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コーヒー屋

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 トンテキの店から歩いて、5.6分のところに贔屓にしている安いコーヒーチェーンの店があった。

 歩いている途中に昔、来たことがある懐かしい店があったので、ちょっと立ち止まって、外からお店の中を覗いた。その店は、洋菓子の店で、その当時『ベルギーワッフル』が流行っており、彼女と一緒に長蛇の列に並んだ。1個づつ買うとすぐに店の横で食べた。

 彼女は、それから、ベルギーワッフルに、はまったらしく、その後も何回も並ぶのを付き合わされた。その頃は、食べ物に興味がなかったので、またかと、うんざりしていたなと思い出していた。

「まだ、あのベルギーワッフル売ってるのかな…」

 ちょっと覗きにお店の中に入ろうとしたが、急に雨がポツポツ来たので、やめて、急いでコーヒー屋に向かった。

 しばらく歩くと見覚えのある建物が見えてきた。いつも行く、チェーンのコーヒー屋だ。

 そのコーヒー屋は、どこの店も同じような作りの店構えで、ここの店は、ひときわ綺麗だったので、新しく出来たのだろうと思った。確か、昔来たときは、違う店があったような気がする。

 店の中に入り、空いてる席を探すと二人掛けの席しか空いてなかったので、片方の席にカバンを置いて、コーヒーカウンターに向かった。

「何になさいますか?」
「アイスコーヒーのMで…」

 このコーヒーチェーンのキャッシュレスカードで、支払いをして、カウンターからアイスコーヒーとストローを受け取った。

 俺は、ブラック派なので、横にあるシロップとミルクは取らないで、席に戻るとテーブルにアイスコーヒーとストローを置いた。もうひとつの席から、カバンを取り、中からスマホを取り出して、自分のイスの横の床にカバンを置いた。

 スマホをチェックしていると雨がすごい降りになり、次々と客が、店に駆け込んで来た。そこへ青い花を持った少女が駆け込んで来た。

 その子を見た瞬間、俺は固まってしまい、昔の彼女の事が、鮮明に思い出された。その子は、何と学生時代に付き合った彼女を中高生にした感じで、顔も雰囲気も似ていた。

 そして、その子は、キョロキョロと店内を見渡すと俺のいる方に歩いてきた。目が合いそうになり、一瞬で目線を下げた。次の瞬間、昔の彼女そっくり声が聞こえ来た。

「すいません、ここいいですか?…」

 俺は、下を向いたまま、完全に動けなくなった。

「おじさん、ここ座っていいですか?」

 また、その声が聞こえて来たので、おそるおそる顔をあげるとその子は、なんと俺に向かって話かけていた。
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