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なな
しおりを挟む一軒の私の家で言うお風呂くらいの広さの家のドアをノックする。
すると、中からおばさまが出てきた。
おばさまは私たちを見て「あんれまあ、美しい人たちだこと。どうかしたのかい?」と優しく聞いてきた。
アランはそのおばさまに簡潔に説明すると、おばさまがまあと眉を潜め悲しそうな顔をした。
…まあ、親が盗賊にやられた挙句、変な魔術で飛ばされたと聞けば誰でも同情はするだろう。
同情すれど、疑わずにはいられない。
「まあまあまあ、大変だったでしょう!今夜はここに泊まりなさい。食事も豪華ではいけれど食べていって。」
「!!!」
「ありがとうございます。ほら、ルナもお礼を言いなさい。」
アランにそう言われて、私も慌てて頭を下げてお礼を言った。
まさか信じてもらえるとは。
私はそろりとおばさまを見ると、目があった。そして、柔らかく笑いかけて「大丈夫よ、もう怖くない。」と私の頭を撫でてくれた。
ボロっ
涙がボロボロと溢れ出てきて止まらない。
私はあばさまの手を母を重ね、急にもう会えないのだと自分は異界にいるのだということが現実になってきて胸が苦しくなった。
アランがいるから平気、そう思っていたけど内心は寂しくて悲しくて明日も会えると思ってた人たちに会えないのがどうしようもなく寂しい。
泣いたところで何も解決しないと理解していても、私の涙はしばらく止まらなかった。
「おちついたかい?」
「はい、すみません…お見苦しいところをお見せして…それに、お茶まで」
「いいのさ!辛い時はたくさん泣いた方がいい。そんでまた人は強くなれるんだから。」
そう言っておばさまは優しく笑った。
隣に座っているアランも私が落ち着いたことにホッとしたようだった。
「さて、まずは自己紹介からけしら。私はサーシャというわ。見ての通り独り身よ。この地帯で住んでるのは私だけ。」
そう言って地図を広げてくれるサーシャ。
私とアランはその地図を覗き込む。
「まずは、この草原地帯が私の家があるところ。ここより、そうね、、1週間ほど馬で走ったら町があって、1ヶ月くらいあれば王都へと行けるはずよ。」
サーシャは指でさしながら教えてくれる。
私はそれを必死に頭に入れるが、、、
「王都までは馬で1ヶ月とは、随分とこの国は広いんですね。」
「まあね。ここは国境地でもあるから余計に王都までは遠いね。なに、王都に行きたいの?」
「いえ、やはり元の場所へ戻るには情報が欲しくて…」
「確かにそうだね。ううん、とりあえず王都へ向かうというのには賛成だけど、やはりもう暫くはここにいなさい。2週間くらい心と体も休めてそれからでも遅くはないよ。」
二週間。それは長くもなければ短くもない。
でも、それでも一刻も早く戻りたい私はつい下唇を噛み締めてしまった。
それを見たサーシャが少し困った顔をしていたのには気づかない。アランはそんなサーシャに気づき少し申し訳なさそうな顔をした。
「早く帰りたい気持ちもわかる。だが、この国のルール、知識を覚えるのも必要でしょう?ルナ、お前は特に心を休める必要がある。そんな状態じゃ兄を心配させるだけだよ。」
「…わたしは、」
「私はね、ルナ。あんたに生きてほしいのよ。」
サーシャの言葉に私は開きかけていた口を閉じた。
生きてほしい。
その言葉が胸に刺さった。
「あのね、本当に旅は辛いの。1ヶ月ともなるとかなり精神的にも肉体的にも疲れる。今のアンタではすぐに死んじまうよ。」
そう優しくでも厳しくそう言ったサーシャは私の肩に手を置き、
「まずはしっかり休んで体力をつけなさい。気持ちが急いでいる内は何事もうまくいかないものよ。」
と言って、「じゃあ、ご飯でも用意しようかね、ほら手伝いなさいルナ。」と私の手を引っ張る。
私はサーシャに流されるまま台所にきて、食材を洗っている。
因みについていこうとしたアランには、部屋の片付けをしといてと頼まれた為、ここには私とサーシャだけだった。
水の音と鍋の水が沸騰している音だけが響く。
「ルナ。厳しいことを言ってごめんね。
元の場所へ帰りたくて仕方ないのに、」
サーシャがチラッと私の方を見ていった。
私は「いいえ、」と口ではいうが内心では元の場所へ早く帰りたくて仕方ない。でも、サーシャの言ったことも理解できる為、なにも言い返せなかった。
「…実は私も魔術で飛ばされた人間でね、もう30年になるかしら…」
「っ!サーシャも本当は他の国にいたんですか?」
「そうよ、私はこの国よりも遥か遠くの国からやってきたの。でも、私は結局帰れなかったのさ」
少し寂しそうに笑うサーシャに、私も他人事ではないと感じた。
「ところで、ルナとアランはなんで兄妹なのに敬語なの?」
「えっ、あ、その、私とアランは血の繋がりはなく、そのあまり関わりがなかったもので。」
「ああ。なるほどねぇ、よそよそしいと思ったらそういうことだったのね」
あ、危ない危ない。
アランと設定の確認をしといてよかった。
私たちは義兄妹、お互いに干渉せず成長しだ為敬語を使う。
うんうん、我ながら無難な設定だわ。
でも、それより私はサーシャの話を聞きたかったのだけれど、あまり突っ込んで話を聞けるほど私の神経も図太くはなかったので口を閉ざすことにした。
「…ルナ、さっきの話だけど、」
「えっ」
「聞きたいんでしょう?」
「えっいや、あの、でも、」
「今更取り繕わなくてもいいよ。目は口程にいうとはこの事だ。ご飯と食べ終わったら話をしよう。」
さあ、さっさと飯を作って食べるよとサーシャは笑った。
私は自分の事ばかりで、しかも顔に出てしまうなんて恥ずかしい。
でも、話してくれると言った。
サーシャが歩んできた人生を私とアランが聞ける。
そう思ったら少しだけ心が軽くなった。
「こ、これは、絶対ルナでしょう?」
「…ええ、私ですが何か?」
困惑するアランと眉間にシワを寄せる私とあらあらと頰に手を当てるサーシャ。
私たちの目の前には焦げた何かが皿に乗ってある。
「ちなみに聞きますが、この料理は?」
「野菜炒めです、アラン」
「…俺の知っている野菜炒めとは違う気が」
「しっかり火が通ってるので安心して口に入れていいですよアラン兄さん」
兄さんの部分を強調しながらにこりと笑ってそう言えば、アランはなぜか絶望の表情を見せた。
失礼にも程がある。
サーシャに言われて簡単だからと作ったのに。
火が通ってる方が安全だと思って少し火を通し過ぎただけなのに。
「…ま、まあ座って食べましょう?」
サーシャの声に2人は椅子に座った。
クロクロした野菜炒めはアランの前に置かれた。
「まあ、食べましょうか…えっと、」
「ああ、天なる巫女様美味しい食事を感謝し頂きますというんだよ。」
サーシャの言葉を聞いて、私とアランも「「天なる巫女様美味しい食事を感謝し頂きます」」と言ってから食べ始めた。
サーシャのご飯は美味しく胸をお腹も満たされていく。ポカポカと温かい気持ちになった。
私はすぐに完食したが隣のアランは私の野菜炒めに苦戦しているようだった。
サーシャが時より水をコップに入れていて、その水で流し込んでいた。
…そんなに不味いのかしら?
まあ何はともあれ野菜炒めを完食し、私は片付けをしようと立ち上がった。
「あ、いいよ。魔法でやるから座っときなさい。」
皿を運ぼうとしたらサーシャに止められ、そしてサーシャが何かを呟くと皿たちは宙に舞いその場で綺麗になっていった。
そして綺麗になった皿たちはフヨフヨと食器棚に戻っていった。
「せ!生活魔法ですね!凄いです!」
「そうよ、よく知ってるね。さあほら、ルナ座りなさい。話を聞かせてあげよう。」
少し長くなるけど、聞いて欲しいわ。そう言ってサーシャは話し始めた。
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