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一番大事な人?
一番大事な人?①
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“聖水Ex”の効果をテストした次の日に、試供品用のフレグランスを調香した。
使用した香料は既に所持しているクチナシとバニラビーンズ、イランイラン、サンダルウッド、ジャニパーベリーの五種類。
このうち、ジェニパーベリーは、試供品用に新たにエッセンシャルオイルを抽出した。
ネイック家に貰ったジンの香りに惹かれ、混ぜたい誘惑に負けてしまったのだ……。香りに拘ったのにはわけがある。シトリーのあの、可憐な乙女の夏の様な素晴らしいフレグランスに、香りで勝ち、王都に自分が調香したものを使用して欲しいのだ。
悪魔から使用者の身を守るため、“聖水Ex“の量を多くしたので、フレグランスの香りの持続時間は五時間程の仕上がりだ。
そこまでは順調だったのだが、試供品用の小瓶に詰める作業がなかなかのキツさだった。
まずフレグランス自体が”聖水Ex“の秘めたる力のためか、500ml程度の増量で非常に疲労する。
更にそれをチマチマと小瓶に分けるのも、不器用なステラには辛かった。
スキル使用後のヘナヘナした身体だと細かい作業が厳しい事もあり、マーガレットや遊びに来てくれたウィローの手を借りた。
ステラがチマチマと作業している間に王都では貴族の令嬢が二人死亡してしまった。
新聞社は漸く”何かおかしい“と気付き始めたようで、今日の朝刊では一面で相次ぐ貴人の死が取り上げられている。
ジョシュアの方も彼の人脈等を利用して、調べを進めてくれていて、彼の話から、先日死亡した若手政治家の周辺には、やはりシトリーと思わしき少女が目撃されていた事が分かった。
それと、彼はもう一つ気になる事を言っていた。
どうやら、犠牲になっている者達は王位継承権がそれなりに高い若者なのだそうだ。しかも、鈴蘭のフレグランス購入者も王族に近しい血縁中心。一応ジョシュアの口から、それとなく、使用を控えるよう呼びかけて貰ったが、そのフレグランスの効果については何も分からないため、今後どうなるかは不明だ。
ジョシュアも王位継承順位が百位以内らしいので、十分注意が必要だろう。
一応”聖水E x“を渡しているものの、相手は高位の悪魔。ステラが知らないうちに死なないとも限らないのだ。
邸宅の中で彼の顔を見るとホッとする程度には、心配している。
(王位継承権保有者は国内外合わせて1000人以上いるみたいだからなぁ……。個々人に注意喚起なんてむりだよね。殺された人達に何か他にも共通する事があるなら、ターゲットが絞られるんだけど)
取り敢えずステラは事前に決めた悪魔への妨害法を試すつもりでいる。
タイミング良くポピーが昼食会を開いてくれたので、それに参加して、同席する貴婦人達に試供品を配布している。
広々としたダイニングルルームに並べられた長テーブルに座るのは、華やかに着飾った女性達。
ステラは白いバスケットの中に試供品を入れ、一人一人に手渡しする。
「今度王城近くにフレグランスのお店を開くので、良かったら使ってみて下さい」
青い瞳が綺麗な令嬢に小瓶を差し出す。
彼女は戸惑い気味に礼を言った後、コルクの蓋を開け、目を見張った。
「驚いた! 凄く良い香りなのね! 複雑なのに上品! ねぇ、友達の分も貰っていいかしら!?」
「たくさんあるので、幾らでも持って行ってください。ご友人方にお配りするのも大歓迎ですよ!」
「有難う。五本いただける? 先日別の方に貰った鈴蘭の香りは爽やかすぎるから、これからの季節は友達にこっちを勧めたいわ!」
「五本ですね」
早速、鈴蘭のフレグランス所持者を見つけ、内心驚くが、平静を装って彼女の手の平に小瓶を指定数分転がす。
昼食会に来ているのは三十人程度しかいないものの、こうして個々人のコミュニティを介して広まってくれたら、かなりの人数の手に渡りそうだ。
「あの、先日私も鈴蘭のフレグランスを付けたのですが、使用した箇所に吹出物が出来たので、注意した方がいいかもです」
「そうなの!? 危ない。皮膚を損ねるところだった」
鈴蘭のフレグランスは、王都のとある香水店で入手した者が多いだろうから、そこの調香師の名誉の為にも、悪魔との関与は言わないつもりだ。
個人レベルの弊害を伝えて、心理的な面から、使用に抵抗を、感じるようにしたい。
「これは女性向けの香りのようですが、お付き合いしている男性に使ってもらうと、邪魔な女を撃退する効果も見込めますよ」
配布を手伝ってくれているウィローが寄って来て、都合の良い事を言ってくれた。
その言葉は令嬢の心の琴線に触れたらしい。
「そ、そうなのね……。もう一ついただいていいかしら?」
「勿論ですよ!」
彼女の恋人にもフレグランスを使用して貰えそうである。
ステラは喜んでもう一つを渡し、ウィローを見上げた。
「ナイスです。ウィローさん! これなら女性だけでなく、男性にも付けてもらえるかもしれません!」
「うん。それとさ、『この香水をハンカチに染み込ませて身につけたら恋が叶う』って噂をフレディに流して貰おうと思ってる。あの人交流関係広いし」
「良いですね、それ! 女性と縁の無い男性にも広がりそうじゃないですか!」
「でしょ?」
(それにしても、ウィローさんとフレディさんの友情は奇跡的な感じがするなぁ……)
三ヶ月程前にウィローはフレディを嵌めて、高額な香水を何本も貢がせた。それなのに、何故か今では友人として飲み歩いたりしていると聞くので、その件に関わったステラとしては驚かざるをえない。
フレディはよほど懐が深い人物のようである。
(やっぱり、直接関わらないと人の性格って分からないものだね)
ウィローと話しているうちに、貴婦人三人が近付いて来た。
「何でしょう?」
「試供品を貰ってすぐで申し訳ないのだけど、とても気に入ったから、商品版を売ってちょうだいな」
「お店はいつ開店なさるの!? 私に優先して売って!」
「これを娘にプレゼントしたいわ!」
ほぼ同時に話され、ステラは慌てふためくが、この機会を逃してはならない。
バスケットの中からメモ帳を取り出して「まずはお名前から教えて下さい!」と返事をした。
使用した香料は既に所持しているクチナシとバニラビーンズ、イランイラン、サンダルウッド、ジャニパーベリーの五種類。
このうち、ジェニパーベリーは、試供品用に新たにエッセンシャルオイルを抽出した。
ネイック家に貰ったジンの香りに惹かれ、混ぜたい誘惑に負けてしまったのだ……。香りに拘ったのにはわけがある。シトリーのあの、可憐な乙女の夏の様な素晴らしいフレグランスに、香りで勝ち、王都に自分が調香したものを使用して欲しいのだ。
悪魔から使用者の身を守るため、“聖水Ex“の量を多くしたので、フレグランスの香りの持続時間は五時間程の仕上がりだ。
そこまでは順調だったのだが、試供品用の小瓶に詰める作業がなかなかのキツさだった。
まずフレグランス自体が”聖水Ex“の秘めたる力のためか、500ml程度の増量で非常に疲労する。
更にそれをチマチマと小瓶に分けるのも、不器用なステラには辛かった。
スキル使用後のヘナヘナした身体だと細かい作業が厳しい事もあり、マーガレットや遊びに来てくれたウィローの手を借りた。
ステラがチマチマと作業している間に王都では貴族の令嬢が二人死亡してしまった。
新聞社は漸く”何かおかしい“と気付き始めたようで、今日の朝刊では一面で相次ぐ貴人の死が取り上げられている。
ジョシュアの方も彼の人脈等を利用して、調べを進めてくれていて、彼の話から、先日死亡した若手政治家の周辺には、やはりシトリーと思わしき少女が目撃されていた事が分かった。
それと、彼はもう一つ気になる事を言っていた。
どうやら、犠牲になっている者達は王位継承権がそれなりに高い若者なのだそうだ。しかも、鈴蘭のフレグランス購入者も王族に近しい血縁中心。一応ジョシュアの口から、それとなく、使用を控えるよう呼びかけて貰ったが、そのフレグランスの効果については何も分からないため、今後どうなるかは不明だ。
ジョシュアも王位継承順位が百位以内らしいので、十分注意が必要だろう。
一応”聖水E x“を渡しているものの、相手は高位の悪魔。ステラが知らないうちに死なないとも限らないのだ。
邸宅の中で彼の顔を見るとホッとする程度には、心配している。
(王位継承権保有者は国内外合わせて1000人以上いるみたいだからなぁ……。個々人に注意喚起なんてむりだよね。殺された人達に何か他にも共通する事があるなら、ターゲットが絞られるんだけど)
取り敢えずステラは事前に決めた悪魔への妨害法を試すつもりでいる。
タイミング良くポピーが昼食会を開いてくれたので、それに参加して、同席する貴婦人達に試供品を配布している。
広々としたダイニングルルームに並べられた長テーブルに座るのは、華やかに着飾った女性達。
ステラは白いバスケットの中に試供品を入れ、一人一人に手渡しする。
「今度王城近くにフレグランスのお店を開くので、良かったら使ってみて下さい」
青い瞳が綺麗な令嬢に小瓶を差し出す。
彼女は戸惑い気味に礼を言った後、コルクの蓋を開け、目を見張った。
「驚いた! 凄く良い香りなのね! 複雑なのに上品! ねぇ、友達の分も貰っていいかしら!?」
「たくさんあるので、幾らでも持って行ってください。ご友人方にお配りするのも大歓迎ですよ!」
「有難う。五本いただける? 先日別の方に貰った鈴蘭の香りは爽やかすぎるから、これからの季節は友達にこっちを勧めたいわ!」
「五本ですね」
早速、鈴蘭のフレグランス所持者を見つけ、内心驚くが、平静を装って彼女の手の平に小瓶を指定数分転がす。
昼食会に来ているのは三十人程度しかいないものの、こうして個々人のコミュニティを介して広まってくれたら、かなりの人数の手に渡りそうだ。
「あの、先日私も鈴蘭のフレグランスを付けたのですが、使用した箇所に吹出物が出来たので、注意した方がいいかもです」
「そうなの!? 危ない。皮膚を損ねるところだった」
鈴蘭のフレグランスは、王都のとある香水店で入手した者が多いだろうから、そこの調香師の名誉の為にも、悪魔との関与は言わないつもりだ。
個人レベルの弊害を伝えて、心理的な面から、使用に抵抗を、感じるようにしたい。
「これは女性向けの香りのようですが、お付き合いしている男性に使ってもらうと、邪魔な女を撃退する効果も見込めますよ」
配布を手伝ってくれているウィローが寄って来て、都合の良い事を言ってくれた。
その言葉は令嬢の心の琴線に触れたらしい。
「そ、そうなのね……。もう一ついただいていいかしら?」
「勿論ですよ!」
彼女の恋人にもフレグランスを使用して貰えそうである。
ステラは喜んでもう一つを渡し、ウィローを見上げた。
「ナイスです。ウィローさん! これなら女性だけでなく、男性にも付けてもらえるかもしれません!」
「うん。それとさ、『この香水をハンカチに染み込ませて身につけたら恋が叶う』って噂をフレディに流して貰おうと思ってる。あの人交流関係広いし」
「良いですね、それ! 女性と縁の無い男性にも広がりそうじゃないですか!」
「でしょ?」
(それにしても、ウィローさんとフレディさんの友情は奇跡的な感じがするなぁ……)
三ヶ月程前にウィローはフレディを嵌めて、高額な香水を何本も貢がせた。それなのに、何故か今では友人として飲み歩いたりしていると聞くので、その件に関わったステラとしては驚かざるをえない。
フレディはよほど懐が深い人物のようである。
(やっぱり、直接関わらないと人の性格って分からないものだね)
ウィローと話しているうちに、貴婦人三人が近付いて来た。
「何でしょう?」
「試供品を貰ってすぐで申し訳ないのだけど、とても気に入ったから、商品版を売ってちょうだいな」
「お店はいつ開店なさるの!? 私に優先して売って!」
「これを娘にプレゼントしたいわ!」
ほぼ同時に話され、ステラは慌てふためくが、この機会を逃してはならない。
バスケットの中からメモ帳を取り出して「まずはお名前から教えて下さい!」と返事をした。
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