった。
「好き」
その言葉は百合の小さな口からこぼれでた。
「ユリ」
二人が一つになったまま夕闇が濃くなっていった。小さな舌がくちびるを割った。 それからの二人は神様のあつらえた瞬間を求めてさ迷い歩いた。手をつないでどこまでも歩いて行ける気がした。公園を歩けば小鳥が二人に祝福の言葉をさえずり、風が祝福の歌をおごそかに歌い、池の水面にちらちらと跳ねる陽光がカリヨンを鳴らし、風に舞う木の葉がひそひそと二人に秘密の隠れ家を教えた。
見るものすべてがやさしく語りかけてくるような気がした。けたたましい都会の騒音すら二人の散歩を彩る BGM になった。黙って互いの眼を見るだけで笑いがこみあげてきて、足をバタバタさせたりその辺を跳ねまわりそうになった。
寮に彼女を忍び込ませることも考えたがさすがにそれは不可能そうだった。その代わりに、小さな恋人たちは歩くのに疲れるとかくれんぼをする子どものようにあらゆる隙間を探してもぐり込み愛を育んだ。
百合はジャンの求めに応じてボタンを外して胸を開いた。二人は公園の森にある四阿にレジャーシートを敷いて寝転んでいた。飲物と食べ物も用意してピクニックに来ていたのだった。うつむく百合の頬に黒髪がゆれた。ジャンの手がふくらみにふれると百合は子犬のように鼻を鳴らした。百合はジャンのくちびるを求めた。ジャンは百合のくちびるから離れるとふくらみの先のつぼみにくちづけした。百合はか細い声で喘いだ。ジャンの手がひざにふれると百合はたまらなくなってジャンにしがみついた。
二人の時間に蜜の粘りと春の雨のような暖かい湿り気が満ちてきた。一つの本を一緒に読むとページを繰ろうとして同時に手が出てふれあった。ふれあえば火花が散った。火花はそっと握り合う手を融かして愛撫に変えていった。くちびるはあらゆることを素早く学んだ。
少女の中で居心地悪そうに苦しんでいた若い魂が今は自由にからだの隅々に満ちて喜びにふるえていた。
「日本では女性同士の愛を『百合』と呼ぶの」
百合はいった。
「あなたの名前と同じね。わたしたちは百合なのね、すてき」
ジャンがいった。
しかし満ち足りた気分は未来に思いを馳せた時に必ずといっていいほど不安を呼び覚ました。今日を生きろという言葉はそれが容易にできないからこその箴言だった。
「こわい」
百合がささやいた。
「なぜ」
ジャンが気だるげに応えた。
「どんどん好きになるから」
愛に陥ることへの恐れだった。少女は、好きになるほどにその陥穽は深くなり唐突に現れて足をすくうことを誰にも聞かずに知っているのだった。ジャンは言葉を失って百合を抱きしめた。深い苦しみはジャンにもあった。
午後の日差しは弱まるのが早かった。心地よかった日陰は一足早く夕暮れを迎えたようだった。座り直した百合はうつむいてボタンを留めた。二人はからだについた草やツタをはらって立ち上がった。百合は背伸びをしてジャンのくちびるを求め二人はもう一度やさしいキスをした。
ジャンの眼にはまだブルーな澱みがあった。百合はジャンの哀しみを分かち合いたかった。二人は手をつないで家路をたどった。
百合はジャンを求めた。寮の部屋でベッドに入ると「光のとき」-これは彼女が自分が二つに分かれてしまったように感じ始めたときにふだんの自分につけた名前だった-が消え去って代わりにジャンの熱い息や愛撫の記憶が甦ってきた。初めはやすらかな眠りを妨げられて苦しんだが今はその気持ちを解き放つ術を憶えて眠りにつけるようになっていた。百合は自分が変わったと思っていた。胸を中から押し上げて息を詰まらせるこの苦しみともうれしさとも違う衝動は今まで一度も経験したことはなかった。
最初はジャンの中で涙を流している小さなジャンを抱きしめてあげたいという気持ちから始まった。今はジャンを癒したいという気持ちよりもジャンに囚われて彼女の胸に抱かれて涙を流したいという気持ちが強かった。自分が女になってきたとは露ほども思わなかった。それは後になって思いあたることだった。
ジャンは二人のために秘密の部屋を用意した。大人の中で一番信頼できる自分の取り巻きに頼んであるマンションの一室を手に入れたのだった。その取り巻きもジャンの歓心を買いいつかその秘密の場所を自分が使う日が来ると考えて投資したのだった。ジャンはそういう取引に慣れていた。この業界で寄る辺ない子どもが生きるための知恵だった。
ある土曜日の午後、早朝からの散歩と昼食のあとの気怠い時間に小さな寝椅子と書き物机と椅子しかないその小部屋で二人は幼い恋人たちらしい夢見心地の時間を過ごしていた。書き物机には二人で買ったブックエンドで何冊かの小説を立てかけてあった。ソファの背もたれには古着屋で二人で買った大きなショールを飾った。
ショールにはバナナを持ったサルが象の背中に乗っている壁画のような絵が模様になっていた。ソファで丸くなった二人は公園で買ったリンゴを交互にかじっていた。ジャンがリンゴの汁でほおを汚すと百合はそれを自分のくちびるでぬぐった。くすぐったがって上げたジャンの手が百合の胸に強くふれた。百合はからだを固くした。ジャンはキッと百合を見た。百合はガラスの人形のように無表情なまま黒目がちな眼を潤ませていた。そしてジャンの手を取って自分の胸におき直した。ジャンは顔をそむけた。そして、早口のフランス語で自らの苦悩を打ち明けた。
百合はジャンの頬に手をあてると「大丈夫」とつぶやいた。ジャンの言葉は分かるのだった。ジャンは百合が気づいていると思っていたが自分からきちんと話して理解を求めようとしたのだった。言葉にした後悔はなかった。
ジャンは自分が男性であることを打ち明けたのだった。
「知っているの、あなたをずっと見ていたから。あなたが好き」
百合は頬を赤らめた。はにかみに女のしながあった。その日百合とジャンは自然の導くままに結ばれた。二人は必死に探り合い、求め合い、やがて限りない親密さに心を浸した。それが終わりではなくいくつもの繰り返しであることを知った。ジャンの愛は何かを訴えているかのように激しかった。百合は必死で受け止めた。疲れて子どものように眠るジャンが愛しかった。
ジャンが百合を抱いてささやく物語は人の見かけと正体についてのものが多かった。パパやママですらも外見と中身に違いがあることをジャンが教えてくれた。ジャンは苦労をしたおかげでこういう物の見方を身につけられたのだと百合は思った。ジャンは小さい頃から大人にならなければいけなかった、子どもとして日々を送ることができなかった、だから子どものジャンがいつまでも哀し気に瞳に映っているんだ、百合はそこまで考えた。
寮に戻った百合は夕食を取らずにベッドに入った。うつぶせたジャンの髪をそっと漉く夢を見た。
パパの激しい愛を受けたジャンはうつぶせたまま眼を閉じていた。百合のことを考えていた。ジャンは自分が孤児で今は育ての親と一緒にいることを百合に語っていた。しかし自分の日々の暮らしについて何も教えなかった。百合はこれもまた見抜いてしまうのだろうか、それでも愛してくれるのだろうかとぼんやりと思っていた。
「何を考えているの」
シャワーを浴びて戻ってきたパパがいった。
「ん、ママのこと」
ジャンは嘘をついた。隠しごとのために別の隠し事を利用する腹だった。大胆な作戦だった。
「お前がママとも仲良しなのは知ってるよ」
なんでもお見通しだよと余裕を見せたがるのが男だった。ゲイのパパも例外ではなかった。ジャンは黙った。困らせたいなら困ってあげるのが礼儀だわ、と思ったからだ。
「ママと寝たのか」
パパはジャンの首を後ろからつかんでベッドに押しつけていった。
「寝たわ」
尋問なのね、とジャンは面白がっていた。
「どうだった」
パパの手に力が入った。
「お汁たっぷりのいやらしいメスだったわ」
ジャンは喘ぎながら閨房術としてはあまりに洗練されないセリフを吐き捨てた。しかし、この露骨さがいいはず、とジャンは睨んでいた。それに一言たりとも嘘はないわ、と思ってもいた。彼女は達人だった。目論み通りジャンの言葉にパパは興奮したようだった。ジャンはそれにつきあっているうちに自分も巻き込まれてしまいもう一度愛を鼓吹することになった。
この情熱でママを愛せばいいのにと思った。ママの強い匂いまでよみがえってきた。やっぱりパパからもママからも離れらないわ、とジャンは湿ったからだを自分で抱きしめた。
百合はクラスメートからジャンが描かれた絵がかなりの高額で落札されたという話を聞かされた。あの撮影と最初のデートのお誘い以来、寮では何かあると百合は「ジャンの恋人」扱いされていたがいつも言葉がよく分からないふりをしてなんとなく笑ってごまかしていた。こういう呼び名がついたこと自体は実際の深いお付き合いの隠れ蓑としては上々だった。百合はジャンのニュースにもいつものニコニコ顔で応えた。
ジャンをモデルにした作品が評判になるのはまだ名前の売れていなかったパパにとって重要なことなんだ、とジャンは言っていた。ジャンの姿は TV やネットで頻繁に流されるようになった。いくつかの雑誌の表紙も飾った。ジャンは仕事に忙殺され始め百合と愛を交わす機会も次第に減っていった。百合は平気だった。百合の心とからだはジャンの温もりで満たされていた。メディアで見るジャンの姿はスタイリッシュで美しかったが百合が知っているジャンとは少し違っていた。ほんとうのジャンはもっと素朴でやさしい、みんなはジャンのほんの一面しか知らない、と百合は思った。
ほんのわずかの虚栄心だったが完全に満たされたそれはかなり深く持続性もあった。 百合は平日は勉強に励み、週末の短い時間をジャンと過ごした。二人で買い物や散歩に出られなくなったことだけが残念だった。今のジャンはちょっとした有名人だった。ジャンの成功は二人の夢の世界をさらに豊かに彩っていった。
百合は短い逢瀬の間にジャンの様子や表情や仕草を眼に焼きつけジャンの言葉に耳をそばだてた。そしてジャンのからだの重さや柔らかさやしなやかさを自分のからだに憶えさせようとした。自分がいないときのジャンのことを少しでも知りたかった。ジャンの襟足にキスマークがあると、あのメガネの青年かしらと思いつつも何も言わずに指でそっと突いた。変わった愛撫と思ったジャンが気だるげに声を上げると、百合は何事もなかったかのようにジャンにキスをせがんだ。
百合が体調が変わったに気づいたのはそれからすこしあとだった。百合はこわくなかった。愛の陥穽への恐れは気がつくとなくなっていた。ジャンが世界を広げるのと時を同じくして百合は大人への成長を遂げていた。小さなからだに宿った魂は少女時代を駆け抜けて成熟へと向かっていた。
百合はあのとき気づいたジャンの哀しみを今担うことができたように思った。それは愛と切り離される哀しみだった。百合はその哀しみを大切に自分の心にしまい込んだ。
百合が愛した彼女の名はジャン・ミレイ。売れっ子の美少女モデルであり、たくましく清らかな少年だった。
帰国した百合は自分の立てた計画を実行に移した。本人の強い意思と両親の子どもへの信頼がすべてをつつがなく推し進めた。ただ、ミレイと両親の間のやり取りについて話を聞く余裕が出産を控えた百合にはなかった。
厳しい話もあったのかもしれないが、年若い母親となる娘を心配しながらも生まれてくる子どもを楽しみにしている朗らかな両親に百合は深く感謝した。
出産は無事に行われ、百合は健康な男の子を授かった。栗色の眼はミレイから受け継いだようだった。
百合は自宅で子育てをしながら四年かけて通信教育で大学入学資格を得た。ミレイからは祝福の手紙が来た。その手紙には百合の努力への称賛と子どもの成長への感謝に加えてパパとママにも子どもができたというニュースがあった。
百合はこの手紙を何度も繰り返して読んだ。そして大学で教育を専攻して教員免許を取ろうと考えるようになった。子どもとのささやかだが幸せな生活を送りつつ勉学に打ち込んでいると時はあっという間に過ぎていった。
百合は大学を卒業すると小学校の教員として働き始めた。子どもは健やかに育っていた。表情に父の面影が見えることもあった。
三年後ミレイからパパが息子を連れて日本に移住するという驚きのニュースがもたらされた。パパのパトロンには日本の大手の企業が多い上に国内のパフォーミングアーツの水準が上がり市場も拡大し始めたためだった。その手紙にはママは長患いが落ちつくまでは故国にとどまることとミレイ本人は仕事の都合でしばらくは動けないことも記されていた。
さらにミレイは、ママも自分もいない日本で暮らすことになる少年を少しでも見守ってもらえないだろうかと百合に頼んできた。百合に異存はなかった。
百合は少年が通う小学校に異動しようと決断した。教職に就こうと決めた時にこういう日がくることを予期していたのかもしれなかった。百合は異動の申請を準備した。新卒時は希望の配属をされないことが多かったが三年の実績を積むことである程度の希望は通るはずだった。
百合は少年と会える日を楽しみにした。
二十歳になるなり飲み歩くようになった息子は今日も帰らないだろう、まあでも今が一番楽しい時期だろうから文句はいうまい、女の子もいるのかもしれない。子どもの心配はいつまでも尽きない、と百合は思った。家に灯りはなかった。大きな音を立てる鍵を回して中に入ると暗がりの空気は外よりも冷たく感じた。もちろん寂しさはあった。
母一人子一人の暮らしからあの子がいなくなったらどうなるのだろう、あの人の面影を失ってわたしは大丈夫なのだろうか、といった思いが頭をもたげることは多くなっていた。
ユウトに会うのも息子が自分から離れていく予感や不安を紛らわしたいためだということを百合は分かっていた。一時の気晴らしの後味はよくなかった。ましてやユウトは息子のモデル仲間だったから。
満足がないわけではなかった。ユウトの若いからだは百合をしっかりと喜ばせた。それでも、一人になってしまえば、その記憶がかさぶたのようになるだけだった。
ベッドに入っても眼は冴えていた。百合には眠れない夜にいつもたどりつく場所があった。それは今でもくっきりと眼に浮かぶ遠い国の風景だった。
ゲートで見送りの仲間と別れた百合は、ロワシーの空港の出発デッキでの搭乗までの小一時間で、帰国してからどうするかについてもう一度考えた。ジャンは見送りにこれなかった。忙しいのだからしかたがない、と百合は納得したつもりだったが、哀しみが気まぐれに胸に浮かび上がって彼女を困らせた。
それよりもこの子のことだった。百合はからだのリズムのいい子だったからそのリズムが崩れた時にすぐに気がついた。ドラッグストアで求めた検査薬の結果も間違いようのないものだった。
百合は強かった。誰にもいわずに残り少なくなっていた滞在の日々を過ごした。航空機に乗れなくなるほど日は経っていなかったことはラッキーだった。帰国したら、まず医師に相談して体調を確認する、そして両親に打ち明ける、十五歳の少女にしては驚くべき気丈な振る舞いだった。この逞しさ、独立心は十四歳で娘を一人で留学させることをいとわない家庭に育ったおかげでもあった。
そんな彼女でも搭乗者カードの妊娠しているかどうかを確認する欄にチェックをいれるときは手が震えた。ブランケットを持ってきてくれたアテンダントの女性が百合の耳元で「おめでとうございます、楽な姿勢を取れるようにお隣を空けましょうね」といってにっこりとしてくれて胸が熱くなった。
定刻の離陸直後、機体の旋回にしたがって窓から初春の靄のかかった街が見えた。
「バイバイ、ジャン」
街の景色が少しだけにじんだ。
百合は初めてパリに着いたときからこの街が気に入っていた。地層が積み重なってできたような古めかしく翳りのある街並みは東京よりも暖かみがありどっしりと落ちついていた。急き立てられる暮しに息苦しさを感じていた百合はここでなら自分のペースで呼吸ができるかもしれないと思った。何より言葉があまり分からないおかげで噂話や陰口に耳を奪われないのがよかった。
百合はここでの時間が自分にとって貴重なものになると感じていた。 同級生たちはみんな気立てがよく品のある優等生だった。貴族や富豪の子息が通うような学校ではなく留学や大学を目指す進学校だったのでビジネスマンや官僚、学者の子息が多く通っていた。百合は珍しい日本からの留学生ということ注目されがちだったが、誰もが親切にしてくれて、いじめに遭うようなことはまったくなかった。通学路にあるお店の人々も挨拶から始まって気軽に声をかけてくれるようになった。
二か月ほど経つと百合はまるで昔からここに住んでいたかのように学校と街の暮らしに馴染んでいた。 百合は日本人らしい黒髪のことを友人たちから物珍し気にいわれてもあまりピンとこなかった。さまざまな髪の色の子がいたが、たしかに百合のように真っ黒でつやつやとした髪は珍しかった。百合は髪をふつうに垂らしていたが色が白くて黒目勝ちなせいもあって外人からすると日本人形のイメージそのものに見えるようだった。
毎朝、えんじ色を基調にした制服の少女たちがにぎやかに通学するなか、黒髪をゆらすほっそりとした少女はひときわ目立っていた。百合自身は自分がエキゾティックな魅力をふりまいていることにまるで気づいていなかった。
部屋で日課の復習をしていると誰かが廊下をバタバタと走っていって、寮の前で雑誌か何かの撮影をやっているという声がした。百合の学生寮はパリ北部の郊外にある古びた建物だった。敷地が広く建物を囲んで美しい芝の庭があるのが特徴だった。百合が慌てて昇降口を出ると、寮の建物と門の間の芝生のところに機材を掲げた見慣れない集団がいた。
確かに撮影を行っているようだった。カメラマンとスタッフが白いドレスを着たモデルらしい人物と打ち合わせをしていた。モデルは芝生にすわったかと思えば立ち上がりスタッフと手ぶりを交えて話をしていた。どうやらモデルとスタッフの話が合わないようだった。カメラマンは機材を構えてそっぽを向いていた。
モデルの少女が主に話しているのは背の高いワークシャツを着て眼鏡をかけた青年だった。「トラブルかしらね」いっしょに見物しているクラスメートたちも妙な空気を感じてそういった。
背の高い青年は両手を大きく広げて天を仰ぎ、髪をかきむしって辺りを見渡した。彼の眼は撮影を見物している人々を端からサーチライトのようにスキャンして女学生たちのところで留まった。
彼はおおまたでつかつかと女学生たちのところへやってきた。キャーッというような歓声が上がった。
「ねえ君、君」
百合は初め自分が話しかけられていることが分からなかった。
「たいへん申し訳ないんだけれど、少しだけお手伝いをお願いできないかな」
ワークシャツを着て眼鏡をかけた痩せた青年が百合を見てそういっていた。もう一度ワーだかキャーのような歓声が上がった。
「えっ」
唐突な問いかけに百合がびっくりしていると「じゃあお願いね。準備はこちらで」といわれて、百合はあれよあれよという間にスタッフらしい女性に手を引かれてゲートの脇に停めてあるワゴン車両のところに連れていかれた。そして、車に押し込められて女性スタッフから「衣装はその制服のままがいいわ、お化粧だけちょっと直しますね」といわれてタオルを巻かれて髪をすかれ、眉とマスカラとリップをいじられた。
「色が白いからきれいね」とスタッフがにっこりと微笑むとドアがガラッと開いて丸顔の無精ひげの男が「急いでください、天気が心配で」といって百合をひっぱり出した。そのまま手を引かれてあのワークシャツの青年のところに連れていかれた。
青年は百合を見ると軽くウィンクをして周りを見渡して大音声で「はい再開。新しいモデルさん加わります。ジャンと二人並んで」といった。さっきの丸顔の男が綺音に向かってこっちこっちと手を振り芝生の真ん中あたりに導いた。
そこにいたのが、ジャンだった。
ジャンは真っ白なドレスを着て芝生にぺたんと座っていた。百合と眼が合うとニッコリと微笑み、「ありがとう、突然でごめんなさい」といった。
近くで見ると息を呑むほどきれいな子だった。濃い色の金髪と透き通る肌、エメラルドのような瞳と整った顔立ちは、天使がこの世に現れたようだった。
「あなた、きれいね」
天使がそういって微笑むといい香りの星や花びらがふりまかれたような心地がした。ただ、彼女の眼には哀し気な色があった。繊細で美しいものすべてにはそういった淡い愁いの要素があるのかもしれないが、彼女の眼から広がる表情にあるのはもっとストレートなものだった。彼女はまさに天使そのもので人間の普通の幸せがわからないのかもしれなかった。そんな眼だった。
百合はほぼ一瞬でそれを感じとった。それから百合はスタッフに動かされるままに座って姿勢を決められ、カメラマンが怒鳴るたびに人形のように手足やからだを操られて別の姿勢にさせられた。
天使さんの手を握るようにといわれて握ったが、その手先は容姿とは裏腹に骨太でしっかりとしていた。幻想的で繊細な美しさは彼女がプロの技術を使って醸し出しすもので実際にはタフな仕事をしっかりとやり遂げるからだの持ち主なんだろう、と百合は思った。
百合がただの操り人形となって動かされているうちに撮影は終わりばたばたとあわただしく撤収作業が始まった。
「助かったよ。カメラが気難し屋でね。でも君のことは気に入っていたようだ」
ワークシャツの青年は百合の手を取ってにっこりと笑った。天使がやってきた。
「ほんとうにありがとう。すてきな写真になったと思うわ。お名前は?」
「yuriです」
「yuri、エキゾティックですてきな響きだわ。お礼をさせてくださいね」
天使は優雅に会釈をして車の方に向かった。メークのスタッフらしき女性が寄り添っていった。
「ありがとうございました。失礼します」
そういってワークシャツの青年は自分も車に向かって小走りで去っていった。しばらく待ってくれた天気の神様はそろそろかなと思ったらしく、小雨を落としてきた。小雨はすぐに音を立てて驟雨となった。百合たちも昇降口に戻った。
「すごいじゃない、来月あたりのxxに載るかもよ!」
友人たちが百合を取り囲んで大騒ぎになった。百合は興奮して騒いでいる友人たちといっしょに笑いながらも、この雨はあの子の涙なのかもしれないな、と心の片隅で思っていた。
数日後、百合宛に郵便が届いた。あのモデルからのお礼状だった。フランス語でタイプされたお礼の言葉の後に、ペン書きで大きな字で「ありがとう」と書いてあり、アルファベットの百合の名前の最後に lis と書かれていた。yuri という音の日本語が花の名前であることを調べてそれがフランスの lis であることまで調べたようだ。
そして、一枚のチケットが同封されていた。来週の土曜日に開催されるファッションイベントのチケットだった。えええ、パリのファッションショー!百合はすっかりのぼせ上がってしまった。コレクションほどの規模ではないが小さなイベントは週末ごとに開かれていた。ただ、そういう場所に中学生がひとりで行けるとは思えなかった。
誰かに相談する前に百合はもう一度手紙をよく読んでみた。フランス語を習い始めてまだ三か月の百合は最後の行の je vais vous chercher! の意味を分かっていなかった。辞書と首っ引きでようやくその日の午後に迎えに来てくれることを理解した。
土曜日の午後、午前中で授業を終えていた百合たちは昇降口に陣取って待ち構えていた。何人かのクラスメートには話さないわけにはいかなかった。
三時に寮のゲートの前に黒塗りの車が停まった。ドアを開けて出てきた人がこちらを見て手を振った。濃い黄金色の髪はきっとあの子だった。昇降口で待っていた百合は仲間に別れを告げて小走りでゲートに向かった。
待っていたのはあの時とは打って変わってカジュアルな出で立ちのモデルの子だった。彼女はフレンドリーな笑顔で百合を迎えた。
「こんにちは、ユリ」
百合は唖然とした。あの子が日本語をしゃべったのだ。
「え、どうして」
百合は何が何だか分からなくなった。
「話は車でしましょう」
百合はぽかんとしたまま彼女にうながされるままに車に乗り込んだ。
「わたしはジャンヌ、ジャンでいいわ」
音もなくすべるように車が動き出すと彼女が自己紹介をした。
「わたし、半分日本人なのよ、ママが日本の人だったの」
女優さんのように美しいジャンヌは意外な出自を明らかにした。
昇降口にかたまっていた友人たちは百合の背中を見ながら、ああ、行っちゃったわ、なんだか王子様が迎えに来たみたい、いいなあ、あたしも、などなど姦しかったが、車がゲートから離れていくと残念そうに部屋に引き揚げていった。
ショーのイルミネーションとモデルの迫力に圧倒されていた百合はジャンに連れられてきたカフェでジュースを一口飲んでようやく落ちついた。
「すごくきれいだった」
百合はすっかり雰囲気に魅せられていた。ショーは百合がこれまでに見たことのないパリの姿の一つだった。
「よかった、よろこんでもらえて」
ジャンはうれしそうだった。先日の撮影の時とはメークも違うのか、ぐっと大人っぽかった。
「ジャンは出ないの?」
百合は無邪気に聞いた。
「わたしは少し背が足りないみたい、それにあんなにやせられないわ」
ジャンはそういうと鼻にしわを寄せて笑った。チャーミングな笑顔だった。そして欧州の人とはちょっと違った繊細な感じがあった。百合は短い滞在の間にもこちらの人の表情が日本人とは根本的に違うのを感じていた。喜怒哀楽の表情は同じだが、ふつうにしているときの顔つきがこちらの人は険しかった。見るからに優しそうな人や人懐こさが顔に出ている人はほとんどいなかった。
だから百合は初めの頃は人に話しかけるのが苦手だった。一言話せば笑顔になるのだがそこまではまるで怒られているような気持になったからだ。ジャンの表情はそこが違った。ふつうにしていても彼女の表情には人を寛がせ安心させるものがあった。
日本人の血のせいなのだろうか、百合は思った。 ジャンとの話はいつまでも続くような気がした。他愛もない話が笑顔を誘いその笑顔がまた話を誘った。百合はこんなに楽しい時間はこちらに来て初めてだった。
ジャンは母親が日本人で父親がイタリア人だったが戦争で二人とも亡くなったこと、今は学校の先生の知り合いだったパパとママと同居していること、モデルとしてパパの美術の仕事を手伝っていることなどを話してくれた。
百合はジャンの哀しい眼はご両親と関係があるのかもしれないと思った。そしてあまりに波乱万丈なジャンと比べると自分の人生が平凡でつまらないものに思えるといった。そんなことはないよ、とジャンは反論した。
「だってあなたが勇気を奮って外国にくるという冒険に踏み出したからわたしたちは会えた。あなたは勇者よ」
ジャンは真剣な顔でそういった。こんなすてきなことをちゃんと言葉にできるってすごい、と百合は感動した。
「ありがとう、ジャン」
そういって恥ずかし気に微笑む百合の姿にジャンは胸が躍った。彼女の仕草や表情は百合本人が気づいていないコケットリーにあふれていた。彼女は美しいとジャンは心から思った。
ジャンは百合の腕を取ってひきよせた。百合はジャンの胸に顔をうずめた。それは何度目かの外出の日の夕暮れだった。公園を散歩していた二人に会話の途切れる瞬間が訪れた。神様がすべての恋人たちのために用意している瞬間だった。
「わたし、初めて会った時にあなたの顔に哀しい影があるような気がしたの」
百合はふるえながら打ち明けた。
「ユリ、あなたにはそれが見えたの」
ジャンは百合の髪をなでながら聞いた。
「見えた気がした、あなたは泣いていたわ。かわいそうでしかたなかった」
百合はうなだれてつぶやくようにいった。
「ユリはわたしのことを分かってくれるのね」
ジャンのまなざしは空ろだった。ジャンは百合のおとがいに手をあてて顔を上げさせた。百合は眼を閉じた。二人のくちびるはそっとふれあった。
「好き」
その言葉は百合の小さな口からこぼれでた。
「ユリ」
二人が一つになったまま夕闇が濃くなっていった。小さな舌がくちびるを割った。 それからの二人は神様のあつらえた瞬間を求めてさ迷い歩いた。手をつないでどこまでも歩いて行ける気がした。公園を歩けば小鳥が二人に祝福の言葉をさえずり、風が祝福の歌をおごそかに歌い、池の水面にちらちらと跳ねる陽光がカリヨンを鳴らし、風に舞う木の葉がひそひそと二人に秘密の隠れ家を教えた。
見るものすべてがやさしく語りかけてくるような気がした。けたたましい都会の騒音すら二人の散歩を彩る BGM になった。黙って互いの眼を見るだけで笑いがこみあげてきて、足をバタバタさせたりその辺を跳ねまわりそうになった。
寮に彼女を忍び込ませることも考えたがさすがにそれは不可能そうだった。その代わりに、小さな恋人たちは歩くのに疲れるとかくれんぼをする子どものようにあらゆる隙間を探してもぐり込み愛を育んだ。
百合はジャンの求めに応じてボタンを外して胸を開いた。二人は公園の森にある四阿にレジャーシートを敷いて寝転んでいた。飲物と食べ物も用意してピクニックに来ていたのだった。うつむく百合の頬に黒髪がゆれた。ジャンの手がふくらみにふれると百合は子犬のように鼻を鳴らした。百合はジャンのくちびるを求めた。ジャンは百合のくちびるから離れるとふくらみの先のつぼみにくちづけした。百合はか細い声で喘いだ。ジャンの手がひざにふれると百合はたまらなくなってジャンにしがみついた。
二人の時間に蜜の粘りと春の雨のような暖かい湿り気が満ちてきた。一つの本を一緒に読むとページを繰ろうとして同時に手が出てふれあった。ふれあえば火花が散った。火花はそっと握り合う手を融かして愛撫に変えていった。くちびるはあらゆることを素早く学んだ。
少女の中で居心地悪そうに苦しんでいた若い魂が今は自由にからだの隅々に満ちて喜びにふるえていた。
「日本では女性同士の愛を『百合』と呼ぶの」
百合はいった。
「あなたの名前と同じね。わたしたちは百合なのね、すてき」
ジャンがいった。
しかし満ち足りた気分は未来に思いを馳せた時に必ずといっていいほど不安を呼び覚ました。今日を生きろという言葉はそれが容易にできないからこその箴言だった。
「こわい」
百合がささやいた。
「なぜ」
ジャンが気だるげに応えた。
「どんどん好きになるから」
愛に陥ることへの恐れだった。少女は、好きになるほどにその陥穽は深くなり唐突に現れて足をすくうことを誰にも聞かずに知っているのだった。ジャンは言葉を失って百合を抱きしめた。深い苦しみはジャンにもあった。
午後の日差しは弱まるのが早かった。心地よかった日陰は一足早く夕暮れを迎えたようだった。座り直した百合はうつむいてボタンを留めた。二人はからだについた草やツタをはらって立ち上がった。百合は背伸びをしてジャンのくちびるを求め二人はもう一度やさしいキスをした。
ジャンの眼にはまだブルーな澱みがあった。百合はジャンの哀しみを分かち合いたかった。二人は手をつないで家路をたどった。
百合はジャンを求めた。寮の部屋でベッドに入ると「光のとき」-これは彼女が自分が二つに分かれてしまったように感じ始めたときにふだんの自分につけた名前だった-が消え去って代わりにジャンの熱い息や愛撫の記憶が甦ってきた。初めはやすらかな眠りを妨げられて苦しんだが今はその気持ちを解き放つ術を憶えて眠りにつけるようになっていた。百合は自分が変わったと思っていた。胸を中から押し上げて息を詰まらせるこの苦しみともうれしさとも違う衝動は今まで一度も経験したことはなかった。
最初はジャンの中で涙を流している小さなジャンを抱きしめてあげたいという気持ちから始まった。今はジャンを癒したいという気持ちよりもジャンに囚われて彼女の胸に抱かれて涙を流したいという気持ちが強かった。自分が女になってきたとは露ほども思わなかった。それは後になって思いあたることだった。
ジャンは二人のために秘密の部屋を用意した。大人の中で一番信頼できる自分の取り巻きに頼んであるマンションの一室を手に入れたのだった。その取り巻きもジャンの歓心を買いいつかその秘密の場所を自分が使う日が来ると考えて投資したのだった。ジャンはそういう取引に慣れていた。この業界で寄る辺ない子どもが生きるための知恵だった。
ある土曜日の午後、早朝からの散歩と昼食のあとの気怠い時間に小さな寝椅子と書き物机と椅子しかないその小部屋で二人は幼い恋人たちらしい夢見心地の時間を過ごしていた。書き物机には二人で買ったブックエンドで何冊かの小説を立てかけてあった。ソファの背もたれには古着屋で二人で買った大きなショールを飾った。
ショールにはバナナを持ったサルが象の背中に乗っている壁画のような絵が模様になっていた。ソファで丸くなった二人は公園で買ったリンゴを交互にかじっていた。ジャンがリンゴの汁でほおを汚すと百合はそれを自分のくちびるでぬぐった。くすぐったがって上げたジャンの手が百合の胸に強くふれた。百合はからだを固くした。ジャンはキッと百合を見た。百合はガラスの人形のように無表情なまま黒目がちな眼を潤ませていた。そしてジャンの手を取って自分の胸におき直した。ジャンは顔をそむけた。そして、早口のフランス語で自らの苦悩を打ち明けた。
百合はジャンの頬に手をあてると「大丈夫」とつぶやいた。ジャンの言葉は分かるのだった。ジャンは百合が気づいていると思っていたが自分からきちんと話して理解を求めようとしたのだった。言葉にした後悔はなかった。
ジャンは自分が男性であることを打ち明けたのだった。
「知っているの、あなたをずっと見ていたから。あなたが好き」
百合は頬を赤らめた。はにかみに女のしながあった。その日百合とジャンは自然の導くままに結ばれた。二人は必死に探り合い、求め合い、やがて限りない親密さに心を浸した。それが終わりではなくいくつもの繰り返しであることを知った。ジャンの愛は何かを訴えているかのように激しかった。百合は必死で受け止めた。疲れて子どものように眠るジャンが愛しかった。
ジャンが百合を抱いてささやく物語は人の見かけと正体についてのものが多かった。パパやママですらも外見と中身に違いがあることをジャンが教えてくれた。ジャンは苦労をしたおかげでこういう物の見方を身につけられたのだと百合は思った。ジャンは小さい頃から大人にならなければいけなかった、子どもとして日々を送ることができなかった、だから子どものジャンがいつまでも哀し気に瞳に映っているんだ、百合はそこまで考えた。
寮に戻った百合は夕食を取らずにベッドに入った。うつぶせたジャンの髪をそっと漉く夢を見た。
パパの激しい愛を受けたジャンはうつぶせたまま眼を閉じていた。百合のことを考えていた。ジャンは自分が孤児で今は育ての親と一緒にいることを百合に語っていた。しかし自分の日々の暮らしについて何も教えなかった。百合はこれもまた見抜いてしまうのだろうか、それでも愛してくれるのだろうかとぼんやりと思っていた。
「何を考えているの」
シャワーを浴びて戻ってきたパパがいった。
「ん、ママのこと」
ジャンは嘘をついた。隠しごとのために別の隠し事を利用する腹だった。大胆な作戦だった。
「お前がママとも仲良しなのは知ってるよ」
なんでもお見通しだよと余裕を見せたがるのが男だった。ゲイのパパも例外ではなかった。ジャンは黙った。困らせたいなら困ってあげるのが礼儀だわ、と思ったからだ。
「ママと寝たのか」
パパはジャンの首を後ろからつかんでベッドに押しつけていった。
「寝たわ」
尋問なのね、とジャンは面白がっていた。
「どうだった」
パパの手に力が入った。
「お汁たっぷりのいやらしいメスだったわ」
ジャンは喘ぎながら閨房術としてはあまりに洗練されないセリフを吐き捨てた。しかし、この露骨さがいいはず、とジャンは睨んでいた。それに一言たりとも嘘はないわ、と思ってもいた。彼女は達人だった。目論み通りジャンの言葉にパパは興奮したようだった。ジャンはそれにつきあっているうちに自分も巻き込まれてしまいもう一度愛を鼓吹することになった。
この情熱でママを愛せばいいのにと思った。ママの強い匂いまでよみがえってきた。やっぱりパパからもママからも離れらないわ、とジャンは湿ったからだを自分で抱きしめた。
百合はクラスメートからジャンが描かれた絵がかなりの高額で落札されたという話を聞かされた。あの撮影と最初のデートのお誘い以来、寮では何かあると百合は「ジャンの恋人」扱いされていたがいつも言葉がよく分からないふりをしてなんとなく笑ってごまかしていた。こういう呼び名がついたこと自体は実際の深いお付き合いの隠れ蓑としては上々だった。百合はジャンのニュースにもいつものニコニコ顔で応えた。
ジャンをモデルにした作品が評判になるのはまだ名前の売れていなかったパパにとって重要なことなんだ、とジャンは言っていた。ジャンの姿は TV やネットで頻繁に流されるようになった。いくつかの雑誌の表紙も飾った。ジャンは仕事に忙殺され始め百合と愛を交わす機会も次第に減っていった。百合は平気だった。百合の心とからだはジャンの温もりで満たされていた。メディアで見るジャンの姿はスタイリッシュで美しかったが百合が知っているジャンとは少し違っていた。ほんとうのジャンはもっと素朴でやさしい、みんなはジャンのほんの一面しか知らない、と百合は思った。
ほんのわずかの虚栄心だったが完全に満たされたそれはかなり深く持続性もあった。 百合は平日は勉強に励み、週末の短い時間をジャンと過ごした。二人で買い物や散歩に出られなくなったことだけが残念だった。今のジャンはちょっとした有名人だった。ジャンの成功は二人の夢の世界をさらに豊かに彩っていった。
百合は短い逢瀬の間にジャンの様子や表情や仕草を眼に焼きつけジャンの言葉に耳をそばだてた。そしてジャンのからだの重さや柔らかさやしなやかさを自分のからだに憶えさせようとした。自分がいないときのジャンのことを少しでも知りたかった。ジャンの襟足にキスマークがあると、あのメガネの青年かしらと思いつつも何も言わずに指でそっと突いた。変わった愛撫と思ったジャンが気だるげに声を上げると、百合は何事もなかったかのようにジャンにキスをせがんだ。
百合が体調が変わったに気づいたのはそれからすこしあとだった。百合はこわくなかった。愛の陥穽への恐れは気がつくとなくなっていた。ジャンが世界を広げるのと時を同じくして百合は大人への成長を遂げていた。小さなからだに宿った魂は少女時代を駆け抜けて成熟へと向かっていた。
百合はあのとき気づいたジャンの哀しみを今担うことができたように思った。それは愛と切り離される哀しみだった。百合はその哀しみを大切に自分の心にしまい込んだ。
百合が愛した彼女の名はジャン・ミレイ。売れっ子の美少女モデルであり、たくましく清らかな少年だった。
帰国した百合は自分の立てた計画を実行に移した。本人の強い意思と両親の子どもへの信頼がすべてをつつがなく推し進めた。ただ、ミレイと両親の間のやり取りについて話を聞く余裕が出産を控えた百合にはなかった。
厳しい話もあったのかもしれないが、年若い母親となる娘を心配しながらも生まれてくる子どもを楽しみにしている朗らかな両親に百合は深く感謝した。
出産は無事に行われ、百合は健康な男の子を授かった。栗色の眼はミレイから受け継いだようだった。
百合は自宅で子育てをしながら四年かけて通信教育で大学入学資格を得た。ミレイからは祝福の手紙が来た。その手紙には百合の努力への称賛と子どもの成長への感謝に加えてパパとママにも子どもができたというニュースがあった。
百合はこの手紙を何度も繰り返して読んだ。そして大学で教育を専攻して教員免許を取ろうと考えるようになった。子どもとのささやかだが幸せな生活を送りつつ勉学に打ち込んでいると時はあっという間に過ぎていった。
百合は大学を卒業すると小学校の教員として働き始めた。子どもは健やかに育っていた。表情に父の面影が見えることもあった。
三年後ミレイからパパが息子を連れて日本に移住するという驚きのニュースがもたらされた。パパのパトロンには日本の大手の企業が多い上に国内のパフォーミングアーツの水準が上がり市場も拡大し始めたためだった。その手紙にはママは長患いが落ちつくまでは故国にとどまることとミレイ本人は仕事の都合でしばらくは動けないことも記されていた。
さらにミレイは、ママも自分もいない日本で暮らすことになる少年を少しでも見守ってもらえないだろうかと百合に頼んできた。百合に異存はなかった。
百合は少年が通う小学校に異動しようと決断した。教職に就こうと決めた時にこういう日がくることを予期していたのかもしれなかった。百合は異動の申請を準備した。新卒時は希望の配属をされないことが多かったが三年の実績を積むことである程度の希望は通るはずだった。
百合は少年と会える日を楽しみにした。
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