聖女に異世界へ飛ばされた 【完結】

もち米

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★じゅうご

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ナターシャsaid





眠りの魔法を使用したので、中の人間は眠ってるはず…なのに、


「相変わらず嫌な訪問の仕方ね。」

「ルミナスお嬢様には耐性がなかったようですねぇ。」


2名ほどピンピンと起きていた。
なんだよ、相変わらずの化け物シャルンはわかるけど…隣の男は何者だ?

ボクがじーっと無遠慮に見つめると、男はにこっと馬鹿そうに笑った。

「ああ、これはすみません。私は魔法も魔術も得意なもので。この程度のものは効きません。」

「そんなバケモン、僕が知る限り1人しかいないんだけど。」

「はて、誰しょうか。」

「そんなとんでもチートやろうは、魔王しかいない。」

そうだ、この世にそんなバケモンは1人しかいない。魔王だ。

ボクがそう言うと、男はにこっと君悪く笑った。

「それは正解だけど不正解!私は魔王ではないんですよ。」

「嘘をつくな!そんな禍々しい魔力を持っていながら…シャルンこっちへおいで。」

ボクはシャルンと眠ってる娘を魔法で自分のそばへと移動させる。

すると、魔王は少しばかり眉を釣り上げた。

「こらこら、ナターシャ。この方は魔王ではなくてアランというこの眠ってる女の子の執事よ。」

「あのねぇ、シャルン、騙されんなって。ボクの左目はごまかせても、右目はごまかせられないよ。」

前髪で隠れている右目付近を人差し指でトントン叩けば、シャルンはああと言った。

男は訳がわからず首を傾げるが、髪の毛の隙間から見えたボクの右目を見てシャルンと同じようにああと言った。


「なるほど、あなたは魔眼の持ち主でしたか。それならば、魔の血を引く私のことが魔王に思えても仕方ありませんね。」

そういう男は、あくまでも自分は魔王ではないと言い張る。
どこからどう見ても、禍々しい魔力と魔法と魔術という異なる力を得意という奴はこの世で魔王しかいないし、コイツは魔王だ。

なのに、ニコニコヘラヘラと頭が悪そうに笑う。


不愉快極まりないな。


「とにかく、ボクの大事なシャルンとその姪っ子に近づかないで」

「うーん、シャルン様は別に構いませんけど、ルミナスお嬢様に関しては無理です。」

「…人間をどうする気?」

「どうもしませんよ。私はあの日お嬢様に救われて旦那様奥様の優しさに触れた。そして…あの人にたくさんの事を教わった。


俺の望みは死ぬその時まで、ルミナスお嬢様の側に仕えることだ。」


そう言った男の顔は不覚にも綺麗だと思ってしまった。
ボクはそんな男の顔になにも言い返せず、歯軋りをしながら睨む。相手も怯まず見つめ返してくる。


「今回はナターシャの負け!」

睨み合っていると頭上から朗らかな声がした。この声はよく知ってる。

「ユフィ!久しぶりね!元気だった?」

「ええ、シャルン。貴方も元気そうね!」

ユフィはふわりと浮いていた体を地に下ろし、シャルンと笑い合う。

うん、とっても癒しな空間だ。

「神様がね、行きなさい!っていうから…テトはいないんだけど、私だけでも元の世界へ還せるからきたの!」

にこにこと愛想よく笑うユフィ。
今回は精霊テトはいないようだけど、たしかにユフィだけでも充分に魔法を発動できる。

「でね、お別れを言いにきたのよ、シャルン。」

「お別れ?」

「貴方も還るのよ、元の世界へ。ここにいる魔王と精霊使いの女の子と共にね。」

ユフィの言葉にシャルンは文字通り固まっていた。さりげなく、男を魔王と言ってるが、そこは誰も触れない。
それよりボクはキリキリ痛む胸を押さえつけながら、ため息を吐く。

長く生きていて、久しぶりの感情にうまく制御が出来なくて困ったなぁ。

シャルンはユフィの話を聞いている。

この世界に来た全ての人々を元の世界へと還す魔法が発動されるということーーー勿論、この世界に来たことで幸福になった者は除かれる。そうではない者たちは強制的に還るそうだ。

「な、ナターシャ、嘘よね?ユフィったら、変なことを、」

「嘘じゃないよ、ボクらは確かに嘘つきだけど、この話は嘘じゃない。ねえ、シャルン。あの日確認できなかったことをちゃんと見といで、」

そう目を逸らしながら言えば、シャルンは何故かボロボロと泣き出した。

シャルンはあの日、何故かこちらの世界へ戻ってきた。理由を聞けば愛しい人に大切な人ができたかもしれないとのこと。ちゃんと確認したのかと問えば、実は確認はしてなくて、帰りたいと願ってしまった、と。

この話を聞いて、ボクは分かってしまった。この世界にユフィとボクがいる限り、何回シャルンがあちらの世界へ行っても悲しいことがあるとボクらを思い出してしまうと。そして、戻ってきてしまうと。

だから、ボクとユフィはたくさん神々に頭を下げて、この日ためにたくさん準備してきた。
ボクらはずっと待っていたんだよ。

君が心から笑える、そんな日が来ることを。



だから、ねえ、泣くなよシャルン。
辛いのも悲しいのも寂しいのも、全部今だけだから。すぐに忘れる。

だって、君が生きなきゃいけない世界はこの世界ではないのだから。


「術はもうすぐ発動されるの?もう話せない?会えないの?」

「術はあと数時間後かな…シャルン。だから、今お別れに来たの。私もナターシャもこの世界の人だからシャルンと共には行けないわ。」

なにも言わないボクに代わってユフィが優しくシャルンに話かける。

シャルンはとうとう手で顔を覆ってしまった。

シャルンの泣き声が部屋に響く。










ボクはそっと部屋を出て、屋根の上に登った。


「君の術ならば共にこちらの世界へ来れるのでないですか?」

「なに、君と話すことなんかないけど」

屋上に寝転がれば、嫌な男の声がした。
ボク冷たく返せば「つれませんねぇ」と笑った。

空に浮かぶ雲をじっと見つめては、昔のことを思い出す。
シャルンと会ったこと、お別れしたこと、また戻ってきて喧嘩したこと、仲直りしたことーーーそしてまたお別れすること。

でも、今回の別れは前回と違いがある。
絶対に戻ってこないということ、永遠の別れであるということ。


「…1000年も生きていると寂しがりにでもなるんですかね」

しつこく話しかけてくる嫌な男もとい、魔王がボソリという。そしてなにも言わないボクを気にせずペラペラと喋りだす。

「好きならば好きと言えばいい。側にいたいなら側に居させてほしいと言えばいい。なぜそれをしない?」

ーーー人間の考えることは昔からよく分からないし、本当に面倒くさいですね。


魔王ならではの考えに心底嫌気がさすが、言われっぱなしというのも性に合わない。

ボクは重たい口を引いて言葉を紡ぐ。

「たしかにボクは1000年以上生きているけど、君と違って人なんだよ。

人はね、弱くて醜くて脆くてーーそして」


強欲なんだよと言おうとして言葉を飲み込む。


「側に居させてなんて願って、それを伝えて…もし困った顔をされたら?
好意を伝えて、今までの関係が崩れたら?

そんなことを考えるとなにも言えないんだよ。」


我ながら言葉にすれば弱くて、大魔法士と呼ばれるこのボクがただの人であると認めざるおえない。

実際には元人間なんだろうけど。

人間を辞める時に、ある程度の感情は捨てたつもりなんだけどなぁなんて、思いながら雲を見つめる。

こんなこと魔王に言ってもわからんか。


「だから、なぜそれを伝えない。たらればばかり馬鹿馬鹿しい。側に居させてほしいと言って断る者などいないでしょう?ましては君ほどの大魔法士が」

「君はやはり魔王だな。
 ボクはね、仮にそばに居させてと言って、彼女の了承を得たとしても、それ以上を望んでしまうんだよ。

自分だけを見てほしい。自分だけの彼女になってほしい。2人だけでいたい。


永遠に生きてほしい、なんて思ってしまうんだ。」

ずっと長生きするのはとても辛いし孤独だ。
ボクだってユフィとテトに会うまでに何度も何度も大切な人を看取ったし、別れた。

最初は辛くてどうにかなりそうだった。

そんな辛い経験をシャルンにして欲しくない、と思うのに…彼女と永遠に長い月日を生きていたいと願ってしまう。

そんな自分が大嫌いだ。


「ボクはね、彼女の笑ってる顔が好き。
 旦那様のことを心から慕ってる一途な愛も好き。魔法が得意なくせに、それを自慢したり相手を傷つける事に使ったりしないところが好き。優しくて温かくて、そんな彼女が幸せになってくれるのが僕の一番の願いであり望みだよ。


魔王、君があの子の側に仕える強い望みのそれと一緒なんだよ。」

そう言い切りボクは魔王を見る。
魔王は少し眉を潜めていたがやがて「そうか、我々魔族とは違う考えなんだな」と言った。

まあ、ボクも人間だけど人間じゃないからあまり人間を語る資格はないけどね。

「で、君は魔王だと認めるの?」

「まさか、魔の力を引くだけで魔王ではないですよ。」

「ふぅん、なるほどねぇ、ユフィは魔王って言ってたけどね。」

「…聞き間違いでは」




魔王がなぜ精霊使いの側にいるのか知らないけど、害はなさそうだし、こんな風に他人の気持ちを考えることができるなら、ここで殺さず一緒に帰るべきだなぁ。

こいつのおかげで、気持ちに整理がついたし。感謝しないけど、まあ見逃すくらいならしてやろう。


ボクはにこにこと気味悪く笑ってる魔王と見てそう思った。





「ナターシャ!どこ行ってたの?!」
「アラン!どこ行ってたの!」

二つの声が怒りを帯びているということだけは、何となくわかった。

魔王とボクはお互いに一瞥し、「ちょっと外の空気を吸っていただけだよ」と言い訳をした。

「アラン、こっちにきて!」

「はいはい、ルミナスお嬢様。」

先程の禍々しい魔力は何処へやら。
清々しいほどの清らかな魔力を体の外側に巡らせている。

…魔王だけでなくまさか、な。


「ナターシャ?」

「ん?なに、シャルン。」

「ユフィはもう魔法陣を描いて準備してるわ。あとは、神様達が術を発動するだけだそうよ。」

魔法陣?そんなの描くっけ?なんて思いながらも、シャルンの言葉にそっかと返す。

もうすぐお別れか。




「…シャルン、元気で」

「ええ、ナターシャも。元気でね。」




この時の柔らかく花のように笑う彼女の笑顔は一生忘れられないだろう。

ボクはちゃんと、笑えていただろうか。

分からないけれど、彼女が行ってしまうその時にはちゃんと伝えられるだろうか。


あの日、道の端っこで泣いていた君に恋したんだって。








※次からルミナス視点になります。



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