ブラックライダー

三船祐樹①

　三船祐樹は後輩の若い女性に、これでもかというほど怒鳴り散らしている。

　その怒鳴り声は社内のワンフロア中に響き渡るほど大きく、汚い言葉のオンパレードでその場に居合わせた他の社員や事情を知らずにこの支店に来た他部署の人間や完全にぶがしゃの一般客たちが思わず同情的な視線を向けるほどであった。だがその視線に気づかない三船祐樹は、縮こまっている後輩社員を前にひたすら怒鳴り散らす。

「だから、給湯室のポットのお湯が切れそうにたら何も言わずに女子社員が補給してお湯を沸かしておくのが常識だろ！　それぐらい自分でやるよう、今まで家族に言われたこともなかったのか？」

「でも、給湯室にはまだ山田君がいて……まだポットの半分くらいはお湯が残っていたし、彼がまだお湯を使うみたいだから山田君が補充するかと……」

「言い訳すんなよ！　怜司は男なんだから、そういうことするわけないだろ？　お前は女なんだからそういう時に気を利かせて、きちんとやるべきだろ！」

　三船祐樹の言葉に、女性社員はじっと身を固くして耐えている。



　お湯を沸かすなど、ポットに水を入れてスイッチを入れれば簡単にできる仕事だ。それに女性も男性も関係ないし、そもそもこの男女平等の時代にそんな価値観を持ち込むこと自体が間違っている。仮にそれを考慮しなかったとしても、三船祐樹の尋常じゃないほどの怒り方は明らかに異常だった。女性社員が目に涙を浮かべ、それでも「すいません」と頭を下げるがそれでも三船祐樹はなかなか納得しない。

「全く、お前は本当に要領が悪いっていうか気が利かないし……仕事もちっとも覚えねえよな。もう半年は経つのに、ちっとも成長してないじゃないか」

「！……」

「お前、こういう仕事向いてないのかもしれないけどさ……この会社じゃだいたいどこ行っても、同じ仕事をやらされるからな……」

　人格否定に、遠回しな退職勧告。まだ若く、膨大な仕事を覚えるのに精一杯の彼女の心を深く抉るのにその言葉は十分だった。

　だが言い返すこともできず、ひたすら文句を言わずに謝り倒すことでやり過ごした彼女はトイレに向かい――そこでわっと泣き出すと、震える声で呟く。



「ブラックライダー様……もし本当にいるなら、私を助けて……！」