上 下
22 / 35

誘い 9

しおりを挟む
        9

 真奈は、地下の本部にいた。補佐官から刺客の失敗を聞かされていた。
「そう。最新型乃バトルHM使ったの。所詮、人型、パイロットの腕しだいですね。では、山本、HMの精鋭一小隊送りなさい」
「陸送ですと時間がかかりますが、いかがされますか」
 真奈は、真鋳色の髪を指に絡めながら。
「空から行きなさい。そして、真鋳色の髪を見つけたら、全て排除しなさい。別に、お兄様でなくてもいいです。少しでも削ればそれで十分」
「了解しました。中将殿」
 補佐官、山本は、部屋を足早に出て行った。
 真奈は、端末を見つめながら。
「お兄様、あなたは邪魔なのです。でも、少し話し合う機会を一度与えましょう」
 真奈の茶色の瞳が怪しく輝く。

 時乃は、最大限警戒しながら、学園生活を送っていた。事件の次の日は、マスコミや学園新聞部が付きまとうので、日本語で言う「うざい」と思っていた。
 警察は、パトカーや装甲車を配置して、警備を厳重にしていた。テレビでは、田舎の町に宇宙人が来たと、かなり取り上げている。
 フラットは、SPCを装着しデジタル迷彩で、学園を見張っている。たまに時乃に纏わり付いている人に、銃口を合わせては、口でバンとか言っている。
 時乃は、シールドウェーブの通信機を常時装着することになった。そのため、ツインテールではなく耳を隠すように、真鋳色の髪をストレートに垂らしている。
「澄香、今日は、髪型変えたのね」と石原。
「まあ。その。これは、マスコミを欺く変装なのだよ」
「あはは。そんな変装ばればれですよ」
「そうなのか?」
「そうですよ」

 メルティは、毎日後藤家の世話をしている。いわゆるメイドのようなものである。だからと言って、メイド服を着ているわけではない。日本のこんな田舎で、そんな服装していたら、浮くこと間違いないからである。
 まだ、日差しが強く暑かったので、ジーンズに七分袖のシャツという服装である。
 いつものように、時乃を送り出し、輝に朝食を食べさせる。五郎は、新聞を読みながら食事をしている。

「輝君、歯磨き行きますよー」
メルティは、優しく促す。輝は、歯磨きが嫌いなので、行くふりをして、隠れている。
「もー。輝君、保育園遅れるから、おいで」
 メルティは、黒い瞳を潤ませながら、輝を追いかける。こんな感じで、十五分もかかり歯磨きを終了した。
「では、五郎様行ってまいります」
 メルティは、そう言って輝を保育園に送る。
 
 保育園までは、徒歩で行ける距離なので、手を繋ぎながら、歩く、道々最近顔見知りになった人に挨拶をする。
 メルティは、最近の生活が、とても幸せに感じていた。自分が平和の中にあり、戦争に明け暮れる日々は過去。今、こうして、輝という、愛する子と手を繋いでいる。これが、喜びであった。一抹の不安は、時乃を襲ったレーザーである。
 瞬間(熱源反応)メルティは輝を抱え、素早くよける。二人にいた地面が、レーザーで焼かれる。続けて攻撃がくる。
 フィンは、敵反応をレーダーでキャッチした。メルティを攻撃した時に、デジタル迷彩が解除したからである。
(皆!敵バトルP、位置情報送ります)
 メルティが、息を切らせながら、連絡する。
(現在、敵バトルPと交戦中、輝君がいるから、救援急いで!)
 フラットは、空にあがると、高速で移動する。
 時乃は、授業中であったのだが、
「先生、申し訳ないのだが、気分が悪い、きっとマスコミのせいだ、保健室に行ってもよいか?」
「あら大丈夫。誰か一緒に行ってもらう?」
「いや。一人で行けるから、安心してくれ」
「そう」
 教室の皆が、視線を時乃に送る。石原も心配そうに見ている。
 教室を出ると、静かに走り、屋上へ出た。
「アリス。SPC市街地戦装備を」
『了解。バックパック送ります』
 時乃は、わき腹からグレートソードを取出し屋上のコンクリートにつける。
「空間転移」
 聖方陣が形成され、体に各パーツが装着される。背中のノズルから、力強く、空気が噴き出る。風船のように空に浮かぶと、高速で移動する。

 メルティは、二体のバトルPと思われる機体と戦闘していた。遠距離攻撃をしてくるため、逃げることしかできない状態であった。
 レーザーが、次々襲う。攻撃音、爆発音が周囲を襲う。近くにいた人は逃げ間遠い、家々からも人々は、逃げ出していた。皆「宇宙人だ!」とか奇声をあげ、躓きながら、逃げている。
 メルティの腕や、足に、レーザーが命中し血が噴き出す。(みんなが、来るまで、あと少し輝君を守らないと)
 敵が近づいてくる。
「こいつは、はずれなのか、ただの人間にしては、身のこなしが早いが」
 そう言うと、剣を抜き、メルティに切りかかる。メルティは、手で剣を受けた。血が手から飛び散る。
「おまえは、この子供を庇っているのか、それほど大切なのか」
(この子供を記録し本部に転送)敵パイロットは、指示を出す。
 そして、メルティに蹴りを入れると、輝に銃口を向けた。メルティは、高速で移動し、輝を包み込んだ。レーザーは、メルティを容赦なく攻撃し、次々体に穴が開く。血がどっと噴出した。
 そこに、デジタル迷彩を解除したフラットが割り込む。左腕に固定した剣で、敵の右腕を切り落とす。鈍い音がして地面に落ちる。
 敵は、背中のノズルを前に出し、後方に下がる。もう一機の敵がフラットにレーザーを撃ち込む。フラットは、さらりとかわした。敵にライフルを撃ち込む。弾は、敵が張ったRフィールドを突き抜け、そのまま体に命中、続けてレーザーをかわしながら、敵に弾を撃ち込む。敵は機能を停止し、地上に落下炎上した。もう一機の敵は、位置を少し移動フラットの死角から、輝に超小型マイクロチップを撃ち込む。
 敵の増援が来た。三機増え、合計四機である。そのうちの一機は、いきなり爆散した。時乃が機関銃を連射したのである。残り三機、敵は、近接武器に切り替え、懐に飛び込んでくる。フラットは、左腕に固定した、剣で受け止める。長距離狙撃用に武器を装備しているので不利である。フラットは、蹴りを入れられると、後方に飛ばされた。SPCのノズルから空気が噴出され地面への激突は免れる。
 時乃は、機関銃から、両手もちの剣に持ち替え。
「空間転移。深さ5秒」
 時乃の体は、少し薄くなる。敵が、短銃で撃ってくる。弾は、時乃をすり抜ける。時乃は、深さ五秒の別空間にいるのである。
「空間転移、通常空間へ」
 時乃の体に色が戻る。敵は、その瞬間に横一に切られた。二つになった体が地面に落ちる。
 時乃の背後から、もう一機迫ってくる。瞬間、敵は、下方から弾丸を浴びる。フラットがライフルを連射している。敵は、SPCに直撃を受け爆散する。
 あと一機は、デジタル迷彩で逃走を図ろうとした。時乃は、シールドウェーブ誘導弾を撃ち込む。敵パイロットは、バイタルプラントのポッドの中で、もがいていた。痛み、苦しみ、恐怖は、共有なのである。爆散!ポッドの中に本体は、引き攣り気を失う。

 戦闘は、終わった。遠くから、パトカーなどのサイレンが聞こえる。
 フィンとメイティがワゴン車で到着した。
 メイティは、メルティを抱きかかえ、車の中に入る。
 フィンは、敵の残骸から、頭部をレーザーブレードで切り離し頭を掴むと素早く、運転席に入り発進あせる。
 時乃は、輝を抱えると、SPCを軽く吹かし、空に飛ぶ、普段あまり使わないデジタル迷彩を使用する。
 フラットは、怒りがこみ上げ、近くの家に銃弾を撃ち込み、弾が切れると、空に上った。

 真奈は、戦況を端末で見ていた。と言ってもリアルタイムのカラー画像ではなく、文字によるデーターである。
「お兄様と対戦して、この成績は、優秀だな。しかし、あのお兄様の部下は、何故、日本人の子供をかばったのだろう。まあいい、どのみち、私達には、日本人が必要だ。そして、時間もあまりない」
 真奈は、茶色い瞳の目を補佐官山本に向け。
「時が迫っている!お兄様ばかりに構ってはいられない。日本へ進軍する!準備をたのむ」
「了解しました。中将殿」
しおりを挟む

処理中です...