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呪われた猫
呪われた猫④
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肌寒さを感じ、ステラは目を覚ました。
作業台に腕を突っ伏して寝たせいで、腕が痺れてしまっている。
顔を上げると、目の前でビーカーが倒れていて、中に入っていた完成品が零れていた。寝る前にスキルでフレグランスの溶液を複製して、遮光瓶に入れていたので、これは駄目になってしまってもいいのだが、液体を拭き取るのが少々面倒だ。
窓の方から吹き込んだ微風がステラの髪を揺らす。
アジ・ダハーカが散歩から帰って来たのだろうか?
閉めようと椅子から立ち上がり、ビクリとする。
「……っ!?」
室内に自分以外の人間が居る。
作業台の傍に寝そべっているのは、赤い布が印象的な民族衣装姿の黒髪の青年。少し神経質そうな美しい顔立ちをしていて、おかしな事に、頭の上に黒い猫耳が生えている。
「うわぁぁ!? 不審者!!」
あまりの恐ろしさに叫び声を上げて扉の方へと逃げようとすると、ステラの声に驚いたのか、青年が起きた。
「あぁ……。やっと起きたのか」
ステラは耳を疑った。今の可愛らしい声は、猫耳の青年が発したのだろうか? アジ・ダハーカの声に良く似ている。
「お主が調香したフレグランスとやら、とても良かったぞ。鼻の先と前脚に付いてしまった所為で暫く落ち着かなかったがな」
「あの……、貴方はアジ・ダハーカさんじゃないですよね?」
「そうだが?」
「えぇ!? 男の人に見えます!!」
なんという事だ。彼は黒猫のアジ・ダハーカで間違いないらしい。
わたわたと慌てるステラに嫣然とした笑みを向け、作業台の上に長い脚を組んで座る様は、男性的でありながらも美しい。
「お主が戸惑っている理由を当ててやろうか? 儂が別物に見えるのだろう?」
「そう! そうです! 何故ですか!?」
「やはりな。ドラゴンだった時分、儂の血肉は摂取した者に幻覚を見せる効果が有ったのだ。お主が儂の素材を使ってこのフレグランスを作った事で、その幻覚作用が発現しているのだろう」
「そうなんだ……。でも、猫が人間に見えてしまうなんて、相当ヤバイですよね?」
特殊な素材を使っている自覚はあったので、何かの効果が現れるかもしれないと予想していたが、まさか別の生き物に見せてしまう事になろうとは考えもしなかった。
ステラは作業台までトコトコと戻り、遮光瓶を手に取る。中に入っているのは、深夜に調香したフレグランスを複製したものだ。
「ヘンテコな作用があるなら、廃棄した方がいいのかな……」
良い出来だと思っていただけに残念でならないが、使用する人の安全を考えたら、この調香を無かった事にした方がいいだろう。
「素晴らしい香りに仕上がっているのにか?」
「褒めてくれるのは嬉しいのですが、何らかの事故が起こってしまわないように、これは危険物として処分してもらいます!」
「……いや、ちょっと待て。やっぱり儂の結石だった物を無駄にするのは不快だ!」
「これは複製した物なので、アジさんのボーコーの中で育てた結石は入っていません!」
「そういう問題ではないわ! 貸せ!」
「渡せません!」
フレグランスが入った遮光瓶を持ち、扉へとダッシュするマリの後ろを、アジ・ダハーカが追って来る。後ろを振り返ってしまったせいで、ステラの足が縺れバランスが崩れた。
何とか体制を直せたものの、ついうっかり遮光瓶を落としてしまい、玻璃ガラスが砕け散る。
中に入っていた液体が飛び散って、床の上に水たまりを作ってしまった。
「わぁぁ! 危険な液体が!」
「この阿保阿保娘め!」
フレグランスの水溜まりは、扉の方に広がる。何か拭くものは無いかと多目的ルームを見回しているうちに、運悪く扉が開いてしまった。
入室して来たのはポピーだ。
「アワワ……!?」
「何を騒いでいる……? 物取りでも入ったんじゃあるまいな? ぬぅ……この香り……」
フレグランスの溶液は、ポピーのドレスの裾を濡らしてしまっていた。
しかもガッツリと。
それを目の当たりにしたステラは顔を青くする。
「ポピー様! ここは危険です! 一度部屋の外に出てもらえませんか!!」
彼女の裾から、その顔まで視線を上げてみて、驚愕した。
扉の前に佇んでいるのが、絶世の美女だったから。
(嘘ぉ!? 数秒前までふくよかな体系だったのに!!)
「何をそんなに驚いておるか……?」
「あの……、あまりにも美しいので……」
ドラゴン素材の所為で、ポピーの容姿が美しく見えている。小さな顔にバランス良く配置されているのは少し垂れた目と、ポッテリとした唇。
身体は無駄な贅肉など一切付いておらず、出るところはシッカリ、凹むところはキュッとしていて、理想的な体系になっていた。
「おだてても無駄だ。しかし……この香りは気に入ったぞ。もう一度同じ調香をしてくれ」
ポピーはそう言い、ニカリと笑った。
(これと同じって、ドラゴンの結石入りで!? というか今のポピー様、何故かジョシュアにとても似ている……。単なる偶然なんだろうけど)
自分が作り出したフレグラスの効果の恐ろしさに、震えずにはいられないステラだった。
作業台に腕を突っ伏して寝たせいで、腕が痺れてしまっている。
顔を上げると、目の前でビーカーが倒れていて、中に入っていた完成品が零れていた。寝る前にスキルでフレグランスの溶液を複製して、遮光瓶に入れていたので、これは駄目になってしまってもいいのだが、液体を拭き取るのが少々面倒だ。
窓の方から吹き込んだ微風がステラの髪を揺らす。
アジ・ダハーカが散歩から帰って来たのだろうか?
閉めようと椅子から立ち上がり、ビクリとする。
「……っ!?」
室内に自分以外の人間が居る。
作業台の傍に寝そべっているのは、赤い布が印象的な民族衣装姿の黒髪の青年。少し神経質そうな美しい顔立ちをしていて、おかしな事に、頭の上に黒い猫耳が生えている。
「うわぁぁ!? 不審者!!」
あまりの恐ろしさに叫び声を上げて扉の方へと逃げようとすると、ステラの声に驚いたのか、青年が起きた。
「あぁ……。やっと起きたのか」
ステラは耳を疑った。今の可愛らしい声は、猫耳の青年が発したのだろうか? アジ・ダハーカの声に良く似ている。
「お主が調香したフレグランスとやら、とても良かったぞ。鼻の先と前脚に付いてしまった所為で暫く落ち着かなかったがな」
「あの……、貴方はアジ・ダハーカさんじゃないですよね?」
「そうだが?」
「えぇ!? 男の人に見えます!!」
なんという事だ。彼は黒猫のアジ・ダハーカで間違いないらしい。
わたわたと慌てるステラに嫣然とした笑みを向け、作業台の上に長い脚を組んで座る様は、男性的でありながらも美しい。
「お主が戸惑っている理由を当ててやろうか? 儂が別物に見えるのだろう?」
「そう! そうです! 何故ですか!?」
「やはりな。ドラゴンだった時分、儂の血肉は摂取した者に幻覚を見せる効果が有ったのだ。お主が儂の素材を使ってこのフレグランスを作った事で、その幻覚作用が発現しているのだろう」
「そうなんだ……。でも、猫が人間に見えてしまうなんて、相当ヤバイですよね?」
特殊な素材を使っている自覚はあったので、何かの効果が現れるかもしれないと予想していたが、まさか別の生き物に見せてしまう事になろうとは考えもしなかった。
ステラは作業台までトコトコと戻り、遮光瓶を手に取る。中に入っているのは、深夜に調香したフレグランスを複製したものだ。
「ヘンテコな作用があるなら、廃棄した方がいいのかな……」
良い出来だと思っていただけに残念でならないが、使用する人の安全を考えたら、この調香を無かった事にした方がいいだろう。
「素晴らしい香りに仕上がっているのにか?」
「褒めてくれるのは嬉しいのですが、何らかの事故が起こってしまわないように、これは危険物として処分してもらいます!」
「……いや、ちょっと待て。やっぱり儂の結石だった物を無駄にするのは不快だ!」
「これは複製した物なので、アジさんのボーコーの中で育てた結石は入っていません!」
「そういう問題ではないわ! 貸せ!」
「渡せません!」
フレグランスが入った遮光瓶を持ち、扉へとダッシュするマリの後ろを、アジ・ダハーカが追って来る。後ろを振り返ってしまったせいで、ステラの足が縺れバランスが崩れた。
何とか体制を直せたものの、ついうっかり遮光瓶を落としてしまい、玻璃ガラスが砕け散る。
中に入っていた液体が飛び散って、床の上に水たまりを作ってしまった。
「わぁぁ! 危険な液体が!」
「この阿保阿保娘め!」
フレグランスの水溜まりは、扉の方に広がる。何か拭くものは無いかと多目的ルームを見回しているうちに、運悪く扉が開いてしまった。
入室して来たのはポピーだ。
「アワワ……!?」
「何を騒いでいる……? 物取りでも入ったんじゃあるまいな? ぬぅ……この香り……」
フレグランスの溶液は、ポピーのドレスの裾を濡らしてしまっていた。
しかもガッツリと。
それを目の当たりにしたステラは顔を青くする。
「ポピー様! ここは危険です! 一度部屋の外に出てもらえませんか!!」
彼女の裾から、その顔まで視線を上げてみて、驚愕した。
扉の前に佇んでいるのが、絶世の美女だったから。
(嘘ぉ!? 数秒前までふくよかな体系だったのに!!)
「何をそんなに驚いておるか……?」
「あの……、あまりにも美しいので……」
ドラゴン素材の所為で、ポピーの容姿が美しく見えている。小さな顔にバランス良く配置されているのは少し垂れた目と、ポッテリとした唇。
身体は無駄な贅肉など一切付いておらず、出るところはシッカリ、凹むところはキュッとしていて、理想的な体系になっていた。
「おだてても無駄だ。しかし……この香りは気に入ったぞ。もう一度同じ調香をしてくれ」
ポピーはそう言い、ニカリと笑った。
(これと同じって、ドラゴンの結石入りで!? というか今のポピー様、何故かジョシュアにとても似ている……。単なる偶然なんだろうけど)
自分が作り出したフレグラスの効果の恐ろしさに、震えずにはいられないステラだった。
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