聖女適正ゼロの修道女は邪竜素材で大儲け~特殊スキルを利用して香水屋さんを始めてみました~

だるま 

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フラーゼ家のタウンハウス

フラーゼ家のタウンハウス①

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 複数の女性の話し声とドアが閉まる音が聞こえ、ステラの意識が浮上する。
 どうやら自分の身体は何かに横たわっているのだが、布の感触から判断するに、修道院内にあるステラの私室ではないようだ。手に触れるシーツがとても柔らかく、滑らかで落ち着かない。

(この触り心地はシルク? 私、掃除をするために回廊まで行って、それから……どうなったっけ?)

 ズキズキと痛む頭に耐えながら目を開く。
 天井が高い。白く塗られたそこには花や鳥が描かれていて、驚く程に優美だ。

(え? どこ?)

 上半身を起こして、ベッドの周囲を見回す。
 カーテンはシッカリとした布地だし、木製の家具は光沢がある。
 修道院の中で一番豪華な修道院長の部屋とも違っているようなのだが、一体ここはどこなのだろうか。

 混乱しながら頭に手を置くと、ヴェールが外れてしまっていた。

「あれ……? 私のヴェール……」

「お目覚めになったのですね。シスターステラ。身体の具合はいかがですか?」

 声をかけてきたのは、紺色のワンピースに白いエプロンを付けた美しい女性だ。
 全く見覚えの無い人物なので、ステラは驚き、ベッドの上で軽く飛び上がった。

「ぐ、具合ですか……。頭が少しだけ痛……、やっぱり何でもないです。頭も身体も健康そのものです!!」

「シスターステラはとても可愛らしいお方なのですね。少しお待ちになってくださいな。温かいお湯をお持ちいたしますわ」

 女性はクスクス笑い、扉から出て行ってしまった。
 この人は誰なのだろうと只管に気になり、ステラは目をまん丸にしてその背を見送る。

「何で私の名前知ってたんだろ……。怖い……」

 酷い混乱状態だが、ベッドに座っているだけでは得られる情報が少なすぎる。
 ベッドサイドに見つけた自分のブーツを履き、室内をうろつく。

 柱時計は十二時十五分を示している。
 窓の外に青空が見える事を鑑みると、ちょうど昼なのだろうが、この時間帯にも違和感を覚えた。
 ステラが攫われたのは、午後からの掃除の時間中なので、柱時計の針が正確ならば時間が遡った事になるのだ。
 だが普通に考えたら、そんな異常事態は起こりえない。

(一日近く時間が経ってしまったとか? そういえばお腹が空いている……。これって、長時間何も食べてないから?)

 時間の経過について考えを巡らせている間に、少しずつ記憶が戻ってきた。
 ステラは修道院の回廊で、フラーゼ家の使用人と名乗る美しい少年に変なスキルを使われ、意識を失った。
 その後彼の手によってどこかの屋敷に運ばれてしまったのだろう。
 記憶が混濁気味なのは、スキルの副作用なのかもしれない。

(人攫いとか、シャレにならないよ。どうしよう……逃げる?)

 窓に走り寄り、外の風景を眺めて絶句する。
 恐ろしい程に広大な敷地だった。綺麗に刈り込まれた庭木が整然と並び、池や花壇が複数ある。
 中央を貫く道は遥か彼方へと伸びていて、かなり遠くに小さな門扉が見えた。
 まさかあそこを通らないと、敷地から出られないのだろうか。

 放心状態で庭を見ているうちに、先程の女性が別の女性を伴って戻って来てしまった。

「あ……」

「シスターステラ。ジョシュア様が五分後にこちらにいらっしゃいます」

「ジョシュア様とは、誰ですか?」

「あら? まだ伺っていなかったのですね。ジョシュア様はこの家で一番の__」

「ちょっとマーガレット!! もう忘れてしまったの!?」

「あ!! そうだったわ!!」

 ジョシュアという人物について説明をするだけなのに、女性達は揉めている。何を隠そうとしているのか気になり、ステラは半眼で彼女達の表情を観察した。

「ジョシュア様は!! フラーゼ侯爵の従者なのですわ!」

「あ……、会っていますね。その人と」

 会ったというか、唆されて攫われた。
 また変な事をされるんじゃないかと思うと、気が滅入ってくる。
 彼が来るまでの間に逃げたいのだが、半引き篭り状態だったステラにそんな体力があるはずがない。捕まるか、行き倒れるかの二択しかないなら、動き回るだけ無駄だろう。

「シスターステラ。取り敢えず身支度を整えましょう! ジョシュア様の前では美しくあってくださいませ!」

「少し失礼しますね。シスターステラ」

 気力を無くしたステラは、女性二人のいい玩具にされる。

「折角綺麗な御髪なのに、お手入れを怠ってはいけませんわ!」

「この髪色はストロベリーブロンドですね。可愛らしいお色です」

「肌もピチピチ! ジョシュア様と並んでもちゃんと女の子に見えるのでしょうね。羨ましいですわ!」

「マーガレット! 口を慎みなさいな! ちょっと酷いですよ。貴女!」

「はぁい……」

 女性達のノリに付いていけない。
 修道院でもお喋りな人達が居たが、道に生えている草をハーブと間違えて料理に入れたとか、水虫に効く薬の作り方だとか、色気皆無の話題ばかりだった。
 早く解放されたいと神に祈ること五分程で、漸く女性達の気が済み、道具の後片付けを始めてくれた。

__コンコンコン

 見計ったかのようなタイミングで扉がノックされ、返事も待たずに少年が入室して来た。修道院からステラを攫った『ジョシュア様』だ。人好きのする笑顔を浮かべている。

「こんにちは。シスターステラ」

 楽しそうに挨拶する彼を、ステラはギロリと睨んだ。
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