79 / 156
王都で会った男は胡散臭さ全開
王都で会った男は胡散臭さ全開⑤
しおりを挟む
マリ達が奥側の椅子に並んで座ると、モイスとへーパクス枢機卿は右手側に腰を下ろした。
タイミングを見計らった様に扉が開き、使用人らしき者達が入ってくる。
彼らのトレーの上には淡い桃色の液体が入ったグラスが乗っていて、椅子の隣に設置された小テーブルの上に置かれた。
脚を持ち、目の前で揺らすと、甘美なバラの香りが漂う。
チラリと視線をプリマ・マテリアの二人に向けると、ニコニコしながらマリが飲むのを待っていた。
(毒は入ってない……よね?)
マリが躊躇っている間に、隣に座るグレンがグイッと呷る。大丈夫なのかと、ジッと観察するが、特に身体には変調が無いようだ。図らずも毒見してくれた彼に罪悪感を感じつつ、自分の分のローズウォーターを飲んでみる。
原液ではなく、水で割られている。だけど、ダマスクローズに似た香りは上品で、一口だけでも満足感があった。
「確かにこれは愛好家がいても不思議じゃないかも。ローズウォーターを割ってるのは、ええと……井戸水とか?」
「いえ、プロメシス伯領に聳(そび)える霊峰の湧水を使用していますよ」
へーパクス枢機卿は水の神殿の担当だ。自らに関わり深い地について答えるのは嬉しいらしく、淀みない口調で教えてくれる。水の神殿に起きている事を伝えるのは、今がいいかもしれない。
「へーパクス枢機卿は、今水の神殿で起きてる事をどのくらい知ってる?」
「おや、貴女から水の神殿の話を振られるとは想像もしていませんでした。もしやリザードマンの襲撃からの騒動を言っておられますか?」
「うん」
「なるほど……、何故かとても心強く感じます」
彼は一度話を区切り、一口だけローズウォーターを飲んだ。
「近年の調査で分かったのですが、プロメシス伯領の海底には瘴気の吹き出し口がありましてね。放出量がここ1、2年増加傾向なのです。そのせいかリザードマンや、水の属性のモンスターがおかしな行動をとっているようですね。重大な事件が起こっていなかったので静観していたんですが、先日神殿がリザードマン達に襲撃され、国宝級の物を幾つか盗まれる事態にまで発展してしまいました」
辛そうな表情を作るへーパクス枢機卿の隣で、モイスは鼻を鳴らした。
「水の神殿の大神官はんは、盗まれたもんは自分らの手で取り返すー言うて来はったんで、よほど自信があるんかと思ってましたのに、改善するどころか、事態は過去最悪。とんでもない大失態をやらかしてくれましたわ」
「詳しそうだね」
「水の神殿の連中は足の引っ張り合いが大好きでね。頼まれんくても情報をほいほい渡してくれる奴等がおるんですわ。そいつらから神獣が下されたと聞いて、任せておけないと気がつきました。プリマ・マテリアの優秀な術者達や、冒険者ギルドの連中やらを派遣しとりますよ」
プリマ・マテリアは水の神殿の要請がなくても、動いてくれていたらしい。アリアは行き違いになり、この事を知らなかったのだろう。無駄な心配を抱えてしまっていたのだと、少し気の毒に思う。
「その人達に任せたら、水の神殿はどうにかなりそうなのかな?」
「神獣との戦闘なんて、過去に数えるほどしかないので、予想を立てるのが難しいのです。ですが、派遣した者たちの報告によりますと、おそらく負けるだろうと__」
「マリ様、ケートスって知っとります?」
へーパクス枢機卿の言葉を遮り、モイスはマリに質問する。
その『ケートス』とやらが、水の神に呼ばれた神獣なのだろうか?
記憶に無い名前なので、マリは首を振る。この世界について、ほんの少し理解しているだけなのに、レアな生き物なんか知っているわけがない。
「……巨大なクジラの姿をしている」
グレンがボソリと呟く。
「へー。それって相当デカイね」
「水の神やら巨大クジラやら、なんとも磯臭い話ですねぇ」
「だね。てか、巨大なクジラに近海で暴れられたら、漁師とか大変なんじゃないかな? 船どうなるんだろ……」
マリとセバスちゃんは、勝手なイメージを伝え合うが、状況はもっと厳しいようだ。
「住人もそうですが、討伐に向かった者の中にも大怪我する者が出ています。頭の痛い状況ですよ」
へーパクス枢機卿は重いためいきをついた。
タイミングを見計らった様に扉が開き、使用人らしき者達が入ってくる。
彼らのトレーの上には淡い桃色の液体が入ったグラスが乗っていて、椅子の隣に設置された小テーブルの上に置かれた。
脚を持ち、目の前で揺らすと、甘美なバラの香りが漂う。
チラリと視線をプリマ・マテリアの二人に向けると、ニコニコしながらマリが飲むのを待っていた。
(毒は入ってない……よね?)
マリが躊躇っている間に、隣に座るグレンがグイッと呷る。大丈夫なのかと、ジッと観察するが、特に身体には変調が無いようだ。図らずも毒見してくれた彼に罪悪感を感じつつ、自分の分のローズウォーターを飲んでみる。
原液ではなく、水で割られている。だけど、ダマスクローズに似た香りは上品で、一口だけでも満足感があった。
「確かにこれは愛好家がいても不思議じゃないかも。ローズウォーターを割ってるのは、ええと……井戸水とか?」
「いえ、プロメシス伯領に聳(そび)える霊峰の湧水を使用していますよ」
へーパクス枢機卿は水の神殿の担当だ。自らに関わり深い地について答えるのは嬉しいらしく、淀みない口調で教えてくれる。水の神殿に起きている事を伝えるのは、今がいいかもしれない。
「へーパクス枢機卿は、今水の神殿で起きてる事をどのくらい知ってる?」
「おや、貴女から水の神殿の話を振られるとは想像もしていませんでした。もしやリザードマンの襲撃からの騒動を言っておられますか?」
「うん」
「なるほど……、何故かとても心強く感じます」
彼は一度話を区切り、一口だけローズウォーターを飲んだ。
「近年の調査で分かったのですが、プロメシス伯領の海底には瘴気の吹き出し口がありましてね。放出量がここ1、2年増加傾向なのです。そのせいかリザードマンや、水の属性のモンスターがおかしな行動をとっているようですね。重大な事件が起こっていなかったので静観していたんですが、先日神殿がリザードマン達に襲撃され、国宝級の物を幾つか盗まれる事態にまで発展してしまいました」
辛そうな表情を作るへーパクス枢機卿の隣で、モイスは鼻を鳴らした。
「水の神殿の大神官はんは、盗まれたもんは自分らの手で取り返すー言うて来はったんで、よほど自信があるんかと思ってましたのに、改善するどころか、事態は過去最悪。とんでもない大失態をやらかしてくれましたわ」
「詳しそうだね」
「水の神殿の連中は足の引っ張り合いが大好きでね。頼まれんくても情報をほいほい渡してくれる奴等がおるんですわ。そいつらから神獣が下されたと聞いて、任せておけないと気がつきました。プリマ・マテリアの優秀な術者達や、冒険者ギルドの連中やらを派遣しとりますよ」
プリマ・マテリアは水の神殿の要請がなくても、動いてくれていたらしい。アリアは行き違いになり、この事を知らなかったのだろう。無駄な心配を抱えてしまっていたのだと、少し気の毒に思う。
「その人達に任せたら、水の神殿はどうにかなりそうなのかな?」
「神獣との戦闘なんて、過去に数えるほどしかないので、予想を立てるのが難しいのです。ですが、派遣した者たちの報告によりますと、おそらく負けるだろうと__」
「マリ様、ケートスって知っとります?」
へーパクス枢機卿の言葉を遮り、モイスはマリに質問する。
その『ケートス』とやらが、水の神に呼ばれた神獣なのだろうか?
記憶に無い名前なので、マリは首を振る。この世界について、ほんの少し理解しているだけなのに、レアな生き物なんか知っているわけがない。
「……巨大なクジラの姿をしている」
グレンがボソリと呟く。
「へー。それって相当デカイね」
「水の神やら巨大クジラやら、なんとも磯臭い話ですねぇ」
「だね。てか、巨大なクジラに近海で暴れられたら、漁師とか大変なんじゃないかな? 船どうなるんだろ……」
マリとセバスちゃんは、勝手なイメージを伝え合うが、状況はもっと厳しいようだ。
「住人もそうですが、討伐に向かった者の中にも大怪我する者が出ています。頭の痛い状況ですよ」
へーパクス枢機卿は重いためいきをついた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
138
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる