8 / 61
1
はち
しおりを挟むーーー30年前、私はもっと遠くの国にいたの。ちょうど16歳の誕生日の日だったわ。
実は私結婚していたのよ。
すごく格好良くて優しくて仕事ができるそんな人と。
結婚してまだ半年も経ってなかったけど、とても幸せだった。
でも、そんな幸せは続かなかった。
ある魔術師が魔力を暴発させて、巻き添えを喰らった私は遥か遠くのこの国に飛ばされてしまったから。
私は身一つでこの国に放り投げ出された。
それから私は大変だった。
幸いあなたたちと違って私は街から少し離れたところに飛ばされたから、すぐに寝床も食にもありつけたわ。
でもね、私は帰りたかったの。すぐに、帰りたくて、必死に王都に行くお金を稼いでいたわ。脇目を振らず。
…周りが見えていなかったのね。
王都に行くのは簡単じゃない、貴族と話をするのは安易ではないと何度も親切な方達が教えてくれたのに、私は自分がかつて貴族だったことを鼻にかけてその忠告を流したの。
だって、私も貴族だから貴族の方が話を応じないはずがないと思っていたの。浅はかよね。
そんな私は段々と街の人たちから避けられるようになった。
でも私は気づかなかった。だって私はとにかくお金が欲しかったから。
そしたら、ねえ、聞いてくれる?おかしいのよ。ある日突然、働けなくなったの。
あんたの働く場所この街にはねえ、さっさと王都にでもいきな。ってまた、身一つで投げ出されたわ。
待って、お金は?給付金は?と聞いたら、確かにあんたはよく働いてくれた。でも、アンタのせいで店の評判が下がって赤字なんだ。払えるものはない。と冷たく言われたわ。
私はその時初めて、自分が間違えたのだと思った。それから頭を下げてなんとかもう一度機会をくれないか頼んだけど、駄目だったわ…気づくのが遅すぎたのね。
私は絶望しながらも必死に何年もかけながら、ちょこちょこ仕事をもらってお金を貯めていった。丁度25年前くらいかしら…王都に行けたの。
私は嬉しかった。ようやく私は元の、旦那様のところへ帰れるんだと思ったから。
…でも、またしても私は失敗するの。
私は、愚かだった。この国では私はただの汚い平民だということに気づかなかった。
気づかなかった私は貴族に不躾に話しかけて、礼儀知らずな平民と言われた。
それでもやっぱり諦められなくて話しかけ続けたら、私は牢獄に入れられたわ。
貴族に対する侮辱行為という罪名で。
10年間ずっと薄暗くて寒くてネズミがいる、そんなところにいたわ。
やっと出れた頃は私はもう綺麗でも若くもない汚い平民の女だった。
私はもう旦那様に会えないと悟って、人が誰もいないこの草原地帯に住み始めたの。
私今でも思うわ。もっと冷静になって、周りを見て、もっと耳を傾けていればよかったって。そしたらもっと違う未来があったんじゃないかって。
ねえ、ルナ。焦りは禁物よ。
それは貴方を不幸にするもの。
ーーーだから、どうか今は心と体を休めて頂戴ね。
私はサーシャの言葉を噛みしめる。
サーシャの悲しそうな顔が忘れられない。
愛しい旦那様に二度と会えないなんて…もし、私もそうなったら…どんなに辛いだろう。
でも、サーシャはそんな風になって欲しくなくて私に話してくれた。
私はアランと共にエドワード様のところへ帰るために、焦る心を沈めてこの世界で生き抜かなければならない。
大丈夫、エドワード様は私たちを信じて待ってくれる。
私そう自分言い聞かせながら、サーシャが用意してくれた布団に包まる。
大丈夫大丈夫、きっと帰れる。
「…ダメだわ。なんだか現実味がなくてしみったれてしまう。いけない、アヴェーヌ家の娘として恥に値するわ!!!もっと気合を入れなさいルミナス!これは戦いよ、あの聖女マリアからの挑戦状。この戦いに負けたらそれこそアヴェーヌ家の恥!そもそもこんな女々しいのは私らしくないわ。」
そうここには大好きなお父様もお母様もそして可愛い弟妹もいないし、愛しいエドワード様もいない。
でも、優秀な執事ならいる。
「たかが1、2ヶ月どうってことないわ。武者修行と思えばなんてことないじゃない。大丈夫よ、アヴェーヌ・ルミナス。」
自分何度も言い聞かせる。
明日からは敬語でお淑やかなルナになるから、どうか今だけはアヴェーヌ家のルミナスでいさせて。
「まーったく、お嬢様は相変わらず逞しいことで。」
「あ、アラン?!」
なぜかここにいるはずないアラン声が。
驚き名前を呼べば、窓からふわりと入ってきた。
「寧ろ、お淑やかなルナではなくじゃじゃ馬なルナにしますか?」
「…聞いていたのね。」
睨むように言えば、彼は軽く笑った。
「冗談ですよ。でも、たまにはルミナス様と執事アランとして接しましょう。」
「…別にいいわ。」
「自分では気づいてないでしょうから教えて差し上げます。ルミナス様は今日1日でかなり混乱されていました。その証拠に私に敬語を使ったり使わなかったりしてたので。割と繊細なんですよねぇ、昔もお化けがいると信じていたり、庭で大事に育てていた苺が枯れたのが衝撃で3日寝込みましたもんねー」
ペラペラと喋るアランは、いやはや、あの繊細なお嬢様が寝込まないのは珍しいとか言っていた。
とりあえず、まあ、一発叩いていいのかしら?
私が拳を作りタイミングを図っているとアランは、「でも、」とまた口を開く。
「そんな心優しいルミナス様だから、俺は一生側に仕えると誓ったのです。」
「それはっ、ずるいのではっ?」
「本心ですよ、ルミナス様。
大丈夫です。私が絶対にエドワード殿下の元へと導きます。」
そう力強く言ったアランはとってもカッコ良かったし、何故か信じられた。
私は、私はアランと共にエドワード様のいる世界へ帰る。
ーーーガチャ。
「誰ですか」
「っ!」
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです
籠の中のうさぎ
恋愛
日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。
「はー、何もかも投げだしたぁい……」
直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。
十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。
王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。
聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。
そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。
「では、私の愛人はいかがでしょう」
想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…
宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。
いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。
しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。
だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。
不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。
差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、
彼女は“自分のための人生”を選び初める。
これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる