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選択肢は一つなので
選択肢は一つなので①
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アデリーナの家でユックリした後、ステラ達は帝都に戻った。
ブレンダンは明日レイチェルと共にルフロス王国に戻るようで、ステラをホテルまで送り届けた後に、お土産を買いに行ってしまった。
フロントに取りつぎを頼むと、すぐにレイフが来てくれた。
「ステラ様、宮殿を抜け出ても大丈夫なので?」
「自由な行動が許されてます!」
「そうなのですね。ジョシュア様は今お休みになっています」
「むむ……。もうお昼なのに、まだ寝ているんですか?」
「二日酔いなんです。明け方近くまで飲んでらっしゃいましたから」
「ではまた出直します」
そう言って立ち去ろうとしたが、何故か止められる。
「お手数ですが、ジョシュア様を起しに行ってもらえませんか? 明後日に王国へ帰るのですが、お別れの前にちゃんとお話されるべきかと。差し出がましいですが」
「え!?」
自分に何も言わずに帰国しようとしていたのかと驚く。
そんなんじゃ、まるで他人同士みたいだ。
レイフは立ち尽くすステラに鍵を渡し、「宜しく御願いします」と頭を下げながら出口に歩いて行った。
あからさまに拒絶する相手と会うのは勇気が必要で、やたら重く感じる足をノロノロと動かし、やっとの思いで彼の部屋に辿り着く。
(何の話をしたらいいんだろ……。四つ目のスキルについて報告したかったけど。それどころじゃないよね)
鍵で解錠してからドアを開けると、室内はまだカーテンが閉められていて、薄暗かった。
広々とした居間スペースの向こうに、大きなベッドが見える。
こんもりと膨らんだシーツの中に居るのは、ジョシュアで間違いないだろう。
妙に緊張しながら近寄る。
柔らかな髪をクッションの上に広げ、うつ伏せで寝ている少年は無防備極まりない。
「ジョシュア」
呼んでみてもピクリともせず、背中をチョイチョイと突く。
それでも起きないので、思い切り揺らすと、漸くその双眸が開いた。
「まだ眠いよ……って、ステラ!?」
「です!! あ、あの……。明後日帰国すると聞いたのですけど、本当ですか?」
「うーん……頭が痛い。帰国……は、そう、明後日だよ」
ジョシュアは額を抑えながら、上体を起こす。
顰めた顔をする理由は、ステラがここに居るのを歓迎していないからか。
「何で私に黙ったまま行こうとするんですか」
「君は帝国に必要な人だし。……オレは君にとって邪魔な存在なんだよ。だったら、君が悩まずに済むように、さっさと消えようかなって……」
「もうジョシュアは私の恋人じゃなくなるんですか?」
成り行きでそういう関係になったものの、いざ解消の流れになると、不思議な程動揺している。
ズキズキ痛む胸をソッと抑えてみても、感覚は消えるどころか酷くなるばかり。
「最初からステラは俺に恋してなかったよね。君に大事に思われてると分かっていても、家族に向けるような感情だけじゃ、オレには物足りないんだよ」
「……」
「君の適当さにつけこんで、無理矢理恋人ということにしたけど、それを理由に君にアレコレしたら悪いと思ってた。いつかはオレに落ちてくれるって信じて、優しい関係のままいようって……。そしたら悪魔なんかに味見されてしまうし、最悪だよ」
「あ、あれはイキナリだったから、避けれませんでした!」
「オレ以外にキスされたら、もっとショックを受けてほしかった! 君が軽い感じで、説明するのを聞いて、オレに全く気がないんだって、思い知らされたね」
こういう会話に慣れてないステラは、心拍数が酷い事になった。
うまく働かない頭で必死に彼の感情を考える。
ジョシュアはどうやらステラをまるめ込む形で恋人にしたのに、負い目を感じていて、ユックリと関係を深めようと思っていたようだ。しかし、その途中で様々な障害に直面し、心が折れかかっている。
体当たり気味に、ステラに関わり続けてくれた少年の心境の変化に悲しくなる。
「ジョ……ジョシュアに恋してないだなんて、何で分かるんですか。もしかしたら……好き、かもしれないじゃないですか」
「じゃあ、オレの唇にキス出来る?」
「う……」
「好きなら出来るハズだよ。オレはいつだって君にしたかったんだから」
「嘘だ」
「嘘じゃないよ」
彼の口元を見る。
形良く、滑らかな唇は、その辺の男性のソレよりも魅力的だ。
しかし、自分の唇をくっつけるのは抵抗を感じる。
修道院で過ごしていた頃、婚前の淫行は悪だと習った。詳しくは分からないものの、口でするキスや、子供を授かるような行為を指すらしいので、当然ジョシュアが求める事はアウトなのだ。
とはいえ、一度シトリーにされてしまったし、緩めに考えてもいいかもしれないとグイッと身を乗りだし、彼の硬い胸に手を付く。
「します!」
「うん」
間近で揺れる瞳を覗き込むこと一秒、二秒、三秒……。
時間だけが経過する。
重ねられた手の平の熱さと、背中に回された腕の感触に気を取られ、ステラは完全に固まってしまっている。
「早くキスしてよ」
「ぐぅ……」
ギュッと目を瞑って、更に口を近付けようとはしたものの、鼻同士が当たって無理だった。
パニック気味に身を離し、勢い余って、床に尻もちをつく。
もう続行する気力は皆無。
「出来ない……です。ごめんなさい。駄目でした」
ジョシュアは大きくため息をつき、だまり込んだ。
気まずすぎる沈黙は暫く続く。十分は経っただろうか。上空を移動する雲の所為で、室内が一段と暗くなると、ジョシュアは漸くベッドから下りた。
「お別れだよ、ステラ。君を解放してあげる。今まで有難う」
告げられたのは、今まで生きてきた中で、一番ショックな言葉だった。
ブレンダンは明日レイチェルと共にルフロス王国に戻るようで、ステラをホテルまで送り届けた後に、お土産を買いに行ってしまった。
フロントに取りつぎを頼むと、すぐにレイフが来てくれた。
「ステラ様、宮殿を抜け出ても大丈夫なので?」
「自由な行動が許されてます!」
「そうなのですね。ジョシュア様は今お休みになっています」
「むむ……。もうお昼なのに、まだ寝ているんですか?」
「二日酔いなんです。明け方近くまで飲んでらっしゃいましたから」
「ではまた出直します」
そう言って立ち去ろうとしたが、何故か止められる。
「お手数ですが、ジョシュア様を起しに行ってもらえませんか? 明後日に王国へ帰るのですが、お別れの前にちゃんとお話されるべきかと。差し出がましいですが」
「え!?」
自分に何も言わずに帰国しようとしていたのかと驚く。
そんなんじゃ、まるで他人同士みたいだ。
レイフは立ち尽くすステラに鍵を渡し、「宜しく御願いします」と頭を下げながら出口に歩いて行った。
あからさまに拒絶する相手と会うのは勇気が必要で、やたら重く感じる足をノロノロと動かし、やっとの思いで彼の部屋に辿り着く。
(何の話をしたらいいんだろ……。四つ目のスキルについて報告したかったけど。それどころじゃないよね)
鍵で解錠してからドアを開けると、室内はまだカーテンが閉められていて、薄暗かった。
広々とした居間スペースの向こうに、大きなベッドが見える。
こんもりと膨らんだシーツの中に居るのは、ジョシュアで間違いないだろう。
妙に緊張しながら近寄る。
柔らかな髪をクッションの上に広げ、うつ伏せで寝ている少年は無防備極まりない。
「ジョシュア」
呼んでみてもピクリともせず、背中をチョイチョイと突く。
それでも起きないので、思い切り揺らすと、漸くその双眸が開いた。
「まだ眠いよ……って、ステラ!?」
「です!! あ、あの……。明後日帰国すると聞いたのですけど、本当ですか?」
「うーん……頭が痛い。帰国……は、そう、明後日だよ」
ジョシュアは額を抑えながら、上体を起こす。
顰めた顔をする理由は、ステラがここに居るのを歓迎していないからか。
「何で私に黙ったまま行こうとするんですか」
「君は帝国に必要な人だし。……オレは君にとって邪魔な存在なんだよ。だったら、君が悩まずに済むように、さっさと消えようかなって……」
「もうジョシュアは私の恋人じゃなくなるんですか?」
成り行きでそういう関係になったものの、いざ解消の流れになると、不思議な程動揺している。
ズキズキ痛む胸をソッと抑えてみても、感覚は消えるどころか酷くなるばかり。
「最初からステラは俺に恋してなかったよね。君に大事に思われてると分かっていても、家族に向けるような感情だけじゃ、オレには物足りないんだよ」
「……」
「君の適当さにつけこんで、無理矢理恋人ということにしたけど、それを理由に君にアレコレしたら悪いと思ってた。いつかはオレに落ちてくれるって信じて、優しい関係のままいようって……。そしたら悪魔なんかに味見されてしまうし、最悪だよ」
「あ、あれはイキナリだったから、避けれませんでした!」
「オレ以外にキスされたら、もっとショックを受けてほしかった! 君が軽い感じで、説明するのを聞いて、オレに全く気がないんだって、思い知らされたね」
こういう会話に慣れてないステラは、心拍数が酷い事になった。
うまく働かない頭で必死に彼の感情を考える。
ジョシュアはどうやらステラをまるめ込む形で恋人にしたのに、負い目を感じていて、ユックリと関係を深めようと思っていたようだ。しかし、その途中で様々な障害に直面し、心が折れかかっている。
体当たり気味に、ステラに関わり続けてくれた少年の心境の変化に悲しくなる。
「ジョ……ジョシュアに恋してないだなんて、何で分かるんですか。もしかしたら……好き、かもしれないじゃないですか」
「じゃあ、オレの唇にキス出来る?」
「う……」
「好きなら出来るハズだよ。オレはいつだって君にしたかったんだから」
「嘘だ」
「嘘じゃないよ」
彼の口元を見る。
形良く、滑らかな唇は、その辺の男性のソレよりも魅力的だ。
しかし、自分の唇をくっつけるのは抵抗を感じる。
修道院で過ごしていた頃、婚前の淫行は悪だと習った。詳しくは分からないものの、口でするキスや、子供を授かるような行為を指すらしいので、当然ジョシュアが求める事はアウトなのだ。
とはいえ、一度シトリーにされてしまったし、緩めに考えてもいいかもしれないとグイッと身を乗りだし、彼の硬い胸に手を付く。
「します!」
「うん」
間近で揺れる瞳を覗き込むこと一秒、二秒、三秒……。
時間だけが経過する。
重ねられた手の平の熱さと、背中に回された腕の感触に気を取られ、ステラは完全に固まってしまっている。
「早くキスしてよ」
「ぐぅ……」
ギュッと目を瞑って、更に口を近付けようとはしたものの、鼻同士が当たって無理だった。
パニック気味に身を離し、勢い余って、床に尻もちをつく。
もう続行する気力は皆無。
「出来ない……です。ごめんなさい。駄目でした」
ジョシュアは大きくため息をつき、だまり込んだ。
気まずすぎる沈黙は暫く続く。十分は経っただろうか。上空を移動する雲の所為で、室内が一段と暗くなると、ジョシュアは漸くベッドから下りた。
「お別れだよ、ステラ。君を解放してあげる。今まで有難う」
告げられたのは、今まで生きてきた中で、一番ショックな言葉だった。
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