61 / 89
一番大事な人?
一番大事な人?②
しおりを挟む
試供品を仕立屋や宝飾店、雑貨屋等、流行に敏感な人達が足を運びそうな場所に置いてもらっていた甲斐あって、ステラの元には多くの注文が入った。開店からまだ一週間しか経っていないにもかかわらず、信じられない程のスピードで売上を上げている。
もしかすると、通常の半分の量にし、価格を抑えているのが大きいかもしれない。
金貨十枚程度だと、中流階級の人も手を出しやすいのか、店には様々なタイプの客が訪れていた。
その中でも特に意外なのは、重装備を装着した中年男性が来てくれるようになった事だ。
本日もまた一人、その手の男性が店を訪れ、ステラはビクビクと接客する。
パステルブルーと、白で統一されたファンシーな店内において、褐色の肌のムキムキな男は余りに浮いた存在だ。
本人も自覚があるのか顔を赤く染めている。
しきりに出口を振り返っているのは、早く帰りたいがためであろう。
「おめぇ……、毛髪ピンクでヒヨコ色のヒラヒラドレスとか、どうかしてんじゃねーか? 見てるだけで頭がおかしくなりそうだ」
開口一番でこれである。
腹が立って、逆に話しやすくなった。
「当店はフレグランスを扱ってるんですけど! 何をお求めになります!?」
「フン……。この店の店長は居るか?」
「私です!」
「お前が!? ガキのくせに働いてやがんのか!? 親の顔が見てみたいぜ!」
何て嫌な事を言うのだろう。
的確に初対面の相手の弱点を突いてくる辺り、戦闘経験が豊富そうである。
気分を害したステラだったが、この男を相手に身の上話をする気も起きないので、肩を竦めるに留める。
「まぁ、いい。実はよぉ。レイチェルという召喚士に貰ったアイテムの出来があまりに良かったんで、買いに来たんだ。おめぇが作成者のステラで間違いないか?」
「そうですけど……」
“レイチェル”の名前を出され、ステラはこの男が何の為に店に来たのかを察した。
実は先日、アイテムの実験を手伝ってくれたレイチェルに、お代のかわりに“聖水Ex”を500ml渡していた。彼女はそれを小分けにして知人にばら撒いたらしく、“聖水Ex”は対悪魔用のアイテムとしてそこそこ評判になっているようなのだ。
この男もそれを求めに来たのだろう。
「“聖水Ex”を買っていきます?」
「あぁ、それを頼む。50mlでいい」
「金貨二十枚貰います」
「ちょっと待て! 同量の香水が金貨十枚と聞いたぞ! 何でそれより高くなるんだ!」
「フレグランスの中には“聖水Ex”が少量しか入ってないんです。だから原液だと高くなるんですよ!」
「んじゃあ、フレグランス状態になったやつの方が得……か?」
「たぶん!」
「本当かよ、おい!」
男に疑いの眼差しを向けられるが、ステラはキッパリ頷く。
“聖水Ex”独自で使っても勿論効果はある。
しかしそれをフレグランス化する事で、香りの持続力と広がりが強化され、アイテムとしてのクオリティが向上するのは確認済みなのだ。
「そうなのか。だったら、フレグランスの方をくれ。安い方がいいからな」
「はい!」
チェストの中から小瓶を取り出し、チマチマとラッピングしてあげると、ゲンナリした声を上げられる。
「包む必要はないんだがな。はぁ……」
折角気を遣ってあげているのに、そんな言い方はないだろう。
ステラは頬を膨らませ、白いリボンを適当に縦結びにして男に押し付けた。
「有難よ。レイチェルから、アンタに伝えとけって言われたんだが……、このアイテムを使ったみたら、悪魔に付けられた傷痕が綺麗サッパリ消えたんだ。これが有れば、パーティの死亡率が下がるだろうし、また死地に戻れるぜ」
「悪魔に傷痕を付けられたら、死にやすくなるんですか?」
レイチェルは恐らく悪魔と戦う機会の多い者に、”聖水Ex”を渡したのだろう。そして効果をステラに伝える事で、アイテムの正しい性能を把握させようとしている。
「悪魔は何らかの方法で、自らのターゲットに印を残すことがある。強力な存在であればあるほど、治癒が困難になり、死に至る確率が上がる」
「私のフレグランスで、その印が消えるんですね」
「もしかし初めて知ったのか? 作成者のくせに? おいおい、たのむぜ……」
「むぅ……。試す方法が限られてるんだかから、仕方がないじゃないですか。情報を提供してくれた代わりに、金貨八枚にまけといてあげてもいいですよ」
「マジか! やったぜ!」
男は腰に下げた革袋から金貨をむんずと掴んで、ステラの両の手の平にチャリチャリと落とした。
キッチリ八枚だ。
「まいどありーなのです」
「またくるぜ!」
騒がしい客が帰った後、ステラはエプロンのポケットからメモ帳を取り出し、今男から聞いた“聖水Ex”の効果を書き足した。
1.聖水Exを嗅いだ悪魔は、そのモチベーションを著しく低下させる
2.アンジェリカの様な香りが持続している間、効果は一度のみ発動する
3.聖水Exは香りが重要らしく、悪魔に香りが届く場所なら、どこに垂らしてもいい(少量なら香りの範囲は狭くなり、大量なら範囲が広くなる)
4.悪魔の印を消失させる
(ここ数日、新聞に貴族の不審死が載らなくなったのは、フレグランスのお陰かもって思ってたけど、もしかするとこの効果の影響が大きいんじゃ? シトリーのモチベーションが下がるだけだと、効果範囲が限られている。でも死に至る印が消えてくれるなら、効果絶大だよね)
ステラは自分なりの仮説を立てる。
シトリーが関与した鈴蘭のフレグランスを使用すると、身体のどこかに悪魔の印が付き、ステラのフレグランスでそれが消えているのかもしれない。
そうだとしたら、シトリーの活動をかなり妨害している事になるだろう。
開店準備のついでに、ちょっとだけ仕返ししてやろうと考えただけなのに、今判明した効果が確かなら、彼女にとって結構な痛手になっていそうだ。ステラはその悔しがる様子を思いうかべ、ニヒヒと笑う。
情報を得るキッカケを作ってくれたレイチェルに感謝だ。
(そういえば、レイチェルさん。お師匠様に手紙を書いてくれるって言ってたけど、どうなったんだろ?)
最後に会ってから十日程経っているが、未だに連絡が来ないのが少々気がかりだ。
もしかすると、通常の半分の量にし、価格を抑えているのが大きいかもしれない。
金貨十枚程度だと、中流階級の人も手を出しやすいのか、店には様々なタイプの客が訪れていた。
その中でも特に意外なのは、重装備を装着した中年男性が来てくれるようになった事だ。
本日もまた一人、その手の男性が店を訪れ、ステラはビクビクと接客する。
パステルブルーと、白で統一されたファンシーな店内において、褐色の肌のムキムキな男は余りに浮いた存在だ。
本人も自覚があるのか顔を赤く染めている。
しきりに出口を振り返っているのは、早く帰りたいがためであろう。
「おめぇ……、毛髪ピンクでヒヨコ色のヒラヒラドレスとか、どうかしてんじゃねーか? 見てるだけで頭がおかしくなりそうだ」
開口一番でこれである。
腹が立って、逆に話しやすくなった。
「当店はフレグランスを扱ってるんですけど! 何をお求めになります!?」
「フン……。この店の店長は居るか?」
「私です!」
「お前が!? ガキのくせに働いてやがんのか!? 親の顔が見てみたいぜ!」
何て嫌な事を言うのだろう。
的確に初対面の相手の弱点を突いてくる辺り、戦闘経験が豊富そうである。
気分を害したステラだったが、この男を相手に身の上話をする気も起きないので、肩を竦めるに留める。
「まぁ、いい。実はよぉ。レイチェルという召喚士に貰ったアイテムの出来があまりに良かったんで、買いに来たんだ。おめぇが作成者のステラで間違いないか?」
「そうですけど……」
“レイチェル”の名前を出され、ステラはこの男が何の為に店に来たのかを察した。
実は先日、アイテムの実験を手伝ってくれたレイチェルに、お代のかわりに“聖水Ex”を500ml渡していた。彼女はそれを小分けにして知人にばら撒いたらしく、“聖水Ex”は対悪魔用のアイテムとしてそこそこ評判になっているようなのだ。
この男もそれを求めに来たのだろう。
「“聖水Ex”を買っていきます?」
「あぁ、それを頼む。50mlでいい」
「金貨二十枚貰います」
「ちょっと待て! 同量の香水が金貨十枚と聞いたぞ! 何でそれより高くなるんだ!」
「フレグランスの中には“聖水Ex”が少量しか入ってないんです。だから原液だと高くなるんですよ!」
「んじゃあ、フレグランス状態になったやつの方が得……か?」
「たぶん!」
「本当かよ、おい!」
男に疑いの眼差しを向けられるが、ステラはキッパリ頷く。
“聖水Ex”独自で使っても勿論効果はある。
しかしそれをフレグランス化する事で、香りの持続力と広がりが強化され、アイテムとしてのクオリティが向上するのは確認済みなのだ。
「そうなのか。だったら、フレグランスの方をくれ。安い方がいいからな」
「はい!」
チェストの中から小瓶を取り出し、チマチマとラッピングしてあげると、ゲンナリした声を上げられる。
「包む必要はないんだがな。はぁ……」
折角気を遣ってあげているのに、そんな言い方はないだろう。
ステラは頬を膨らませ、白いリボンを適当に縦結びにして男に押し付けた。
「有難よ。レイチェルから、アンタに伝えとけって言われたんだが……、このアイテムを使ったみたら、悪魔に付けられた傷痕が綺麗サッパリ消えたんだ。これが有れば、パーティの死亡率が下がるだろうし、また死地に戻れるぜ」
「悪魔に傷痕を付けられたら、死にやすくなるんですか?」
レイチェルは恐らく悪魔と戦う機会の多い者に、”聖水Ex”を渡したのだろう。そして効果をステラに伝える事で、アイテムの正しい性能を把握させようとしている。
「悪魔は何らかの方法で、自らのターゲットに印を残すことがある。強力な存在であればあるほど、治癒が困難になり、死に至る確率が上がる」
「私のフレグランスで、その印が消えるんですね」
「もしかし初めて知ったのか? 作成者のくせに? おいおい、たのむぜ……」
「むぅ……。試す方法が限られてるんだかから、仕方がないじゃないですか。情報を提供してくれた代わりに、金貨八枚にまけといてあげてもいいですよ」
「マジか! やったぜ!」
男は腰に下げた革袋から金貨をむんずと掴んで、ステラの両の手の平にチャリチャリと落とした。
キッチリ八枚だ。
「まいどありーなのです」
「またくるぜ!」
騒がしい客が帰った後、ステラはエプロンのポケットからメモ帳を取り出し、今男から聞いた“聖水Ex”の効果を書き足した。
1.聖水Exを嗅いだ悪魔は、そのモチベーションを著しく低下させる
2.アンジェリカの様な香りが持続している間、効果は一度のみ発動する
3.聖水Exは香りが重要らしく、悪魔に香りが届く場所なら、どこに垂らしてもいい(少量なら香りの範囲は狭くなり、大量なら範囲が広くなる)
4.悪魔の印を消失させる
(ここ数日、新聞に貴族の不審死が載らなくなったのは、フレグランスのお陰かもって思ってたけど、もしかするとこの効果の影響が大きいんじゃ? シトリーのモチベーションが下がるだけだと、効果範囲が限られている。でも死に至る印が消えてくれるなら、効果絶大だよね)
ステラは自分なりの仮説を立てる。
シトリーが関与した鈴蘭のフレグランスを使用すると、身体のどこかに悪魔の印が付き、ステラのフレグランスでそれが消えているのかもしれない。
そうだとしたら、シトリーの活動をかなり妨害している事になるだろう。
開店準備のついでに、ちょっとだけ仕返ししてやろうと考えただけなのに、今判明した効果が確かなら、彼女にとって結構な痛手になっていそうだ。ステラはその悔しがる様子を思いうかべ、ニヒヒと笑う。
情報を得るキッカケを作ってくれたレイチェルに感謝だ。
(そういえば、レイチェルさん。お師匠様に手紙を書いてくれるって言ってたけど、どうなったんだろ?)
最後に会ってから十日程経っているが、未だに連絡が来ないのが少々気がかりだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
719
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる