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それぞれの思惑
それぞれの思惑⑧
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過去の自分に下された予言を聞かされて、微妙な気分になる。
ジョシュアと会うまで、ステラはずっと存在価値を否定され続けた。
自分でもそうなのだと思いこまされ、修道院で一生を終えなければならないと考えていたくらいだ。
出来れば過去、ナターリアに別の選択をしてほしかったと思ってしまう。ジョシュアがステラに提示してくれたように、このスキルは幾らでも活かせたのではないか。
(でも、皇帝の監視下ではそれも厳しかったのかな。はぁ……。過去に拘り続けるのは不毛な気がしてきた)
大事なのは未来だ。聞くべき事を聞き、対処する必要があるかどうか知りたい。
「今、私の将来についてはどう見えるのでしょうか?」
「私の水晶に片手で触っとくれ」
「はいです」
ステラが右手で水晶に触れると、アデリーナはさらにその上から両手を翳した。
水晶玉は、その色を様々に変化させる。
手から感じる僅かな熱に、ドキドキしながら待つ事三分程。彼女はフムフムと頷いた。
「貴女の作る香水は『天来のフレグランス』として大陸中で愛される。名声は後世にまで伝わり、伝説の調香師になるだろう」
「おぉ!!」
思いもよらず、素晴らしい未来図を告げられ、顔がニヤけてしまった。
いつのまにか、ステラの未来は変わっていたらしい。
自分の所為で誰も不幸にならずに済むし、自分自身にも望むような未来が待ち受ける。
「神様……有難うございます。真面目にお祈りした甲斐がありました」
心の底から神に感謝するのは、これが初めてかもしれない。
そんなステラにブレンダンが「良かったね」と声をかけてくれた。
彼はいわば証人だ。ステラが無害な人間だと分かっていてくれる人は一人でも多い方がいい。
ステラは彼に対して大きく頷いた。
「ステラさん、悪魔シトリーにされた事も聞かないと」
「そうでした! えぇと、言いづらいのですが、私。高位の悪魔からキスされ、花を受け取ったのです。ブレンダンさんのお話では、体内のエーテルに影響を及ぼす事もあるとか」
「悪魔との接触か……。今度は水晶球を両手で抱えとくれ」
「やってみます!」
ズッシリ重い透明な球を抱える。
すると、水晶は中心部から白濁とした色合いに染まり、その中にトロリとした金色が混じりだした。ちょうどホットミルクに蜂蜜を回し入れたかのように。
(美味しそうな色……)
手元に注目している間に、アデリーナの前に輝く文字が浮かんだ。
何もない空中に、スルスルと書かれていくものだから、透明人間が魅力的な色粉を使って落書きしているように見えてしまう。美しくも不思議な光景だ。
ステラには解読不能なソレ等を見て、賢者は面白そうな表情を浮かべた。
「なるほど。ここ一週間で、新たに取得したスキルがあるよ」
「えぇ!? 私がですか?」
「そうとも。四つ目のスキルさね」
「なんとぉ……」
スキルを三つ持つだけでも珍しいと言われるのに、四つ目を取得してしまっていたとは……。
予想外の事態に思考がついていかない。
「悪魔シトリーがステラさんにスキルを授けていったという事になりますか?」
放心するステラに代わり、ブレンダンがアデリーナに質問してくれた。
「そうなるかもしれない。しかし、たとえ貴族階級の悪魔と言えども、新たなスキルを産み出す能力はないはず。元々其奴が持っていたスキルを一つ渡したと考えるのが自然だろう」
「シトリーが私にスキルをくれるなんて……」
「シトリーは随分とステラさんにご執心のようだね。アデリーナ。そのスキルはどのようなものなんです?」
「スキル名は『アロマレシピツリー』という。解析系のスキルだね。この世に存在する香りがどの様な成分で成り立っているのかを、知れるようだ」
「す、すご……。そうか、シトリーはそのスキルを持っていたから、鈴蘭の香料を得られたんだ……」
シトリーがこのスキルを渡したのは、ステラを激励したかったからなのだろうか。そうでないなら、今後香りを利用して人間を害しないという意味を込めていそうだ。
どちらにしても、このスキルがあれば、ステラが扱える香りの範囲がより広がる。
(シトリー、有難う。ジョシュアには言えないけれど、これはファーストキスをあげた甲斐があったなぁ)
試しにカモミールティーにスキルを使用してみると、頭の中に、その成分がズラズラと思い浮かぶ。
クマリン、ケルセチン、カマメロサイド等。よく分からない名前が七つだ。
これらは化学物質の名称なのだろうか。
フラーゼ家の研究所で働いているタイラーあたりと協力しないと、使い物にならないスキルかもしれない。
思ったよりも使い勝手が良くないが、将来への発展性はかなりのもの。
ジョシュアの会社の事業に直説的な貢献も出来そうだ。そう考えると、早く彼に会って伝えてしまいたい気分になる。
(ジョシュアはどこに居るんだろう? あのホテルかな?)
会いに来なくなったのは、ステラへの愛想が尽きただと思われるものの、数日ぶりに彼の顔を見に行きたい。
今日の予定に、ジョシュアが泊まるホテルへの訪問を付けたしたステラだった。
ジョシュアと会うまで、ステラはずっと存在価値を否定され続けた。
自分でもそうなのだと思いこまされ、修道院で一生を終えなければならないと考えていたくらいだ。
出来れば過去、ナターリアに別の選択をしてほしかったと思ってしまう。ジョシュアがステラに提示してくれたように、このスキルは幾らでも活かせたのではないか。
(でも、皇帝の監視下ではそれも厳しかったのかな。はぁ……。過去に拘り続けるのは不毛な気がしてきた)
大事なのは未来だ。聞くべき事を聞き、対処する必要があるかどうか知りたい。
「今、私の将来についてはどう見えるのでしょうか?」
「私の水晶に片手で触っとくれ」
「はいです」
ステラが右手で水晶に触れると、アデリーナはさらにその上から両手を翳した。
水晶玉は、その色を様々に変化させる。
手から感じる僅かな熱に、ドキドキしながら待つ事三分程。彼女はフムフムと頷いた。
「貴女の作る香水は『天来のフレグランス』として大陸中で愛される。名声は後世にまで伝わり、伝説の調香師になるだろう」
「おぉ!!」
思いもよらず、素晴らしい未来図を告げられ、顔がニヤけてしまった。
いつのまにか、ステラの未来は変わっていたらしい。
自分の所為で誰も不幸にならずに済むし、自分自身にも望むような未来が待ち受ける。
「神様……有難うございます。真面目にお祈りした甲斐がありました」
心の底から神に感謝するのは、これが初めてかもしれない。
そんなステラにブレンダンが「良かったね」と声をかけてくれた。
彼はいわば証人だ。ステラが無害な人間だと分かっていてくれる人は一人でも多い方がいい。
ステラは彼に対して大きく頷いた。
「ステラさん、悪魔シトリーにされた事も聞かないと」
「そうでした! えぇと、言いづらいのですが、私。高位の悪魔からキスされ、花を受け取ったのです。ブレンダンさんのお話では、体内のエーテルに影響を及ぼす事もあるとか」
「悪魔との接触か……。今度は水晶球を両手で抱えとくれ」
「やってみます!」
ズッシリ重い透明な球を抱える。
すると、水晶は中心部から白濁とした色合いに染まり、その中にトロリとした金色が混じりだした。ちょうどホットミルクに蜂蜜を回し入れたかのように。
(美味しそうな色……)
手元に注目している間に、アデリーナの前に輝く文字が浮かんだ。
何もない空中に、スルスルと書かれていくものだから、透明人間が魅力的な色粉を使って落書きしているように見えてしまう。美しくも不思議な光景だ。
ステラには解読不能なソレ等を見て、賢者は面白そうな表情を浮かべた。
「なるほど。ここ一週間で、新たに取得したスキルがあるよ」
「えぇ!? 私がですか?」
「そうとも。四つ目のスキルさね」
「なんとぉ……」
スキルを三つ持つだけでも珍しいと言われるのに、四つ目を取得してしまっていたとは……。
予想外の事態に思考がついていかない。
「悪魔シトリーがステラさんにスキルを授けていったという事になりますか?」
放心するステラに代わり、ブレンダンがアデリーナに質問してくれた。
「そうなるかもしれない。しかし、たとえ貴族階級の悪魔と言えども、新たなスキルを産み出す能力はないはず。元々其奴が持っていたスキルを一つ渡したと考えるのが自然だろう」
「シトリーが私にスキルをくれるなんて……」
「シトリーは随分とステラさんにご執心のようだね。アデリーナ。そのスキルはどのようなものなんです?」
「スキル名は『アロマレシピツリー』という。解析系のスキルだね。この世に存在する香りがどの様な成分で成り立っているのかを、知れるようだ」
「す、すご……。そうか、シトリーはそのスキルを持っていたから、鈴蘭の香料を得られたんだ……」
シトリーがこのスキルを渡したのは、ステラを激励したかったからなのだろうか。そうでないなら、今後香りを利用して人間を害しないという意味を込めていそうだ。
どちらにしても、このスキルがあれば、ステラが扱える香りの範囲がより広がる。
(シトリー、有難う。ジョシュアには言えないけれど、これはファーストキスをあげた甲斐があったなぁ)
試しにカモミールティーにスキルを使用してみると、頭の中に、その成分がズラズラと思い浮かぶ。
クマリン、ケルセチン、カマメロサイド等。よく分からない名前が七つだ。
これらは化学物質の名称なのだろうか。
フラーゼ家の研究所で働いているタイラーあたりと協力しないと、使い物にならないスキルかもしれない。
思ったよりも使い勝手が良くないが、将来への発展性はかなりのもの。
ジョシュアの会社の事業に直説的な貢献も出来そうだ。そう考えると、早く彼に会って伝えてしまいたい気分になる。
(ジョシュアはどこに居るんだろう? あのホテルかな?)
会いに来なくなったのは、ステラへの愛想が尽きただと思われるものの、数日ぶりに彼の顔を見に行きたい。
今日の予定に、ジョシュアが泊まるホテルへの訪問を付けたしたステラだった。
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