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それぞれの思惑

それぞれの思惑①

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 お互いの気が済むまでくっついた後、二人でホテル内のケーキ屋まで行き、蜂蜜のケーキや果物の砂糖漬け等甘い物をたんまりと買い込んだ。ローテーブルの上に所狭しと並べた魅力的なスィーツの数々に、ステラの頬は緩む。

「帝国のお菓子、すっごく美味しそうです!」

「王国のお菓子の方が、見た目は洗練されてるかな。まぁいいや。お祝いしよう」

「何かメデタイ事でもあったんですか?」

「何って、君とオレが両想いなのを確認した、記念すべき日じゃないか。いわゆる恋人同士になったわけなんだから、これからは毎年お祝いしないとね」

「恋人……」

 何時の間にそんな関係になったのかと、疑問で頭がいっぱいになるものの、隣に座るジョシュアは嬉しそうだし、拒否したら目の前のお菓子が取り上げられるかもしれないので、まぁいいかと思うことにした。
 濃い目に淹れてもらった紅茶を飲んでから蜂蜜のケーキをつつく。
 薄く焼いたクッキーを幾つも重ねたそれは、フォークで上から押さえただけで、ホロホロと崩れてしまった。食べるのにコツが必要そうである。
 砕けたクッキーをチビチビ口に運びながら、気になっていた事をジョシュアに尋ねる。

「会社は大丈夫なんですか? シャチョウさん」

「うん。この国に来たのは君を追いかける他にも、会社に関係する目的があるしね」

 ティーカップを傾ける彼の顔を意外な心境で見上げる。
 気にはなるものの、あまり首を突っ込んだら嫌がらるかもしれないので、「そうですか」と適当な返事をして、お菓子に夢中なフリをする。
 しかし、ジョシュアはステラにちゃんと知っておいてほしいらしく、語り出した。

「実はさ、王国側の決定事項を帝国に伝える意味もあって__」

 彼の話は、王国と帝国の関係から始まった。
 両国は古くから周辺に住む強大なモンスターや、遊牧民等別種族からの侵攻等に苛まれ、時に力を合わせ、時に陥れたりしながら交流していた。それは企業活動でも同じであり、同業他社同士での関わり合いが多いらしい。
 フラーゼ家の系列企業の幾つかも、帝国内の他企業と技術提携関係にあったようなのだが、王国の宰相の命により、ジョシュアはそれを解消しに来たのだそうだ。

 そもそも何故王国側が、帝国との関わり合いを切ろうとしているのかと言うと、最近王国内での帝国の工作活動が活発化しているためだ。有力な者を次々に拉致している事や、悪魔を始めとする凶悪なモンスターを王都に解き放ち、住民を害する等、帝国の手によると分かるような形で悪しき行為を行っているのが浮き彫りになってきていて、宰相は重問題と考えている。
 これら王国への挑発行為の牽制の為にジョシュアは帝国に遣わされた。
 勿論王国の外交官が帝国側との対話の中心になるようだが、彼はこの話が上がった時に、進んで手を上げ、王国内の企業の代表者としての役割を担ったのだそうだ。

「何で技術提携なんかしているんですか?」

「他社の動きや技術力を把握しておくのは、割と重要なんだよ。技術提携なんて形だけで、研究者に密偵染みた役割をさせるんだ。何を開発しているのか、何が開発可能なのか、把握しておくにこしたことはないんだよ。そういう情報は国のトップも欲しがるから、国政上のカードに使える」

「ふーむ。そういうものですか」

 小難しい話に、腕を組んで頷くと、笑いながら頭を撫でられた。
 イマイチ理解してないのがバレたらしい。

「リスバイ公爵とフレディに会ってもらおうかな」

「あ、そういえばフレディさんは外交官でしたね。来てたんですか」

「うん。君が皇族と謁見する日程と併せてもらったほうがいいのかなって思ってさ。オレが知らない間に君の身に何かされてしまうなんて、冗談じゃないし、一緒に謁見した方がいいよ」

 ジョシュアや、顔見知りのフレディと行動を共にするのは、なかなかに魅力的な申し出だ。
 以前アジ・ダハーカにも指摘された事だが、産みの親にステラの魂が狙われているかもしれず、一人で会うのはかなりの勇気を必要としていたからだ。
 断る理由は無く、ステラは二つ返事でOKした。



 それから数日間、リスバイ公爵やフレディ等王国側の外交官、そして帝国側の官僚達との間で予定の擦り合わせが行われた。やや蚊帳の外に置かれたステラとジョシュアは、その間、帝都内をアチコチ出歩いた。

 献上品として相応しく見えるように、香水用の美しい瓶を探し求めたり、帝国風のモコモコなドレスを仕立てたり、普通に観光したり等、待ち時間が気にならないほど充実した日々を過ごした。

 そうして一週間程過ごしているうちに、あっと言う間に謁見の日が訪れた。
 王国側はステラとジョシュア、外務大臣、フレディ、そして他の外交官複数名等が謁見に臨む。

 待ち受ける相手はなんと、この国の皇帝陛下と宰相らしく、もしかするとナターリア皇女が同席するかもしれないと伝えられているのだが、はたして……。
 象牙色のドレスの裾についたフワフワの毛皮を見ながら、ステラは唇を噛んだ。
 自分を産んだ母かもしれない人物に会えるかどうか分からない。だけどこれから会う皇帝は、自分の祖父の可能性があるのだ。緊張せずにいられない。
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