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フラーゼ家のタウンハウス

フラーゼ家のタウンハウス②

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 料理が乗ったワゴンを押して来たジョシュアを見て、女性達は慌てたようだ。

「申し訳ありません、ジョシュア様!!」

「その様な仕事は使用人に頼んで下さい」

「料理くらいオレにでも運べる。というか、君達に用はないから出て行ってくれる? シスターステラと二人で話がしたい」

 明朗ながらも、有無を言わせない口調だ。女性達は丁寧にお辞儀し、しずしずと部屋を去って行った。
 彼女達は明らかにジョシュアを敬う対象として振る舞っていたが、使用人の中にも序列があるからなのだろうか?
 フラーゼ家の使用人達の不思議なやり取りについてステラが考えを巡らせている間に、ジョシュアはテーブルの上に料理を並べてくれていた。

「身体の具合はどう?」

 加害者がそれを聞くのかと腹が立ち、ステラの返事はトゲトゲしくなった。

「頭が痛いです。……こんな風に無理矢理連れて来るだなんて、軽蔑しちゃいました!」

「ごめんね! でもオレも大変なんだよ。横暴な雇い主に絶対に君を連れて来いと命じれられていたから! 手ぶらで戻ったらクビになるのかなって思ったら、ああゆう方法を取らざるをえなかったんだ」

「だとしても誘拐だなんて、有り得ないです。死んだら地獄行きです!」

「地獄に落ちる覚悟はとっくに出来ているから、気にしないかな」

「むぅ……」

 価値観が合わない人とは話辛い。
 ひたすらに非難し続けても何も得る物が無さそうだ。
 だけどこの少年は誘拐犯であると同時に、現状最も情報を持っている人物でもある。
 黙っていては勿体無いので、探りを入れてみた方がいいだろう。

「あの……。修道院で貴方は、侯爵家のお母様について何かおっしゃっていましたよね?」

「うん。言った。頼み事があると」

「それを叶えたら、修道院に戻ってもいいですか?」

「君の働きから侯爵とポピー様が判断なさると思うよ。昼ごはんを食べたら、ポピー様の部屋に案内するから話してみて」

 フラーゼ侯爵の母君の為にシッカリ働いたら、帰れる見込みがあるという事なのだろうか。体力面で問題があるステラは、自力で逃亡するのが難しいだけに、少々安堵する。
 頼み事というのも、『聖ヴェロニカの涙』に関するものだと予想出来るので、あまり抵抗を感じない。

「分かりました。まずはポピー様の為に働いてみます」

「ステラはいい子だな。取り敢えず腹ごしらえしよう。お腹減っただろ?」

 コクリと頷くと、人好きのする笑顔を向けられる。
 ジョシュアに促されるままにイスに座る。
 テーブルの上には始めてみる料理ばかり並んでいた。色とりどりの素材が使われており、修道院の粗食に慣れきっているステラは、本当に自分が食べていいのかと戸惑うばかりだ。

「これ、私の分なんですか?」

「そうだよ。足りないならオレのを__」

「足りています! 充分すぎです!」

 ジョシュアは皿に乗った肉をステラの皿の上に移そうとするので、慌てる。
 これ以上盛られてしまっては、食べ切れる自信がない。

「遠慮しなくてもいいのに……」

 残念そうなジョシュアを無視し、ステラは食前の祈りを神に捧げる事にした。

「主よ。貴方の慈しみに感謝して食事します。皿の上に祝福し、心と身体を支える糧としてください」

「お祈りかぁ。もう随分長い事してないな」

「生き物の命をいただく事に感謝しませんと」

「そうだね。君の言う通りだ」

 ジョシュアは深く頷き、籠の中からパンを三つステラの皿の上に置いてくれた。
 礼を言ってから一口齧る。

(わぁ! 美味しい!)

 サクッとした歯応えで、生地自体に甘みがある。
 野菜が沢山入ったスープも、ソテーされた白身魚の肉も全部美味しくて、ステラは夢中で口に運んだ。

「それだけ旨そうに食べてくれたら、食材も嬉しいだろうね」

「はい! あ……」

 料理が美味しすぎて、ついついジョシュアに気を許しかけてしまった。
 これではいけないと慌てて気を引き締める。

「ここは、どこなんですか?」

「フラーゼ侯爵が王都に構える邸宅だよ」

「えぇ!? 王都なんですか!? そんな遠くに……」

 先程考えた通り、一日程経過してしてしまったようだ。記憶が定かなら、確か聖ヴェロニカ修道院から王都までは馬の足で一日程かかったはずだからだ。眠らされていた間に随分遠方まで運ばれてしまった。その間、修道院で捜索が行われ続けていたのかと思うと、血の気が引く。

「あ、あの……。手紙を書かせて下さい。皆心配していると思うので」

「心配いらないよ。使いの者を使ってあの修道院へと手紙を運ばせているから」

「そうですか……」

 どういう内容なのか気になる。
 食事を共にしてしまった事で、若干気を抜いてしまったが、彼は自分を攫った人物なので信用出来ないのだ。
 ステラは急に味がしなくなった料理をノロノロとお腹に収めた。
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