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転職の神殿ハローワーク支所
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不況の煽りを受け、30年勤めた工場が倒産してしまった。
会社ではそれなりの地位を得ていたが、この歳ではなかなか雇ってくれる会社は見つからず、再就職先を探す日々が続いていた。
そんな折、ハローワークである噂を耳にした。リスクはあるが、割りのいい仕事を必ず斡旋してくれる秘密の部署がこの施設内にあるというものだった。
そのくだらない怪談話の様な噂は、なぜか私の脳裏に刻まれてしまった。それ以来、ハローワークを訪れる度、私は何気なく施設の隅々を確認するようになっていた。
ある日、私は施設の寂れた一角で奇妙なモノを見付けた。
それは扉だった。
時代がかった太い木材と鉄で作られた古い扉。鉄筋コンクリート建ての公共施設には似つかわしくないそれは通路の突き当たりに存在した。
何より奇妙なのは、その扉がこれまで訪問した時にはそこに無かったということ。突然、そこに現れたかのようにそれはあったのだ。
あの噂が思い出される。転職を必ず斡旋してくれる秘密の部署、割りのいい仕事。私は淡い期待を胸に扉へ手をかけた。
「いらっしゃいませ! 転職の神殿ハローワーク支所へようこそ」
重い扉を開けると、底抜けに明るい声が聞こえた。石造りの立派な部屋の真ん中に可愛らしい女性が立っている。他の窓口の職員とは違い、西洋風の変わった制服を着ている。そして、私のリアクションを待っているかのようにこちらを見ていた。
「ここでは転職先を紹介してくれるのですか?」
私は戸惑いながらも彼女に質問をした。
「はい、ご紹介いたしますよ。ただ、貴方の希望に完全に添えるお仕事ではないかもしれません。何せ、冒険者の酒場で募集があったものだけしかご紹介できませんから」
今さら選り好みをするつもりはないが、酒場とは一体なんのことだろう? 水商売関係なのだろうか。周囲からクソ真面目だと言われてきた私では、そのような職場には馴染めないと思うのだが。とにかく、詳細を聞いてみるしかない。
「とりあえず、どんな仕事の募集があるか教えてもらえますか?」
「はい、えっと。今、募集があるのはこんな職業です」
目の前のテーブルに7枚の紙が置かれた。それにはそれぞれ女性のイラストが描かれている。
「えっと、これは何かね?」
「ご説明しますね。まずは左から女商人、女僧侶、女魔法使い。そしてなんと女勇者です!! なにかの手違いか、バグで勇者様の募集がありました。私もオリジナル・リメイク通して、初めて見たほど檄レアな職業ですよ! あとは女戦士と女格闘家、そして女遊び人ですね」
「ゆ、勇者? よくわからないんだけど、女性の仕事しか募集していないんだね」
「そうですね、今は男性の募集はないのです、どうなさいますか? 私のオススメは女勇者! やっぱり、世界を救えるお仕事なんて憧れですよねぇ」
どうしたものか、全く要領を得ない。しかし、女性向けの求人しかないなら諦めるしかないだろう。
「その勇者という仕事はよくわからないが、私にあった求人がないなら諦めるよ。また、次の機会によろしくね」
私は彼女にそう言って、部屋を後にしようとした。
「待ってください! そっか、貴方は初心者さんだから勇者の重責に不安を感じてるんですね。わかりました! じゃあ、女遊び人がいいですよ! なにせ、遊び人ですから楽しく遊んでいればいいだけですから」
そういうと、彼女はどこからか杖を取り出し、それを高く掲げた。すると、杖の先から眩いばかりの光が放たれ、部屋は白く光に包まれる。私は思わず目を閉じてしまう。
「はい。転職完了いたしました。女遊び人さん、爆誕ですぅ!!」
その声に、恐る恐る目を開けると白くて丸い何かが視界に写り込んだ。よく見ると、それは女性の胸だった。おかしなことにその乳房は私の胸についている。それだけじゃない、さっきから長い髪が視界に見え、腕は細く手も繊細な女性のそれに変わっている。しかも、スーツを着ていたはずがバニーガールの衣装を着ていた。
「何で私が女性に……一体どうやって……」
思わずつぶやいた声も高い女性的なものとして聞こえた。
「う~ん、あんまりゲームのことをよくお解りではないようですね。私、ちょっと心配です。あ、そうだ。初心者さんへの特別サービスで遊び人らしく働けるようにしてあげますね」
そう言うと、彼女は手に持った杖で私のおでこをチョンと突ついた。突かれた場所から温かい何かが頭の中に広がっていく。
「な、何を……するんだ」
頭がポカポカして、何か黒いモヤモヤが蒸発するように外に出ていく。重苦しいモヤモヤが出ていった後は、幸せな気持ちでいっぱいになった。まるで頭の中に砂糖菓子を詰め込んだみたい❤️
「すっごい❤️超幸せな気分!」
「そう言って頂けると私も嬉しいですよ」
「えへへへ、そうだ! 転職させてくれたお礼にパフパフしてあげようか❤️」
「いえ、私は結構です。でも、女遊び人さんを募集したパーティさんは男勇者、男戦士、男格闘家っていうマッチョチームなので、みんなにパフパフしてあげると喜ぶと思います!」
「マジでぇ! 超楽しみなんですけど❤️」
「頑張ってレベルアップしたら、賢者に転職しに戻って来てくださいね」
「ええ~、それマジかんべん。私ィ、遊びまくってレベル99の遊び人になるから、キャハハ!」
「えええ、困った人になっちゃいましたね。まあ、いいでしょう。さぁ、早く冒険者の酒場へ行ってあげてください。パーティメンバーのみんなが待ってますよ」
「ハーイ☆ じゃ、冒険者の酒場に行ってくるね❤️」
なんか、ここに来る時悩んでた私だけど、転職したら遊んでいたらいいだけの超ハッピーな遊び人になっちゃった☆ パーティのみんながイケメンだったらいいなぁo(^▽^)o みんなも転職の神殿ハローワーク支所、マジオススメだよ♪───O(≧∇≦)O────♪
会社ではそれなりの地位を得ていたが、この歳ではなかなか雇ってくれる会社は見つからず、再就職先を探す日々が続いていた。
そんな折、ハローワークである噂を耳にした。リスクはあるが、割りのいい仕事を必ず斡旋してくれる秘密の部署がこの施設内にあるというものだった。
そのくだらない怪談話の様な噂は、なぜか私の脳裏に刻まれてしまった。それ以来、ハローワークを訪れる度、私は何気なく施設の隅々を確認するようになっていた。
ある日、私は施設の寂れた一角で奇妙なモノを見付けた。
それは扉だった。
時代がかった太い木材と鉄で作られた古い扉。鉄筋コンクリート建ての公共施設には似つかわしくないそれは通路の突き当たりに存在した。
何より奇妙なのは、その扉がこれまで訪問した時にはそこに無かったということ。突然、そこに現れたかのようにそれはあったのだ。
あの噂が思い出される。転職を必ず斡旋してくれる秘密の部署、割りのいい仕事。私は淡い期待を胸に扉へ手をかけた。
「いらっしゃいませ! 転職の神殿ハローワーク支所へようこそ」
重い扉を開けると、底抜けに明るい声が聞こえた。石造りの立派な部屋の真ん中に可愛らしい女性が立っている。他の窓口の職員とは違い、西洋風の変わった制服を着ている。そして、私のリアクションを待っているかのようにこちらを見ていた。
「ここでは転職先を紹介してくれるのですか?」
私は戸惑いながらも彼女に質問をした。
「はい、ご紹介いたしますよ。ただ、貴方の希望に完全に添えるお仕事ではないかもしれません。何せ、冒険者の酒場で募集があったものだけしかご紹介できませんから」
今さら選り好みをするつもりはないが、酒場とは一体なんのことだろう? 水商売関係なのだろうか。周囲からクソ真面目だと言われてきた私では、そのような職場には馴染めないと思うのだが。とにかく、詳細を聞いてみるしかない。
「とりあえず、どんな仕事の募集があるか教えてもらえますか?」
「はい、えっと。今、募集があるのはこんな職業です」
目の前のテーブルに7枚の紙が置かれた。それにはそれぞれ女性のイラストが描かれている。
「えっと、これは何かね?」
「ご説明しますね。まずは左から女商人、女僧侶、女魔法使い。そしてなんと女勇者です!! なにかの手違いか、バグで勇者様の募集がありました。私もオリジナル・リメイク通して、初めて見たほど檄レアな職業ですよ! あとは女戦士と女格闘家、そして女遊び人ですね」
「ゆ、勇者? よくわからないんだけど、女性の仕事しか募集していないんだね」
「そうですね、今は男性の募集はないのです、どうなさいますか? 私のオススメは女勇者! やっぱり、世界を救えるお仕事なんて憧れですよねぇ」
どうしたものか、全く要領を得ない。しかし、女性向けの求人しかないなら諦めるしかないだろう。
「その勇者という仕事はよくわからないが、私にあった求人がないなら諦めるよ。また、次の機会によろしくね」
私は彼女にそう言って、部屋を後にしようとした。
「待ってください! そっか、貴方は初心者さんだから勇者の重責に不安を感じてるんですね。わかりました! じゃあ、女遊び人がいいですよ! なにせ、遊び人ですから楽しく遊んでいればいいだけですから」
そういうと、彼女はどこからか杖を取り出し、それを高く掲げた。すると、杖の先から眩いばかりの光が放たれ、部屋は白く光に包まれる。私は思わず目を閉じてしまう。
「はい。転職完了いたしました。女遊び人さん、爆誕ですぅ!!」
その声に、恐る恐る目を開けると白くて丸い何かが視界に写り込んだ。よく見ると、それは女性の胸だった。おかしなことにその乳房は私の胸についている。それだけじゃない、さっきから長い髪が視界に見え、腕は細く手も繊細な女性のそれに変わっている。しかも、スーツを着ていたはずがバニーガールの衣装を着ていた。
「何で私が女性に……一体どうやって……」
思わずつぶやいた声も高い女性的なものとして聞こえた。
「う~ん、あんまりゲームのことをよくお解りではないようですね。私、ちょっと心配です。あ、そうだ。初心者さんへの特別サービスで遊び人らしく働けるようにしてあげますね」
そう言うと、彼女は手に持った杖で私のおでこをチョンと突ついた。突かれた場所から温かい何かが頭の中に広がっていく。
「な、何を……するんだ」
頭がポカポカして、何か黒いモヤモヤが蒸発するように外に出ていく。重苦しいモヤモヤが出ていった後は、幸せな気持ちでいっぱいになった。まるで頭の中に砂糖菓子を詰め込んだみたい❤️
「すっごい❤️超幸せな気分!」
「そう言って頂けると私も嬉しいですよ」
「えへへへ、そうだ! 転職させてくれたお礼にパフパフしてあげようか❤️」
「いえ、私は結構です。でも、女遊び人さんを募集したパーティさんは男勇者、男戦士、男格闘家っていうマッチョチームなので、みんなにパフパフしてあげると喜ぶと思います!」
「マジでぇ! 超楽しみなんですけど❤️」
「頑張ってレベルアップしたら、賢者に転職しに戻って来てくださいね」
「ええ~、それマジかんべん。私ィ、遊びまくってレベル99の遊び人になるから、キャハハ!」
「えええ、困った人になっちゃいましたね。まあ、いいでしょう。さぁ、早く冒険者の酒場へ行ってあげてください。パーティメンバーのみんなが待ってますよ」
「ハーイ☆ じゃ、冒険者の酒場に行ってくるね❤️」
なんか、ここに来る時悩んでた私だけど、転職したら遊んでいたらいいだけの超ハッピーな遊び人になっちゃった☆ パーティのみんながイケメンだったらいいなぁo(^▽^)o みんなも転職の神殿ハローワーク支所、マジオススメだよ♪───O(≧∇≦)O────♪
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