聖女適正ゼロの修道女は邪竜素材で大儲け~特殊スキルを利用して香水屋さんを始めてみました~

だるま 

文字の大きさ
15 / 89
呪われた猫

呪われた猫③

しおりを挟む
 元邪竜のアジ・ダハーカは作業台の上でふんぞり返る。しかもちょうどステラが座っている前なので、作業の邪魔だ。ステラは先ほどマーガレットに貰ったクッキーを取り出し、アジ・ダハーカを釣った。

「アジさん、これを食べていいので、こっち側に居てて下さい」

 作業台の端にクッキーを砕いて置くと、彼は直ぐに来てくれた。

「何だこれは?」

「クッキーって言います。猫さんも食べて大丈夫なはずなので、どうぞ召し上がれです」

「どれどれ……」

 アジ・ダハーカは小さな舌でクッキーを舐め始めた。
 これなら暫く放っておいても大丈夫そうだ。
 ステラは平和な光景を少しだけ見守ってから、作業を開始する。未加工の方のフラスコを持ち上げ、もう一度『融合スキル』を使用する。
 チラチラと黒猫が視線を送ってくるのが気になって仕方がないが、今は作業優先だ。

 数分かけて、ブランデーとドラゴンの結石の組み合わせを混合液化させる事が出来た。しかし、無水エタノールを使って作った物よりもくすんだ色合いだし、樽から移ったと思われる香りや、ブドウ由来の甘い香りが邪魔な気もする。

 紙を細く切り、二種類の溶液をそれぞれ一滴ずつ落として嗅ぎ比べてみる。

 無水エタノールで作った方は、修道院の中庭に植わっている木の樹液の様な香りがクリアに香っているが、ブランデーの方はやはり微妙な気がした。

(やっぱり無水エタノールの方が使いやすそうなのかな?)

 取りあえず溶液を付けた二枚の紙に文鎮を乗せて、下に落ちない様にし、フラスコの中身を蓋つきの瓶に移し入れる。

 ステラは手早く作業した後、調香を開始した。
 まず最初は『聖ヴェロニカの涙』に使われる素材のエッセンシャルオイルをビーカーの中に入れる。
 ローズマリー、ペパーミント、オレンジピール、ブランデー、そして真水。この五種類を入れた混合液をガラス棒で静かに混ぜ合わせると、爽やかで甘酸っぱい香りが広がった。
 これはポピーが購入した『四月十五日の聖ヴェロニカの涙』と全く同じだ。

 修道院に居た時、ステラは従来の様なブランデーに素材を漬け込む方法ではなく、エッセンシャルオイルを混ぜ合わせる方法で『胃腸液』を作成した。それにより、素材由来の新鮮な香りをブランデーの中に閉じ込める事に成功したのだ。

「ガキっぽい香りがするぞ」

 いつの間にか、アジ・ダハーカがビーカーに顔を突っ込んでいた。

「ガキっぽいですか? というか、それでは駄目なんです?」

「駄目かどうかは分からない。そもそもお主が何を作っているのかによるんじゃないのか?」

 彼はそう言うと、ステラの前で丸くなってしまった。
 発言に責任をもってほしいのだが、背中や尻尾をワシャワシャしてもビクともしない。

 ステラは頬杖を付いて、「うーん……」と唸る。
 子供である自分の感性は、大人のそれと異なっている可能性があるという事に気付かされてしまった。

(どうせだったら、ポピー様をより素敵な女性に思わせる様な香りにしたいな。それと、リクエストされた『野性味』を……)

 考えてばかりでも埒が明かないので、アレコレと試してみる事にした。

 ◇

 二時間かけてアレンジし、漸く「これは」と思える香りになった。
 『聖ヴェロニカの涙』の香りからミントだけを抜き、その代わりにラベンダーを加え、優雅なニュアンスを取り入れてみたのだ。
 また、アルコールをブランデーから無水エタノールに変えると、古びた木樽の香りが消えてくれた。

「今持っているエッセンシャルオイルとの組み合わせだと、これが良い感じなのかな」

 アジ・ダハーカの意見も聞いてみようと思い、傍で蹲る黒い毛玉を揺らす。

「ムニャ……? 折角気持ち良く寝ていたのに」

「調香してみたので、ちょっと嗅いで見てもらえませんか?」

「仕方がないな……。む? この香り……」

 彼はビーカーではなく、何故か文鎮の下の二枚の紙に鼻先を近づけた。
 アルコールとドラゴンの結石の混合液を付けた紙がどうかしたのだろうか?

「これ、まだ香りが続いているぞ」

「あれ? 随分長いですね」

 紙を摘まみ上げ、鼻の前で振ってみると……。
 長い歳月を生きた大木の生命力を感じ取れる様な深い香りがまだ続いていた。
 『聖ヴェロニカの涙』をアレンジする過程で他の紙にも、中途半端な状態の液体を落としていたので、そちらがどうなっているか気になって、嗅いでみると、香りが全て消えてしまっていた。

「香りの長さって、素材によって異なっている気がします!!」

「ほー? それって何か重要なのか?」

「分からないけど、気になるので、今持っているエッセンシャルオイルの香りの持続時間を測ってみたいですねっ!」

「お主、もう少しで何かを閃きそうな感じだな。儂は散歩に行ってくるからな」

「いってらしゃーい」

 アジ・ダハーカが窓から出て行くのを見送ってから、ステラは細長い紙にエッセンシャルオイル全種類を浸してテストした。
 そうすると、オレンジとレモン、ローズマリー、ラベンダーがすぐに香りが消え、ゼラニウムやセージ、ミント等が比較的長く続いた。

 夕食を挟みながらこれだけの事を検証し、深夜にかけて香りの持続性に注意しながら調香する。漸く納得いくフレグランスが出来たのは、日付が変わってから二時間程後だった。

 オレンジピールとローズマリー、ラベンダー、セージ、ゼラニウム、そしてドラゴンの結石の溶液を混ぜ合わせた香りは、最初素材全種が香り、30分後からはゼラニウムとセージとドラゴンの結石の溶液が混ざり合うちょっとビターな香り、そして二時間後からはドラゴンの結石の溶液だけが香る。

 時間の経過に合わせ香りをアレンジしたのだが、ポピーは気に入ってくれるだろうか?
 ステラは紙につけたフレグランスの香りを嗅ぎながら眠りに落ちて行った。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

処理中です...